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ディンダシェリア ~The World Of DYNDASHLEAR~  作者:
日常から非日常へ
32/193

クシア湖近く、ダッカへ

シオメルに到着した圭悟、玲樹、シュレー、メグは、軍が駐屯して様変わりしてしまっているシオメルを目の当たりにした。

軍が牧場のあちこちに幕屋を張り、そこを拠点にして山を見張っている。ラキとダンキスが、挨拶に出て来た部隊長と対面した。

「第一師団長!第二師団長!お越しと伺っておりませんでしたので、驚きました!」

相手は、かちこちに固まっている。ラキは答えた。

「いや、我らが来ていることは内密にせよ。陛下からそのように申し付かっておる。すぐにここを発つ。」

部隊長は、さっと敬礼した。

「は!ご指示通りに!」

ラキは、踵を返した。

「さあ、行くぞ。時が惜しい。」

ダンキスがそれに続く。シュレーも、黙ったままそれに従った。圭悟は、玲樹を見た。

「…休まなくて大丈夫か。」

玲樹は、頷いた。

「オレは平気だ。だが、メグが。」

メグは、首を振った。

「私も大丈夫。それより、シュレーが…。」

シュレーは、ずっと黙ったままだった。舞が消息を絶ち、おそらく殺されて現実社会へ詩織のように何もかも忘れて戻ったのだと思われるが、それが、自分のせいのように思っているようだった。圭悟もメグも玲樹も、舞が覚えて居なくても、現実社会で元気にしているのを確認することが出来る。だが、シュレーにとっては違った。この世界から出られないシュレーにとって、死はそのまま二度と会えないものだった。

「ずっと、舞がこっちへ来てから世話をして来たからな。妹みたいなもんだったろう。」圭悟が言った。「しばらく、そっとしておこう。オレも、気持ちはわかる。」

三人は頷き合うと、先に歩いて行く三人の軍人について、ミクシアへ向けてクシア湖の方向へと歩き始めた。


その夜、舞とナディア、それにアークは夜営していた。洞窟の前に火を起こしたアークは、手早く舞の持っていた食材を調理してくれた。それを平らげて星空を見上げてチュマの頭を撫でていると、アークが言った。

「食う訳でもなく、そんなに小さなプーを持ち歩いて。分からぬの。」

「我はなんとのうわかりまする。」ナディアが微笑んでチュマの頭を撫でた。「共に居ると、何やら穏やかな気持ちになりまする。この子の気持ちが流れ込んで来るような…とても優しい、それに賢い気であるわ。愛らしいこと。」

アークは、困ったように笑った。

「殿下がそうおっしゃるなら、そうなのかもしれぬ。何も食うだけではないのだな。」

舞は、ふと撫でる手を見て、腕輪に目を止めた。いつも光る部分が、破損している。思い返すと、アークに出会った時慌てて杖を当ててしまった…あの時に?

「どうしよう…壊れてるわ。」

アークが、近付いて見た。

「完全に壊れておるわけではないようだ。」と、腕輪を開いた。「…ほら、主の仲間の位置が分かる。そうか、河から船でクシア湖に向かってそこを抜けるのではなく、真っ直ぐ最短距離を歩いているな。湖には厄介な魔物も居る…賢い選択だな。」

舞は、その光の玉を見つめた。シュレー…会ったらきっと、謝ろう。でもそれより、勝手について来て、怒るだろうなあ…。

舞は、星空を見上げた。きっと同じ星空を皆も見ている…早く皆に会いたいなあ。

そんな舞の横で、アークは険しい顔をして、暗闇をじっと見つめていた。


圭悟やシュレー、玲樹、メグは、ラキとダンキスと共に野営していた。

夜に歩くのは、魔物の動きを気取りにくくなり、面倒だからだ。ここまで、数十匹の魔物を倒して来たが、全て先を行くラキとダンキスとシュレーが一瞬のうちに倒してしまい、圭悟達に出番はなかった。確かに、これならば魔法は必要ない。三人は、そう思っていた。

「やはり、ここらも魔物が増えておるの。」ダンキスが言った。「本当なら山に居るはずの魔物が、ここに居ったので驚いたわ。幼い頃からこの辺りを走り回っておったが、山の魔物が降りて来るなどそうなかった。魔物たちも、命の気に餓えておるのだな。」

圭悟が頷いた。

「前にメク山脈に行った時に見たような魔物が多かった。あれらが、山を下りるなんて…。」

ダンキスは、頷いて空を見上げた。そして、星を見て言った。

「…明日の昼までにはオレの部族の集落へ着く。果たしてどうなっておるのか、気になるの。」

ダンキスの部族は、ダッカという山岳民族が高原に降りて来て住んでいるもので、皆体つきががっつりとしていて大きく、力技や格闘に長けていた。その例に漏れず、ダンキスもかなり大きい。身長は二メートル以上は絶対にあった。その上、作りがいちいち大きいので、手も圭悟が並べるとまるで自分が子供のように思えた。

こんな男ばかりの部族…。圭悟は、少し緊張した。本来穏やかで自衛の時しか戦うことがないと聞いているが、敵とみなされたら魔法が使えない今これほど怖い部族はないだろう。

