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アーク

アークは、部族の長の、アルガの息子として生まれた。

だが、母は誰であるのかアルガは最期まで告げることはなかった。ただ美しい女でアークと目がよく似ているとだけ、父は酔った時にアークに話して聞かせた。そして、決まって寂しそうな顔をした。なので、アークは母は亡くなったのだと思っていた。しかし、誰も真相は誰も知らなかった。

部族のもの達が、そんな長の真っ当な血筋の子を跡取りにと考えて、部族の女を妻に据えた。そして、生まれたのがシンだった。

シンの母は、なさぬ仲のアークも、大変に可愛がってくれたが、父より先に亡くなり、父が亡くなった時、アークはシンが部族を継ぐものだと思っていた。配下のもの達が、子供のアークにどこの女の子か分からぬお子と、こそこそ言うのを聞いて育ったからだ。元より長の地位など要らぬと思っていたアークは、当然のようにシンに従おうとしたが、そうはならなかった。

シン自身が強く拒んだこともあるが、何よりあれほどにアークを蔑んでいた配下のもの達が、今や部族の誰よりもたくましく、強く育ったアークに、長になってほしいと望んだからだった。

それから、部族のためとライナンを治めて来た。風を読むのにも気を読むのにも長けたアークは、それらも利用して部族を守って来た。

しかし、どこの誰の子か分からぬ己に、人並みのことなど望んではいなかった。跡継ぎをと言われた時、そんなことは考えられなかった。なので妻はめとらず、シンが誰かをめとって子をなしたら、それを跡取りにと考えていた。

アークは、ナディアにそれを全て話した。

「殿…ナディア。」アークは、慣れない呼び方に戸惑いながらも言った。「なのでオレは、王の妹の、しかも巫女であるあなたを妻になど、到底無理なのですよ。身分が違い過ぎる。普通の長ではありません。母が誰かも分からぬのに。」

ナディアは、ずっと黙って聞いていたが、口を開いた。

「アーク…我には分からないわ。母が誰であろうとも、あなたはここにこうして居るではありませぬか。我が求めておるのは、このアーク自身なのです。アークは、我では嫌なのですか?我は、それならば諦めまする。嫌うておるのに妻にしてほしいと無理を言うほど、我は世間知らずではありませぬから。」

アークは、慌てて首を振った。

「嫌うなど。あなたを嫌う者などないでしょう。」

ナディアは、アークの手を握った。

「ならば、アーク自身は我を望んでくれますか?それが知りたいだけなのです。」

アークは、ナディアを見つめた。自分の気持ち…。アークは、目を潤ませた。

「…共に旅する間、抑えても、オレはあなたを慕わしいと思う気持ちをどうすることも出来なかった。サラマンテ様にそれを指摘された気がして、本当は戸惑っていたのです。ナディア…オレなどで、本当に良いのか?」

