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悪魔との戦い

あまりに多いので、攻撃班と救出班は別の通風孔へと登って行った。当初、チュマはプーのままで結界を張らせるつもりだったのだが、ここでは命の気の供給が止められていて、舞以外が魔法技を使うことが出来ない。なので、チュマを人型にし、通風孔から命の気を供給させることにした。

従って浄化の膜を張るのは必然的に舞しか居なかったのだが、そうすると舞は戦うことが出来ない。身代わりの石がもつ限りダイアナが女神ナディアを降ろすことにして、急ごしらえの対策は取った。いろいろと不安な状態のまま、隣りの通風孔に居る救出班が合図して来るのを待った。

救出班は、デューラスと圭悟、玲樹、シンシア、ラキ、シュレー、メグが居た。攻撃班には、マーキス、舞、キール、アーク、ダイアナ、アレスと、シャルディークやナディアを降ろせる者達が主流で集まっていた。それでも、それがどこまで役に立つのか分からない。身代わりの石の数は、限られていた。

もちろん、こっちでの救出が終わったらすぐにあちらへ合流するつもりで居た。だが、皆が正気を取り戻す確率は低く、浄化すら舞を攻撃に送っているので出来ない状態なので、気を失わせる他ない。皆を殺さず気を失わせて運び出すのは、至難の業だった。しかも、上ではまだコンベア待ちをしている兵士達がたくさん居るのだ。

「とにかく、デクスだ。」圭悟が言った。「デクスを倒したら、皆元に戻る確立が高い。戻らなくても、指示が無くなるからおとなしくはなるだろう。」

玲樹が、通風孔の格子のネジを外しながら言った。

「そうだ。あっちが気になるから、早いとこやっちまおう。気付いてるか?あっちは無茶する奴らの集まりだぞ。」

圭悟はそれに思い当たって、身震いした。

「早く格子を外せよ!玲樹!」

玲樹は、格子を掴んで持ち上げながら言った。

「慌てるな。」

「急げ!!」切迫した、ラキの声が後ろから飛んだ。「早く!レイキ!」

玲樹はびっくりして格子を持ったまま後ろへひっくり返った。ラキは、開いた通風孔から飛び降りた。

「あ!こら下まで十メートルは…、」

圭悟が言いかけると、ラキの手首からシュッと何かが飛んで来て通風孔の端へと引っかかった。それが、先にフックの着いたワイアーであることに圭悟は気付いた。ラキは、ワイアーにぶら下がって着地すると、ワイアーを切り離してすぐにベルトコンベアの方へと走った。

そこには、レイが目の焦点も合わぬまま、光の照射される手前まで流れて来ていた。

「レイ!」

シュレーも言う。そして、ラキの残したワイアーを伝って素早く降りて行った。玲樹がメグを背負って、自分の縄を張ってそれですぐに降りて行く。デューラスもシンシアも、難なくするすると降りて行った。圭悟は、その高さに目がくらんだが、そんなことは言っていられなかった。玲樹が残した縄に掴まると、意を決して下へと滑り降りて行った。

圭悟が思いのほかすぐにたどり着いた床にホッとして顔を上げると、シュレーとラキが、ただ力なく目を半分開けているレイを運んで来るところだった。

「身代わりの石があったんじゃなかったのか。」

シュレーが言うと、ラキが、レイの首の鎖を引いてそれを引っ張り出した。

「…割れている。」見ると、その紫の石は、真ん中に亀裂が入っていた。「だから、連絡が来なかったのか。」

玲樹が、いち早くベルトコンベアの動力を見つけてそれに向かって剣を振り上げた。

「壊すぞ!いいか?!」

圭悟は、頷いた。

「やってくれ!」

ラキが、すぐに攻撃班に向けてシグナルを送る。

玲樹は、剣を振り下ろした。


アークの腕輪が、ピピと鳴った。

「合図だ。」

マーキスが、すぐに通風孔の格子を持ち上げた。そうして攻撃班の六人は、次々とその部屋へ降りて行った。

そこには、間違いなく大きなあの時デシアの王城の地下で見た兵器が立ちふさがっていた。今降りた場所からは、人が見えない。

マーキスが、小声で言った。

「…この裏側に、居る。」

キールは、頷いた。

「おそらく三人。デクスは居ない。」

舞は、まだ膜を張っては居なかった。力を無駄に使って、もしもの時に困ることがないようにと思ったのだ。チュマが、恐らく上からこっちを見ているはず。すぐに、命の気は供給してくれる。

アークが言った。

「その三人を倒す。その後、兵器の首の回路を破壊しよう。」

アークとキール、マーキスが兵器に身を寄せながらそっと向こう側を伺った。そこでは、兵器のコンピュータを操作している三人の男が居た。皆、眉一つ動かさなかったが、そのうちの一人が、急に立ち上がった。そして、赤いランプが光るそれを見つめていたが、こちらへ、また無表情に歩いて来た。アークとキールが、顔を見合わせて頷いた。

