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気持ち

「チュ、チュ、チュマ…。」

チュマは、嬉しそうに空中で体を揺らした。

『マイ。いつもありがとうって言いたかったのに。サラ様が、術のことをマイに教えてる時、これで話せるって思ってたの。』

舞は、なんだか申し訳なく思った。

「ごめんね。人しか駄目なんだと思い込んでて。魔物にも使える術だったのね。」

すると、回りのグーラのうち一体が言った。

『…なんだ。こんな便利なものがあるなら、どうして早く使わないんだ。人ってのは、利口なのかバカなのかわからんな。』

舞が呆然としていると、チュマが言った。

『マイをバカにするな!ちょっと忘れてただけじゃないか!』

甲高いかわいい声のチュマが、精悍なグーラの声に対峙しているのは少し心配だった。舞は、言った。

「あの、私達、夕食ですか?」

そのグーラは、顔をしかめたようだった。

『違う。好き勝手言いおってからに。我らは、人を食ったりせんわ。何しろ、人に育てられたのだからな。』

圭悟が、ハッとしたように言った。

「もしかして、ダッカから子供の頃に盗まれたっていう、五体のグーラ?!ダンキスが言っていた…」

グーラは、圭悟の方を見た。

『ダンキスを知っているのか。そうだ。シャーラが我らを育ててくれておったのに、あの日何かの檻に篭められて連れ去られた。我ら、育つまでそこで居り、育ってからそやつらを蹴散らしてこちらへ逃げて参ったのよ。』

そう思って聞いていると、確かに話し方がダンキスに似ている…。

舞は、そのグーラを見た。

「それで、名前は?」

そのグーラは答えた。

『オレはキール。隣りはメイカ。そしてライカ、ルカ、カール。シャーラが付けてくれた名だ。帰ろうにも、幼い頃のことだったので、場所がわからんでな。山を越えるにも、あちら側がどうなっているのかも分からず、とにかくこの辺りに潜んで居ようということになった…しかし、最近時に、困った奴が降りて来ての。ヤツが追って来るやもと思うと、自由に動き回ることも出来ぬのだ。』

シュレーが、口を開いた。

「困った奴とは?」

キールが答えた。

『元は、我らと同じ、主らがグーラと呼ぶ種族ぞ。』キールは、外を伺った。『しかし、ヤツは異常にデカい。とにかくデカくなった。我らも、あれでは太刀打ち出来ぬし、様子を見ておったのだ。ま、我らが五体も居るから、あやつの巣に押し掛けない限りあちらから仕掛けて来ることはないがな。』

圭悟は、グーラに恐る恐る訊いた。

「…ところで、どうしてオレをここへ引きずって来たんだ?」

キールは、ため息を付いたようだった。

『そのデカいグーラがうろうろしている所に、あんなふうに寝てたんじゃ危ないだろうが。そっちの二人もだ。あの時、ヤツは近くに居た。だから、ここへ匿っていたんだ。何しろ人は、話しは通じぬし我らを見たら剣を抜く。助けてやるにも一苦労よな。聞いておったら夕食だとかなんだとか、言いたい放題言いよって。確かに腹は減っているが、我らは人は食わぬ。母親をシャーラだと思っているからな。』

それを聞いて、圭悟はえ、と腰に付けている大きな麻袋を見た。そうだ、これ…。

「腹が減ってるんなら、これを。」圭悟は、麻袋を開いて、中からあの玉を出した。「オレ達、昨日はマーキス達に乗って来たんだ。エサを預かってて、そのままだった。」

キールは、驚いた顔をした。

『マーキス?兄者を知っておるのか。』と、その玉を見て、首を振った。『何か知らぬが、こんなものは食ったことがない。』

圭悟は、キールにそれをずいと近づけた。

「あのな、シャーラが作った命の気の玉なんだぞ?お前、母親の作った物が食べられないって言うのか。」

キールは、渋々それの臭いを嗅いだ。

『…里の匂いがする。』と口を開けた。『放り込め。』

圭悟は、頷いてそれを放り込んだ。すると、キールは、それを飲み込んでしばらく黙って目を閉じていた。そして、目を開けた。

『確かに、シャーラの気の匂いだ。』キールは、言葉に詰まりそうになりながら、言った。『他のヤツにも、やってくれないか。』

圭悟は、輪になったまま、一斉に大きく口を自分に向かって開けているグーラに、次々に玉を放り込んだ。その光景は、間違いなく食われかけている人のようだったが、舞は黙って見ていた。グーラ達は皆一様に感慨深げな顔をしながら、それを飲み込んで余韻に浸っている。

