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見えない不安

グーラは、風をものともせずにスイスイと飛んだ。

その背に二人ずつで分乗していた8人は、途中冷えて来てコートを身に付けながら、デルタミクシアを上空から眺めた。白い石造りの、上から見るとそんなに大きくはない建物が、そこに建っていた。

「…見た目は、変わってないな。」

シュレーが、言った。少し離れた位置をホバリングしていたダンキスにその声が届いて、言った。

「静かだな!ここから命の気が出ているから、山の魔物が集まっているかもと思っていたんだが!」

叫ばないと、風のせいでよく聞き取れない。シュレーは、頷いた。

「それが不気味だ!どうする?グーラは降りそうか?!」

ダンキスは、降りるように足でそっと横腹を撫でた。しかし、グーラはためらったようにデルタミクシアの上を旋回しただけで、困ったようにダンキスを振り返る。他のグーラも、ためらっているようだった。

圭悟は、自分を乗せているグーラに言った。

「何か、降りたくない理由があるのか?」

そのグーラは、グルルと小さく喉を鳴らした。そうだ、と言っているように圭悟は思った。

「じゃあ、どこなら降りれそうだ?そこへ降ろしてくれないか。お前達は、そこから里へ帰っていればいいから。」

グーラは、じっと圭悟を振り返っていたが、他のグーラに向けて小さくギャア、と呼びかけた。他のグーラ達が一斉に振り返る。そして、ついて来いとばかりにくるりと首を振って向きを変えると、山の斜面に沿って飛んで行く。他のグーラは、それに続いた。

「なんだ?どこへ行く?」

ダンキスが言うのに、圭悟が叫んで言った。

「このグーラが、降りれる所へ連れて行ってくれるそうだ!」

ダンキスは苦笑した。

「マーキスか。圭悟、魔物使いの素質があるんじゃないか。あやつは他に比べて人に慣れんヤツなのに。」

少し降りた、岩が大きく突き出した下、デルタミクシアからは隠されている場所に、グーラ達は降り立った。思ったより山頂から離れなかったのは、グーラが山頂からなるべく離れずに隠れられるような場所を考えたからのようだった。

「なるほど、ここならこやつらも良かったのだの。つまりは、デルタミクシアに何かあるのだろうな。」

ダンキスが、そこへ降り立って言う。シュレーも頷いた。

「魔物が人里へ降りて来るほど餓えてもデルタミクシアに近付かない理由が、そこにあるのかもしれない。」

ふと振り返ると、メグがシャーラのように、ダンキスがマーキスと呼んだグーラの顔に頬を摺り寄せていた。

「ありがとう。全然怖くなかったわ。次に乗るのも、あなたがいいわ。」

マーキスは目を細めて、小さくグルルと言った。ダンキスが笑った。

「そいつは、マーキスという。人に慣れんヤツでな。他が卵から育てられたのに比べ、こやつだけ山の麓に子供の時に傷ついて落ちておったのを、オレが拾って来たんだ。だから芯は強いが、扱いが大変なんだぞ?」と、圭悟を見た。「圭悟、どうやってマーキスと意思疎通したんだ。」

圭悟は、え、という顔をした。

「普通に言葉で話しただけだ。この間の襲撃の時にも、マーキスが乗せてくれたのを覚えていたから、真っ先にマーキスに歩み寄ったでしょう?だから、オレは頼んだだけだ。他を追って飛んでくれと。そしたら、乗れというから、乗った。何も言わないのに、初心者のオレ達を気遣って揺れないように飛んでくれたし。今も、降りれそうな所はって言葉で聞いただけ。グーラがあまりに賢いから、メグなんて飼いたいと言ってるぐらいだ。」

ダンキスは驚いてマーキスを見た。マーキスは、舞とメグに挟まれて撫で回されて目を細めていたが、ダンキスと目が合うと、ふいっと横を向いた。ダンキスはため息を付いた。

「…ほんになあ、プライドの高いヤツよ。なので恐らく、オレのように命じるのではなく、頼んだのが良かったのだろうの。人が嫌いな訳ではないのか。」

マーキスはグルルとダンキスに小さく答えた。きっと、そうだと言った。

「今、そうだと言ったよな。」

圭悟が言う。マーキスは目を細めた。その通りだと言わんばかりだ。ダンキスは、笛を出した。

「じゃあ、お前達は長くここへ居てはならぬ。恐らく目立って危険だろう。里へ帰っておればよいぞ。」

そう言って、笛を吹こうとすると、その前にマーキスは飛び立った。他の三体も、慌ててそれに倣う。どうやら、マーキスは他より少し年上のお兄さん格のようだった。ダンキスは驚いて見上げた。

