表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/193

ミクシア

とても景色を堪能する余裕なく、圭悟と玲樹、メグはミクシアの門の前に降り立っていた。途中湿原に降りてグーラ達に湿原の中を流れる川で水分と命の気の玉を与えて、再び飛び立ってここまで来ていた。

あの辺りは、大きな魔物も小さな魔物も多く存在していたが、グーラが三体も居るので、遠巻きにしていてこちらへ来ることはなかった。その点でも、グーラを飼い慣らすことにメリットがあるなと圭悟は思った。

ミクシアは、回りを大きな何かの力で円形のもので覆われたような状態なのが常の村であったが、今は何もなかった。恐らく、命の気で作っていたものであるので、維持できなかったのであろう。

その、石造りの門をくぐると、それでも中の空気が清浄なのがわかった。明らかに、他とは空気が違う。

一歩入っただけでその状態であるのに、圭悟達は驚いた。

「グーラは、門の外しか無理であるな。」ダンキスが、門の中へ一歩入ってその空気を読んで言った。「ここには、魔物除けの術が掛けられてある。外で待たせよう。」

ラキとシュレーが頷く。圭悟は言った。

「術は、命の気を使わないのか?」

それには、ラキが答えた。

「使うものと使わないものがある。昔は、命の気を今ほど無尽蔵に消費していなかったからな。使わない古い術を知る者も、今は少ない…命の気を使ったほうが、簡単に早く術が起動するので。」

ダンキスが言った。

「遙か昔、命の気は貴重なものだったのだ。デルタミクシアからあっちこっちへ分散されて…そう、今の異常だと言われる状態がそうよ。魔物も、少なかったと聞く。それが、ある日を境に常に流れるようになったのだと言われている。なので、その昔の術を知る者なら、それを使って生きることも可能であろう。しかし、それも失われた術と言われておって…我らとて、知っておることは少ない。」

そう言うダンキスの後ろを見ると、グーラ達は思い思いにその辺をぶらぶらしている。圭悟は仰天した。

「え、繋がないのか?」

ダンキスは笑った。

「あやつらには、簡単なことなら言葉で知らせられるのだぞ?知能があるからの。ここで待っておれと言えば、待っている。危険だと思ったら、逃げるなり戦うなりするのだぞと伝えて来た。」

玲樹が驚いて言った。

「へぇ~…。なんか、グーラを倒すのにためらいそうなこと聞いちまったな。」

圭悟は頷いた。ダンキスは首を振った。

「だからこそ、こちらに向かってくるヤツは倒さねばならぬ。あやつらは知恵があって、賢い。油断すればこちらがやられてしまうからの。」

そう言って歩く先には、丸い形に岩をくり貫いたような、建物があった。先にさっさと歩いていたラキとシュレーが振り返る。

「先に行くぞ。無駄話をしている場合ではない。」

ダンキスは、険しい顔をしたが、頷いた。圭悟達三人は、慌ててラキ達に追い付く。戸の前で、ラキが言った。

「王都から参った。巫女の話が聞きたい。」

しばらくして、戸はためらいがちに開いた。中からは、長い黒髪の若い女が二人、こちらを覗いて見ていた。

「巫女は、我らとも話しませぬ。同じ巫女でなくば話さぬしきたりであるので。」

ラキは言った。

「王からの命でも?」

女は頷いた。

「誰の命であってもです。遥か昔、王にめとられた巫女は、王とのみ話したと。生まれた王女は、それでも力を持たずに生まれ、それから、残った巫女達は、特にしきたりは守って生きて来たのでありまする。世に力を持たぬもの達ばかりになってはならぬと。」

シュレーは言った。

「しかし、ナディア殿下は力をお持ちであるのに。」

女達は顔を見合わせた。

「…ならば殿下をこちらへ。巫女は、ナディア殿下と話すでしょう。」

シュレーとラキは顔を見合わせた。

「…こちらへ、連れて参っておらぬ。ならば、あなた方の話を聞かせてもらえまいか。」

女達は、迷う素振りをしたが、ここまで来た皆を追い返せなかったのか、頷いて戸を大きく開いた。

「どうぞ。我らの知ることは少ないのですが。」

シュレーは、頭を下げた。

「感謝します。」

そして、一行は中へと入って行った。

中は、思ったより広かった。

入った場所はただのエントランスのようなもので、そこから地下へと広く、綺麗に切り取られた石を組み合わせて壁を作り、建物が続いていた。なのに、中は天井からの明かりが上手く取られてあって、それなりに明るかった。女達について階段を降りて行くと、そこには、広い部屋があり、色々な場所へ向かう通路が、そこから伸びていた。

