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流れを変える機械

しばらく木々の方へと歩いて行くと、その木々に隠れるように、何か金属が光るのが見えた。

「…あれだ。」

圭悟が言う。皆は黙ってそれに近寄って行ったが、一番最初に到着したシュレーが、こちらを振り返って首を振った。

「駄目だ。壊れている。というより、壊されているな。機能していないどころか、バラバラだ。」

追い付いた皆が見ると、もうかなり前に叩き壊れたような形にバラバラになった機械がそこにあった。まるで引きちぎられたかのように部品は散乱してて、所々錆も浮いていた。ダンキスが言った。

「おそらく、これが陛下の命じたパーティが壊したと言った機械なのだろう。あのパーティも、デルタミクシアから順に降りて行ったはず。それならばこれには、女神の石は無いはずだ。ここで回収された変わった光を放つ石は、陛下のお手元に送られたはず。つまり、陛下がお持ちなのだろう。」

シュレーが言った。

「ならば、最後に陛下の元へ行けばいいんだな。失われたとサラマンテが言っていた物の一つは、それで大丈夫だ。」

舞は、それを聞いてホッとした。なら、後の5つを機械から回収して、行方不明の1つだけを探せばいい。それならなんとかなりそう…。

圭悟が、地図を見降ろした。

「次の機械は、あちら。斜め下って表現になるかな?もう少し下ればいい。ここから一キロほどだ。一キロおきに設置されてある…ぐるりとデルタミクシアのこちら側を回り込んで下るように。」

ダンキスが頷いた。

「今日中には無理かの。昼過ぎに出てしもうたからな。良くてあと二つの回収をして、明日三つを回収して先を考えるしかないな。」

シュレーが、歩き出した。

「急ごう。もしかしたら、今日三つ回収出来るかもしれない。」

皆も、日が傾いて来るのを見ながら必死になだらかな斜面を下り出した。


二つ目の機械は、森の中にあった。静かに音を立てながら、緑や赤の小さなランプが光っている…まさに、起動して活動している状態なのだ。皆でその90センチ四方ほどの大きさの機械を囲んで、じっと見た。

「…見覚えがある。あの時、これを運んでいたんだ。どこから開けるんだろう。」

圭悟が、あの時を思い出しながらも、頭から振り払うようにしてその機械を見回した。玲樹が言う。

「この辺のボルトを外したらなんとかなりそうだ。」と、自分のカバンを探って、何かを出すとそれを大きくした。驚いたことに、それは工具箱だった。「本職はこっちなんでね。」

玲樹は、器用に横へ回り込んで、変わった形のボルトを次々に外して行く。すると、カバーが取れて、中が丸見えになった。

「…こんな風になってるんだ。」

舞が言うと、ナディアが言った。

「あれですわ。この、光っている緑の棒のような物…。」

中心に、一個と言うより一本の石がはめ込まれていた。こちらから見ると丸い。横から見るとどれぐらいの長さなのか想像はつかないが、円柱なのは分かった。

玲樹は、ゴムの手袋を嵌めた。

「念のためね。」と、その手で慎重にそれを引き抜いた。「お、結構長いぞ。」

出て来たのは、30センチぐらいの長さの、蛍光色にも見える緑の透明の棒だった。それを引き抜いた途端、機械は動きを止めた。

「これが動力だったんだな。」圭悟が言った。「そしてこれで、命の気をこっちへ引き付けていたんだ。」

シュレーが頷いて、少し下がって剣を抜いた。

「どけ。」

皆が仰天して機械から離れる。シュレーは、それを一気に叩き壊した。

「…もう動かないのに。」

シュレーは鼻を鳴らした。

「こんなものがあっては、また石を取り返しに来て差し込んでときりが無い。壊しておくのが一番だ。」

皆がそれに注目している中、舞は一人玲樹の手にある円柱型の女神の石を見つめていた。これ、どこかで見たことがあるんだけど…。

舞の様子に、メグが言った。

「舞?どうしたの?」

舞は、メグを見た。

「あの、女神の石に、見覚えがあるような気がするのよ。どこでだったかしら…結構前だったような…。」

皆が、驚いて舞を見た。

「見たって、どこにでもあるもんじゃないだろうが。どこで見たんだよ?」

玲樹が言う。舞はうーんと唸った。

「どこでだったかしら…こっちへ来て、いろいろあり過ぎて記憶がはっきりしないのよ。シュレーも居たわ。どこかの店で…」

シュレーが、目を見開いた。

「ミンの店か!」

舞は、ハッとしたようにシュレーを見た。

「そうよ!あの熊さんの居たお店よ!シオメルで最初に連れて行ってもらったお店で、メロンソーダ色の…」

シュレーは頷いた。

「みすぼらしい旅人が売りに来たと言っていた。思い出した…あれが、女神の石だったのか!」

ダンキスが顔をしかめた。

「つまり、失われた一つはシオメルにあるのか。」

シュレーは、自信なさげに頷いた。

「少なくともあの時点ではあった。何に使うか分からないからと、買わなかったが。あの時知っていれば…。」

圭悟が、険しい顔で言った。

「おそらく、それはオレ達が運んでいた機械にはめ込まれていた石だろう。オレ達が襲われて、あの機械は持ち去られて行方不明になっている。その旅人は、オレ達を襲ったやつのうちの一人だったんじゃないのか。」

