戦いの最中の合流
「ああ!あれを見て!」
舞が、思わず叫ぶ。シュレーが、舞の背後で言った。
「なんてデカさだ…あれはなんだ?」
二人を乗せているキールが言った。
『あれが、例の困った同族よ。どうも狂うておってな。マイとやら、術を放ってみよ。』
舞は、頷いて意思を通じさせる術を放った。光が巨大グーラに降り注ぎ、グーラから、意味不明の言葉が聞こえて来た。
『殺…◎※△☆…食…』
舞は、首をひねった。
「…何?何を言ってるの?」
キールが言った。
『やはりそうか?魔物など、人の言語を理解出来るのは、ほんの僅か。なぜなら、人の中で生活したことがないからだ。我らはなので、術がなくとも主らの言うことは分かるし、術があればしっかりと主らとこうして話せるが、普通はこうは行かぬということぞ。せいぜい術でも単語で意思が通じれば良いところか。が…』と、キールは下を見た。『あれは異常ぞ。魔物は感覚で話す。しかし、あやつのは支離滅裂で感じ取れぬ。』
シュレーが、急いで言った。
「仲間が襲われているんだ!何とかしたい。降ろしてくれ!」
キールは、首を振った。
『駄目だ。あやつの居る所へ降りるなど出来ぬ。皆を危険に晒してしまう。』
シュレーは、こちらを見上げているアークと目が合った。そして、言った。
「…キール。じゃあ、マイだけ頼む。あのグーラの上をゆっくり旋回してくれ。飛び降りる。」
キールは、ちらとシュレーを振り返った。そして、頷いた。
『いいだろう。』
舞は、慌ててシュレーを振り返った。
「シュレー?!危ないわ!」
シュレーは微笑んだ。
「何を言ってる。こんなことはしょっちゅうだぞ?」と、剣を抜いた。「落ちるなよ、マイ!」
舞を掴んでいた、シュレーの手が離れた。舞は、必死にキールの首に抱きついた。
シュレーは、巨大グーラを睨んで、タイミングを計った。剣を下向きに両手で持ち、キールがゆっくりと旋回する中、下へ向かって剣を突き立てた状態で飛び降りた。
下では、五体のグーラの出現に、呆然としてアークは足を止めていた。ダンキスが、じっと五体を見て、言った。
「…あれは、盗まれてしもうたグーラではないか!」と、その背に乗るシュレーと舞、そして圭悟を見て取った。「ああ、こやつらと会うたのか!」
アークは、グーラ達を見上げていたかと思うと、シュレーと目を合わせて頷いた。そして、下がった。
一体のグーラが、旋回し始める。かと思うと、シュレーが剣を下向きに構えて、飛び降りた。
「ギャアアアッ!!」
シュレーの剣がもろに額に刺さり、グーラは激しく首を振って、のたうち回った。しかし、首の辺りが固定されたままなので、身を退くことは出来ない。そして、その大きな体は、今度こそ大きな音を立てて崩れ落ちた。
ロープは、固定の術を解かれて、そのグーラの首に巻き付いたまま地上へ落ちた。倒れたグーラの首に、足を巻きつけて必死に掴まっていたシュレーは、そこから降りた。
「なんてヤツを相手にしてたんだよ、ダンキス、アーク、玲樹。」シュレーは、自分の剣を引き抜いて言った。「普通逃げるだろうが。」
玲樹が首を振った。
「オレ達だって逃げたかったよ。だがな、腹ん中に石を飲んでやがるんだ!仕方がないだろうが。」
シュレーは目を丸くした。アークとダンキスが、素早く横腹の方を掻っ捌いて中身を引きずり出している。石を探しているのだ。
「そうか。やっぱり、別行動は怖いな。そんな時に限って厄介なものにぶち当たったりする。」
玲樹は、肩を竦めた。
「でも、ま、そっちは正解だったんだろ?グーラをどうやって手なずけた。」
玲樹がそう言っていると、やっと五体のグーラ達が降りて来た。巨大なグーラが倒されたのを見届けたからだ。
玲樹とじっと目が合っていたキールは、フンと横を向いた。
『全く、人とは失礼なものぞ。誰を手なずけるって?言い方が気に入らぬわ。』
玲樹は仰天して絶句した。隣りでライカから降りて来た圭悟が、なだめるように言った。
