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デクスの目覚め

玲樹達は、ぼーっとしているだけで、何の抵抗もしない兵士達を、とりあえず始めに入っていた大きな倉庫のような部屋へと押し込めていた。コンベア待ちをしていた兵士達も、全て元居たその部屋へと誘導してから、念のため戸を頑丈に閉めていると、背後から何かが爆破されるような大きな音がした。あの、格納庫の中からだった。

「…なんだ?!」

玲樹が振り返ると、圭悟が駆け出した。

「何かあったんだ!」

ラキが、慌てて叫ぶ。

「待てケイゴ!様子を伺ってからでないと、足手まといになる!」と、コンベア待ちをしていた部屋を振り返った。「あの部屋の、右の戸を入ってみよう!そこから伺うんだ!」

圭悟は、元居た場所へと戻り掛けていたのをグッと堪えて、その戸が二つあった建物へと皆と共に走った。


「ぐ…、」

アークが、膝を付いた。シャルディークがすっとアークから離れる。明らかにマーキスより、耐久時間が短かかった。デューが、笑いながら気を失っているチュマを小脇に抱えると、兵器のほうへと宙を飛んで移動した。キールが、それを見て叫んだ。

「マイ!兵器の首を!我らは術が使えぬ!」

舞は、ハッとして杖を構えた。あれを壊さなくてはいけない。でもチュマが…!

舞の炎の術がその兵器の中枢目掛けて飛んで行く。デューはそれを見ながらも鼻で笑い、兵器の向こう側へ回ってボタンを押し、赤いボタンが入った透明の蓋をスライドさせた。

舞の炎の術はそこへ当たって赤く染めている。しかし、熱を与えているだけで、即効性はなかった。

「今一度ぞ、シャルディーク!」

マーキスが叫ぶ。シャルディークが再びマーキスに憑いたのを見たデューは、急いで回りのボタンを調整した。シャルディークの気流が飛んで来る。デューは、そのボタンに手を置いた。

『こんな体、くれてやるわ!』

デューは、ボタンを押した。

「チュマ!」

舞は、思わず攻撃を止めて必死にチュマを自分の力を放って膜で包んだ。デューの体が、シャルディークの力に当たって白く輝いた。

『うおおおおお!』

デクスの叫び声が聞こえる。デューの体は、そのままその光の中で消失した。

「ああチュマ!」

チュマは、舞の力の膜にカプセルのように守られてそこに浮いていた。しかし、まだ気を失ったままだった。

ホッとしたのも束の間、キールの声がした。

「マイ!兵器が起動したぞ!」

そこへ、ラキの声が飛び降りて来た。

「駄目だ、退避せよ!どんどん出力が上がっている!ここに居るのは危ない!」

マーキス達が、慌ててグーラへと変げする。皆は慌ててそれに乗り込んだ。キールが、叫んだ。

『オレはあれを破壊する!皆逃げよ!他の背に乗れ!』

圭悟が、首を振った。

「駄目だ!誰も犠牲になったらいけないんだ!」

『このままでは全てが終わってしまうやもしれぬのだぞ!』

マーキスが、飛び上がった。

『飛べ、キール!今はとりあえず生き延びるのだ!』

シャルディークとナディアが並んで飛んでいる。マーキスとキール、それにアレスとダイアナは、上空へと退避した。

その瞬間、眼下のその兵器の先からは、真っ白い光が一筋に夜空へと打ち上げられた。そして、空の何かに当たり、それはまるで半球を描くように空を広がって行った。地面が、見える限り全て不気味な地響きを響かせて震えている。

