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デルタミクシアへ

「あーあ、ついに帰って来なかった。」玲樹が、言葉とは裏腹に笑いながら言った。「先を越されたぞ、シュレー。」

シュレーは、ふんと横を向いた。

「いいんだよ。だからオレ達のことは放って置いてくれ。」

舞は、まだ眠っていた。玲樹がそれを見ながら言った。

「まあなあ、こうお子様だと、シュレーだって気を遣うよな。よく聞いたら、まだ19だってよ。来月20になるらしい。シュレーとは10年も離れてるんだから、ためらう気持ちも分かるよ。」

シュレーはため息を付いた。

「分かってる。別に急ぐつもりもないし、いいんだ。信頼関係があればいい訳なんだから、別に結婚はどっちでもいいんだと思うがな。」

そんな話をしながら、朝食を取っていると、ナディアが晴れやかな顔で布の戸を開いて入って来た。

「おはよう。皆、起きておるの?」と、朝食を見、「まあ、思えば、我はとてもお腹が空いたわ。」

メグが、場所を開けた。

「どうぞ、ここに。舞はまだ寝てますの。」

ナディアは、舞の寝台の方を見た。シュレーの寝台で、まだすやすやと眠っている。ナディアは、微笑んだ。

「まあ、マイもシュレーと結婚したのですか?良かったこと。」

アークが、後ろからバツが悪そうに入って来てナディアの横へ座る。シュレーは、慌てて首を振った。

「いや、オレ達は、まだ。」

だいたい、こんなみんな一緒に寝ている所で何が出来るというのか。シュレーが思っていると、ナディアは言った。

「なぜですか?一緒に寝ておるのに?我はアークと結婚しましたわ。もうアークは、我の夫ですの。」

ナディアはとても嬉しそうだ。だが、アークはとても居心地悪そうだった。玲樹は意地悪く笑った。

「ふうん、アーク、お姫様を妻って気苦労しょい込んだものだなあ。頑張れよ。」

確かに気苦労だ。アークは思ったが、ただ頷いた。少し、何が恥ずかしいとか分かってもらえたらいいんだが。

ナディアは、少し怒ったように玲樹を見た。

「まあ、レイキ、結婚ってとても神聖なものなのだと、サラ様はおっしゃっておりましたわ。魂も全て、共にって。これから、我は命を懸けてアークを守って共に生きるのです。気苦労だなんて。」

アークは、そんなナディアに苦笑した。そして、言った。

「さあナディア、ダンキスが来たら出発だろう。その前に腹ごしらえしなければならないぞ。しっかり食わねばな。」

ナディアは頷いて、素直に食べ始めた。それを聞いたシュレーが、慌てて立ち上がった。

「そうだ、マイも起こして食わさなきゃ。」と寝台へ行って舞を揺すった。「マイ!起きろ。朝飯を食っておかなきゃならないぞ!ダンキスが来たらどうする。」

舞は、うーんと目をこすった。

「もう朝…?まだ眠いわ、シュレー…。」

「こら!」シュレーは、また眠りに落ちようとする舞を引っ張り起こした。「駄目だ、起きて食え!」

それを見た圭悟が、困ったように笑った。

「あっちはまるで親子だな。あれじゃあ、夫婦になるにはまだまだ先だろうよ。」

玲樹が肩を竦めた。

「違いない。最初から全然変わってねぇんだよ、あの二人は。」

そんな圭悟と玲樹の前で、シュレーはまだ半分以上眠っている舞を担いで来て食べ物の前に座らせ、食え食えと揺すっている。舞は、まだうつらうつらしながら、自動的に口に物を運んでいるような感じで食べていたのだった。


ダンキスは、昼過ぎに4体のグーラを連れて到着した。

「すまぬの。早朝に発とうとしたのに、いろいろあっての。」

恐らく、シャーラが引き止めたのだろう。理由に関しては言いにくそうにしていた。圭悟が笑った。

「こちらは昼飯も終わってこの時間がちょうど良かったんだ。じゃあ、行程を話し合おう。」

ダンキスは頷いて、皆に寄って来た。シュレーがデルタミクシア周辺の詳細な地図を開いた。

「今朝、圭悟や玲樹、アークと話したんだが、グーラでデルタミクシアまで行って、そこからリーマサンデ側へ女神の石を回収しながら降りて行こうと思っている。」

ダンキスが、険しい顔をした。

「…行くのは問題ないんだが、グーラが降りてくれるかどうかぞ。ほれ、言っただろう、気の流れが変わった直後、オレとラキはグーラで様子を見に行っておるのだ。あの時はどうあっても降りてはくれなかった。あの後陛下が機械の破壊を命じたパーティも、なので徒歩で向かって…一つ壊したと連絡があった後、通信が途絶えて、今も行方不明ぞ。何かあるのかも知れぬ。」

