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グール街道の闇

一行は、回りに魔物がひしめいているのを承知で、グール街道を南西へ向かって真っすぐに進んだ。この街道上、終着点にあるバルクへと向かう為だ。

本来なら、バルクに近付いたこの辺りは人が多く行き交うとても活気のある地域のはずだった。しかし、今は本当に人っ子一人居ない。明るく日が照らしている今でも、回りには魔物の気配があちこちからして来て、落ち着くことが出来なかった。当然のこと、街道上の村も、バルクに近付くにつれて大きくなって来た。しかし、やはり誰も居なかった。

「マーキス、武器を持っておいた方がいい。」圭悟が、自分の剣を一本出した。「今の剣の前に使っていたものだけど。」

マーキスはそれを受け取った。そして軽く振っている。マーキスには少し小さいように見えた。

「…どうかな。マーキスはオレより大きいから…。」

すると、アークが進み出て、自分のカバンから何かを出したと思うと、大きく戻した。それは、先に三本の剣がついて矛になった長い柄の武器だった。

「オレの物ならどうだ?恐らく体格的にはオレに近いだろう。」

マーキスは、言われるままにそれを振り回した。

「丁度良い。元の姿のリーチに近いので、これなら戦う時戸惑わずに済むの。」

アークは頷いた。

「なら、圭悟の剣はリークにやればいい。」

玲樹が慌てて自分のカバンを探った。

「つまりキールにはオレの剣だよな。ちょっと待て、すぐにいいヤツを出すから。」

そうしてリークには圭悟の剣が、キールには玲樹の剣が渡されて、それぞれ試しに振っていたその時、回りに不穏な気が渦巻き出した。

「早速であるな。」マーキスが回りを睨んで言った。「この姿で戦うことになるとは、心許ないことよ。」

そう言いながらも、マーキスは微かに笑っていた。

「恐らく囲まれる。」シュレーが剣を抜いて言った。「大き目の円陣を。中央に殿下とメグを。これだけの数なら心強いな。」

ダンキスが頷いた。

「まさか我がグーラ達と共に戦う日が来ようとは。」

そうして、現れたつる草の変げしたような魔物、大勢を相手に、皆は戦いを始めたのだった。

マーキスは、思ったよりずっと素早く動き、的確に、しかもためらいなく相手を倒した。グーラ達のその鋭い目は、人の型になっても変わらず視野が広くよく見えているらしい。キールもリークも、それは素早く、慣れないはずの体を器用に動かして戦う。なので、小さなつる草の集団などは、敵ではなかった。魔法も使う事もなく、皆は無事にそこを抜け出し、先を急いだ。


そうして、次から次へと出て来る魔物を倒しながら先を急いでいると、バルクまであと半日といった場所で日が暮れて来た。

「いくらなんでも、夜移動するのは危険だろう。」圭悟が言った。「ここらで、野営するか。」

玲樹が、腕輪を開いて見た。

「ああ、いい具合にこの先にバルクまでの最後の村があるぞ。かなり大きい。シオメルの街部分ぐらいの大きさある。ま、人は居ないだろうがな。」

シュレーが先を見て目を細めた。

「あの、教会の屋根が見えている辺りだな。歩いて十分ほどか。」

マーキスが頷いた。

「ほんにこの徒歩というのは疲れるものぞ。飛べばほんの一分ほどであろうにの。」

キールが頷いた。

「オレも足のこの辺りが変な感じぞ。兄者はどこも痛まぬか?」

マーキスは首を振った。

「痛みはないの。では、早よう休まねば。慣れぬ体であるのに。」

メグが寄って来て、キールの足を見た。

「痛む?キール。村に着いて、命の気の遮断の膜を張ってもらったらすぐに治癒の術を掛けるわね。きっと、歩き方の問題なのだろうけれど。グーラの時とは使う筋肉も違うのかも。」

キールは頷いた。

「世話を掛ける。」

目の前に見えている林を抜けた所にあるようだ。11人の大所帯の皆は、そちらに向かって歩き出した。


村の入り口は、林の横にあった。

グール街道自体がこの林の中を抜けていて、普段ならば日差しを遮る良い散歩道にもなっていた所だろう。しかし夜は月の明かりも少ししか入らない暗い道で、今のような状況の中では不気味でしかなかった。