そのダンキスが、息を付いて横になったので、圭悟も横になって寝袋に入りながら、ラキをそっと見た。

ラキは、端正な顔であまり感情を表に出さない。しかし、剣の腕は間違いなかった。シュレーですら出自を詳しく知らないというラキは、自分のことを多く語らなかった。圭悟も、近寄り難いその雰囲気に話し掛けることが出来ずに居た。シュレーには気を許しているような感じを受けるが、それでも言葉は少なかった。それに、今のシュレーは完全に言葉を失ってしまっていて、話し掛けても気のない返事しかしなかった。なので、自然とこのメンバーでは静かになってしまっていた。

振り返ると、玲樹がもう寝袋の中で寝息を立てていた。メグも、すっぽりと入ってしまって見えないが、寝袋が規則的に動いているので眠っているのがわかる。

まだ寝る様子のないラキとシュレーを横目に、圭悟は自分も目を閉じたのだった。


次の日、朝焼けと共に起こされた圭悟は、他の二人も起こした。ラキが、寝袋を畳んでいる三人に言う。

「すぐに発つ。ここは昼間はグーラの狩場になっているようだ…早くしないと、あいつらの朝飯の時間になるからな。」

そう言う軍人三人は、もう片付け終えて並んで立っていた。急いで丸めた寝袋を畳んで縮めると、自分のカバンに突っ込んで、メグを手伝って同じようにし、準備を整えた。どうも、今までの旅と違って気忙しい…。圭悟は思った。これが、軍隊の動きなのだろう。

今までの、お金は無くても楽しく気遣い合いながらの旅が、圭悟には懐かしかった。これじゃあ、まるで機械のようだ…。

そんな思いを持っているのは、圭悟だけではなかったが、今はそれどころではない。ダンキスの故郷、ダッカを目指して、朝焼けの中歩いて行った。

一方、舞達は、おっとりとした朝を迎えていた。先にアークが起き出して、朝食を準備してくれている。舞は、アークに話し掛けた。

「アークって、族長なのでしょう?どうしてそんなに手際がいいの?」

アークは、舞を振り返って笑った。

「そりゃあ、よく山へ仲間と狩りに行くからな。一人の時もある。オレは基本、族長だからってふんぞり返っているのは嫌なのだ。いつも皆の食事を作ってやったりする。なので、慣れておるのよ。お前は全然出来そうにないし、殿下にこんなことはさせられない。だから作っているのだ。」

舞は、ずばり言われて身を縮めた。確かにこんな野外の料理なんかあまりしたことはない。

「まあ…そうなんだけど。」

アークは笑った。

「正直で良いな。しかしまだ子供のようなのに、もうパーティでこんな大きな仕事をしているのか?オレならまだ早いとどこかで待つように言うところだ。」

舞は、ばつが悪そうに下を向いた。アークは、眉を寄せた。

「…もしや、勝手に追っておるのか?」

舞が答えに困っていると、後ろからナディアが言った。

「我が、命じましたの。」舞は驚いて振り返った。ナディアは起き出して来て言った。「アーク、あなたには話しましょう。我もお兄様に留められておりました。なのに、懇意な兵に頼み込んで黙って出て参ったの。マイ達のパーティを追って。」

アークは、明らかに驚いた顔をして立ち上がった。

「陛下は、お許しになっておらぬのですな?」

ナディアは頷いた。

「そうです。シアでマイに会い、供を命じてあの乗り物でパーティを追って来ました。そして、あなたに会ったのです。」

アークは険しい顔をした。

「…殿下。ならばオレはあなたをバルクへお連れせねばならぬ。陛下の命ではないのだから。」

ナディアは、アークに歩み寄った。

「でも、我はミクシアへ行かねばなりませぬ。我しか巫女と話せぬものを、回りの者が何を知っておると言うの?事態はそうこうしておる間に悪い方へ参るのに。手遅れにならぬ間に、巫女と話して対策を考えねばならないのです。もう、失敗は許されないほど世界は混乱し始めておるのに。我が、行かねばならないのです。」

アークは、じっと黙ってナディアを見つめた。舞は、ハラハラしながらそれを見ていた。しばらく黙ってから、アークはまた火の側に座った。

「…困ったことよ。陛下に逆らうなど、考えたこともなかったものを。」と、皿に焼けたソーセージをのせた。「さあ、食事を。今日じゅうにはシオメルへ着きたいと思うております。何としてもパーティに追い付かねば。」

ナディアは、ホッとしたようにその皿を受け取った。

「アーク…感謝します。」

アークは、憮然として横を向いた。

「オレもそのように思うただけです。此度は陛下より、あなたが正しい。が、オレでも、妹を遠く何があるか分からぬミクシアなどに行かせることは出来なかったでしょう。軍と共ならいざ知らず、隠密にパーティなどを使ってとなればなおのこと。ならば、オレが陛下の代わりにお守りするまで。」

「心強いこと。」

ナディアは言って、微笑んだ。アークは戸惑ったような顔をしたが、何も言わなかった。

舞は、同じようにソーセージを渡されて、それにパクつきながらホッとしていた。ナディアって…ほんとに真っ直ぐで正直だなあ…。

舞は、ナディアが好きになっていた。

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