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告白

皆が固唾を飲んで茫然としている中、マーキスが言った。

「つまり、アークがその石を取ったということか?」

セリーンは頷いた。

「どういう訳か、アークには我ら巫女と同じ能力があるのです。気を読んだりすることにも長けていて、我ら巫女と遜色ない力を持っている…それは、バーク遺跡に共に行った時に知ったのですけれど。」

アークは下を向いた。

「オレも、まさか自分にそんな能力があるとは、その時になるまで知らなかった。しかし、オレには確かに遺跡の神殿の地下、緑のサインが知らせる危険を見ることが出来た。それを知っておったら、始めからセリーンに頼んだりはしなかった。」

マーキスが、つぶやくように言った。

「…だから主は、あの神殿で危ない箇所を我らに知らせることが出来たのか。」

圭悟が、ハッとしたようにアークを見た。そうだ、舞とナディアが居ないのに、アークはマーキスとダンキスを連れて無事に女神の間にまで辿り着いていた…。あれは、見えていたからなのだ。

アークは、思い切ったように顔を上げた。

「セリーン、オレはあれが間違いであったと知った。何者かの陰謀に踊らされておったのだということも。地は荒れて、皆の生活を脅かしている…オレは、責任を取りたいと思っているのだ。乱してしまった地を元へ戻し、もう一度女神が望んだ通りの気の流れに戻す。」

セリーンは、じっとアークを見ていたが、立ち上がった。

「あなたが責任を取ると言うのなら、私も同じ。あんな者達の言葉を間に受けて手を貸してしまったのだから…あなた同様ね。」

セリーンは、奥の扉から向こうの部屋へと入って行き、そしてあの緑色の透き通った石を持って出て来た。

「あの時、あの雑貨屋から有りえない気を感じて、まさかと思って覗いたらこれがあったの。何気ない風でこれを買い求めるのに苦労したわ。私も、あの旅の結果が混乱でしかない現実を目の当たりにして、どうしたらいいのか分からなかった。でも、これは誰にも渡してはいけないのだと思ったの。」と、その石をアークに手渡した。「今度こそ、間違えないで、アーク。私はここの女の子達を放っては行けないから、責任を果たすことが出来ないわ。あなたを信じて、これを託すわ。」

アークは、頷いた。

「わかった。きっとこの命を懸けても世界を元に戻してみせる。」と、セリーンを見た。「セリーン…サラマンテ様はお元気だったぞ。」

セリーンは、悲しげに首を振った。

「それは、またね。」そしてセリーンは舞を見た。「あなた、巫女なのね。しかも、とても変わった気の巫女だわ…新人類ならぬ、新巫女っていうのかしら。きっと、あなたのような巫女が、これからの世界を守って行くのではないかしらね。だから、この世に出現したのだと思うわよ。」

舞は、何が何だか分からなかったが、頷いた。セリーンだって、かなり変わった巫女だと思うけど…風俗業を営んでいる巫女なんて、思いもしなかった。

「もっとお話しする時間があればいいのに…。」

舞が言うと、セリーンは笑った。

「あら、あるわよ?この旅が終わったら、訪ねて来てちょうだいよ。あなたなら、差し詰め娘かしら。」

おどけた様に玲樹を見て言うセリーンに、玲樹は答えた。

「来月20歳だってよ。確かにそうかもな。お前は若く見えるが、もう40だもんなあ。」

舞が仰天してセリーンを見た。そう言えば前にも言ってたっけ。でも、どう見ても30代前半ぐらいなのに!

セリーンは玲樹をつついた。

「もう、言いふらさないで。お客さんには一応まだ30歳だと言ってあるんだから。」

玲樹は笑った。

「ははは、言ってやろ。お前の指名客が減るだろ?」と、セリーンを引き寄せた。「その方がいいや。」

セリーンはふふと笑って玲樹の唇に触れた。

「私を指名出来る客なんて居ないわよ?超高額なんだから。あなたは特別。」と、玲樹の頬を撫でた。「さ、お子様が居るから、続きはまたね。早く旅を終えて来て。」

玲樹は頷いて、セリーンの額に口付けた。

「ああ。オレも自分の女のしたことの、責任とやらを取って来るよ。」

セリーンは笑った。

「あなたも大変ね。あっちこっちの女の尻拭いばっかりで。」

玲樹は眉をしかめた。

「そーなんだよなあ。ほんと利用されっ放しだよ。」

アークが、呆れたように立ち上がってドアに足を向けた。

「さて、行くぞ。もう休まねば、バーク遺跡へ行かねばならぬのだから。」

圭悟もマーキスも、それに倣って立ち上がった。舞も慌てて立ち上がると、セリーンに頭を下げた。

「ありがとうございました。」

セリーンは微笑んだ。

「ええ、またね、お嬢ちゃん。」

舞は、玲樹とセリーンが別れを惜しんでいるのをしり目に、そこを後にしたのだった。


王宮へ戻ってからそれぞれの与えられた部屋へ入った皆は、それから夕方まで死んだように眠った。そして、起き出してからまた用意された数々の御馳走で腹を満たし、ホッと一息ついていた。あの村で巨大メールキンと対峙したのが遠い出来事なような気がする…しかし、僅か一日前の事だった。