『…懐かしいな。』

キールの、右隣のグーラ、メイカが言った。

『里を思い出す。確かに、これはシャーラが作った物なのだ。』

メイカの前の、ルカが言った。キールは頷いた。

『お前達は、里の場所を知っているのだな?』

三人は頷いた。

「ああ。今は別行動しているが、ダンキスも来ているんだ。合流するつもりだよ。」

五体のグーラは、顔を見合わせた。そして、カールが言った。

『なあキール、こいつらを乗せて行く代わりに、里へ帰してもらおう。そうすれば、皆に会える…里へ帰れる。』

圭悟は、シュレーを見た。シュレーが、渡りに船とばかりに頷いた。

「そうしよう!皆を乗せて行ってくれないか。お前達の里のダッカは、この山の向こう側だ。オレ達は、向こう側から来た。」

キールは、シュレーを見た。そして、頷いた。

『よし。じゃあ、仲間とやらと合流しよう。』と、外を伺った。『…どうやら、厄介なヤツは向こう側へ移動したようだ。さあ、乗れ。』

チュマが、舞に言った。

『マイ、後でゆっくり話そうね。ところで、杖を持って行かなきゃだよ。』

舞は慌てて杖を取りに走った。

「そうよね!チュマ、ありがとう。」

シュレーも、剣を拾って鞘に収め、圭悟も傍にあった剣を腰につけた。

『行くぞ。』

キールの掛け声と共に、五体のグーラは一斉に飛び立ったのだった。


その頃、玲樹達は、確かに地図が示す場所に、最後の機械が無いのに焦って回りを探索していた。あくまで目視に頼っているダンキスと玲樹と違い、アークは地図をじっと見て場所を探り、目を閉じて気を読んでいた。

そして、歩き出したかと思うと、地面に膝を付いて地表を見つめた。

「…ここだ。」アークは言った。「ここにあったはずだ。女神の石の気の残照が残っているし、何かを固定していたらしい跡がある。」

玲樹とダンキスは、急いでそこへ駆け寄って地面を見た。

「ほんとだ。」玲樹が言った。「ここに、固定した台座の跡がある。足が一本残ってるな。」

ダンキスが眉を寄せた。

「しかし、何かに力任せに引き千切られたようぞ。誰が、何の目的でこんな事を…」

「それを、オレが聞きたい。」突然に振って来た声に、皆一様に武器を握り締めて構えた。相手の声は続けた。「いったい何をやっている?装置を壊して回っているんだってな。死んだと思って油断した。全ての装置を破壊しやがって。」

そこには、ラキが立っていた。その後ろには、シンシアとデューラス、それにラシークが居た。メグとナディアを急いで背後へ回した三人は、相手を睨み付けた。

「お前に説明する理由なんてないな。」

玲樹は、言った。どうやら、女神の石を回収しているのは知らないらしい。ただ、壊して回っているだけだと思っているようだ。なので、絶対に目的を知られてはいけないと思った。それは、ダンキスもアークも同じなようだった。

「いったい何の目的で、誰に命じられてあんなことをしおった、ラキ!」ダンキスが言った。「あれほどに、陛下に忠実であったのに。」

ラキは、フッと笑った。

「お前は甘い。陛下は、オレを信じてなど居なかっただろうが。所詮、拾われた男だ。お前のように、一族の長だった訳でもないしな。それより」と、ナディアを指した。「今日は殿下をお連れしに来ただけ。どうせ何も言わぬ主らには用はない。それより、殿下にお聞きして、そのお力を貸して頂ければとな。」

ナディアは、ラキを睨んだ。

「お前などの思うようにはなりませぬ!我は…信じておったものを。」

ラキは、わざと恭しく頭を下げた。

「これは殿下、光栄でございます。」と、表情をスッと凍りつかせると、踵を返した。「やれ。」

背後に居た三人が進み出て来た。

「さあて、この間のようにはいかねぇからな。」

デューラスが剣を手に言った。シンシアが前に進み出て言った。

「そんなことどうでもいいのよ!シュレーはどこ?生きてるんじゃないでしょうね!」

玲樹は、ふふんと剣を抜いて言った。

「ところがどっこい、元気に生きてるさ。なあ、しつこい女は面倒だ。シュレーが逃げる気持ちも分かるね。」

シンシアは真っ赤な顔をして髪を振り乱して言った。

「今度こそ、私のものになったと思ったのに!どうしてよ!」

後ろから、ラキが面倒そうに言った。

「そんなことどうでもいい。さっさとやってしまってくれ。殿下を連れ帰れと命じられてるんだろうが。」

シンシアは、チッと舌打ちをすると剣を構えた。

「そっちの、顔はかわい子ちゃんだけど女としては貧相な王女様を貰わなきゃならないのよ。」

アークが、長い剣を抜いた。

「オレの妻を悪く言わないでもらおうか。」

デューラスが、突然に斬り掛かって行った。

「お前みたいな幸せそうなヤツは腹ぁ立つんだよ!」

そして一気に戦闘は始まった。

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