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舞とナディア、アークの三人は、バイクでシオメルへ到着していた。

しかし、軍が駐屯していることもあり、リーディスの許しなく出て来たナディアを連れているとあっては見つかる訳には行かない。

アークは、細心の注意を払って河のこちら側からシオメルを横目に見て抜け、真っ直ぐにミクシアへ向けてノンストップで走り去った。

軍の兵隊たちが遠く気配も気取れなくなった頃、アークは明らかに美しく手入れされている森の中でバイクを止めた。

「ここまで来れば大丈夫でしょう。少し休みましょう。この辺りは、ダッカの近く。恐らく安全です。」

舞とナディアは、揃ってバイクから降りた。このバイクは、全然音も立てずに滑るように走る。全てが命の気で行われているのだと思うと、舞は不思議だった。

「ダッカ…ダンキスの里ですね。」ナディアは言った。「ここから、ミクシアまでどれぐらい掛かりそうですか?」

アークは答えた。

「恐らく、このバイクならば一日半ぐらいでしょう。」

舞は、それを聞いて腕輪を開くと、皆の位置を探った。皆の位置を示す光の玉は、どういう訳か物凄いスピードで進んでいる。アークが横からそれを覗き込んで、目を丸くした。

「…なんだ?何を使って移動しているんだ。この速さは異常だぞ。」

舞は、ハッと思い当たった。確か、ダンキスが自分の部族の飼い慣らしたグーラを使ってミクシアへ行くとか言っていた…。

「きっと、グーラだわ。」舞が言うのに、アークは驚いた顔をした。「ダッカでは、グーラを飼い慣らしているんでしょう。ダンキスが、それを使うと言っていたのを思い出したわ。」

ナディアも同じらしく、頷いた。

「確かに。ダンキスの部族は魔物使いが居るのですわ。グーラも、きっと飼い慣らされているのです。では、飛んでいるのね。それでは追い付けない…。」

アークはナディアを見た。

「目的地は同じです。確かに一刻も早く着かねばならないのは確かですが、少し待たせるだけだ。ご心配には及びません。」

ナディアは、ホッとしたように頷いた。

「ええ、そうね。」

バイクを端へ置いて、飲み物をと準備していると、何かのうめき声のようなものが聞こえた。舞はびっくりして慌てて杖を大きくして握り締め、アークと共に声の方向を見た。魔物か…?

アークが、そちらを伺ってゆっくりと進んで行く。舞は、そのままナディアを背後に杖を構えてアークの様子を見ていた。アークは、大きくせり出した岩肌の向こうを、そっと覗き込んだ。そして、こちらを見て舞を手招きした。

「人だ!」

舞は、慌てて駆け寄って行った。アークが覗き込む先を見ると、そこには、倒れた男と、それを気遣わしげに見守る女らしき人が潜むように居た。舞は、叫んだ。

「ああ、りっちゃん!」

女のほうが、こちらを向いた。

「舞!」

見る見る、律子の目から涙が溢れて来る。舞は急いで駆け寄った。

「あありっちゃん、無事だったのね!ということは、これは…」

舞は、そこで倒れて息を荒くしている男を見た。律子は泣きながら頷いた。

「翔さんなの。他の人達は次々に魔物にやられてしまったわ。私は守りだけは強いから、倒れた翔さんを連れて必死にここまで逃れて来たの…でも、もうこれ以上進めなくて。翔さんが動けなくなってしまったから…。」

アークが、歩み寄って来て、言った。

「マイの知り合いか?」

舞は頷いた。

「あちらの世界での友達で、こちらで会ったんです。どうしよう、バイクじゃ皆を運べないわ…。」

アークは、じっと考えていたが、言った。

「ダッカへ行こう。そこで預かってもらうのだ。後の事は、また考えればいい。今は、とにかくダッカで休ませるべきだろう。ここから歩いてもそう掛からない。」

舞は、頷いた。そしてバイクを押して来たナディアに相談し、バイクに翔を乗せると、律子を伴って三人はダッカへと向かったのだった。


「とても急なことだったの。」ダッカで、与えられた小さな家に座り、律子は言った。「シオメルまでは、難なく船で行けた。そこからはクシア湖へそのまま川を上って行こうと決めたのだけど、今はどの船も行ってくれなくて…仕方なく、船だけ確保して、皆で途切れ途切れの命の気を使って風を起こして、クシア湖へ出た。そこから、ミクシア側の川へ出てミー湿原へ抜けるつもりだったの。」