皆が足早に村の中へと入って行くと、やはり明かりも人影もなかった。早々に膜を張ろうと舞とナディアが手を上げたその時、何かの声が聞こえた。

「…何かしら。魔物の悲鳴みたいに聞こえたけど…。」

舞が言うと、ダンキスがそちらを見た。

「何であろうの。マーキス、今のは何を言っておったか分かるか?」

マーキスは首を振った。

「あれは言葉ではない。マイが言った通り、悲鳴よ。恐らくあれは、メールキンであるな。」

玲樹が、驚いたように言った。

「何だって?あの凶暴なヤツが悲鳴だって?」

アークが、足を止めた。

「この村、気の動きがおかしい。一方向へ向かっている。」と、空を見上げて気を読み、奥の方を指した。「あちらだ。」

皆が、一斉にそちらの方角を見た。しかし、辺りは暗くなっていて遠くまで見通せない。

マーキスが、警戒気味に言った。

「…長居せぬ方が良い。この格好では、我らも精一杯戦えぬからの。さっきのメールキンの事と言い、変なものが棲んでおる可能性もあるのだから。」

キールが頷いた。

「あの、デルタミクシアとかいう所におった、デカいグーラを覚えておるだろう。今は、どんな変種が居ってもおかしくはないのだからの。ここは避けて、先へ参ろう。」

ダンキスも同意した。

「嫌な気を感じる。オレもグーラ達と同意見よ。ここは、気付かれぬうちに立ち去った方が良い。」

シュレーと圭悟、玲樹は頷いた。

「じゃあ、気付かれない内に、そっと出て行こう。今日はほとんど戦っていたんだ、これ以上疲れたくないな。」

圭悟が言うのに促されて、皆はゆっくりと、足音を忍ばせて村を出ようと門の所まで歩いた。

その時だった。

地の底から響くような大きな、それも耳障りな鳴き声が間近に聞こえ、一同は驚いて思わずそれぞれの武器を握り締め、振り返った。

「ギャアアアア!!」

その大きな魔物は、もう一度同じ声で鳴いた。

「なんだあありゃあ?!!」

玲樹が見上げながら叫ぶ。それは、翼こそ持たないものの、形はグーラ達翼竜と同じような爬虫類系で、太く大きなかぎ爪の付いた足、大きな口に牙が並び、口の端からは唾液が垂れて、腹が減っているのは確かなようだった。

「…どうやら夕飯に有り付けて喜んでおるようだぞ。」

マーキスが険しい目でそれを睨み付け、憎々しげに言う。ダンキスが、その形状を観察していたが言った。

「これは、やたらデカくなったメールキンだ!」

玲樹が、情けない声で言った。

「おい、まさかまた女神の石を飲んでるんじゃないだろうな。」

ナディアと舞が同時に首を振った。

「飲んでないわ。」

「冗談だ。」玲樹は言って、剣を構えた。「それだったら倒すのも頑張れそうだと思っただけだ。」

シュレーが言う。

「まともに戦っては勝てないな。どうにかして逃げる方法を考えなければ。」

アークが足元を見た。

「あまり気が進まないが、動きが鈍そうだから足元を抜けるのが一番だが。裏の森の方へ抜けてしまえば、大きな木が多いので追って来づらいし逃げ切れる可能性が高い。林では駄目だ。あの大きさなら木を折りながら追って来る。」

皆が頷き合った。ダンキスがサッとメグを背負い、アークがナディアを背負う。

「舞はオレが。」

シュレーは言って、舞を担ごうとした。が、舞は首を振った。

「大丈夫よ。走るのは早いから。一緒に走ろう!」

シュレーは黙ったが、舞の手を握った。

「よし。」と、剣を握り直した。「行くぞ!」

11人は一斉に、その大きなメールキンの足元へと向かって行った。メールキンはちょうどこちらを狙って手を振り上げた所だったので、突然の行動にふら付いて追う体勢を整えるのにもたついた。ズシンズシンとすぐ横で足が踏み降ろされる中、皆はバラけてその足元を抜けて、村の裏にある森へ向けてひたすらに走った。

「ギャアアアオオオウ!!」

どうも悔しそうに聞こえる泣き声が回りの建物を揺らす。無人で真っ暗な村と言うより街のようなそこは、まだあまり荒れて居ないのにとても不気味だった。

「うあああ…気持ち悪ぃ!これ、絶対あいつのヨダレだよ!」

走っている石畳の上には、所々変な水たまりのようなものが落ちていた。そういうものが全く駄目な玲樹は、器用にそれを飛び越えながら走っている。確かに気持ち悪いので、皆もそれに倣って飛び越えながら走った。

「ギャア!ギャア!」

大きくなり過ぎたメールキンは、本来ならば人ぐらいの大きさしかなく、大変に身軽なのだが、今はその巨体を持て余しているようだった。遥か後ろから、ズシズシと音を立てて追って来ているのは分かった。

「訳の分からぬことを言いおって。」マーキスが鬱陶しそうに言った。「家だとかなんだとか。」

シュレーが驚いてマーキスを振り返った。

「家だって?」

マーキスは、走りながら頷いた。

「家だと。我らは食糧だと。」そこで、また遠く泣き声が聞こえる。マーキスは眉をひそめた。「…貯蔵する…?」

シュレーは、突然にピタリと止まった。目の前に、普通の大きさのメールキンが脇腹を食われた状態で転がっている。圭悟が、苛立たしげに言った。

「シュレー?行くぞ!そんなものに構うな!」

シュレーは顔を上げた。

「違う。」シュレーは、森へと向かうその道を見た。落ちているヨダレの量が増えている。「駄目だ、おそらくこっちはあいつの巣…あいつはここから出て来ていたんだ!横へ!街道の方へ…!」

ズンッ!と石畳が揺れた。あのメールキンが、魔法を使って滑るように進んで来て、そこへ着地したのだ。圭悟が叫んだ。

「駄目だ!舞!ナディア!補充を!魔法を使わなきゃやられる!!」

悟った舞が咄嗟に手を上げて命の気を遮断する膜を大きく張った。命の気を気取った他の魔物が大挙してやって来ないようにだ。ナディアが、命の気の補充の構えをした。

「いつでも補充出来まする、ケイゴ!」

ナディアが叫び、皆が一斉に術を詠唱し始めた。

小山のようなメールキンに向かい、戦闘が始まった。

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