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巫女の力

舞とナディアは、サラマンテの元に居た。サラマンテは、老齢でありながら力強く語った。

「主らには、唯一無二の女神ナディアの巫女の力が宿っている。大地が生み出す命の気を、人は本来その大地が生み出す物を食すことで己が身に取り込み、生きて命の気を身に宿している。だが巫女は、直接大地から制限なく命の気をその身に吸い上げて他者へ与えることの出来る能力を持っておるのじゃ。」と、目の前の二人を代わる代わる見た。「本来、巫女は世襲であった。最初に巫女の力を与えられた数人が、それぞれに子をなしてその子が力を持ち、受け継がれて来たのだ。その血筋は、もう我しか残っておらぬ…これで尽きるかと思うておったのに、女神ナディアは新たに主らを生み出してくれた。おそらく、主らは女神の意思の元に生まれ出た、新たな時代に則した巫女。ゆえにマイのように攻撃も出来、ナディアのように巫女以外の者と話しておっても力を存続することが出来るのだろう。では、命の気の集め方を学ぼうぞ。」

ナディアが、サラマンテに言った。

「サラ様、我はそれが幼い頃から出来申した。他にやり方はあるのでしょうか?」

サラマンテは首を振った。

「己の良いように集めれば良いのじゃ。それでうまく行っておるなら、それで良い。では、マイ。主はどうか?」

舞は首を振った。

「やったこともありません。そもそも、出来ると自分も回りも思っていなかったので…最近、こちらへ来たばかりで、魔法も覚えたばかりなのです。」

サラマンテは微笑んだ。

「では、今習得しようぞ。」サラマンテが手を上げると、回りに膜が出来た。「これは、命の気を外部へ漏れなくするもの。この術は、古来の術ぞ。出来る限りそれも教えておくことにしよう…が、まずは基本ぞ。」

舞は、言われるままに命の気を集めるべく意識を集中した。

そして、その日は暮れて行ったのだった。


半日サラマンテの元に居て、ナディアは平気そうだったが、舞はふらふらだった。それでも、なんとか力まずに命の気を集められるようになった。これで、もし皆が命の気を失っても補充して助けることが出来ると思うと、舞は疲れたが嬉しかった。

家の方へ二人で歩いて来ると、アークが待っていた。

「ナディア…村人が食事を準備してくれていると、知らせて来た。あちらの家だ。」

ナディアは、嬉しそうに微笑んだ。

「まあ、嬉しいこと。今日は力を使い過ぎてとてもお腹が空きました。」

アークは、ナディアに微笑み掛けた。

「では、たらふく食べればいい。こちらへ。」

ナディアが、アークの腕をそっと握って一緒に歩いて行く。舞は、その後ろ姿にもう夫婦であるような空気を感じて入って行けなかった。すると、シュレーが後ろから声を掛けた。

「マイ?やっと帰って来たのか。あまり長いから、もう飯だと神殿まで迎えに行ったのに。」

舞は、シュレーを見てそれは嬉しそうな顔をした。シュレーはそれに驚いたようだったが、歩み寄って来た。

「迎えに来てくれてたの?知らなかった…サラ様が、裏の出入り口というのを教えてくれて、そこから出たから。ごめんね。」

舞が言うと、シュレーは神殿の方を振り返った。

「そうか、そんなものがあるんだな。覚えておこう。」

並んで歩き出した舞は、先を歩くアークとナディアを見て、自分もそっとシュレーの手を握った。シュレーはびっくりしたように舞を見た。

「どうした?ここからあそこまで行くだけだろうが。」

はぐれない為とか、心細いからとか思ったようだ。今までそうだったのだから、そう思っても仕方がない。舞は、下を向いて言った。

「別に…一緒に居る時はいいでしょう?他に誰も居ないし…。」

シュレーは、その意味を知って、耳の中が赤くなった。そこだけ毛皮が薄いので、顔が赤くなっても分からないが、照れているのは耳で分かる。シュレーは答えた。

「…玲樹が居ない所でな。あいつは、ほんとにうるさいんだ。それからオレは、あいつのように遊び回ってなど居なかったぞ?言っておかないと、昔の仲間がある事ない事言うからな。」

舞は笑った。

「わかってるわ。別に過去がどうのなんて、私は言わないわよ?今のシュレーが好きなんだもん。」

シュレーの耳が、もっと赤くなった。それを見て、舞まで真っ赤になった。ああ、私またあっさりと好きなんて言ってしまって。ナディアがあまりにストレートな子だから、移っちゃったじゃないの。

