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再会

上空から見た下は、真っ白に輝いていた。ラキが、中から言った。

「全速力で潜伏場所を目指せ。シンシア、始末したか?」

シンシアは、離れて行くその情景を見ながら言った。

「ええ。逃げる間なんてなかったはず。これで、やっと想いが叶ったのね。」

デューラスが、けっ、と唾を吐いた。

「あんな野郎のどこにそんなに惚れたんだよ。見向きもされなかったじゃねぇか。」

シンシアはキッとデューラスを振り返った。

「私の手に掛かって死んだのよ!あの人は、私の物よ。」

ラキは、軽蔑したようにそれを見ると、外を眺めた。巫女を消すことは出来たが、肝心の古来からの術を手にすることが出来なかった。しかし、王女を連れて戻る指示だったのに、もしかしたらあの中に居たかもしれない。まとめて始末してしまったと報告したら、あの雇い主はどんな顔をするのか。何やら王女にやたらと執着しておるようだったが…。シアで捕えるはずだったのに、安いパーティを雇ったのが悪かったか。

ラキは、面白く無さげに小さく舌打ちをした。

ヘリは、山岳地帯を越えて行った。


その少し前、目の前が真っ白になった舞は、もう死ぬのかとシュレーを見上げた。死ぬなら、これを全て忘れてしまう。自分は現実社会に帰る。でも、シュレーはそうじゃない…。

「シュレー、ごめんなさい。分かっていたのよ。私、シュレーが私を心配して残してくれたんだって分かっていたの。でも、素直になれなかったの。本当にごめんなさい。」

舞は、必死に早口に言った。シュレーは、驚いたように舞を見た。

「マイ…オレだって、連れて来れば良かったと、何度思ったことか。マイの居所を示す光がなくなって、もう死んだのだと思っていた…。オレが傍に置いていれば、守ってやれたのにと。」

回りは光でいっぱいだったが、しかし、いつまで経っても熱くもかゆくもない。舞は、不思議に思って恐る恐るシュレーの肩越しに空を見た。

そこには、チュマが小さな体から、何かの膜のような物を大きく張って、ミクシア全体を覆っている姿があった。舞は叫んだ。

「チュマ!」

舞の声に、シュレーも振り返った。すると、別の声が言った。

「…プーは、女神ナディアの飼っていた特別な生き物。ミクシアでは常識じゃ。」皆が驚いた。サラマンテが話していたのだ。「しかもそのプーは、生まれるべくして生まれた、使命を持ったプー。主を守るため、力を発現させたのよ。さ、やっと参ってくれたの。時が惜しい。神殿へ参ろうぞ。」

シュレーが、ためらったように言った。

「しかし…あなたは巫女としか話さないはずでは。」

サラマンテは、舞の方を見た。

「何か聞こえたの。主に申そう。マイと申す主は、まだ力の発現は弱いが巫女ぞ。毛色の違う巫女ではあるがな。」

「ええ?!」

舞を含む全員が叫んだ。あっちの世界から来たのに?!

辺りの光が、やっと収まって行った。暗くなった中、絶句している皆に、アークが言った。

「あー」と、居心地悪げに言う。「オレはどうしたらいい?」

舞は、ハッとして皆にアークを紹介すると、グーラに分乗してミクシアの神殿へと戻って行った。今の今までそこにあったバイクが、敗残兵に持ち去られたのか見当たらなかった。


話をするより先に、犠牲になった侍女達を村人総出で丁重に葬り、荒らされたあちこちは夜が明けてから皆で復興しようと決め、その日はとりあえず休むことになった。割り当てられた家で、圭悟は言った。

「…そうか、腕輪が。」と、舞の腕輪を見た。「また、どこかの街に入ったら修理に出そう。ここでは無理だ。」

舞は、顔を上げた。

「でも、誰があのアパートを?」舞は、身震いした。「ナディアに連れ出されていなかったら、どうなって居たか…。」

玲樹が首を振った。

「分からないんだ。何の手掛かりもないらしい。だが、もしかしたら、殿下を狙った奴の仕業かもしれない。舞が殿下を助けたから、それであのアパートを。」

圭悟は考え込む顔をした。

「だが、話では舞は殿下に会ってから少しの間しかアパートには戻っていない。殿下を狙ったなら、始めから知っていた者の仕業だろう。殿下、いったい誰に頼んで出たのですか?」

ナディアは、ばつが悪そうに言った。

「ラキですわ。ラキに指示してもらって、兵に手引きさせたのです。ラキは…幼馴染みで。だから我は、未だに信じられないのです。」

圭悟は、玲樹を見た。

「…始めから、殿下も狙っていたのだろう。しかし、思いも掛けずアークが供についた。なので、奪えずにいたのだろう。」

ナディアは、頷いた。

「アークはずっと、夜も番をしてくれました。なので、隙がなかったのでしょうね。まして、こちらに気取られてはいけないのですから。」

アークは、頷いた。

「特に夜間、嫌な気配を闇の中に感じたからな。ラキの手の者がつけ狙っておったのだろう。」

舞は、自分達だけだった時のことを思うと身震いした。アークが居たから、ここまで無事に…。

「しかし、あのバイクが見当たらないのが気になる。」アークが、ふと言った。「あの時はゴタゴタしていたからな。逃げようとしている敵が何人か居た。ラキに気を取られている隙に、乗って行かれたかもしれない。」

