最終決戦
舞は、必死に自分にしか出来ない魔法、浄化の気弾を使って律子を攻撃した。律子は他からも魔法技の集中砲火を浴びている。それでも、浮いている律子はすっと自分を膜で包むと、簡単にそれを跳ね返した。しかしそれは長くは続かないようで、跳ね返す間だけ張るが、すぐに消えて再び張る、といった状態だった。人数が居るので、飛んで来る魔法技が途切れることはない。律子は、防御するだけで攻撃の態勢に入ろうとすると、また飛んで来た魔法を避けるために膜を張るので、出来ないようだった。いらいらとしているのは、見てとれた。
「ふん、実戦には慣れてないようだな。技を出すのが絶望的に遅い。こりゃ楽勝だ。」
玲樹が言う。律子は、激昂して玲樹を見た。
「何よ!何よ何よ!あんたなんか、こっちではただの人じゃないの!そんな弱い力で、偉そうに言うんじゃないわ!」
確かに、律子の魔法は慣れない感じで遅かった。恐らく、見ていただけで地上へ降りて戦ったのはほんの一握りの時間だけなのだろう。確かに大きな力は持っているのだろうが、余裕のない戦闘では完全に不利だった。こちらに、隙もない。皆戦い慣れていて、しかも人数が居たからだ。
アークが、言った。
「あの、術の合間を縫ってマーキスをリツコの所へ行かせねば。あの剣でなければ、あの膜を通すことも、リツコを倒すことも出来ぬだろう。」
アレスが、マーキスに目配せした。
「我が」と、突然にグーラへと変わった。『こちらから引き付けるゆえ!』
アレスは、律子に向かって大きな炎を吐いた。律子は不意を突かれて必死にそちらへと障壁を張る。マーキスが、反対側へと素早く滑り込んで剣を振った。
ガラスが割れるような音がする。
「きゃああ!」
律子の悲鳴が聞こえた。律子の障壁が割れ、律子はその衝撃で空中でふら付いた。
「今ぞ!」
アークが叫ぶ。キールが飛び込んで行って、律子に切り付けた。シュレーやアークからも、魔法技が飛んで来る。アレスからは引き続き炎が吐かれていた。律子は悲鳴を上げて顔を両手で覆って光り輝いた。
「あああああ!」律子は、光の中で姿が見えなくなった。『よくも…よくも私に傷を!こんなこと、今まで一度もなかったのに!』
光が大きくなり、それが収まった時には、律子の姿はおぞましく変貌していた…それを、美しいというものも居るだろう。だが、そこで戦っていた者達には、おぞましいとしか見えなかった。
デクスの時に見たような、蜘蛛の巣のような羽のようなものを背負い、体は紫色に黒の刺青のようなラインが入っていて、髪は金髪、目も金色で瞳孔が縦に割れていた。浮き上がったその姿は、悪魔と言ってもおかしくはなかった。
しかし、律子は言った。
『ほほほ、進化したわ!あんた達の攻撃なんか、受け付けない!二度と傷は付けさせないわ!』と、まだ炎を吐き続けていたアレスに向かって手を振った。『鬱陶しいわね!』
アレスに、律子の手から出た金色の気弾が直撃した。それはアレスのわき腹を貫き、アレスはそこへ落ちた。
「アレス!」
キールが、慌てて側へ駆け寄って治癒術を放った。律子は笑った。
『たわいもない!次はあんた達の番よ!』
「…速いな。」
玲樹が、余裕なくつぶやく。圭悟も頷いた。アレスを貫いた気弾…戦い慣れたグーラが、その元の姿でも避け切れなかったほどの速さなのだ。圭悟は、ぐっと剣の柄を握り締めた。
「真剣に手を見よう。避けなきゃ終わりだ。」
律子は、両手を上げて光る手先を振った。まるで弾丸のようなスピードで、複数の気弾が皆を目掛けて飛んで来る。皆はそれを、必死に避けて凌いだ。
「…どうしたのよ?!」
律子は、まだまだ気弾を振らせようと手を上げていたが、そこで止まった。それを見たアークが叫んだ。
「気を使い切った!今ぞ!」
皆が一斉に魔法技を放つ。辛うじてそれを薄い膜で凌ごうとする律子だったが、それは軽々と貫いて術は律子に降り注いだ。
『あああああ!!』
律子は言って、手を振り回した。すると、また手の先が光り出した。