「ああ…。」

舞は、思わず声を漏らした。どうなってしまうの。空間に、亀裂が入ってしまうというの…。

そして、兵器からの光は一度途切れた。そして、今度は斜め横へ向けて照射された。

『掴まれ!』

マーキスが、急旋回して叫ぶ。キールもアレスも、ダイアナも必死にそれを退避した。

「うわわわっ!」

玲樹は必死にキールの首にぶら下がって落ちるのは免れた。体勢を整えて振り返ると、その光はデルタミクシアの神殿へと直撃し、その脇腹を貫いていた。

「よかったなあ、狙われてたのか。」

玲樹が言うと、傍のシャルディークは首を振った。

『違う。』と、険しい顔をした。『最初からあれを狙っておったのよ。』

玲樹も圭悟も、皆が驚いてそちらを見た。黒い光が、もやもやとしていたかと思うと、声が聞こえた。

『やったぞ!やっと我は行く!あの場所へ…!』

デクスの、聞いたこともない歓喜の声が聞こえた。それは、こちらには見向きもしていないようだった。

「まさか、デクス本体を解放するため…、」

しかし、デクスはこちらには見向きもせずに、ドンという音と共に夜空に開いた、そこだけ光が漏れているその亀裂の中へと打ち上がって行った。皆は、呆然とそれを見上げた…どういうことだ…?

『何を考えておる。』シャルディークは、言った。『あやつは、どこへ行った…。』

横に浮く、女神ナディアが気遣わしげにシャルディークを見上げる。

その言葉に、皆は一様に不安を感じずにはいられなかった。

空は、不気味な静けさを保っていた。


シャルディークとナディアは皆の側に留まり、いつものようにそれぞれの場所へ戻ることはなかった。

空に開いた亀裂は、夜明けと共にさらにはっきりと浮かび上がって見えた。それはこのディンダシャリアのどこからも見えているようで、リーディスからもそれについての説明を求める通信が届いた。しかし、皆にもそれの正体を知る術は無かった。ただ、それはそこに存在するだけで、この世界に影響を与えている様子はなかった。

デクスが去ると同時にその呪縛から解き放たれた兵士達が、次々に意識を取り戻して現状を把握しようと必死だった。ラキは犠牲になった兵達を弔うことから指示を始め、ナディールを元に戻そうと尽力していた。遺体を一体一体運んでいて、そこにナディールの修道女と言われた者達も含まれていたことを知り、皆は一様に暗くなった…もう少し早く気付いていたなら、助けられたのかも知れなかったのに。

舞は、まだ目を覚まさないチュマをナディールの神殿の中にある、修道女達の居室に寝かせて、格納庫の片付けを手伝いに来ていた。あの、空間を引き裂いた兵器が、そこに静かにある。あの時、舞が焼いた中枢の部分は、黒く変色はしていたものの、無傷だった。そこへ足場を作って、兵士達が一刻も早くと解体を始めていた。

舞がそれを無言で見上げていると、横から、圭悟が言った。

「やっぱり…行かなきゃならないと思うか?」

舞は、びっくりして圭悟を振り返った。あの、亀裂の中へ?

舞は、下を向いた。

「そうね…このまま、何も起こらないなんてあり得ない。きっと、デクスは何か目的があって亀裂を入って行った。それがいいことではないことは分かっていることだもの、行かなきゃならないわ。そして、デクスをあちらの世と言う所に、送らないと。」

圭悟は、舞を見た。

「拍子抜けしたんじゃないのか?案外、亀裂が出来ても世界が存続しているから。」

舞は、顔を上げた。

「…それは、圭悟も同じでしょう?亀裂が入った瞬間、もう駄目かと思ったものよ。なのに、こんなに穏やかで。しかも、デクスに心を囚われていた人達も、芯まで飲まれていたのは少なくて、皆ああやって元に戻ったわ。芯まで飲まれていた人達は、命を落としてしまったけれど…。」

すると、シャルディークの低い声がした。

『いくらデクスとはいえ、全ての者の心を食らうことは出来ぬ。』舞達が、驚いてそちらを見上げた。そこには、シャルディークとナディアが浮いていた。『操るぐらいなら、多数でも出来るがな。真に奥まで入り込むには、入られる方もだが、入る方も力の要ることであるのだ。』

舞は、頷いた。

「シャルディーク…あなたも、あそこへ行くべきだと思われますか?」

シャルディークは、深刻な表情で頷いた。

『そうだな。我が生きていたなら行ったであろう。これから先、あのようなものを頭上に見て不安を抱えながら生きて行くことが嫌ならば、そうするしかあるまい。いつかデクスが襲来するやもしれぬと思いながら、子を育てて生きて行けるのか?』