「すまない、キール。言葉が分かるグーラだって知らないんだから、仕方がないだろう?その辺のグーラは、皆襲って来るばかりで言葉なんか通じないからな。」
キールは、心持ち機嫌を良くしたような声の調子になった。
『ま、我らはその辺の奴らとは違うがな。』
玲樹は、圭悟に言った。
「言葉が分かるグーラだって?そりゃ分かるだろうよ、ダンキスの飼いグーラなら。だが、なんだってしゃべってやがる?!」
圭悟はまあまあ、と玲樹をなだめた。
「舞の術だ。サラマンテ様から教わったものの一つで。そうそう、チュマも話すんだぞ?」
舞のウエストポーチから、チュマがひょこっと顔を出した。
『レイキ、こんにちはー。』
「うわぁ。」玲樹は、身を退いた。「…ダメだ、慣れねぇ。オレもプーカツが食えなくなっちまうだろうが。」
チュマはふわふわと浮いて言った。
『レイキはボクを食べたいって思ってるの?いつも肉が肉がって言うもの。』
玲樹は首を振った。
「もっとでかくてしゃべらないプーの肉は好きだがな。肉になってないプーはゴメンだ。しゃべるなんて論外だ。食えるわけないだろうが。」
玲樹は真面目に答えている。すると、向こうからダンキスの声が言った。
「おおい、こっちへ来て見てくれ。」
圭悟が、巨体で隠れた向こう側へ回る。皆もそれに続いた。
そこには、切り開かれた腹から出た、あの装置の変わり果てた姿があった。
「うわ…っ。オレ、吐きそうなんだけど。」
玲樹が言う。そこには、装置だけでなく、消化しきれなかった剣、誰かの服のボロボロになったものなどがあった。
「…何でも食ってやがったのか。」
シュレーが言って、足先でいろいろと探っている。そこには、魔物の角やらもあった。
「まだ何かあって…」アークが、槍のような道具を使ってまだ腹の中を探っている。「なんかデカい金属みたいなんだが。」
ダンキスが覗き込む。
「縄を掛けるか?」
アークは頷いて、ダンキスから縄を受け取って、回りを切り開いてそこへ掛けた。
「引っ張ってくれ。」
シュレーとダンキスがその端を引き、手前をアークが引くと、中からズルリとバイクが出て来た。それに続いて、何かの軍服のような黒い服も出て来た。
「…それって…!」
メグが口を押さえた。舞も、吐き気を押さえるのに苦労した。あれは、あのときミクシアに、ラキと共に来た男達が着ていた服。
「…バイクごと食われたんだな。」
アークが言って、そのバイクを見た。それは、舞達がずっとミクシアまで旅をして来たあのバイクだった。
舞はゾッとした…逃げる間もなかったのだろうか。
「やはりあやつらが盗んでやがったか。これは気を補充しないと走らないからな。恐らく、失速した時にやられたんだろう。しかし困ったな…どうする?いくらなんでももう走らないだろう。」
アークが言うのに、ナディアが言った。
「動力さえ回収すれば、外側はいくらでもシアの倉庫にありまするから。お兄様も何もおっしゃいませんわ。」
玲樹は、縮み上がった。
「え?まさかあれもオレに分解しろってか?こっちの機械だけでも、オレもう吐きそうなのによ。」
玲樹は、鼻と口に布を巻いて、メガ・グーラの腹から出て来た装置と取っ組み合っている所だった。ダンキスは頷いた。
「オレ達には皆目分からんからな。お前に任せるしかないのよ。」
玲樹は、涙目になった。
「あのなあ、圭悟だってオレの上司なんだぞ。元はメカニックやってて、上に上がったからあっちで仕事してたんだからな。オレより詳しいかもしれねぇ。そっちは圭悟にやらせろ!工具は貸すから!」
玲樹の必死な様子に、圭悟はため息を付いた。
「分かった分かった。こっちはやるよ。」と、シュレーに小声で言った。「あいつ、スプラッタが苦手でね。」
シュレーは、呆れたように頷いた。圭悟は、しかしやはり臭いに耐えられず、玲樹と同じように布を鼻と口に巻いて、バイクに向かったのだった。