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別行動

次の日、珍しく早起きした舞は、顔を洗って着替えると食堂へ向かった。

王宮の食堂はとても広くて天井に大きなシャンデリアが幾つもぶら下がっており、椅子もテーブルも一体何で出来ているかというように白くピカピカに磨き上げられて光っていた。もう当然のように準備されている食事の前に、椅子の金の縁取りを服のボタンで引っ掛けてしまわないように気を付けながら座り、舞はホッと息を付いた。もう、先に来ていたアークとナディアが食事を始めていた。

「マイ、おはよう。良い朝ね。今日はグーラで飛ぶのも辛くはないわねと、今アークと話しておった所なのよ。」

そう言って、ナディアはにっこりと笑う。アークとナディアは、いつ見ても仲睦まじかった。何よりアークはナディアを大切にしているのが気で感じ取れるし、ナディアもアークを心から信頼していた。自分も、何も物思いはなかったのに。

舞は、羨ましくなりながら、一人注がれたスープに手をつけた。

すると、横の椅子が引かれて、そこに誰かが座った。

「なんだ舞、早いな。いつも寝坊してばかりなのに。」

顔を上げると、それは圭悟だった。すぐに圭悟のスープも注がれて、二人は並んで食事を始めた。

「圭悟は、玲樹と一緒じゃないの?」

圭悟は、肩を竦めた。

「玲樹は、結局昨日の夜サラマンダーへ行ったのさ。食事も済ませて戻ると言っていたから、もう少ししたら帰って来るんじゃないか?」

舞は、いつもなら呆れた所だったが、玲樹が思いの外セリーンを大切にしているようだったのに、そんな気も起こらなかった。たくさんああいう女が居るようだった玲樹だが、それでも、恐らくあれで、玲樹なりに皆を大切に思っているのだろう。それが、これまで一緒に旅して来て、なんとなく分かって来た。なので、それ以上何も言わなかった。舞が黙っているので、圭悟が言った。

「今日は、グーラ達にどう分かれて分乗する?」圭悟は、パンを口に入れながら言った。「舞、オレの所に乗るか?オレは、マーキスに乗るんだ。」

すると、いつの間にか来て椅子に座ったマーキスが言った。

「おお、マイなら良いの。軽いし、背に受ける感じが柔らかいので心地良い。」

舞は、真っ赤になった。それって、私のお尻が柔らかいってことなんじゃないの?!

「マ、マ、マーキス!は、恥ずかしいじゃないの!」

マーキスはきょとんとした顔をした。

「何がぞ?オレは思った通りのことを言うておるだけぞ。男は堅くて何やらゴツゴツしておって、揺れた時痛くてたまらぬ。なので、なるだけ揺れぬように飛んだりするの。」

隣りのキールが頷いた。

「兄者の言う通りぞ。ではオレは、アークとナディアを乗せようぞ。リーク、主は残りな。」

一番弟分らしいリークは、黙って頷いた。すると、玲樹の声が言った。

「オレは残りものかよ。ま、オレだって背に乗せるなら女がいいがな。」

マーキスが呆れたような顔をして玲樹を見た。

「なんだ。主、帰って来たのか。」

玲樹は心外な、と言う顔をした。

「昨日驕ってやっただろうが。冷たい顔するなよ。」

舞と圭悟が仰天した顔をした。マーキスを連れて行ったのか?!

「おい、玲樹!まさかマーキスをサラマンダーに連れて行ったんじゃないだろうな?」

玲樹は平気な顔で頷いた。

「連れてったよ。グーラ達が営業中がどんなものなのか見たいというからな。それがこいつら、モテるのなんのって。」

マーキスが眉を寄せている。舞は、まじまじと三人のグーラの人型を見た。確かに、三人共すごく綺麗。特にマーキスは格別にいい男だった。しかし、マーキスは言った。

「少しも楽しくなどなかったわ。女が回りを囲んで酒とかいうものを飲め飲めと注ぐし、その上皆で寄ってたかって人の体を撫で回すし。甲高い声で叫ぶしの。なので、早々に引き揚げたのよ。」

玲樹はため息を付いた。

「ま、仕方がない。元はグーラなんだからな。人の女なんかには、興味もないか。」

マーキスはちらと玲樹を見た。

「そうではないわ。オレだって雄であるから、どんな種族でも雌であれば良いだろうよ。だがの、雌ならなんでも良い訳ではないわ。」と、舞を見た。「そうよな、舞のようなら良いかもしれぬ。」