ナディアが、下を向いた。

「お兄様に、無断でお借りしたのに。」

圭悟は言った。

「だが、命の気が無くなれば操ることは出来ないだろう?つまり今は、舞か殿下が居なければそう遠くまで乗って行けるはずはない。その辺に乗り捨てられているかもしれない。時間が出来たら、手分けして探そう。今は、状況を整理して落ち着かせなければ。」

皆が、頷いて黙った。舞は、シュレーにきちんと謝りたかった。でも、ここではどうだろう…。

舞が悩んでいると、メグが気付かれないようにそっと圭悟をつついた。圭悟はメグが示す先の、舞とシュレーを見て、軽く頷いた。

「さあ、とにかく寝よう。明日はサラマンテ様と話すんだし。アークはそこ、ナディア様はそこの場所をお使いください。」

アークは、首を振った。

「王女と同じ部屋には…。」

ナディアが、驚いたようにアークを見た。

「まあ、アークは我が嫌いですか?」

アークは慌てて手を振った。

「そうではない、ただ失礼があってはと…、」

ナディアは、憮然として言った。

「ならば良いわ。我はイビキをかいても平気よ。だから、そこで休みなさい。」

ナディアは、さっさとその横に身を横たえた。アークは、ためらいながら仕方なくその横の寝台へ入った。

圭悟は、自分も寝台へ歩きながら言った。

「ああ、隣の空き家にまだ毛布があるから。シュレー、舞に取ってきてやってくれないか。」

シュレーは、頷いた。舞は、慌てて言った。

「あ、私も行くよ!」

二人は並んで出て行った。

メグと圭悟は微笑みあって、それぞれの位置へと向かった。玲樹が、意味ありげに笑ってため息をつくと、自分も寝台へ向かった。

サラマンテの守りは、また復活していた。


家を出た二人は、隣の空き家へ入って、言われた通り毛布を手に取った。舞は、おもいきって言った。

「シュレー。」シュレーは、振り返った。「本当にごめんなさい。」

シュレーは、首を振った。

「さっきも言ったじゃないか。オレが悪かったんだ。守りたいものは、側に置かなきゃダメだ。もうあんな風に置き去りにはしない。」と、微笑んで踵を返した。「さあ、疲れたろう?早く寝よう。でないと、また寝坊するぞ?」

舞は、なんだか涙が浮かんで来た。シュレー…。いつも、私を守って教えてくれる、元は人の、ヒョウの姿の…。舞は、なぜか気になって仕方がなかったので、思わず口を開いた。

「シュレー…あの、敵の中に居た女の人…のことなんだけど…。」

シュレーは、驚いたように振り返った。

「シンシアか?」

舞は、首をかしげた。

「確かにラキがそう呼んでいたわ。あの…恋人だった人…?」

シュレーは、すぐに首を振った。

「違う。傭兵だった頃に一緒に戦った期間があっただけだ。だが、考え方が合わないし、命令違反が多かったので、オレがクビにした。それだけだ。」

「……。」

舞は、嫌だった。なぜだか嫌な思いが胸を突き上げて来て、苦しかった。本当かな…。とっても女っぽい人だったし…。殺したいほどシュレーが好きみたいだった。

シュレーは、黙りこんだ舞の顔を覗き込んだ。

「マイ?あいつは少しおかしいんだ。気にすることはない。何が気になるんだ?」

舞は、シュレーを見た。何だろう。何が気になるんだろう…。

シュレーは、いつもより困ったような顔をしていた。銀色に黒の模様の入った毛皮…鋭い青い瞳。シュレーを、こんなにまじまじと見たことはなかった。でも、なんだかとてもドキドキする。

舞が困っていると、チュマがウエストポーチから顔を覗かせて、ふわふわと浮いた。そして、舞の額にピタッとくっつくと、シュレーに向けて、テレパシーのような声で言った。

《シュレーが他の女の人と仲良しなのはイヤ。私の側に居て欲しいの。》

舞は、びっくりして真っ赤になった。チュマ、何を言うの!でも、私の声だった。

舞は慌ててチュマを額から取ると、ウエストポーチに突っ込んだ。

シュレーは、呆然としている。舞は、必死に弁解した。

「あ、あの、ごめんなさい、私、あの、わがまま言って。シュレー、気にしないで。私…。」

舞は、それが自分の心の声だとわかっていた。私は、シュレーが好きなんだ。人じゃない姿なのに。そんなことより、シュレー自身が好きになってしまったんだ。

「…なのにか?」

舞は、シュレーが呟くように言ったので、聞き取れなかった。

「え?なんて言ったの?」

シュレーは、言った。

「オレは、こんな姿になってしまって、人の頃の記憶も定かでないのに。死ぬまでこのままかもしれないのにか…お前のように真っ当に生きている人が、オレなんかを?」

舞は、涙が出た。そして、意を決して言った。

「私、シュレーが好きなの。ずっとその姿のままでもいいわ。あなたが好きなの!」

舞は、シュレーに抱き付いた。シュレーは、恐る恐るその背に手を回した。

「マイ…オレもだ。失ったと思った時、分かった。だから、お前が戻って、もう二度と手離すものかと、お前を守るヤツが現れるまで、オレが守ろうと…そう思って…。」

舞は、シュレーを抱く手に力を込めた。

「シュレー…大好きよ。本当に好き…。」

「マイ…。」

舞は、シュレーの温かさに心から幸せを感じていた。

そうして、二人はしばらく抱き合っていた。

チュマが、それを黙って見上げて体を揺らしていた。

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