女達はその部屋にあるソファを示すと、自分達も向かい側へ座った。そして、じっとこちらを見て話し始めるのを待った。皆が横一列に並んで座ると、ラキが言った。

「私は王立軍第一師団長のラキ。同じく第二師団長ダンキス、元傭兵隊長シュレー、その仲間のケイゴ、レイキ、メグです。」

女達は端から順にじっと一人一人の顔を見た。そして、答えた。

「我は巫女の世話をしておりまする侍女の長、リュー。こちらが同じく侍女のマーラ。こちらには、我らを含めて10人の侍女が居りまする。」

ラキは軽く頭を下げた。

「初めてお目に掛かる。突然にこちらへ参ったのは、最近の命の気の流れのことでお話ししたいと思ってのことです。こちらも、命の気を使えないのは変わらないご様子。」

リューは頷いた。

「はい。命の気を求めて、魔物が大挙してやって来ることを気取られた巫女が、いち早くこちらの守りを古来の術に換えられた。なので、こちらは穏やかに過ごしておりまする。こちらの神殿より向こう側にある村の住人達も、なので穏やかに生活しております。ただ、魔法を使うことは禁じておりまするが。」

ラキは、身を乗り出した。

「やはり、古来の術を。」シュレーが、少し驚いたような顔をした。ラキが積極的に前へ出るなど、圭悟達もあまり見ていなかった。ラキは、そんなことには気づかぬように言った。「巫女は、古来の術をたくさんご存知なのか。」

リューはためらったような顔をした。

「…確か、ほとんどの術を口述で伝えられて来たのだと聞いておりまする。今はお一人しか残っておられぬ巫女でありまするが、数人の巫女達から、新たな巫女達へと、口伝えで伝わって参ったもの。我らとて、その全てを知ることはありませぬ。」

ラキは食い下がった。

「しかし、知っておるものもあるということか。」

リューは、マーラと顔を見合わせたが、頷いた。

「それは…巫女が術を使われる時にお傍に居ることがありましたので、少し。ほんの一部でありまする。」

「それを教えてもらえまいか。」ラキは言った。「それがあれば、我らももっと世を安定させることが出来ようもの。」

シュレーが、それを遮った。

「ラキ、それはここへ来た目的ではないだろう。」シュレーの言葉に、ラキはハッとしたようにシュレーを見た。シュレーは続けた。「リュー殿。我らが知りたいのは、今の気の流れを元へ戻す方法なのだ。それを知らぬでも、今までの気の流れがどうであったのか、それは何によってなされていたのか、それが巫女にはお分かりのはず。しかし、巫女とお話し出来ないなら、あなた方はご存知であろうか。」

リューは、首を振った。

「詳しい事は、やはり巫女にしか分かりませぬ。」リューは、マーラを見た。「きっと、巫女も何とかしたいとお考えであるはず。ここ最近は、ずっと奥の女神の間にこもられて、深く考えに沈まれておることが多いのです。こんなことが起こったのも、人の手によってデルタミクシアの向こう側に何か操作される物を作ったせいであろうと、我ら侍女達は話しておりました。巫女は、命の気が分散された時、大変に険しいお顔であられた…恐らく、あれはあまり良いことではなかったのでしょう。」

圭悟は、シュレーを見た。シュレーは、ちらと圭悟の方を見たが、またリューの方へ向き直った。

「リュー殿、どうか巫女に一度お伺いして頂けないだろうか。我ら、どうしてもこの状態を正したいと考えておるのです。このままでは、命を落とす者も多くなりましょう。巫女も、それは避けたいとお考えのはず。」

リューは、じっと黙ってシュレーを見つめた。そのまま数分間黙っていたが、頷いて立ち上がった。

「お話はしてみます。しかし、直接お話しになることはないと思いまする。しかし巫女なら、何らかの方法を用いて、何かを伝えてくださるかもしれませぬ。」と、天窓から漏れる日を見た。「…少なくとも、お返事は明日になりましょう。それまで、村のほうで休む場所を準備させまする。そこでお待ちください。」

リューは、マーラに頷き掛けて出て行った。マーラが、立ち上がって言った。

「では、こちらへ。村のほうへご案内致しまする。」

皆は顔を見合わせたが、これ以上は無理だろう。仕方なく、マーラに従って、階段を上って神殿を出、その背後にある村のほうへと向かって行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