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デルタミクシア

玲樹は、必死の形相で女神の石を抜き取った。そして、そこから離れて必死にそれを近くの小さな沢で洗い流すと、自分の手も白くなるまで洗っていた。気持ちは分かったが、舞は苦笑した。

圭悟は、沢から汲んで来た水でザッとバイクを洗い流してから、動力部らしき場所を探って分解に取り掛かった。きれいに閉じられたカバーを外すと、中のボルトがむき出しになる…良かった、あの現実社会と、作りの考え方はそんなに変わらないんじゃないだろうか。

細長くある、タンクのような、恐らく動力部が入っているだろうと思われる箇所を開こうと奮闘していると、シュレーがさっき一緒に出て来た軍服を、同じように沢の水で流して見ていた。

「…この、襟のボタンを見ろ。」

シュレーは、ダンキスとアークに言った。ダンキスが、硬い顔をした。

「おい…リーマサンデの紋章じゃないか。」

そこには、変わった形の葉を象った紋章が浮き彫りにされていた。

「だとしたら、あれはリーマサンデの傭兵部隊だ。」シュレーは言った。「あの黒い服…どこかで見たことがあると思っていた。リーマサンデとは交戦したことがないから、チラッと見たことがあった程度だったんだが。」

アークは、シュレーを見た。

「ラキは、リーマサンデの傭兵部隊に入ったということか?」

シュレーは首を振った。

「入ったかどうかは分からん。だが、一緒に行動しているのは確かだな。一緒に行動していたあの三人も、金でどうとでも動くパーティだった奴らだ。元はライアディータの傭兵部隊に居たが、オレが首にしたんでね。民間のパーティをやってるとは聞いたことがあったが、リーマサンデの為に戦っているんだな。」

ダンキスは、考え込むように言った。

「しかしラキは、金で動くようなヤツではない。あやつの性格は良くしっておるが、誇り高いやつでの。そんなことは、死んでもせんだろう。どんな理由があるかは知らぬが、最初からあっちの人間だった可能性もあるぞ。」

シュレーは頷きながら、圭悟の方を見た。圭悟は、動力部らしき場所の金属の板を外した所だった。

「これ…!」圭悟は、叫んだ。「シュレー!」

シュレーとダンキスとアークは、急いでそちらへ移動した。

「どうした?!」

「見てくれ!」圭悟は、そこを指した。「ここから、これが出て来た!」

そこには、細長い見慣れた黄緑色の棒のような石があった。

「女神の石だ!」

シュレーが叫んで、舞もナディアも慌ててそこへ走った。本当に、そこからは女神の石の気配がする。

「動力って…女神の石だったの!」

舞が驚いて叫ぶ。ナディアも茫然とそれを見た。

「まあ…長い間、これをお尻の下に敷いていたのですわ。全く知らなかった。でも、どうしてこれをお兄様はお手にされたのかしら。」

ダンキスが、眉を寄せた。何かを思い出そうとしているようだ。

「…装置は一個壊されたよの。命じられたパーティが、石を陛下へ送ったはず。これは、おそらくそれぞ。これを何に使うか分からなんだので、恐らく陛下はこれの性質を使って、ああやって乗り物を作らせたのだろう。」

圭悟は、それをゆっくりと外した。するすると抜き出されたそれは、間違いなく他の女神の石と同じ物だった。

「でも、こいつに飲まれていたなんて。こいつは、二つも女神の石を飲んでいたんだ。」

アークは頷いた。

「確かにの。見つかって良かったことよ。そうでなければ、それを探し回らねばならんところだった。」と、尚も槍の先で、メガ・グーラの腹の中を探った。「他に何か出て来るのではないのか。」

シュレーは首を振った。

「もう何もない。他は、やはり剣やらなんやらと犠牲者の持ち物らしきものばかりだった。」と、倒れたメガ・グーラの背の側に居る、五体のグーラ達を見た。「とっとと引き上げよう。ここにはもう、用はない。オレは、シオメルで見たあの女神の石が気になって仕方がないんだ。誰かに買われてしまってたらどうする?」

