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ディンダシェリア崩壊へ

デクスの気は、ぐんぐんと大きくなって行く。

力の流れが収まって、マーキスの張った膜が消失した後、舞と皆はそれを見た。

デクスが、まるで大きな蜘蛛が蜘蛛の巣を張ったような形で背に何かを背負い、そしてその体はまるで爬虫類のような顔つきの、恐竜のようなものへと変貌していた。

しかし、体は大きいがスリムで、動くのに何ら支障はないように見えた。デクスは縦に割れた瞳孔をこちらへ向けて舞達を見ると、その大きな牙を見せて笑った。

『見よ!地上へ向けて根を張り、今や全てが破滅へ向けてひた走っておる!』デクスの歓喜の叫びは続いた。『ああなんという力!僅かでもこのような力を手にするとは!創造主、全力の力を与えられたら、いかばかりか?』

玲樹が、岩の下を覗いた。そこからは、地上の様子が雲の切れ間から小さく見えた。そして、叫んだ。

「ああ!なんてことをしてやがる!」

皆が、玲樹の叫びに一斉に下を覗いた。

地上は、大きく揺れていた。そして木々が揺れて生き物のように人々に襲い掛かり、皆逃げ惑っている。土の中からは、見たこともないような魔物が湧き出るように這い出て来ていて、また人々を襲っていた。

「メグとチュマが!」

アレスも、顔色をなくした。

「ダイアナを…置いて来ておるのに!」

ラキが、剣を握ってぶるぶるとその手を怒りに振るわせた。

「デューラスとシンシアが居る。あいつらのことは、守ってくれる。それより」と、デクスに向かって駆け出した。「こやつを滅してしまうことぞ!」

「ラキ!馬鹿者!」

シュレーが叫ぶ。ラキは、たった一人デクスの張られた蜘蛛の巣のようなものを足場に、トントンと飛んで本体へ切り掛かった。デクスは、それを指先で気を発して落とした。それでも、ラキはまた登ろうとする。シュレーが叫んだ。

「やめよ!こちらから、術を放つのだ!」

ラキは、聞かずにまたデクスに剣を振り上げた。デクスは、言った。

『やめよ。』と、ラキをまた叩き落した。『主を傷つけるつもりはない。』

その言葉に、皆がシンとなった。ラキも、呆然とデクスを見上げた。

「何を…何を言っている?」

デクスは、じっとラキを見た。そして、心なしか遠い目になった。

『…我が妻、アーシャ。そう言えば分かるか、ラキよ。』

シュレーが、息を飲んだ。ラキが、呆然としてデクスを見上げている。舞も圭悟も、他の誰もその意味が分からなかった。シュレーが、そんな皆にそっと言った。

「ラキは、小さな王国の王子だった。戦で滅んだな。それは、遠い昔、海側の地から何かから逃れて来た、身重の女とその臣下らしき者達とで始まった国。その女の名は、アーシャ。」

舞は、ラキとデクスを見ながら、今まで学んだこのディンダシェリアの歴史を考えた。つまり…つまりデクスがナディアに封じられた時、既にデクスの子がアーシャに宿っていた。そして、シャルディークとナディアの娘シャリーナに滅ぼされた国から、アーシャは奥地へと逃れ、そこで暮らしていた…ということなの?

つまりは、ラキはデクスの血筋なのだ。

「だから…お前はオレに、とり憑かなかったのか。」

デクスは頷いた。

『気を見れば分かる。我の子孫。その髪の色、まさに我のもの。千数百年経とうとも、受け継がれて来たものぞ。』デクスの目が、金色から茶色へと揺らいだ。『アーシャ…愛してやれなかった女。それが、生き延びて我の子を生み、そしてこうして血を遺した。我はあやつを誇りに思う。主の無念、共に晴らそうぞ。血族を消された恨み、我の力をもって晴らすが良い!』

再び、デクスの目が金色に戻った。ラキは、呆然とそこへ突っ立っている。シュレーが、叫んだ。

「ラキ!ラキ、一緒に世界を救うんじゃなかったのか!」

デクスが鼻で笑った。

『何を言っておる!我らは共に世界を作り直すのだ!』と、ラキに手を伸ばした。『実体が有れば事は容易い。我にその身を貸せ。』

ラキは、ちらりと地上へと目をやった。皆逃げ惑い、必死に生きようと抗っている。

「駄目よ!ラキ!」

舞が叫ぶ。シュレーも言った。

「ラキ!お前はオレ達の仲間だろう!」

ラキは、シュレーを振り返った。そして、フッと笑った。

「そうか?」と、デクスに手を伸ばした。「最初から、オレ達は敵だろう。」

「ラキ!」

ラキは光輝いた。

デクスの笑い声が不気味に響き渡った。


「早くここへ!」デューラスが、必死にチュマを抱いたメグと、ダイアナに言った。「早く!」

回りには、おびただしい数の見たこともないような魔物達がひしめいていた。さながらゾンビのように、次から次へと地中から這い出して来る。どうも目が見えないようで、不自然に体を揺らしながら、何かを探して、その何かを見付けると一斉に襲いかかり、噛み付いてその血を啜った。どうも、人の体から発する僅かな命の気を頼りに襲いかかっているようだった。