「退け!また来るぞ!」
『逃げられないわよ!必ず仕留めてやる!』
今度は、まるでレーザービームのような攻撃が皆を襲った。圭悟は、足をかすめたそれに苦痛の声を上げた。
「く…!」
「大丈夫か、圭悟!」
そういう玲樹は、肩を押さえていた。出血が酷そうだ。圭悟は、慌てて治癒術を玲樹に降らせた。
「…だめだ、結構深く行っちまった。」玲樹は、肩を押さえたまま言った。「お前はかすっただけだな?」
圭悟は、頷いた。アークが叫ぶ。
「今!」
その声を合図に、圭悟も玲樹も必死に再び術を放った。シュレーも、太ももから血を流している…マーキスは頬が少し切れている程度だ。アークは…。
「アーク!」
圭悟は、思わず叫んだ。アークは、アレスと同じようにわき腹を押さえてそれでも術を放っていたのだ。
アークはふら付く足で、後ろへと退いた。
「来るぞ!」
舞が、必死に力を放って精一杯に強い守りの膜を張った。レーザービームが来たが、それでも膜を掠めて嫌な音がしただけで、無事だった。
「アーク…、」
舞は、必死に治癒術を放った。アークは、息を上げている。出血が酷い…止まらない。
「マーキスに、シャルディークを。」アークは、言った。「石はあと一つ。シャルディークの力で側まで行って、あの剣でひと突きにするしかない。このままでは、全滅する。」
キールが、傷ついて倒れたアレスを庇って戦っている。マーキスと玲樹が、必死に術を放っていた。圭悟が、頷いた。
「よし、やろう。舞、アークを頼む。」
舞は、頷いた。圭悟は、再び来た攻撃を膜の中で避けてから、マーキスに駆け寄った。
「マーキス!シャルディークの力であいつの所まで行け!そいつで一突きにするんだ!」
マーキスは、剣を見た。そして、頷いた。
「シャルディーク!」
シャルディークが、マーキスへと入った。目の色が赤く変わる。そのままふわりと浮いて律子の方へと向かって行くと、それを見た律子が半狂乱になって叫んだ。
『ああ!あいつと同じ!まさかあんたの中に、あいつが居るの?!』
「知らぬわ!死ね!」
マーキスが叫んだ。しかし、剣を突き立てようとした瞬間、律子の手先からまた金色の光が復活して飛んだ。それを見たマーキスが避けようとしたが、近すぎて間に合わなかった。
「ぐ…!」
マーキスが、その場へ落ちて行く。舞は叫んだ。
「マーキス!ああ、嫌!マーキス!!」
舞は、膜をそこへ残したまま、必死にマーキスの所へと走った。回りは、何も見えなかった…見ていなかった。
しかし、マーキスは口から血を流しながらも、起き上がった。しかし、その腹には気弾が貫いた跡があった。
「マーキス…!」
『こやつは、死なぬ。』シャルディークの声だった。『我がこれぐらいでは死ななかった。我が憑依しておる時で良かったの。だが、もう動けぬだろう。』
シャルディークは、マーキスの体に憑いたまま舞を腕に飛んで後ろへ下がった。律子からは、引き続き攻撃が飛んで来ている…今や、それを玲樹と圭悟、キールだけが何とか受けていた。しかし玲樹も、わき腹を押さえて顔色をなくして来ている…舞は、マーキスをアークと同じ膜の中へ入れた。マーキスは、シャルディークの言った通り出血すらしていなく、傷は少しずつ小さくなっているのが見えたが、目を開けなかった。腹に穴をあけられたら、普通なら死んでいる。
「どうしたらいいの。」舞は、後ろの戦闘を振り返った。「どうしたら…。」
シャルディークが、マーキスから離れて出て来て、言った。
《我が誰かに憑依して、そしてあの》と、戦闘現場に落ちている剣を指した。《剣であれを刺すしかない。あやつは飛ぶ。飛べぬと、あれを刺すことは不可能ぞ。》
舞は、キールを見た。あと、可能性があるとしたらキールだけ。しかも、身代わりの石を持っている…。
そう思った時、再び律子からレーザービームが発しられた。
「キール!」
舞は叫んだ。
レーザービームは、キールを貫いていた。