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巫女

次の日の朝、舞はシュレーの声で目が覚めた。昨日は、離れたくなくて、無理を言ってシュレーの隣に潜り込んで眠った…皆が回りに眠っているのに、なんて甘えたことを。

皆は、もう起き出していて、そこにはいなかった。少し舞が赤くなると、シュレーが苦笑した。

「…玲樹にからかわれて大変だった。だが、気にすることはない。さあ、巫女に会いに行こう。」

舞は頷いて、そこを出た。

皆は、もう外で待っていた。舞は何と言えばいいのか分からなかったので、何でもないように言った。

「あの…寝坊してしまって、ごめんなさい。」

メグが寄って来た。

「気にしないで。さ、行こう。」

圭悟が、先に立って歩いて行く。そのあとを、アークとナディアが歩いてついて行った。舞とメグがそれに続き、ダンキスとシュレーと玲樹が遅れてついて来る。

玲樹が、前でメグと話す舞を見ながら、横を歩くシュレーに小声で言った。

「それで、せっかく二人きりで空き家に行かせたのに、すぐ戻って来て添い寝だけか?」

シュレーが眉を寄せた。

「あのな。この状況下でどうしろと言うんだ。お前と一緒にするな。」

玲樹は眉を寄せた。

「まさか、やり方が分からないとかじゃねぇよな。」

ダンキスが笑った。

「シュレーはこれでも女が寄って来て大変だったのだぞ?なので、それはないな。」

シュレーが慌ててダンキスを見た。

「おい、誤解を招くようなことを言うな。オレはそんなんじゃない。」

玲樹が、考え込むように言った。

「…そうか、女に飽きて無関心だったわけだな。で、珍しいからあんな子供に…」

シュレーは首を振った。

「違う!飽きるとはなんだ。もうやめてくれ。」

シュレーは、先に立って歩いて行った。ダンキスが声を落として言った。

「あのなレイキ、シュレーには確かに女が山ほど寄って来たが、あいつは誰にも手を付けようとしなかった。あの頃のシュレーは、オレ達にも壁を作っていて…だから、今のあいつに驚いておるのよ。民間のパーティに身を落としたと聞いた時は驚いたが、良かったのかも知れぬと今は思うておるよ。」

玲樹は、驚いたような顔をした。確かに、初めて会った時のシュレーは、冷たくて笑うこともなかった。しかし、共に過ごすうちに今のようになって…。

玲樹は、シュレーを理解してきたように思った。


リューが、泣き腫らした目で迎えてくれる。ほとんどの侍女達を失ったので、昨夜は半狂乱だった…その中には、マーラも含まれていた。

「我は、巫女のお側に居て」リューは、途切れ途切れに言った。「侵入して来たことを気取られた巫女は、女神の台座の中へ我を放り込まれました。なので、見付からずに助かったのです。」

リューは、それを後悔しているようだった。他にも救えた侍女が居たのではないかと…。

「不幸なことですが、あなたは生き延びたのです。生きて、また巫女のお世話をする若い侍女達を育てなければ。それが使命ですよ。」

ナディアが、優しく言う。リューは、頭を下げた。

「はい。」と、涙を拭いた。「サラ様がお待ちです。こちらへ。」

一行は、女神の間へと招き入れられた。

サラマンテは、正面にいくつかある巫女の椅子に腰掛けて待っていた。背後には、女神ナディアの大きな石像が立っている。サラマンテは、微笑んで口を開いた。

「ほんに、何年ぶりのことか。このように二人も巫女を迎えることが出来るとは。」

ナディアと、舞が揃って前に進み出た。

「サラマンテ、一度会いたいと常思うておりました。ゆっくり語り合いたいと。しかし、此度はそのような暇はありませぬ。」

サラマンテは、ナディアに頷いた。

「ナディア様。女神の名を冠した王女のことは、聞き及んでおりました。しかし我が驚いたのは、そちらのマイ。」と、舞の方を見た。「古来からの術ではなく、攻撃魔法をも操る巫女。今まで、攻撃魔法が操れた巫女は、我の知る限りおりませぬ。」

皆が舞を見た。舞は居心地悪かった。そもそも、この世界も初心者だった私が、巫女ってどうしてなんだろう。

「サラ様、どうして異世界から来た私が巫女なのでしょう。そんな自覚もありませんのに。」

サラマンテは頷いた。

「本来なら、ここに生まれ出るはずだったのかもしれませぬ。なので、マイ、あなたはあちらの世界が、何とのう違うような気がすることはなかったかの?」

舞は、確かに進路でも何でも、現実味がない遠くの出来事のように思えて、なかなか決められなかったりした。それは、間違った世界に生まれていたからなの?

