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この世界

ウラノスは、地に下りて座った。そして、チュマからスーッと出て、シャルディークのような人型の、透明な姿になった。途端に、チュマが崩れた。舞は、慌ててチュマに駆け寄って抱き取った。

目が赤く、髪が黒い。見れば見るほどシャルディークに似ていた。皆が、シャルディークとウラノスを交互に見ていると、ウラノスが言った。

『我が、その力を与えて地をまともな方向へ導かせようとしたのが、これよ。シャルディークと呼ばれる命。我に似せて誕生させた。』と、じっとシャルディークを見た。『善良で賢く、何者にも負けぬもの。なのにこやつは、善良すぎて己の身の危険も考えずに、命の気とやらを動かすために己の力を与えてしまいおった。あまりにも、善良過ぎたのだ…あのような管理者に任せておる地に誕生させたこと、後悔しておる。願わくば、早ようあちらの世へ行って転生し、再び地を、今度は幸せに生きて統治して行って欲しいもの。』

シャルディークは、頭を下げた。やはり、自分は使命を与えられていたのだ。なのに、半ばであのように罠に落ちて、死してしまった…。

ウラノスは、沈んだ様子のシャルディークに言った。

『主は、ようやった。これよりは、生者の仕事。妻を迎えに参った後に、あちらへ向かうが良い。』

圭悟が、ウラノスを見上げた。

「ウラノス、聞きたい事があります。」ウラノスが、圭悟を見た。「我々は、どうしてこの世界に?」

ウラノスは、頷いた。

『疑問であろうな。これは、あの管理者が決めたもの。こちらは単独の世界として存在するはずだった。それが、あの管理者はその世界に参加したいと思った。己が行き来出来るようにと、主らの世界と、こちらの世界を繋いだ…この世界で採れる、石を使っての。すると、あやつだけでなく、あの世界の全ての者にそれは可能となり、あれの思惑を外れて何人もこちらへと迷い込むようになった。だが、仲良く共存しておるのを見た時は、我も良いかと見ておった。それが…ある日、あやつはこちらにたくさんの、主らの世界のもの達を残したまま、時間を何百年も進めおった。もちろんのこと、主らの世界のもの達はこちらの世界で帰る事が叶わぬまま寿命を迎えて死に、全員が主らの世界でも眠ったまま死んだ。』ウラノスは眉を寄せた。『その時にかなり厳しく叱責したがの。あやつは聞かなかった。その前に、デクスのこともあって、シャルディークを殺されていたからの。我も本気で言うたのだが。あれには、夢としか思えなんだのやもしれぬ。』

舞は、恐る恐る聞いた。

「あの…りっちゃんは、本当に消えてしまったのですか…?」

ウラノスは、舞を見た。

『守るべき命を多数散らした管理者として、当然の報いであるのだ。我は初めに説明した。あれは、管理者として適任ではなかった。あまりにも誕生する世界が多くて、詳しく性質を調べなんだ我が悪い。まさか…あのように屈折した性質であったとはの。人とは、分からぬものよ。』

舞は、いつも穏やかで引っ込思案だった律子を思い出していた。すると、ウラノスが舞の腕に抱かれるチュマを見た。

『…今、この世界は混乱しておる。先程は主らが世界を作ると言ったが、今の状態で管理者不在では立て直す事が出来ぬ。しかし、すぐに管理者は見付からぬ…我がしばらくは様子を見ようと思う。』

圭悟が、ホッとしたようにウラノスを見上げた。

「では、デインダシェリアの地上は平和になりますね。」

ウラノスは、しばらく黙った。まだ、じっとチュマを見ている。そして、言った。

『我は管理者ではない。』ウラノスは、皆を見た。『直接に手を下す事は出来ぬ。そのためには、実体を持った器が要るのだ。』

舞が、反射的にチュマを抱き締めた。まさか…。

ウラノスは、頷いた。

『我を下ろして微動だにしない体と心。そんなものは滅多にない。此度もそやつのお陰で地上の主らにコンタクトを取れた。この世界が正常に回るまで、そやつの力が要るのだ。』

舞は、チュマを抱く手に力を入れた。そんな…まだ、子供なのに。

マーキスが、舞とチュマの前に出て言った。

「こやつは我らが子として育てておるのだ。そう簡単には渡せぬ。」

ウラノスは、じっとマーキスを見た。

『…事は家族などという小さなくくりではない。世の全てのもの達の、生活が掛かっておる。』

それは、マーキスにも舞にもわかっていた。だが、まだ小さなチュマを…やっと、家族の暖かさを知ったチュマを…。

「…ボク、やるよ、マイ。」いつの間にか目を開けていたチュマが言った。「このおじさん、とっても気持ちのいい気なの。ボクの中に入ってる間、ずっと話しててくれたんだ~。今話してたことも、みんな、だからボクは知ってた。ボク、みんなのためにお空で世界を守るの。このおじさんと一緒に。」

舞は、驚いてチュマを見た。

「チュマ!そんな…会えなくなるのよ!一緒に暮らせなくなるわ!パパとママだって、言ってたじゃない!」

チュマは、舞の頬を撫でた。それがひんやりとして、舞は自分が涙を流していることを知った。

「マイ…泣かないで。お空から見てるよ。いつか会えるかもしれないじゃないか。ボクしか出来ないなんて、すごい事だよ。ボク、世界を救うんだよ。ね、すごいでしょう?」

舞は、それしかないことはわかっていた。それでも、反対したかったのだ。チュマ…市場で震えていた、チュマ…。僅かな間しか、一緒に居られなかったのに、たくさん力になってくれた。

「ああチュマ…!ほんとね、すごいわ…!」

舞は、チュマを抱き締めた。チュマは、嬉しそうに笑った。

「ママ、大好きだよ。また会おうね。」と、マーキスを見た。「パパ。かっこいいパパみたいに、ボクも強くなるね。」

マーキスは、頷いた。

「主ならなれる、チビ。」

ウラノスは、チュマに手を伸ばした。チュマは、その手を取って、そして二人は並んで浮き上がった。

『…主らのあちらの世界との繋がり、絶つ。』ウラノスは言った。『どちらへ残るか決める権利を与えよう。』

舞と圭悟、玲樹、メグが堅い表情をした。その顔を見て、ウラノスは笑った。

『なに、極僅かな間ぞ。人は勝手に世界を移動する方法を解明しつつあるのだろうが。それが確立出来れば、それは主らの力、主らの選択。我に邪魔をする理由はない。』と、チュマと共に高く昇り始めた。『次の、二つの月の合の日。それぞれが選択した世界へと戻る。皆に広く告示せよ。』

舞は、二人を見上げた。

「チュマ!」

チュマは、微笑んでいた。

「マイー!またねー!」

そうして、二人は消えて行った。

舞は、マーキスに肩を抱かれながら、ただただ泣き崩れた。チュマ…これから平和な世界で、穏やかに暮らして行けるはずだったのに…!

辺りは、光のカーテンが消失し、ただ何もない、凪いだ海のような空間になっていた。

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