「ええええ?!」

舞が焦っておたおたとどう言えばいいやらとあっちこっち見ている。玲樹が手を振った。

「なんだよ、ロリコンか?子供の方がいいってことか。」

マーキスは首を振った。

「違う。気が心地良いのよ。ああ、あくまで人ならということだ。案ずるでないわ、マイ。」

そうは言われても、気になった。が、舞は黙って頷いた。キールが言った。

「ほんに人は見た目やらで決めよるゆえ、間違いも多いと聞く。それより己の気と相性の良いものを選ぶ方が良い子が生まれるのだぞ。」

玲樹は、眉をひそめた。

「あのなあ、子供じゃないだろうが、本人同士の気持ちの問題だ。」

マーキスは思いきり眉を上げた。

「何を言うておる?それ以外に何があるのだ?気持ち?」

玲樹は横を向いた。

「もういいよ。グーラだもんな、分からねぇよ。」

そこへ、シュレーが入って来て席についた。玲樹はそちらを向いた。

「なんだ、一番遅いじゃねぇか、珍しい。」

シュレーは玲樹を睨んだ。

「オレだって疲れてることぐらいある。」

黙々と食事をするシュレーに、圭悟が言った。

「乗るグーラを決めたぞ。シュレーは玲樹とリークに乗ってくれ。」

シュレーは頷いた。

そしてしばらく黙って食べていたが、不意に顔を上げると、圭悟を見た。

「…圭悟、それで陛下の依頼は、どうする?受けるのか?」

圭悟は、顔をしかめた。

「それはバーク遺跡から戻ってからだと言ったろう。まだ気の流れも元に戻せてないのに。失敗したら、また対策を考えなければならないんだぞ?話はそれからだ。」

シュレーは頷いた。

「なら、もし失敗したら、オレは先に向こうを探りに行く。」圭悟が、驚いた顔をした。シュレーは続けた。「何事も後手に回って良いことはない。本当なら、すぐに行っても良いぐらいだと思っている。」

圭悟は、険しい顔をした。

「シュレー、バラバラに行動するのは良くないと言っていたじゃないか。何を焦ってるんだ。昨日からおかしいぞ。」

シュレーは、下を向いた。

「…戦友達が、捕まってるんだ。シーマによると、まだ皆、命はあるという。なら、助け出してやりたい。殺されてしまったら、遅いんだ。シーマがあちらを出て来たから、今にも処刑されているかもしれない。だから…すぐにでも、オレは…。」

「じゃあ、行きゃいいじゃねぇか。」玲樹の言葉に、皆が振り返った。「ボケッと他の事ばっか考えてる奴が、バーク遺跡の罠に掛かってとばっちりなんてごめんだね。何が戦友だ!お前にとっちゃ、オレ達よりずっと仲良しのお友達なんだろうよ。お前なんか仲間じゃねぇ!自分の気持ちばかりに振り回されやがって。」

皆、水を打ったようにシンと黙った。シュレーは、立ち上がった。

「…分かった。オレは行く。」

「シュレー!」

思わず立ち上がった舞をちらと見たシュレーは、言った。

「マイ…お前のことは皆が守ってくれる。大丈夫だ。」

シュレーは、そこを出て行った。

「シュレー!」

舞は、涙を流した。やっぱり、アディアという女の人が心配なのね。こんな、私より…。

アークとナディアが顔を見合わせる。

誰も、舞に声を掛けられなかった。そこへ、事情を知らないダンキスとメグが満面の笑みで入って来た。

「おお、皆早いの!」と、深刻な雰囲気に気付き、慌てて声を落とした。「…なんぞ?」

舞が、顔を隠してダンキスとメグの横を抜けて駆け出して行った。

「舞!」

圭悟が、慌てて後を追う。玲樹が、言った。

「圭悟に任せよう。もう、こういうことは絶対圭悟しか無理だ。オレも泣かれたらどうしようもないんだ。」

「…ふん。良い時だけ傍に置くというヤツか。勝手なものよな。」

マーキスが、玲樹に向けて小さくつぶやいた。しかし玲樹は、それはシュレーもそうじゃないかと思った。

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