「何との。ある程度の言葉が分かるのは知っておったが、これなら呼ぶ時ぐらいしか笛など要らぬな。」

四体のグーラは、気遣わしげに上空を旋回してから、元来た麓の方へと飛び去って行ったのだった。

それを見上げながら、舞はチュマの頭を撫でて言った。

「グーラも賢いねえ、チュマ。お友達になれるかな?メグに飼ってもらおうか。」

玲樹が慌てて手を振った。

「おいおい、チュマ一匹でもホテルに泊まる時隠すのが大変なのに、グーラはどうするんだよ。ずっと誰かがついて野宿することになるぞ?」

メグは、顔をしかめた。

「…確かに、定住してるならまだしも、旅ばっかりだものね。それはキツイかなあ…。」

すると、脇道を見に行っていたシュレーが戻って来て、言った。

「この先に、登山道らしきものがある。細い獣道みたいなものだが、おそらくデルタミクシアまで続いているだろう。どうする?おそらく、何かあるぞ。」

ダンキスが、山頂の方を見上げた。

「…何があるというのだ。デルタミクシアの建物の中か。」

アークが、言った。

「目的は、女神の石の回収だろう。建物は、今は入らない方がいい。何があるにしろ、居るにしろ、気付かれないように先に機械の設置場所へ向かおう。」

シュレーが頷いた。

「そうだ。命の気の流れを正すのが先だからな。デルタミクシアの真ん前は迂回して、あちら側へ降りて行こう。」

圭悟が、地図を出して確認した。

「…デルタミクシアに一番近い機械は、そっちの山道よりこっちの岩場の横を、足場は悪いが登った方が目の前だ。建物の前を通らずに済むし。」

アークも、横からその地図を覗き込んだ。

「…一キロも無い。ならば、行けるな。」

そう言って、ナディアを振り返った。ナディアは、頷いた。

「大丈夫ですわ。これでも、体力はあるのです。王宮の塀も、度々越えておりましたから。」

それはどうだろう。皆は思ったが、黙っていた。しかしアークは大真面目に頷いて、ナディアの手を取って傾斜40度ぐらいの岩場に向かって歩き出した。皆がそれに続き、最後に、シュレーが舞の手を取って言った。

「マイ、担いだほうがいいか?」

舞は首を振った。

「大丈夫。私は動きやすい服装だし。滑りそうになったら、お願いね。」

シュレーは頷いた。

「気を付けろよ。」

そうして、デルタミクシアを避け、最初の機械に向けて歩き出したのだった。


岩場は、上へ進むほど急な斜面になって行った。途中、先頭を行くアークが、慣れた手付きでアンカーを打ち、ロープを通し始めた。皆がそれに掴まって辿るように登って行く中、ついにナディアはダンキスの背のリュックのような物に入れられ、運ばれるようになった。メグが、長い裾に困っているのを見た玲樹が、メグを背中にくくりつけるという荒業で背負い、登って行く。舞は最後尾を守るように登って来るシュレーに気遣われながら、大丈夫と言い続けた。だが、実際は岩を掴む手も、ロープを辿る手も、手袋をしているのに痛くて仕方がなかった。脚が丸出しなので、膝も何ヵ所か擦りむいている。それでも、どうしても自分の力で行きたかった。足手まといにはなりたくない。私は戦闘員なんだから、ここで証明しなくては。

舞は、ひたすらに前を見て登り続けた。

ふと、先頭のアークが振り返った。

「頂上の脇だ。ここからなだらかな下りになるぞ。」

では、あそこがこのルートの一番上。

舞は、ホッとして手の力が抜け、よろめいた。

「マイ!」

シュレーが、すぐに後ろから背中を支えてくれる。舞は、苦笑した。

「ごめんね、シュレー。私ったら、気を抜いて。」

シュレーは首を振った。

「何を言っている。よくここまで来た。軍の演習のような行軍なのに。さ、もう少しだ。」

舞は頷いて、足に力を入れて登りきった。するとそこは、少し小さ目の岩が転がる、なだらかな下り斜面だった。遥か下に木々が見え、そこまで見下ろすことが出来るが、それでも先はずっと続いているようだった。

圭悟が、腕輪を開いて地図と見比べた。

「こっちだ。」

今度は圭悟が先頭に立って歩き始める。皆は、それに従って歩き出した。メグは玲樹から降りたが、ナディアは、まだダンキスに背負われたままだった。

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