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グール街道

夕食も済ませて満腹になった舞は、満天の星空を見上げていた。チュマが、横にふんわりと浮いている。舞はチュマに話し掛けた。

「ねえチュマ…ゆっくり話す間もなくここまで来てしまったわね。チュマは、何か自覚ある?特別なプーだって、サラ様は言っていたけど。」

チュマは、首を振った。

『ううん。よく分からない。ボクは、気が付いたら檻の中だったんだ…。お父さんとお母さんはとっても大きくて、ボクが何を言っても分からないみたいだった。そのうちにね、どこかへ連れて行かれちゃったの。おじさんはエサをくれたけど、でも怖かった。ボク、おじさんの言ってることが分かるから、おじさんはそれが気味悪いって言って、ボクだけ小さな檻に入れたの…。そのうちに、お父さんとお母さんみたいに大きなプー達の悲鳴を毎日聞いて、ボク、何が起こってるのか分かるようになった。いつか、ボクもああやって殺されてしまうんだって、怖くて怖くて、毎日檻の中でじっとしていたよ。』

舞は、涙が浮かんで来た。自分だけこんなに回りの事が分かって、お父さんとお母さんは居なくなって、そのうちに殺されることが分かって…小さなチュマが、どれほどに怖かったんだろうと思うと、かわいそうで仕方がなかったからだ。

「チュマ…つらかったのね…。」

舞が、泣きながらチュマを抱き締めると、チュマは嬉しそうに舞に頬らしき場所を摺り寄せた。

『どうして泣くの?ボク、マイに感謝してるんだ。マイは、ボクを助けてくれたでしょう?買うって聞こえたから、ああ殺されちゃうって思ったんだ。なのに、マイはボクを大事にしてくれたでしょう?いつもいつも、ありがとうって言ってたんだよ。でも、マイの言うことは分かるのに、マイにはボクの言うことが分からなくて。でも、いつもずっと話し掛けてたんだよ。』

舞は、何度も頷いた。

「うん。何となくわかった。チュマが、慰めてくれようとしている時とか。」と、チュマの頭を撫でた。「チュマ、あんなに大きな守りの膜を張ることが出来たんだもの、きっともっと何か出来るんだろうね。ごめんね、私が何も知らなくて…きっと、すごい力の持ち主なんだろうと思うのに。」

チュマはコロコロと可愛らしい声で笑った。

『ちょっとずつ出来るようになったらいいなーって思ってるもん。マイ、ずっと一緒に居てね。』

舞は頷いた。

「うん。私は向こうの世界の人だがら、もしかしたら帰る時もあるかもしれないけど、シュレーに頼んで置くから。大丈夫よ。」

チュマは頷く代わりに飛び跳ねた。

『うん。シュレーならいいよ。マイ、シュレーが大好きなんだもんね。』

舞は、真っ赤になってチュマの口を押えた。回りを見る…誰も居ないようだ。

「…チュマ!お願いだから、人前で言わないでね!恥ずかしいじゃないの。」

チュマは不思議そうに舞を見上げて言った。

『え、どうして~?』

舞は、必死にチュマに説明した。

それを脇の茂みの所で伺っていたシュレーは、出るに出られなくて困ったのだった。


次の日も、昼用のお弁当を持って、皆はその村を飛び立った。その前の日は、シオメルで買ったパンだけをグーラの上で食べただけで頑張ったので、今度はアークにサンドイッチを作ってもらって、皆それぞれにそれを持って三体のグーラに分乗していた。

マーキスは、すっかり圭悟のグーラのようになっていた。圭悟にしてみれば友達のような感覚なのだが、マーキスから見たら手のかかる仲間、そしてダンキスから見れば圭悟がマーキスの飼い主、という感覚だった。なので、圭悟が乗っているのは必然的に先頭を行くマーキスで、その後ろにはメグと舞が乗っていた。キールの上にはダンキスとシュレー、リークの上にはアークとナディアと玲樹が乗っていた。ダンキスが重いので、三人乗りの所にダンキスが入るのは無理だと判断された為だった。