舞は、同じように深刻な表情で頷いた。そうだ。マーキスと一緒にここで生きて行くと決心したのに。このままでは、安心して生活して行けない…見せ掛けの、平和なのかもしれないのに。

「オレは行く。」振り返ると、アークが立っていた。「我が子があんなものに怯えながら育つなど、思いたくもないゆえな。あれが何なのかは分からぬ。だが、必ず突き止めて、デクスが何を企んでいたとしても、消し去ってくれる。」

マーキスもキールと歩いて来て、言った。

「オレも参る。アークと同じ思いぞ。これから舞と共に平和に暮らしたいと思っておるのに。あんなものを頭上に見て、安心して飛ぶことも出来ぬではないか。」

キールも、頷いた。

「その通りよ、兄者。オレとて、簡単にあきらめるのは腹が立つわ。あやつには、一度飲まれかけた借りがあるからの。」

すると、アレスと共にダイアナが来た。アレスが、口を開いた。

「しかし、女王の身代わりの石も砕けた。アークの石は二つ。マーキスもあの折二つ使って残りは二つ。そして、キールの持つ一つ。合計五つしかない。あの亀裂を入って行ったデクスは、本体なのであろう。それで、あれに太刀打ちできるのか。」

マーキスが、頷いた。

「元より考えておったこと。一気にシャルディークの力を全開に出来れば、恐らくデクスなど足元にも及ばぬ。」と、袋から、身代わりの石を二つ出した。「これを、一度に使えば良いのだ。そうして狙いすまして一気に片を付ける。オレがやる。」

アークが、マーキスを見た。

「だが、主だけに負担を掛けるわけには行かぬ。」

マーキスは首を振った。

「そうではない。オレにしか出来ぬ。アーク、主よりオレのほうがシャルディークに耐える力がある。これを二つ使って、その一度に賭けようぞ。主らは、それまである程度デクスを弱らせて近付けてもらわねばならぬがの。」

キールが言った。

「では、兄者。オレはナディアを降ろし、あれの黒い気に対する防御を行なおう。さすれば、戦いやすくなる。」

それを聞いて、舞はハッとした。そうだ、それを聞かなくては。

「ナディア、それを聞こうと思っていたのです。キールは、身代わりの石を使えば、あなた憑依させることが出来ますか?」

シャルディークとナディアは、顔を見合わせた。

『出来るはずぞ。』シャルディークが答えた。『身代わりの石に憑き、その持ち主の体を使う。そんな感じなのだ。』

キールは、ホッとした顔をした。

マーキスは、微笑んでキールを見た。

「だが、無理をするでないぞ。」

キールは、胸の身代わりの石を触った。

「オレには、母の遺したこの石があるからの。」と、ダイアナを振り返った。「主は、来ぬほうがいい。石が砕けた今、かえって足手まといになろう。」

ダイアナは、抗議しようと身を乗り出した。

「しかし…!」

しかしアレスが、横から頷いた。

「その通りよ。我が代わりに参ろう。」と、ダイアナを見た。「女王は、危険なことに参る必要はありませぬ。身代わりの石が無くば、その身に負担が掛かってしまう。ここに残ってくださりませ。我が役に立って参りまする。」

ダイアナは、首を振った。

「そのような!我とて、何かの力になろうほどに!」

アレスは、頑固に首を振った。

「なりませぬ!女王、その御身は、一族を支えるもの。あなた様だけのものではありませぬ!」

ダイアナは、口をつぐんだ。そして、ふるふると震えていたが、踵を返して駆け出して行った。上で作業をしていた玲樹が、口を挟んだ。

「…なあ。アレス、グーラの世界じゃどうか知らねぇが、ここは追わなきゃならないぞ?たとえお前が間違っていなかったとしてもな。」

アレスは、他の皆を見た。皆が、頷く。アレスは、ためらいがちにダイアナを追って走って行った。

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