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命の気

圭悟とデューラスは、思った通り兵士達が空のカートを押して戻って来たのをやり過ごし、何かを運んで行った先の部屋へと向かった。そこは、真っ直ぐに進んで来た通路から枝分かれしている通路の突き当たりで、そこからすぐだった。デューラスは、一つしかない入り口に舌打ちした。

「くそ…ここを開けて誰か居たら終わりだな。五人ぐらいならどうにかなるが、もっと居るとお前の戦力にも頼らなきゃならねぇし。」

圭悟は、構えた。

「別にオレだって無力じゃないし。その時は任せてくれ。」

デューラスは、怪訝そうな顔をしたが頷いた。

「ま、確かにな。」と、扉のロックを素早く解除した。「開くぞ!」

シュッと圧縮空気の音を立てて横へと開いた扉の先には、思いに反して誰も居なかった。それでもデューラスは辺りを警戒しながら中へと足を踏み入れた。圭悟も、後に続く。

先に入って回りを見ていたデューラスが、急に剣を力なく降ろした。圭悟は、驚いてそちらを見た。

「こ、こんな…、」

圭悟は、絶句した。

デューラスの視線の先には、リーマサンデの兵士の制服を着た人達が、無造作に山のように積み上げられていたのだ。誰一人として、生きている様子はなかった。

「あいつは…何をしてるんだ。」デューラスが、呆然としたまま言った。「まさか…」

「デューラス!」

デューラスは、突然に踵を返すと走り出した。圭悟は、慌ててその後を追った。そしてデューラスの背を追いかけながら、頭の中では必死に考えていた。シンシアが言っていた。一つ入って来ては、一つ出て行く気。たくさんの、出入りする気…。

圭悟は、突き当たりの部屋へと到着したデューラスが、そのままその戸をあけようとするのを止めた。

「駄目だデューラス!真正面からはいけない。ここはたくさんの者達が居ることが分かってる場所だ。デューだって居るかもしれないんだ。」

デューラスは、圭悟をキッと振り返ったが、頷いて脇の通路を見た。

「通風孔があるはずだ。探そう。」

圭悟は頷くと、脇の通路へと身を潜めながら、腕輪の地図を確認し始めた。


その頃、なかなか連絡がない圭悟とデューラスに、シンシアがイライラとしていた。

「やっぱり、私が行けば良かった。あの人の良さそうなおぼっちゃんに、偵察なんか無理だったかもしれない。あのバカも、何をしてるんだか。まさかヘマしたんじゃないでしょうね。」

ラキが、落ち着いて座りながら言った。

「まだ1時間も経ってはいないぞ。我がままもいい加減にしろ、シンシア。お前は事の重大さが分かっていない。」

シンシアは、キッとラキを睨んだ。

「こんな金にもならないような仕事!だいたいあんたが居たからリーマサンデへ来たってのに!デューラスが怪我でもしていたら…」

玲樹が、うっとうしそうに言った。

「うるせぇな。自分の男が心配なのは分かるが、ちょっと黙ってな。」

シンシアは鼻を鳴らした。

「はん!あんなの私の男じゃないわ。ただの腐れ縁よ。いつでもどこでもついて来やがるから、居なかったらせいせいするわ。」

シンシアは、背を向けた。玲樹は、ため息を付いて小声でつぶやいた。

「ふん、素直じゃねぇな。オレはひん曲がった女ってのは嫌いなんだ。ここぞって時には素直にならねぇとよ。」

シンシアは、玲樹を振り返ってにらみつけた。

「なんですって?!」

玲樹は、横を向いた。

「はいはい、もういいよ。」

しかし、舞も心配になって来ていた。圭悟が、有能でないとは言わない。だが、こんな狭い場所で突然に潜んでいた敵などに出くわしていたらどうしよう。

舞は、側のマーキスの手をそっと握った。マーキスは、察してその手を握り返してくれる。舞は、それで不安な気持ちを抑えようとしていた。


圭悟とデューラスは、無事に天井の板を外して狭い通風孔へと入っていた。這うしか進む方法のないその狭い中を、デューラスはするすると進んで行く。圭悟は、必死に腕と膝を使ってその足を追った。

デューラスは、横へ入る所で、振り返って圭悟を待ち、そしてまた進んで行った。

「ここだ。」

デューラスが、小声で言った。そして身を横にして、圭悟にも見えるようにしながら、その通風孔の格子から下を見た。

奥の方に入り口が開いていて、そこからベルトコンベアに横たわって斜めに降りて来た一人一人の兵士達が、次々に流れて来る。そして、ある一箇所で一瞬ピタリと止まり、そこで上から光が照射され、そして次の人へと移って行く。その光の照射を受けた者達は、皆一様にだらんとなって、そのままその先に待ち構えるカートの中へと落ちて行っていた。

そのカートがいっぱいになりそうになったら、先ほど見た兵士達が新しいカートに換えて、そのいっぱいになったカートを押して出て行った。

「命の…気だ。」圭悟が、やっと言った。「あの機械で、人の命の気を吸い出してるんだ!」

デューラスが、憎憎しげに言った。

「だから、ここに命の気が供給されていないのにあの兵器へ充填されてたのか。なんて事を…だから、デシアからまた兵士を連れて来たんだ。ここへ連れて来た兵士達だけじゃあ、足りなくなったから。」

圭悟は、吐き気がした。今、目の前で無抵抗な兵士達が、自分が何をされているかも分からないまま命を落として行っている。どうにかしなければ…。

圭悟は、辺りを見回した。そこは、格納庫の横の部屋だと見取り図では分かったが、遺体を運ぶ係の兵士以外は、誰も居なかった。その兵士が出て行ってしまえば、戻って来るまでただ飲まれて意識がないようなベルトコンベアを流れて来る人達だけしか居なかった。

「今なら、あれを止められる。」

圭悟が、その通風孔の格子を外そうとすると、デューラスがその手を掴んで押さえた。

「駄目だ。」

圭悟は、信じられないという表情でデューラスを見た。

「デューラスだって、止めたいんだろう?こんなことをしている間にも、人が命の気を吸い取られているのに!」

デューラスは、しかし尚も首を振った。

「これを止めれば、命の気の供給がストップし、デューに気付かれる。皆を呼ぼう。それからこの機械を止めるヤツと格納庫の中へ行くやつと分かれて行動するべきだ。急襲しないと、デューのヤツにはこっちが少しでも優位に立って対峙する必要がある。」

圭悟は、歯軋りしながらも、頷いた。デューラスは、腕輪を開いた。


その報告に、舞は言葉を失った。では…デクスは命の気を人から集めているというの?

『早くこっちへ。オレ達は脇の通路の天井から上った、通風孔に居る。隣の格納庫も見て来たが、デューが何やら作業している人達の間をうろうろしていて気付かれてはとあまり近づけなかった。上から見ていたが、あの兵器にかかりきりだ。他は何も警戒していない…本当に、あれのことしか考えていないようだった。』

ラキは、腕輪に向かって行った。

「すぐに行く。お前達は、そこで待っててくれ。」

『わかった。』

ラキは、腕輪を閉じるや否や、皆に向かって一言言った。

「行くぞ!」

そして、走り出した。皆は話も何もなく、突然に走り出したラキに面食らったが、確かにこうして居る間にも、人がどんどんと死んで行っているのだ。

それに遅れないようにと、舞は必死に走った。

後ろからは、アレスがダイアナを背負って走っているのが見えた。ダイアナは、とても不安そうな瞳で前を見ていた。

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