圭悟は、頷いて沢へと走りながら言った。

「急ごう!工具と手を洗って来る!」

シュレーとアークとダンキスは、顔を見合わせて頷き合い、同じように沢へと向かった。そして、道具を丁寧に洗い流すと、五体のグーラに分乗してそこを飛び立ったのだった。


圭悟達も、もうグーラに乗るのは慣れたものだった。景色を見ながら飛ぶ帰りに、デルタミクシアの上空に来た時、圭悟は言った。

「そう言えば、デルタミクシアに降りれるか?」

キールは怪訝そうな声で言った。

『デルタミクシアとはなんだ?』

圭悟は、言い直した。

「そこの建物だよ。マーキス達は、降りてくれなかったんだ。」

キールは、下を見た。

『別に、今降りるには支障ない。あの、デカい同族の匂いが残っておるが、あれはもう死んだからの。』

それを聞いた、シュレーが言った。

「一度降りてみるか?中を確認しておいた方がいいかもしれない。」

ダンキスも、アークも頷いた。グーラ達は、何でもないようにデルタミクシアの建物の前に降り立った。

舞は、その白い石造りの大きな建物を見て、感心していた。こんな高い山の上に、どうやってこれを建てたんだろう…。

しかし、今は白い石も、少しくすんだような灰色になった箇所がいくつも見て取れた。そして、崩れて来ている端々も見え、人けは全くないようだった。しかし、かつては栄えたのではないかという片鱗が、そこには確かにあった。傍の平地には、人が住んだような跡があり、崩れた住居跡のようなものも少ないがある。

「ここ、人が住んでいたの?」

舞が言った。ダンキスが頷いた。

「そう、古くはの。しかし、近年はない。ここの命の気が霧のように分散されていた頃はよかったようだが、女神ナディアが一方向へ流れを変える措置をした時、ここは全ての命の気の流れの源というものになった。いうなれば、ホースから水を勢いよく出した時の、ホースの口がここであるな。」ダンキスは回りを大きく身振りで示した。「それを、まともに食らう形になるここは、最初こそ住んでおるものは大喜びであったが…徐々に、その弊害が出て来ての。」

シュレーは、ため息を付いた。

「そうだ。何事も過ぎたるはなんとやらで、命の気も多く浴びると細胞にとって良くないようだな。」シュレーはグーラ達を見た。「ここの人々は、魔物に変化した…皆苦しんで、変化の途中で死んだ者の方が多かったらしいがな。その後のことは、詳しく分からん。気が付けば、ここには人が居なかった。それからはデルタミクシアに長く足を踏み入れることは禁じられ、定期的に見回りの兵士が来て中を確認し、すぐに引き返すようにしていた。魔物ですら、この回りには多いのにここには近寄らなかったんだ。」

舞は、それを聞いてから、住居跡に残る崩れたカマドを見ると、とても悲しい気持ちになった。命の気も、大量に浴び続けるとそんなことになるの…。では、命の気を一方向へ向けてしまうのも、いいことばかりではなかったんだ…。

舞がそう思って見ていると、シュレーがデルタミクシアの中のほうへ足を踏み出した。

「しかし、今はやはり分散されていて他の場所と比べたら濃いにしろ、体に害なほどではないな。今は、デルタミクシアをよく調べるチャンスかも知れないぞ。」

ダンキスが言った。

「確かにそうだが、それ以上に命の気の枯渇が深刻であるぞ。」と、息を付いた。「気持ちは分かるが、デルタミクシアを詳しく調査しておる暇はない。早く命の気の流れを元に戻さんことには。」

アークも頷いた。

「確かにそうだ。魔物も人も苦しんでおる。普段はおとなしい魔物まで、餓えて人を襲っておるぐらいであるからの。確かにここは、女神ナディアがおわした場所であると言われておるので、特別な場所ではあるが…。」

シュレーが、その大きな石の門の中を覗いているので、舞もそれに並んだ。中は、どうやらあのメガ・グーラが荒らしたのであろうが、所々が派手に壊され、そして糞などの異臭がした。しかし、奥へと降りる道は大変に狭く小さく、それ以上はあの巨体では行けなかったようだ…壁には、壊そうとしたであろう跡がたくさんあったが、それでも頑強な壁は崩れていなかった。あの下に、きっと女神ナディアが住んでいたんだろうな。

舞が思っていると、シュレーが舞を見た。

「皆の言う通りだな。今なら、あの下へ降りることも可能なんだが、命の気が一方向へ流れ出すとそれが出来なくなるんだ…命の気は、地下から吹き上げて来るから。その源を見てみたいというのは、考古学に興味のある者なら誰でもだと思うぞ。」

舞は、頷いた。シュレーは、きっとその不思議を解明してみたいと思っているのだ。だが、今はそれどころではない…。

「シュレー。きっとまたチャンスは訪れるわ。皆が困っているのだもの…それに、まだもう一つの石の回収も出来ていないし。今はとにかく、行こう?」

シュレーは、舞を見て頷いた。そして、一行は名残惜しげにしながら、グーラに乗って、ダッカへと向かって行った。

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