デューラスとシンシアの放つ術になぎ倒されながら、それらの魔物は確実に追って来ていた。デシアの兵士達は、眼下に見える格納庫近くでレンの指揮の元、戦っているのが見える。神殿の上へと登ったデューラスとシンシア、メグ、チュマ、ダイアナは、よじ登ろうとして来る魔物達を片っ端から叩き落としながら、それを見た。

「せめて、あそこへ行けばダイアナ達を格納庫に匿って、皆とそこを守れば済むんだが。このままじゃもたないぞ。」

シンシアも頷いた。

「どんどん来るわ。あっちはたくさん居るから分散されるけど、こっちは五人だもの。」

神殿の向こう側から登った魔物がこちらへ迷いなく体を揺らしながら来る。ダイアナが言った。

「我が!皆を運びまする!」

ダイアナは、瞬く間にグーラへと戻った。その大きさは、小さいとはいえグーラなので大きかった。

「よし、乗れ!」

メグが乗り、デューラスからチュマを受け取った。シンシアも乗った所で、魔物がダイアナの足に噛み付いた。ダイアナが、声にならない鳴き声を上げた。デューラスは、それを切り捨て、次から次へとやって来る魔物を切り捨て始めた。

「デューラス!早く!」

シンシアが叫ぶ。しかし、魔物が邪魔になりこのままではダイアナは飛び立てなかった。

「…行け!」デューラスは叫んだ。「オレが切り捨ててる内に行け!」

「何を言ってるの!」

シンシアは叫ぶ。しかし、それしかないことは誰もがわかっていた。ダイアナは、構えた。

『行きまする!掴まって!』

ダイアナは、飛び立った。

「デューラス!馬鹿、早く!駄目よダイアナ!戻って!」

デューラスは、無事に飛び立ったダイアナを見てホッとしたような顔をした。そして、剣を下ろした。

「何諦めてるのよ!」シンシアは、デューラス目掛けて飛び降りた。「デューラス!」

「シンシア!」

メグが叫ぶ。デューラスが、顔色を変えた。

「何をやってる!」デューラスは、魔物を切り捨てた。「お前は行け!何のためにオレが残った!」

シンシアは、魔物を切り捨てながら叫んだ。

「なんためですって?!あんた私を守るんじゃなかったの!先に死んだら、この先誰が私を守るのよ!死ぬなら一緒よ!最後まで責任持ちなさい!」

見ると、泣きながら叫ぶシンシアに、デューラスはフッと笑った。

「…そうか。」と、剣を振り上げた。「仕方がない、最後まで付き合うか。」

上空から見ているメグが、神殿に数え切れないほどの魔物達がよじ登って行くのを見た。

「ああ!デューラス!シンシア!」

とても、あんな数の魔物は斬り捨てられない。メグは涙ぐんで必死に叫んでいた。デューラスが、這って来た魔物に足を食いつかれるのが見えた。シンシアが、必死にそれを斬り捨てている。もはや神殿は魔物で出来ているのではないかというほど、魔物で埋め尽くされていた。

デューラスが、息を切らせて言った。

「…シンシア、もう…、」

「何を言って…」シンシアは、食いつかれたデューラスのわき腹から、出血しているのを見た。「デューラス!」

デューラスは、弱々しく笑った。

「そんな顔するな。」デューラスは言った。「言わなかったが、愛してる、シンシア。」

デューラスは、くず折れた。シンシアは、途端に襲い掛かって来る魔物達を、炎の術で回りを囲んで必死に防御した。しかし、その術を使える気も残り僅かだった。

「嫌よ!デューラス!」と、デューラスを抱きしめた。「私だって愛してるわよ!デューラス…一緒に逝くわ!ずっと一緒よ!」

デューラスは、微かに笑った。シンシアは、デューラスに口付けた。どうして、今まで素直になれなかったのだろう。ずっと、ずっと側に居たのに。いつも一緒に居てくれたのに…!

メグが、叫んだ。

「ああ助けて!」メグは、空に向かって叫んだ。「誰か、シンシアとデューラスを助けて!」

その瞬間、メグの目には、真っ赤な光が見えた。

一瞬、全てが止まったように見えた。

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