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予感

舞達は、ミクシアに近付いていた。

湿原も、軽く浮いているこのバイクには、まるで関係なかった。なんて便利なのだろうと、舞は今更ながらに思っていた。

湿原の中に、ひと際深そうな筋が入っていて、それはクシア湖に流れ込む川なのだと教わった。つまりは、本来ならばシオメルから船でクシア湖へ行き、そしてそのまま船でこの川を上って、ミクシアへ向かうのが、今までで一番近い一般のルートだったのだ。

軽く流すように高めを走りながら、アークは言った。

「つまりは、リツコのパーティはそのルートを行こうとして失敗したのだ。水場には、見えないがたくさんの魔物が住んでいる。クシア湖には、ネイガという大型の水竜が住んでいるのだ…リツコが言っていただろう。」

舞は、思い出して頷いた。龍と言うからにはデカいわね。

「ネイガは、あの湖に二体しか住んで居ない希少種で、本来はおとなしく、人に害をなすような魔物ではない。存在すら確認出来にくくて、一時は幻の魔物と言われていた。」アークは眉を寄せた。「それが、命の気が不安定になってから変わった。おそらく命の気を求めてであろうが、人を襲い、他の魔物を襲い、クシア湖に漕ぎ入れる船は、今は無くなったのだ。」

そんな場所へ、魔法を使いながら船で入るなんて、正気の沙汰ではない。舞は、身震いした。翔は、一体どうしてそんな判断を下したのだろう。どうしても、メインストーリーを歩きたかったのか。でも、仲間の命や、自分の命を危険に晒してまで?わからない…。

舞が黙っているので、アークはスピードを上げた。

「さあ、湿原を越えたらミクシアは見えて来るぞ。もう夕暮れだが、このまま直行する。暗くなってから着くだろうと思うが。」

舞は頷いて、俄かに緊張した。皆、自分をシアに置いて、安全だと思っているのに。こうして追って来たなんて知ったら、シュレーだってどんなに驚いて、呆れるだろう…。まして、ナディアまで連れて来てしまったなんて知ったら…。

どうやって謝ろうかと今から考えながら、舞は会える嬉しさと、不安にドキドキしながら、湿原を走り抜けるバイクの背にしがみ付いていた。


「お姉ちゃんの杖、大きいね。」

メグは、後ろ隣りの家に住む小さな女の子に話し掛けられた。5歳ぐらいだろうか。メグは微笑んで、その杖に触らせてやった。

「ディアムっていう金属で出来ているのよ。ディアムは知ってる?」

意外にも、女の子は頷いた。

「知ってるよ。お父さんが、お山で時々掘って来るもん。たまに、旅人が欲しがるからって言ってたよ。あ、うちのお鍋はディアムなんだよ。」

メグは驚いた。確かに、ディアムは山岳地帯で採れる鉱石から作り出す。そんな簡単に掘って来るんだ。しかも、鍋がディアムって。何年持つんだろう。きっと代々受け継がれる鍋なんだ。最高級の金属なのに。

「きっと、強いお鍋だろうね。」

女の子は、笑って頷いた。

「うん。傷も付かないの。だから、フライパンも皆ディアム。便利だよね。」

メグは思わず、外でしゃがんで料理をする、母親らしき人を見た。間違いなく、金色のような銀色のような色の金属の鍋を使って調理していた。

「すごい…知らないってこんな感じなんだ。」

メグが呆然としていると、女の子が手を引っ張った。

「ねーねー裏で遊ぼうよ!うちのプー達が、子供を生んだの。とってもかわいいんだ!」

メグは、その女の子に言われるまま、裏手へ回って行った。そう、どうせ夜まで何もすることが無いのだ。子守りをしても、いいだろう。

女の子に連れて行かれた先には、丸い家の、小さな物のようなのが、一つあった。その回りに、申し訳程度に木の柵がついていて、その柵の中には、プーが三匹居てこちらを見ていた。どう見ても、標準サイズではない。とても小さい…まるで、チュマのような。一匹は、更に小さかった。まるで、テニスボールぐらいだった。

「ねっ?!赤ちゃんなの。」女の子は、その小さなプーを大事そうに手に乗せた。「かわいいでしょう?」

メグは頷いた。本当に可愛い。小さくて、持ち運びに便利…と、残りの二匹を見ると、こちらを見上げているが、大きさはチュマぐらい、サッカーボール大だった。舞が知っているプーは、皆ラグーぐらいに大きかった。要は、羊ぐらいだということだ。

「…飼ってるの?」

女の子は、頷いた。

「そうだよ。プーはね、とっても賢くて、神様のお使いなんだよ。」

「でも、大きなプーは?」メグは、慎重に言葉を選びながら言った。「大きなプー、知ってる?」

女の子は、困ったように首を傾げた。

「大きなプーって何?プーはみんなこれぐらいだよ。どこのおうちでも飼ってるの。自分でおうちのお掃除もするし、本当に賢いんだ~。」

メグは、驚いてプー達を見た。二匹のプーは、不思議そうにこちらを見上げて体を左右に揺らしている。こっちがプーなの?え、え、でも、チュマは奇形だよね?肉屋の叔父さんが言ってたのに…。

メグは、黙ってプー達の頭を撫でた。そう言えば、舞と残ったチュマはどうしたのだろう。舞が死んでしまったなら、チュマはきっと辛かったろう。そのうえ、また誰かに連れ去られて、食べられてしまったら…。