かと思うと、アークがその男の口を押さえて羽交い絞めにし、キールがみぞおちに深く一発、拳を入れた。

男は、途端にぐったりとなる。キールがそれをずるずると引きずって行って、側の物置らしき場所へと押し込んだ。そのうちに、もう一人が隣りのコンピュータのアラームに気付いて、また立ち上がった。そして、辺りを見回すと、またこちらへ歩いて来た。

キールがその男にも一発食らわそうとした時、後ろから舞の叫び声が聞こえた。

「後ろ!!」

三人は一斉に後ろを振り向いた。

デクスの取り憑いたデューがそこに浮いていた。

「…まだ邪魔にし来おったか!」

デューから、真っ黒い気の放流が押し寄せて来る。舞が、その前に滑り込んで構えた。

「させるか!!」

舞は叫ぶと、大きな浄化の膜を精一杯の力で張ってその黒い気の放流を堰き止めた。

重い…!

舞は、その重さに驚いた。今までの比ではない。恐らく、デューはデクスの本体にもっとも近い分かれた命だろう。

膜を半球状にしたいのに、まだその気を抑えることに手一杯で、そこまで出来ていなかった。デューは、フッと口の端をゆがめた。

「所詮はお嬢さんよな。そんな力で、我に敵うものか!」

デューからの力の放流は、さらに圧力を強めて来た。舞は、必死に踏ん張った。押される…!

すると、後ろからマーキスの声が聞こえた。

「シャルディーク!」

カッ!と白い緑の閃光が走った。シャルディークがすぐにマーキスに降りる。マーキスの目が、赤くなったので誰もがそれを知った。

『去れ!デクス!』

マーキスの口から、シャルディークの声がする。心なしか、怒っているようだ。おそらく、シャルディークは罪も無いリーマサンデの兵士達の命が散らされて逝っていたのを、舞達と共に知ってしまったのだろう。民達が苦しむのを、最も嫌がるシャルディークが、怒るのも無理はないと舞は思った。

「うおおおお!!」

デューはマーキスの放ったシャルディークの大きな力に吹き飛ばされて後ろへ叩き付けられた。しかし、すぐに体勢を整えると言った。

『…退けぬわ。』その声は、デクスだった。『主などの力に屈服してなるものか!あと少しであるものを!』

デューの体から放たれた力は、半球を作りつつあった舞の膜を吹き飛ばす勢いで流れて来た。舞は、必死に踏み止まった。

『すべて我の贄となるが良い!』

すると、後ろでダイアナが叫んだ。

「ナディア!」

今度は、ナディアの白い閃光が走った。そして、すぐにそこには、皆を守る浄化の膜が頑丈に張られた。

『この女め…!』

デューは、浮いたまま横のあのコンベアの部屋の方へと移動した。シャルディークの声が言った。

『させぬわ!』

再びマーキスから白い緑の光がデュー目掛けて飛んで行く。デューは辛うじてそれを受けると、空中でよろめいた。

『くっそう、シャルディークめ…!我は主などに負けぬ!』

ピシ、と、何かが砕けた音がした。途端にマーキスからの光は消え、シャルディークがスッとマーキスを離れた。身代わりの石が、もう砕けた!

アークが叫んだ。

「こっちへ!シャルディーク!」

シャルディークはアークへと飛んだ。その僅かな隙に、デューはちらりと天井付近を見ると、言った。

『…まだ負けぬ!』

舞は、気付いて叫んだ。

「チュマ!膜を!」

チュマは、自分へと真っ直ぐに飛んで来るデューに怯えて動けずに居た。その破られた通風孔の隙間から、デューはチュマを掴むと隣の部屋へ向けて力を放ち、その壁を木端微塵に吹き飛ばした。

「チュマ!ああチュマが!アーク!」

舞は叫んで必死にデューを追って走った。デューは、チュマを止まったコンベアのある個所へと置いた。

『このガキからの尋常でない命の気、感じておったわ!全てもらおうぞ!』

「あああああ!」

チュマの叫び声が聞こえる。舞は必死にそこへ向かった。

「チュマ!チュマ!」

チュマに向かって、光が照射され続けている。止まったコンベアは、動くことはなかった。チュマからは、どんどんと命の気が吸い上げられていた。

『させるか!デクス!どれだけの犠牲を作る気ぞ!』

アークから、シャルディークの声がする。しかし、デューは黒い膜を張って、決して何も入れない構えで居た。

『シャルディーク、主の力など恐れるものか。破れるものなら破ってみよ!』

デューは、血の涙を大量に長していた。それは、体がデクスの力に耐えきれていないということ。つまりは、デクスはデューという器を失っても、もう構わないと力を全開にしているのだ。

『く…っ!』

シャルディークは、力を放つがそれがその膜を抜けることはない。なぜなら、シャルディークには今憑依している者を犠牲にすることが出来ないからだった。身代わりの石には、シャルディークの力を全て受け止められるほど強くはなかった。

デューは、高笑いした。

『甘い!甘いのだシャルディーク!民が民がと、主は間違っておるということ、よく知れば良い!』

背後で、兵器の起動する音が聞こえる。

皆は、それの充填が終了したことを知った。

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