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女神ナディアの石

アークは、びっくりして口も聞けなかった。しかし、ナディアはああ!と手を打った。

「そうではないかと思うておりましたの。先程、皆を見渡した時に。」

サラマンテは微笑んだ。

「そうよの。一番良いのは夫にすることぞな。」と、舞を見た。「主は、己で分かっておろう。先程から、ちらちらと見ておるの。」と、シュレーを指した。「それぞ。」

それは、皆、あーやっぱりという顔をした。シュレーも薄々分かっていたが、確信はなかったのではっきり言われて下を向いた。赤くなれたなら、なっていただろう。シュレーは、今ほど自分が毛皮でおおわれていて良かったと思ったことはなかった。

アークはまだあんぐりと口を開けて、何と言っていいのか分からずにパクパクさせていた。

「それで、サラ様。」ナディアは何でもないように言った。「女神が与えられた石というのは、どういったものでしょう?それは、どこに分散されておるのでしょうか。」

サラマンテは険しい顔をした。

「全部で8の石あり、我が感じるのはバーク遺跡に一つ。恐らく、奪われずに残ったもの。あとの7つはリーマサンデ側に持ち去られ、機械とか申すものに一つずつ入れられておると聞いておる。」

圭悟が言った。

「前回運ぶように言われたあの荷が、そのうちの一つだ。あの中にあったのか。」

サラマンテは、圭悟にではなく、ナディアに頷いた。

「持ち去られたのは全部で七つあるはずなのに、我が必死に念を飛ばして感じ取ろうとしても、五つしか感じ取ることが出来なんだ。それから、どこかへ移動したのかもしれぬ。我も歳であるし、力が弱くなって来て、もう遠くの物を気取ることも出来ぬのじゃ。」

圭悟は、皆を見た。

「だとしたら、デルタミクシアからリーマサンデ側に向けて山の斜面に点々と設置されているはずだ。それを一つずつ回って、女神の石を抜いて行こう。」

皆は、頷いた。サラマンテが、舞に言った。

「さて、マイよ。ナディア様もそうであるが、二人は我とはまた違った巫女であるようだ。巫女以外の者と話しもし、攻撃技を使うことが出来る。主らは、主らの良いように力を使うが良いぞ。基本的なことは我が教えよう。これからの旅の役に立とう。」

二人は、頷いた。

そして、その場は一旦辞して話し合うことにし、サラマンテの傍を離れて与えられた家へと戻った。


「では、アークが我を娶ってくれれば良いのですね。」ナディアは、無邪気に言った。「石の回収がうまく行ったら、ライナンに寄ってお兄様に連絡を入れて、アークに嫁ぐと良いですね。アークは、我では嫌ですか?」

神殿からの帰り道、アークはナディアに手を繋がれて歩きながらそう問われていた。アークはまだ呆然としていたが、ハッとしたようにナディアを見た。

「しかし殿下、」

ナディアは即、駄目出しをした。

「ナディア。」

「…ナディア、あなたはそれがどういうことかお分かりか?オレと共に終生生きるのですよ。そのように安易に決めて…」

ナディアは首を振った。

「安易ではありませぬ。我はアークが良い。それとも、誰か決めたかたがおるの?」

ナディアは、少し悲しげに言った。アークは、かぶりを振った。

「いえ、おりませぬが…、」

「ならば、良いでしょう?」ナディアは、一生懸命だった。「ではもうしばらく、共に旅をして、決めてくれたら良いのです。我はアークに嫁ぎたいのです。」

そんな様子を、離れて歩きながら聞いていた玲樹が、言った。

「ストレートだよなあ。あれだけの美人にあれだけ押されたら、オレなら折れちまうかな。お姫様だし。」

圭悟は苦笑した。

「アークは思慮深いんだよ。もしも結婚してしまってから、殿下が、やっぱり違ったとか言い出したら困るじゃないか。結婚自体をよく知ってるのかどうか。」

玲樹はふーんと顎に手を当てた。

「確かに。箱入りっぽいしな。何をするかも知らないかもしれねぇな。こりゃアークは大変だ。」

そんな皆を見ながら、舞はいたたまれなかった。どうしよう、シュレーが変なプレッシャー感じてたら。

舞は恐る恐る横のシュレーを見て、小声で言った。

「あの、シュレー。私は、結婚してとか言わないから、安心して。無理強いしても、信頼関係なんか強くならない気がするし…。だから、無理しなくていいから。」

シュレーは、舞を見た。

「…別に、無理するつもりはない。びっくりしただけだ。そうなるなら、自然にそうなったらいいじゃないか。オレ達はオレ達のペースで行こう。」

舞は、ホッとして微笑んだ。

「うん。」

二人は微笑みあって、圭悟達の後に続いて並んで家に入った。

ナディアとアークは、まだ外で話していた。


圭悟が、家の中の、真ん中にある囲炉裏を囲んだ皆に向けて言った。

「舞と殿下が巫女の力について学ぶ時間が要るだろうから、その間にオレ達は旅の支度を整えよう。」と、ダンキスを見た。「ダンキスはどうする?一度、陛下の元へ戻るか?」

ダンキスは頷いた。

「今、陛下に連絡を付けておるところ。陛下の命次第といったところぞ。共に行けと言われるなら参るし、戻れと言われるならば戻る。オレの受けた命は、主らを守ることと、ラキを見張ることであったからの。」