舞は、シュレーに見せられた地図を思い出していた。確かに、普通の時ならそれが一番早い方法かもしれない。

アークが、首を振った。

「今のクシア湖を船で、しかも魔法で風を起こしながらなど無謀過ぎる。」

ここを案内してくれた、ここの族長だというラーズは同じように首を振った。

「少しの魔法でも気取って魔物がやって来るものを。クシア湖までもっただけもすごいことだな。」

律子は、下を向いた。

「状況の認識が甘いのだと思いました。翔さんが先々決めて行くので、皆それに従っていたのですが。クシア湖からネイガが出て来た時には、もう駄目かと…必死に引き返しましたが、ネイガの尾に倒された船から落ちた男性二人はそこでネイガの餌食になり、何とか船を立て直してよじ登った私と翔さん、それに女性の仲間一人はクシア湖から離れることが出来ました。」律子は、また涙を流した。「でも、その後も森や山のほうからたくさんの魔物が出て来て…船では水中からの魔物にはとても勝てません。なので船を降りて走りました。少し油断して遅れた隙に、もう一人の女性も犠牲になりました。私の守りの魔法でもっと魔物が寄って来るかと思ったけれど、翔さんが倒された時、咄嗟に力いっぱいのシールドを張って…それは、魔物に破られることなく、その場から逃げ切ることが出来たのです。でも、あそこまで逃れた所で翔さんが歩けなくなって…どうしたらいいのか、途方に暮れていたのです。」

ラーズは、険しい顔をした。

「とにかく、無事でよかった。回復するまで、ここに居るといい。後のことは、その後決めればいい。」

律子は、深々と頭を下げた。

「ありがとうございます。」

アークは、ラーズを見た。

「ラーズ、急に押し掛けてすまなかった。少し休ませてもらって、オレ達も出発する。」

ラーズは頷いた。

「ああ。久しぶりに会えて嬉しいよ、アーク。本当にグーラを使わなくていいのか?」

アークは笑った。

「グーラは揺れるだろう。オレ一人に二人を支えて飛ぶのは無理だろうな。自力で掴まっていてくれるなら大丈夫だが。」

ラーズは苦笑した。

「確かに。兄上でも、一人を乗せて飛んで行かれたからな。三人乗ると、さすがにグーラも重みで飛ぶのに必死になるから、上下の振り幅が大きくなるんだ。グーラに悪気はないんだが。」

アークは肩を竦めた。

「あいつらの気持ちはオレにはわからない。陛下から借り受けた機械があるから、大丈夫だ。」

ラーズは感心したように言った。

「あれはすごいな。オレもあれは初めて見た。あんなものが存在することすら知らなかった。」

アークは苦笑した。

「オレだってそうだ。」

すると、ナディアが微笑んだ。

「特殊な装置を使って、本来なら電動であるものを命の気で動くようにしたものなのです。お兄様は遊興に使うと申しておりましたが、まさかの時の為に作っておいたのだと我は思うておりまする。あれは、とても稀少な命の気の流れを司る物体を中に仕込んであって、それを通して我が力を動力部に送っておるのですわ。普通の人ならば、こうも昼夜分かたず走り続けさせるのは無理なのです。」

アークは頷いた。

「確かに、我らの体内の命の気を注いでおったら、一日ももたぬでしょう。回復までしばらく待たねば。殿下は、それを無尽蔵に地から吸収なさるから…。」

ナディアは頷いた。

「そう。我なら、あれは恰好の乗り物になるのですわ。何しろ、燃料には事欠きませぬ。」

舞は、それを聞いて感心していた。あの咄嗟の間に、ナディアはそんなことまで考えてあれを使おうと思ったのか。思い付きのようにしか見えなかったのに。

ナディアは、恥ずかしげに続けた。

「咄嗟にあれが浮かんで、たまたま結果が良かっただけでありまするから。先程も言ったように、あれはリーマサンデから入って来たもので、本来なら電動なのですわ。電気が尽きれば、動かなくなるところでした。」

アークは笑った。

「なんと。さすがは殿下と感心しておったところでしたのに。」

舞は、同じ気持ちだったので、笑った。ナディアは、王女であるのに気取った所がなく、正直だ。舞は言った。

「では、りっちゃんをラーズ様に頼んで、出発しますか?」

アークもナディアも頷いた。

「ああ。参ろう。グーラならもう、あちらへ到着しておるだろう。我らも急がねばならぬ。」

三人は、ラーズから水や食料を貰い、またバイクに跨って、ダッカを後にした。

家を去り際に見た、律子の寂しそうな後ろ姿が気になったが、ここでは別のパーティなのだ。舞は、とにかく自分の使命を果たそうと、バイクに掴まる手に力を入れたのだった。

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