もう起き出せるようになっていたダンキスは、皆と一緒にガツガツと御馳走を平らげ、まだ血が滲む包帯を憎々しげに見ながらその話を聞いていた。

「…そうか。」ダンキスは、アークを見た。「主、前の旅のパーティの手助けを。」

アークは頷いた。

「突然に我が部族の村へ訪ねて参ってな。」アークは、手にしていたカップを置いた。「世を正しい方向へ向かわせようと申す。陛下に問い合わせたが、確かに今の状態は不平等かも知れぬとおしゃるし、オレは手を貸そうと思うた。なので、あやつらと共に旅に出たのだ。しかし、オレも部族の長。手伝ったのは女神の石の回収までだった。あやつらがリーマサンデへ渡ると言うてシオメルからシアへ船で向かう時、途中で降りて村へ戻った。結果がどうなったかは、お前達と旅をし始めてから知った。」

ナディアが、口を手で押さえて言った。

「…だから、あのように我が身を省みないような行動をしておったのですね。」

アークは、ナディアを見た。

「すまぬ。どうしても、あの石を元へ戻さねばと思うたのだ。これはオレの責なのだからの。多くの命を苦しめるつもりなどなかった。元へ戻す為なら、命を投げ出すことも厭わぬと思うておるのだ。」

ナディアは、アークを見た。

「そのようなこと…お兄様も止めなかったのですわ。ですから、これは我ら王族の責でもあるのです。我も命を懸けてやり遂げまするゆえ。アーク、もうあなたは一人ではないのですわ。我の命も共に背負っておると思うて、その身を大切にすると約してください。」

アークは驚いたような顔をした。しかし、迷っているような表情をしてから、頷いた。

「約そう。勝手なことをしてすまぬ、ナディア。」

シュレーが、それを黙って聞いていた。話しは聞いているが、心ここにあらずな感じだ。圭悟が、少し気遣わしげにしながら、シュレーに話を振った。

「それで、シュレー。」シュレーは、ハッとしたように圭悟を見た。「明日朝早くにバーク遺跡へ発とうと思ってるんだが、どうだ?」

シュレーは、頷いた。

「ああ。一刻も早く石を戻した方がいいからな。」

ナディアが言った。

「戻すだけでは駄目なのですわ。」と、舞を見た。「サラ様に教わった術、我らが、アークとシュレーと共に掛けねばなりませぬ。それによって、石は力を取り戻す。そうでなければ、命の気を全て一方向へ向けることなど出来ませぬ。」

舞は、黙って頷いた。でも…今の状態で、私はシュレーと術をうまく掛けられるのだろうか。今は、なぜか一枚の壁が出来てしまっているような気がする…。

ダンキスが言った。

「オレも行きたいが、陛下にここに留まるように命じられてしまった。」と、マーキスとキール、リークを見た。「それに、無理に共に行くと言っても、こやつらが乗せてはくれぬだろう。どうしてもここに居れと申して聞かぬのだ。」

玲樹が言った。

「ここに居たほうがいい。少し休め。それから、メグを頼む。」と、まだ心労で寝込んだままでここに来て居ないメグのことを案じて言った。「今回はちょっときつかったらしい。充分に回復してから合流すればいいと、さっき圭悟と一緒に見舞った時に本人には言って来たんだ。オレ達にはグーラ達が居てくれるから、移動手段には困らないし大丈夫だ。」

ダンキスは頷いた。

「任せておけ。と言いたいが、娘っ子には何が癒しになるのかの。見当もつかぬ。」

舞が、ああ!と手を打った。

「なら、きっと甘い物だわ!ほら、ケーキとか。」

圭悟と玲樹もそうだそうだと頷いた。

「そうだったな!あいつは食い物が好きだ。それに、何より甘いものが好きなんだ。」

ダンキスは大真面目に頷いた。

「そうか。ならば、それを探して持って行くようにしようほどに。」

「くれぐれも、諍いなどないようにの。」マーキスが、口を挟んだ。ダンキスが眉を寄せるのに、マーキスは苛立たしげに続けた。「ほれ、シャーラが怒るようなことにならぬようにとのことぞ。メグも女であろう?里の仲間達が大変な目に合うゆえな。」

ダンキスは呆れたようにマーキスを見た。

「無いわ。まるで子供であるのに。娘の世話のような心地であったわ。ほんにお前も、変なことを覚えてしもうてからに。」

マーキスはため息を付いた。

「癖の悪い親父を持つとこうぞ。要らぬ心配もせねばならぬ。のう、キール、リークよ。」

二人は、盛大に頷いた。ダンキスは必死に言った。

「あのな、何度あったと申す。あのただ一度だけであろうが!恥を晒すのは止めよ!」

そんな四人を置いて、皆それぞれに食後のお茶を楽しんで、その夜は休んだのだった。

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