ナディアは、嬉しそうに微笑んだ。

「ああ良かった!アーク、これが人を恋するということなのですね。アークしか、我は望みませぬ。」

花のようなその笑顔に、アークは堪えきれずにナディアを抱き締めた。ナディアはびっくりしたが、その初めて感じる安心感に、ただおとなしく抱き締められていたのだった。


家の戸の布を少し開いてその隙間から覗いていたダンキスは、微笑んだ。

「おお、どうやら話がついたようよ。グーラは、4体で良いか?」

皆もソッと隙間から覗いた。

「あ~美女が一人居なくなったなあ。ま、オレには若すぎたけどさ。」

玲樹が言う。圭悟は呆れたように言った。

「お前にお姫様は無理だって。」

「そうそう、穢れすぎてるわよ、玲樹。」

メグが言うのに、玲樹が傷付いた顔をした。

「何を言うんだ!オレみたいなのも居ないと社会は回らないんだぞ?お嬢様育ちめ。」

シュレーが苦笑した。

「まあ、玲樹が言うのも一理ある。ああいうことに金を使う男も居ないと、歓楽街は上がったりだからな。」

ダンキスが笑った。

「お前がそれを言うでないぞ、シュレー。連れて行っても一銭足りとも使わなかったくせに。あれだけモテたくせにのう。」

シュレーは慌てた。舞が眉を寄せたからだ。

「無理矢理連れて行ったくせに何を言うんだ!」

玲樹が声を立てて笑った。

「あーあ、シュレーもこれから大変だぞ?昔の仲間には口止めして回っておけよ。」

シュレーはひたすらに首を振った。

「オレは何もしておらんと言うのに!」

ダンキスがはっはっと笑った。

「ほんにお堅いヤツめ。昔から変わらんのう。寄って来る女を蹴り飛ばしておったからな。」

「ええ?!」

舞とメグは声を上げた。玲樹みたいに来る者拒まずも困るけど、それもどうだろう。

シュレーは言った。

「もう黙れ、ダンキス!昔のことだ!」

シュレーはさっさと出て行った。

こちらが騒がしいので、アークとナディアが驚いて見ているところだった。ダンキスは苦笑して出て行った。

「邪魔をしてすまんの。こっちはこっちでもめておってな。ところでアーク、オレは一度ダッカへ戻って食料を調達して参る。殿下も舞も、しばらくサラマンテ様について覚えねばならぬことがあるだろうから、これからの旅の準備をするのよ。オレは、陛下の命を待って共に行くか決めるゆえ、もしも共でなければ、グーラの世話は頼んだぞ。」

アークは頷いた。

「任せてくれ。それからオレもライナンへ使いを送りたい。ダンキス、頼まれてくれるか。」

ダンキスは頷いた。

「ああ。では、こちらへ。」

アークは、ナディアにそっと頷き掛けると、ダンキスについて歩いて行った。ナディアは、それをぼうっと見送っている。メグが、すすと寄って行って、小声でナディアに言った。

「ナディア、アークと結婚を?」

ナディアは、ハッとしたような顔をして、少し赤くなって頷いた。

「まあ、何やら顔が熱いわ。どうしたことかしら。」

舞が苦笑した。

「恥ずかしいってことではないですか?」

ナディアは、首を傾げた。

「今更に?でも、我はアークに了承してもらえて嬉しい…。」

ナディアは、さらに赤くなって微笑んだ。メグがそれを見て言った。

「羨ましいわ。いいなあ、好きな人と想い合えるって。」と、舞を見た。「舞もよ。シュレーって、私のことも子ども扱いで、全然女として見てくれない人でね。確かにどこへ行っても女の人が寄って来ていたけど、玲樹が喜ぶだけで、シュレーはスルーだったわ。あの姿だから、女には興味ないんだと思ってた。」

舞まで赤くなると、ナディアが言った。

「あら、元は人であるから。姿など関係ないのですわ。」ナディアは、メグを見た。「姿が戻ることもあるのですよ。我が知っておるのは、メインストーリーを完結させたら元に戻るってこと。」

舞が、頷いた。それは、前にシュレーに聞いたことがある。

「シュレーが言っていたわ。だから、自分は元に戻ることはないんだろうって。」

ナディアは舞に言った。

「それから、世間ではあまり知られていないけれど、そうなった原因を探り当てたら元に戻ると聞いたわ。シュレーは、知っておるのかしら。」

舞は驚いた。それは、聞いていなかった。

「どうでしょう。それは言っていなかったし…何しろ、覚えていないって言っていたから。」

メグが、二人に言った。

「あの…さっき皆で話していたのだけれど。きっと、私達はメインストーリーを今、歩いているんだろうって。だから、これからの旅は命懸けだって…。」

舞は驚いた。なら、これを無事に完結させることが出来たら、きっとシュレーは元に戻るんだ…。

ナディアが、顔を上げた。

「ならば、世を大きく動かす旅であるのですね。こうしてはいられないわ。マイ、共にサラ様の所へ参りましょう。一刻も早く基本的なことをお教えいただいて、我らは皆の役に立てるようにならねば。」

舞は頷いて、ナディアと一緒に神殿へ向かった。メグは、それを見送った。すると、家から圭悟と玲樹が出て来た。

「…行ったか。時間的には、三日ほどかなと言ってたんだ…ここに留まっていられるのも。なぜなら、急がないといけない。魔物も生きるために必死になっている。命の気を奪うために人を食らうようになるのも時間の問題だろう。今は、人が発する命の気に引かれて出て来るだけかもしれないが…。ラキの動きも気になる。あいつが変な計画を立てない内に、こっちはナディアの石を集め終えなければならないからな。」

メグは驚いた顔をした。

「三日?そんなに短いの?」

圭悟が言った。

「これでも譲歩したんだ。本当なら、すぐにでも出発すべきなんだぞ。だが、確かに準備は必要だ。だから三日待つのさ。」

メグはため息を付いた。次から次へと何かが起こる。休む間もない…これが、皆が注目して歩きたいと望む、メインストーリーなのだ。

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