シュレーは、ダンキスを見た。

「結局は、陛下の懸念されていた通りになったのだな。」

ダンキスは険しい顔で頷いた。

「ああ。ラキの動きが怪しいことは、今に始まったことではなかったからの。去年あたりからか…陛下がオレにだけそれをお知らせくださり、密かに見張るように申したのは。思えば、シアでも単独行動が多かったし、ここでも、夜になれば見回りと称して出歩いておったであろう。あれは、仲間と連絡を取っておったのだろうな。」

圭悟は、そのラキと会った夜を思い出していた。回りが信じていても、自分がおかしいと思うなら疑えと言っていた…あれは、ラキ自身のことだったのだ。ならば、どうしてあんなことを言ったのだろう。ラキは、本当に心底悪いヤツなんだろうか…。

圭悟は、まだ信じられずに居た。ダンキスは、続けた。

「とにかく、マイが巫女であることは知られてはならぬ。不必要に狙われることになろう。」

シュレーが、しっかり一つ、頷いた。

「わかっている。」

圭悟も、玲樹も頷いた。

「あいつは、まだこっちの世界すら慣れて来たばっかりなんだ。思えば、オレが玉を落としてそれを拾ったばっかりにこっちへ引きずり込まれて…これ以上、危ない目に合わせたくないというのが正直な気持ちだ。」

珍しく、玲樹が真面目な顔で言う。メグが驚いたように言った。

「なに?あなた最初はからかってばっかりだったじゃないの。それを今更。」

玲樹は、真剣な表情で顔を上げた。

「何を言ってるんだ、メグ。お前も薄々気づいてるんだろうが…これは、普通の仕事じゃねぇ。おそらく、脇役の仕事でもねぇ。」

圭悟が、表情を硬くした。メグが黙ったので、圭悟が息を付いて言った。

「…玲樹の言う通りだ。これは、おそらくメインストーリー。オレ達は宝くじより確率の低いものを、引き当ててしまったんだよ。オレ達がシオンに現われて、ディクからの依頼を受けて、シオメルへと旅を始めたから世界が動き出した。巫女の舞がこっちへ飛ばされてオレ達のパーティに入ったことすら、今では筋書き通りだったんじゃないかと思う。間違いなく、これは命懸けの旅だ。」

玲樹が頷く。シュレーも、圭悟をじっと見つめて頷いた。

「圭悟、今度は世界を正しい道へ戻す旅だ。それで、多くの人命が救われる。前回は、間違った結末へと導いてしまった…それを、オレ達が正すんだ。オレ達は、間違わないようにな。」

圭悟は、決心したように一つ、頷いた。そう、詩織はそんな間違った結末へ向かっていたパーティの為に亡くなった。詩織のこっちでの死が無駄にならないように、自分達は正しい道を歩まねば。

「女神ナディアの石が、どういったものであるのか、サラマンテ様によく聞いておこう。問題は行方不明の二つだが、それは聞き込みながら情報を集めるよりないな。それに、もしかしたら、舞が老齢のサラマンテ様に代わって、念で探せるようになるかもしれないし。」

舞は驚いた。そんなことが出来るだろうか。

「うん。サラマンテ様に聞いてみるけど…頑張って、ここに居る間にたくさんのことを覚えられるようになるよ。」

ダンキスが立ち上がった。

「ならば、一度オレはダッカへ戻っていろいろな品を用意させて来よう。山岳地帯は、今は何もない。食料も多めに準備しておかねばの。オレが行くにしろ行かぬにしろ、食料は要るだろうが。」

シュレーは、ダンキスを見上げた。

「すまない。もしもお前が行かない時でも、グーラは借りれるのか?」

ダンキスは、少し考え込む顔をした。

「そうよの…扱い切れるかどうかぞ。アークは慣れておるだろうが、果たして表の話し合いはどうなっておるのか。」

舞は、ハッとして外を伺った。そう言えば、まだナディアとアークが入って来ない。きっと、あのまま結婚云々で話し合ったままなのだ。決裂していたら、アークはライナンへ帰るだろう。ナディアをこのパーティへ合流させるまでの護衛のつもりでついて来たからだ。でも、あの二人は旅の間も夜、長く話し込んだりしてとても仲が良かった。舞が、邪魔をしてはいけないと気を遣ったぐらいだ。だが、いつもナディアが無邪気にアークアークと言うのに、アークの方は、とてもためらった顔をした。嫌がっているのではない。なんというか、近付いてはいけないというような…。

舞は、とにかくも結婚などという極端な結果でないにしろ、あの旅の間のように、皆で仲良くして行けたらと思っていた。

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