玲樹が、振り返った。

「…確かにな。しかし、今はそれより目の前の石の回収だ。次へ行くぞ。この石は、誰が運ぶ?」

ダンキスが足を踏み出して手を出した。

「オレが。物を運ぶのはオレが一番適任だろう。」

玲樹は頷いて、ダンキスにそれを手渡した。ダンキスは、背のカバンのナディアにそれを渡した。

「足元にでも、入れて置いてください、殿下。」

ナディアは、恐縮して言った。

「我の重さもあるのに、重いでしょう。我は歩きまするわ。」

ダンキスは笑った。

「オレは力だけはある。殿下の重さなど、感じぬぐらいです。お気になさらずに。」

ナディアは頷いて、足元に女神の石をそっと置いた。

そして、一行は次の機械を目指して早足に歩いて行った。


そうして、三つ目の石を回収し終えた所で、もう辺りは真っ暗になっていた。傍にあった大きな木の根の穴へと皆で入り、見張りは男性が二人ずつ、明け方は一人と、三交代で立つことになった。しかし、この辺りには魔物は少ない。皆、本来命の気の多かったライアディータ側で発生した魔物達だからだ。魔物は、生まれた地から離れることは少ない。山の魔物達も、こちら側ではなく、ライアディータの方へ山を下りて行ったほどだ。それほどに、リーマサンデはどちらかと言うと、舞達が居た現実社会と似ている所があった。

舞が缶詰の夕食を済ませて、寝袋に入って、寝ころぶ広さがないので足伸ばして座ったような形で寝ようとしていると、アークとナディアが、まだ外で何か話しているのが目に入った。二人共座っていて、アークは何かを作っているようだ。その横で、ナディアは座り込んで何やら話している。アークは、もっぱらそれに相槌を打っているだけのようだ。それでも、ナディアは幸せそうだった。そっと横を見ると、シュレーが同じように寝袋に入って、腕を出して頭の後ろに組み、考え込むように上を見ていた。舞は、寝袋ごと向きを変えてそっとシュレーに寄り添った。シュレーはハッとしたように舞を見ると、表情を緩めてそのまま肩を抱いてくれた。舞は、安心して眠りに落ちて行ったのだった。


次の日の朝、舞が目を覚ますと、シュレーは横に居なかった。皆はまだ寝ている。舞は、昇って来る日を感じながら木の根の穴から出た。

「おはよう…夜明け?」

シュレーが、驚いたように振り返った。

「ああ、おはよう。珍しいな、マイ。早起きするなんて。オレは夜明け前からの見張りだったから、起きていたんだ。」と、回りを見た。「昨日は暗かったから気付かなかったが、かなり降りて来たな。魔物も、ここらは少ないだろう。夜さえ無事に越えれば、あとは大丈夫だ。午前中に残り二つの石も手にして、さっさと引き返そう。シオメルのミンの所の石が気になる。まだあればいいが。」

舞は頷いた。

「あの時は、ただのガラスの置物にしか見えなかったんだもの。でも、仕方ないわね。」

話し声に気が付いた、圭悟が起き出して来た。

「無事に夜が明けたな。良かった、気になってたんだ…魔物もだが、ラキだって何を考えてるか分からないし、夜にこんな所で襲撃されたらどうにもならないからな。」と、歩き出した。「ちょっとトイレに行って来る。」

圭悟は、ぶらぶらと向こう側へ歩いて行った。皆が次々と起き出して来る。

「お、圭悟?オレも行くぞ。」

玲樹が圭悟を追って行く。アークが出て来た。

「だいぶ降りて来たな。帰りはどうする?こっちはこんな風に魔物も居ないが、ライアディータ側は物凄い魔物の数だろう。夜も寝ないで戦いながら下山しなきゃならないぞ。グーラを呼ぼうにも、ダッカまで笛の音が届かないし。」

ダンキスが、出て来て言った。

「確かにそうよ。このままベイクへ出てサン・ベアンテからシアへ船で帰るって手もあるが、それでは大回りになろうしな。」

舞が首を傾げた。聞いたことがあるような無いような街の名前…。シュレーが、そんな舞を見て言った。

「前に地図を見せたろう?シオメルで旅程を決めた時だ。リーマサンデの都市の名だ。ベイクはライアディータでいうシオメル、サン・ベアンテはシア。ここからだと、だからかなりの距離になるな。」

舞は、海側だと聞いてかなり遠いのは認識出来た。シアから、ここまで来るのにどれだけ掛かるか知っているからだ。

「そんなにゆっくりしていられないわ。熊さんのところの女神の石も気になるし。」

「ミンな。」熊さんと呼ぶ舞に、シュレーが言い直した。「戦いながらでも、オレ達なら耐えられるだろうが、殿下とメグが怪我をするんじゃないかと心配なんだ。チュマの力も未知だしな。」

舞は、ウェストポーチに入っているチュマを見降ろした。チュマは、じっと舞を見上げている…チュマと話せたら…。

「チュマ…、」

舞が言い掛けた時、向こうから玲樹の声がした。

「圭悟!」と、切迫した声でこちらへ呼びかけた。「大変だ!圭悟がこっちの急斜面を落ちてった!」

「ええ?!」

シュレー、アーク、ダンキスは、驚くほどの速さでそちらへ走った。舞もそれについて行こうとして、メグとナディアがまだ居ることを思い出し、そこに留まった。放り出して行ってしまったらいけない…。

それにしても、緊急時の素早さを目の当たりにして、つくづく自分は足手まといなのだろうなあと、舞はため息を付いた。あの人達だけなら、きっと昨日中に石を回収して夜の間も歩いて戻っていたんだろうなあ…。

「圭悟ー!」

シュレーが、遠く叫んでいるのが聞こえる。

舞は、気が気でなかった。

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