「…そういえば、心当たりがあるような…」

サラマンテは、微笑んだ。

「では、二人の巫女よ。主らの聞きたいことを申しなさい。」

二人は、顔を見合わせた。舞が口を開いた。

「サラ様。お聞き致します。命の気をリーマサンデと二分する前、命の気は、どのように流れておったのでしょうか。」

サラマンテは、聞いて欲しかった事のようで、何度も頷いて答えた。

「まずは女神ナディアがまだ皆の傍近くにおわした頃の話をしよう。命の気は、遙か昔、今のこの状態のように世界中に分散し、魔法を使えるのは僅かにデルタミクシアの傍に住む者達のみだった。その状態のままで気候変動が起こり、デルタミクシアから遠く離れた魔法の使えぬ者達は、次々に凶作や洪水によって命を落とし、魔法の使える者達も、気候変動を正そうと僅かな人数で己の命の気が枯渇するまで必死に術を使い、死んで逝った。」皆が、それを聞いて息を飲んでいる。サラマンテは続けた。「それを大層悲しんだ女神ナディアは、命の気を一方向へ向けて流し、またデルタミクシアへ戻す命の気の循環を作り上げた。また同じことがあった時、大勢が魔法を使ってそれを正せるように。」

そこで息を付いたサラマンテに、舞は言った。

「…つまり、ライアディータの方向へ命の気を流して、ライアディータ側の人々に限定されるけれど、大勢が魔法を使えるようにと考えられたのですね。」

サラマンテは頷いた。

「そう。なので、ライアディータの民は、リーマサンデの民を助けねばならない。そう、定められていたのじゃ。しかし、リーマサンデとライアディータの民は高い山脈に隔てられてあまり交流することもなく、それぞれの生きる道を、文化を作り上げて行った…リーマサンデには命の気はないが、電気と申す新しい動力を開発した。ライアディータには電気はないが、命の気は豊富だった。そうやって、それぞれの力を利用して栄えて行ったのだ。そして、先ほどの問いぞ。」皆が、身を乗り出した。サラマンテは言った。「バーク遺跡と申す場所。そこは、女神ナディアが建てさせた、デルタミクシアからの命の気が向かう場所。長い時を経て忘れられておったが、命の気はそこへ向かって流れ、そして使われなかった命の気は大地へ返ってデルタミクシアへ戻る。あの地で戦争が起こり、数人の巫女達が王都へ召されるまで、我ら巫女はあの地で細々とそれを守って生きて居た。残った我らは、あの地を去る必要があり、迷宮で守られた地であることに希望を託して、このミクシアへやって来たのじゃ。それが…破られる時が来ようとは。」

シュレーが、思わず言った。

「あの、命の気を分け合うという、あるパーティが行なったことか。」

サラマンテは、シュレーの方は見なかった。だが、舞を見て答えた。

「そう、あの愚かな人が行なったことにより、地はナディアが憂いたあの状態へと姿を戻した。命の気を糧とした生き物も、このライアディータにはたくさん居る。ゆえに遥か昔よりも混乱した状態へと、世はなっておるのじゃ。」

舞は、シュレーを振り返った。シュレーは、頷いた。

「…サラ様。どうすれば、命の気の流れを元へ戻せるのでしょうか。」

サラマンテはため息をついた。

「分散されてしまった、女神ナディアが与えたもうた命の気を引き付けて流す力のある石を、バーク遺跡の奥、女神の間にある台座へ全て返す必要がある。そして巫女と、最も信頼する者との力で中央の石に力を注ぐと、命の気はそれに引かれてバーク遺跡へと流れる。巫女の数は多いほうが良い。そして、信頼する者とは信頼関係が強い方が良い。二人の心の引き付け合う力が強いほど、それに呼応して石の力は増す。反対に弱ければ命の気の流れを戻すことは出来ぬ。ナディア様、マイ、あなたがたは、誰を最も信頼しておりますか?」

ナディアが、首をかしげた。

「お兄様…かしら?」と、舞を見る。「でも、お兄様の言いつけを守らずに出て来てしまったし、違うのかしら。」

サラマンテが苦笑した。

「夫は居らぬのですか?それが一番良い。」ナディアと舞はびっくりしたような顔をした。サラマンテは続けた。「我にも、若い頃には夫が居った。しかし、先に逝ってしもうて、夫以外に強く信頼出来る者は居らぬから、我では力になれぬのじゃ。」

ナディアは、後ろに居る皆を振り返った。後ろに居た皆は固まった。この中に誰か居るとか言われたらどうしたらいいのだろう。ナディアは一人一人を目で辿っていたが、ふと、アークに目を止めた。アークはビクッとした。

ナディアは、サラマンテに視線を戻した。

「もしかしたら、居るかも知れませぬ。」

サラマンテは微笑んだ。

「我からは見えておるが、言わぬ方がいいかの。」

今度は舞が固まった。どうしよう、シュレー以外の人って言われたら。絶対シュレーに決まってるけど。いや別に信頼関係だけで、それで結婚云々はないけど、そうなるといろいろ支障があるし…。

しかしナディアは、好奇心いっぱいの目で嬉々として言った。

「まあ、話してくださいませ、サラ様。我は、誰かしら?」

不必要に張りつめた空気の中、サラマンテは顔を上げて不安げに並んで立っている皆を見た。そして、すっと腕を上げて指差した。

「あれじゃ。今ある絆を強くすれば、命の気を引き付けることが出来る。」

指した先には、アークが居た。

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