しばらくして、黙って食事の用意されている家に歩きながら、シュレーが、ぼそっと言った。

「…オレだってそうだ。」

「え?」

舞が、聞き返そうとした時、シュレーは声を大きくして目の前にある家の布を横へ除けた。

「さ、飯だぞ!たくさん食って、早くいろいろ覚えろよ!」

舞は、もっと聞きたかったが、目の前に並ぶごちそうに、空腹を思い出して、嬉々として家に入って行ったのだった。


「ダンキスが、陛下に、オレ達と一緒に行くようにと命を下されたと知らせて来た。」圭悟が、食事を終えて皆でほっと一息ついた時に言った。「殿下のことも、よろしく頼むと。」

玲樹が笑った。

「勝手に出て行ったじゃじゃ馬だと言ってらしたらしいぞ。」ナディアが、赤くなった。玲樹は続けた。「陛下は、出て行くのを知っていらしたようだ。しかし、見張りをうまくまかれてしまって、次に居所を知った時にはライナンに居たのだと。アークがシンという弟に陛下にご連絡するように言って出たのだろう?その知らせが、陛下に届いて、アークが共ならと放って置いたらしいぞ。」

アークは頷いた。

「陛下に知らせずに行くことは出来ないと思うたからな。勝手に出て来たというのは、シオメルの近くまで来てから聞いたのだ。ナディアは強情だから、オレは何を言っても無駄だと思うてそのまま供をしたのよ。」

ナディアは、拗ねたように言った。

「まあ、アーク!我の意見は正しいと言うたではありませぬか。」

アークは微笑んでナディアを見た。

「そうよの。結果的にはこれが良かった。」

ナディアも微笑み返している。あの時何を話したのか知らないが、二人は本当に仲が良かった。今の二人なら、きっと命の気を引き付けて流れを作れるんだろうな…。舞は思った。自分とシュレーはどうだろう。この二人より少し長く一緒に居るんだけどな…。

「すっかり夫婦のようじゃねぇか。」玲樹が、皆が思っていても口にしなかったことをさらっと言った。「で?もう結婚するのか。隣りの空き家を使ってもいいらしいぞ。オレ達はこっちで寝るし、遠慮するな。」

アークがびっくりしたように赤くなった。しかし、ナディアは玲樹に言った。

「我らだけ、別ですか?それでも良いけれど、夫婦とは、他とは別に休まねばならぬものなのですか?でも…まだお兄様に言うておらぬから、夫婦ではありませんわね。アーク、どうしますか?」

アークは、ナディアに言った。

「別にどちらでも良い。ナディア、また話す。」

その様子に、玲樹は圭悟と顔を見合わせた。これは…もしかして本当に何も知らないんじゃ。

「アーク…もしかして…?」

アークは、それ以上言ってくれるなという顔をした。

「また、話そうぞ。」

玲樹は、頷いた。やっぱりそうだ。だとしたら、結婚するまで大変だ…何もかも、教えなきゃならないなんて。

アークは、立ち上がった。

「では、散策でもしようぞ、ナディア。」

ナディアは、不思議そうな顔をしたが、頷いた。

「ええ。では、おやすみなさい、皆さん。」

二人が出て行くのを、黙って見送った四人は、顔を見合わせた。

「こりゃあアークは大変だぞ。お姫様は何も知らねぇんだ。さすが深窓の令嬢だよ。」

玲樹が言うのに、圭悟が頷いた。

「道理で照れも何もなかったはずだ。どうするつもりだろうな?」と、舞を見て、ハッとした顔をした。「…いくらなんでも、舞は知ってるよな?」

舞は、赤くなりながら怒ったように言った。

「知っているわよ!…知識としては。」

玲樹が大真面目に頷いた。

「だったらシュレーは楽だな。」シュレーがまた耳を真っ赤にした。玲樹は気付かず真剣に言った。「アークはどう切り出すつもりだろうな。舞、お前殿下に教えてやったらどうだ。」

舞は大急ぎで手を振った。

「どうして私が!」

教えるほど知らないのに。舞は思ったが、言わなかった。

「お前が一番殿下と居る時間が長いんだ。そうだ、サラマンテ様に頼んでみてくれよ。」

舞はとんでもない!と言おうとして、ハタと止まった。そうだ、サラマンテ様なら、あっさり教えてあげそう…。

舞は、頷いた。

「わかった。言ってみるよ。」

玲樹は、自分の事のように真剣に頷いた。

「頼んだぞ。お嬢様ってのも、よし悪しだよなー…。」

舞は、そんな玲樹を後目に、ため息を付いた。

シュレーの耳はまだ赤かった。

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