シュレーは、圭悟と目を合わせた。デルタミクシアに、何かあるのか。

「…なら、グーラでどの辺りまで行ける?」

ダンキスは、腕を組んで考え込むような顔をした。

「そうよな。中程までならなんとかなるやもな。しかし、あの山の状態で、そんな所にグーラを置き去りにすることは出来ぬ。なので、降り立ったら、グーラは里へ帰さなければならぬぞ。でなければ世話をするやつも居らぬのに、あやつらはあの辺りの魔物と同じように餓えて何をするか分からぬからな。」

シュレーは、険しい顔をした。

「…つまり、帰りは徒歩か。」

ダンキスは、頷いた。

「リーマサンデ側へ行ってしまえば降りるだろうぞ?あちらから登ることは?」

圭悟は首を振った。

「あちらは状況がわからない。目立つグーラなどでリーマサンデへ入って、捕まらない保証はないし。」

ダンキスは、ため息をついた。

「ならば、仕方がないの。降りようとする場所ギリギリまでグーラで行って、そこからグーラは里へ帰そう。その後徒歩でデルタミクシアへ行き、一つ一つ女神の石を回収しながら、密かにリーマサンデへ入ろうぞ。」

シュレー、圭悟、玲樹、アークは、顔を見合わせて頷いた。それしか、方法はない。

シュレーが言った。

「さあ、では、出発しよう。まずは石を回収して、全てはそこからだ。」

皆は頷いて、立ち上がった。

借りていた家を出て門の前に来ると、三人の生き残った侍女と、サラマンテが出て来て待っていてくれた。

「サラ様!」

舞とナディアが駆け寄ると、サラマンテは微笑んだ。

「参るか。厳しい旅になるの。」と、舞のウエストポーチから、頭が少し出ているチュマの頭を撫でた。「…覚醒したばかりであるが、これは間違いなく特別なプー。マイ、主が見付けたのは偶然ではないぞ。このプーは、主を、主の仲間を守ってくれる。覚えておくのじゃ。」

舞は、頷いた。

「はい、サラ様。」

そして、ナディアを見た。

「ナディア様、主の人生で一番の苦難が来ようとしておる…難しい選択が待っておろう。我には分かる…だが、その時に何を選ぶかは、主次第ぞ。何が己にとって一番大切なのかを、考えると良い。王女ではなく、主自身にとっての。」

ナディアは、少し不安になったが、その言葉を心に刻んだ。

「はい、サラ様。」

シュレーが、サラマンテの方を見ずに言った。

「バーク遺跡は、軍が警備を始めています。残った一つの女神の石は、軍が守り切りますので。」

サラマンテは、それを聞いて舞の方を見て言った。

「軍が守ってくれるならば、迷宮と合わせてあれの心配はせずとも良いの。しかし、あの迷宮を抜けるためには巫女の血が必要じゃ。前回はどうして抜けたのか分からぬが、石を集め終わったら、もう一度ここへ来るが良い。抜け方を教えようぞ。」

舞が頷いたのを見て、サラマンテは道を空けた。一行は、頭を下げてその前を抜けて、4体のグーラに分乗し、飛び立って行ったのだった。


グーラを操るのは、ダンキス、シュレー、アーク、そして圭悟だった。

圭悟はあまり気乗りしなかったが、他にグーラを操った経験のある者が居ない。圭悟だって操ったというより、グーラが乗せてくれたといった感じだった。なのに、こうなってしまった。

しかし、圭悟は同じ顔だと思っていたグーラの見分けが、付くようになっていた。なので、顔を見た時、あの時のグーラがすぐに分かった。圭悟は、そのグーラに近付いて、聞いてみた。

「…オレ、慣れてないけど、この前みたいに他の奴を追って飛んでくれるか?」

グーラは、少し考えるような顔をしたが、くいっと自分の背に向かって顎を振った…乗れ、ということだろうと、圭悟はすぐにメグと共にその背に乗った。

そして、やはり何もしなくても、他のグーラを追って飛んでくれている。しかも、初心者だと分かっているので、上下動が他より明らかに少なかった。圭悟は感心して言った。

「お前、賢いんだなあ。オレ、魔物を勘違いしてたよ。」

すると、そのグーラはちょっと振り返って、グルルッと喉の奥を鳴らすような声で答えた。後ろから、メグが言った。

「まあ、ちょっと!困ったわ、私グーラを飼いたくなって来たじゃないの。まるでチュマ並よ?あの子は神の飼いプーだったから当然なのかと思っていたけど、違うのね。魔物だって、人が育てたらこうして言葉も解してすっごく賢いんじゃないの。ああ、シャーラさんが可愛がっていたのが分かるわあ。」

メグは、全然揺れないのにいたく喜んでいるようで、そのグーラへの賛辞は止まらない。グーラは、やはり分かっているようで、とても得意げにしていたのだった。

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