メグは、急に心配になった。ああ、早く戻らないと。皆がバルクへ行くなら、私はその間シアへ寄ってチュマを探そう。

メグは人知れず決心していた。


夜になり、圭悟は落ち着かずまた、家の前に出ていた。あれから戻っていなかったシュレーも、夕方には憔悴しきって戻って来て、何も話さずだんまりだった。やはり、何を言ってもダメだったのだろう。圭悟がため息をついていると、ダンキスが神殿の方向から歩いて来た。

「なんだ、ケイゴ。眠らないのか?」

圭悟は逆に尋ねた。

「ダンキスは、見回りか?」

ダンキスは首を振った。

「グーラの世話をせにゃならんからな。あれらは機械ではないから、腹も減る。餌をやって、しこたまじゃれて来たわ。あやつらのじゃれかたは、オレぐらいでないと太刀打ち出来ぬのよ。」

圭悟は身震いした。確かにあの大きさがじゃれて来るとなると大変だ。

「明日は、またダッカへ行くのですね。」

ダンキスは頷いた。

「そこから陛下に使いを出すつもりだ。全員が戻る必要はない…お前達は、ダッカで待つがいい。我らが殿下を迎えに参る。それで…、」

ダンキスは、急に黙った。上を見上げる…圭悟も、ハッとした。そう言えば、空気が変わった。

「…ラキ。」ダンキスは言った。「ラキは?!」

圭悟は首を振った。

「家には居ない。昨夜もだが、今夜も見回りじゃないか?」

ダンキスはあの巨体で驚くほど素早く動いて戸の布を跳ね上げた。

「シュレー!」

シュレーが、もう出て来ようとして戸の前に立っていた。

「ダンキス!守りが消えた!」

圭悟は仰天して上を見上げた。そうか、だから空気が変わったのか!

「レイキ!メグ!起きろ!」シュレーは叫んで、剣を抜いた。「…来る!」

ダンキスも、驚くほど大きな肉切り包丁のような形の剣を抜いた。大勢の足音が聞こえる…圭悟も急いで剣を抜いた。

「やれ!」

どこからか声が飛ぶ。20人ほどの見慣れない甲冑を来た男達が、一斉にこちらへ駆け寄って剣を振り上げて来た。

「なんだ?!」

玲樹も、家から出て来て面くらいながら剣を振っている。シュレーが叫んだ。

「神殿だ!巫女を守れ!」

皆は、敵の間を掻い潜るように神殿へ向かった。

「行かせるな!」

また誰かの声が飛ぶ。しかし、本気のシュレーとダンキスが、一太刀で敵を倒しながら難なく神殿の方へ向かう。圭悟達は、必死に取りこぼされたもの達を切りながら、ついて走った。手が震えて来る…これほどの数の人を相手にしたことはなかった。いつも、魔物相手で…。

しかし、ためらっている暇はなかった。メグは、ダメだとわかっていながら魔法で守りを作ってついて来る。魔法がダメなどと、言っていられる場合ではなかった。

先頭のシュレーが、神殿の入り口に到着すると、そこは既に侵入された形跡があった。回りには数人の侍女達が息絶えて倒れている。シュレーは、躊躇なくそこへ飛び込んだ。ダンキスも後に続き、圭悟も玲樹もメグも、それに続いた。

中は、点々と侍女達が倒れていた。メグが涙ぐみながら後について来る。シュレーとダンキスは、それでも先へと進んだ。女神の間…一番奥にあるはずだ。

「この先へは行かさんぞ!」

目の前に、知らない顔の男と、それに背の高い、露出の多いコスチュームに身を包んだ大層に美しい白い金髪の女、それに、シュレーのような、こちらは黒いヒョウの形の男が立っていた。

シュレーが、息を飲んだ。

「…お前らは…!」

「久しぶりね、シュレー。」女が言った。「相変わらず堅苦しい仕事をしているの?」

シュレーは、女を睨み付けた。

「…シンシア。お前こそ、相変わらずいい加減に生きているのか?」

見知らぬ男が、フンと鼻を鳴らした。

「おーおー氷の傭兵は、昔の女にも容赦ないのかね?」

シュレーはフンと軽蔑したように同じように鼻を鳴らした。

「何の話だ?こんな女に引っかかった覚えはないがな。お前こそ、こんな女に振り回されてるんじゃないのか、デューラス。」

デューラスと呼ばれた男は、舌打ちした。シンシアが声を立てて笑った。

「誰がこんな男!私の男は、そっちに居るラシークよ。」と、シュレーに歩み寄って身を摺り寄せた。「でも、あなたのように銀色の毛皮に黒い模様じゃないの。私はいつでもあなたに乗り換えるわよ、シュレー。」

シュレーは、冷ややかにシンシアを見降ろした。

「いい加減にしろ。どけ。先へ行かねばならん。」

シンシアは、チッと小さく舌打ちすると、シュレーから離れてデューラスの横へ退いた。

「行かせる訳には行かないわ。今の雇い主から、ここに足止めしろと言われているから。」

シュレーは剣を構えた。

「ああそうか。なら早いとこ済まそう。急いでるんでな。」

シンシアは怒りで真っ赤な顔をした。

「どこまでそんな顔をしていられるかしらね!」

不安定ながらも、魔法が飛んで来る。シュレーも魔法で防御し、久しぶりに直接攻撃だけではない、いつもの戦闘が始まった。

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