「なんかお腹すいたね~。」

メグが、グール街道も中ほどを過ぎた時に言った。舞は頷いて腕輪を見た。

「もう、一時だもんね。マーキスは疲れない?降りて休む?」

マーキスは振り返った。

『オレはまだ大丈夫だが、さっきからどうもリークが疲れて来ているように見える。』

舞とメグは振り返った。確かに、リークはついて来てはいるが遅れている。圭悟が頷いた。

「じゃあ、少し休もう。あっちに見えてる池の畔なら、ちょっとぐらい降りても大丈夫じゃないか?」

マーキスは、そちらを見た。

『確かにな。小さな魔物しか居らぬ。我らを見たら恐らく寄って来ぬだろう。』

圭悟は、頷いて腕輪を開いた。

「この先の、池で降りて休憩することにする。」

腕輪から、ダンキスとアークの声が聞こえて来た。

《了解。》

マーキスは、すーっと翼を広げて滑空し、そこへ降り立った。圭悟は、マーキスの首を軽く叩いた。

「ありがとう、マーキス。何か食べるか?」

マーキスは首を振った。

『我らはそう腹が減らぬのだ。日に一度の食事で充分よ。水を飲んで来る。我らから、あまり離れるな。小さいとはいえ、魔物の群れが潜んでおるぞ。』

三体のグーラが池へと歩くのを見て、圭悟も、他の皆もそれについて歩いた。確かに、マーキスが言った通り、回りには魔物の気配がたくさんある。しかし、襲っては来なかった。

「じゃあ、お昼にしましょう。」

ナディアが、明るい声で言うと、グーラ達が並んで水を飲んでいる後ろに座った。皆もそれに倣い、落ち着かぬままそこへ座った。ふと見ると、グーラ達は代わる代わる水を飲んでいて、決して一緒に顔を伏せたりしなかった。そういう所が、やはり魔物の警戒心の強さなのだろうと圭悟は思って見ていた。確かに、マーキスが言うように、自分達は未熟なのかもしれない。

しかし、気になるのは、リークだった。他の二体に比べて、消耗が激しいようだ。皆がサンドイッチを急いで食べる中、圭悟はリークに話し掛けた。

「リーク、大丈夫か?疲れてるんじゃないか。」

リークは、首を振った。

『大丈夫だ。こんな距離を飛んだのは初めてだったからな。戸惑っておるだけよ。』

マーキスが言った。

『無理をするでない、リーク。主は我ら二体に比べて少し体が小さいからの。なんなら、オレが一人乗せても良いぞ。』

リークは、また首を振った。

『兄者に負担を掛けたくない。オレは大丈夫だ。』

キールが言った。

『無理はならぬ。先はまだ長い。ゆっくり慣れれば良いのよ。オレも、一人乗せよう。兄者、一人乗せてもらえるか?』

マーキスは頷いた。

『いいだろう。』

それを聞いていた、アークが言った。

「では、オレが一人リークに乗せてもらおう。重さを考えてナディアをマーキスの所に、玲樹をキールの所に乗せてもらったらちょうどいいんじゃないか。」

ダンキスが苦笑した。

「すまぬの。オレが重いからの。」

マーキスは言った。

『ダンキスを乗せるのはオレ達は慣れておるのよ。なので重さは関係ないぞ。』

ダンキスは、微笑んでマーキスの首を撫でた。

「気を遣わせるの。」

マーキスは横を向いた。

『別に気を遣っておるのではないわ。事実ぞ。』

圭悟は微笑んだ。マーキスはあれで優しいのだ。でも、それを指摘されるのは苦手らしい。

アークが、皆を促した。

「では、もう出発しようぞ。魔物の気配が気になって仕方がない。グーラ達のお蔭で寄っては来ぬが。」

確かにそうだった。皆はマーキスとキールに分かれて乗り、アークだけがリークに乗って、そこを飛び立った。上空から見ると、かなり間近まで魔物の群れが寄って来てこちらを伺っていたのが分かる…グーラが三体も居るのに狙って来ようとするとは、やはり、飢えはひどくなっているようだった。

『哀れよの。』マーキスが、それを見て言った。『我らは、こうして命の気を定期的にもらうことが出来るが、あやつらはそれがない。どれほどにひもじいものかと思うわ。』

圭悟も、それは思った。そして早く気の流れを正さなければと思ったのだった。

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