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下準備

ダッカへ帰ると、もう夕暮れが近づいていた。

アークが、ナディアとシャーラと共に出迎えてくれた。シャーラは、ダンキスに駆け寄った。

「我が君、何か分かり申したか?」

ダンキスは、黙って頷いた。キールは、黙ってシャーラを見ている。シャーラは、黙ってその顔を見ていたが、急に笑って言った。

「まあ、なんて疲れた顔をしておるのかしら、キール。さあ、マーキスも、そろそろ夕飯が出来て来るわよ?他の子達は待ちきれずに炊事場をうろうろしておるのに。あなた達は本当に取り澄ましておって、つまらないこと。」

そして、ふふと笑ってキールの頭を撫でると、ダンキスの手を取った。

「さあ我が君、足を洗う湯を用意しておきました。参りましょう。」

ダンキスは頷いて、シャーラに引かれるままに屋敷のほうへ歩いて行った。キールが、それを見送りながら言った。

「…オレの母親は、シャーラぞ。父もダンキス。幼い頃からそう思って参った。のう兄者。」

マーキスは、苦笑した。

「主は知らぬか?シャーラは怒ると怖い。母とはやさしいものと聞いておったが、どうもそれだけではないらしい。」

キールは、笑った。

「知らぬと思うてか。機嫌の悪い時に、兄者の後ろに隠れておったのは、いくら幼かったとはいえ覚えておるわ。」

マーキスも笑った。

「おおそうよ。兄弟皆が皆オレの背に隠れようとしよって。皆入るわけがあるまいに。」と、舞に微笑みかけた。「我が兄弟は、ここに居る。血のつながりなど関係ないわ。共に育ったのだからの。そう思わぬか、マイ。」

舞は、頷いた。

「そうね。いい兄弟達だわ。」

しかし、アレスが足を踏み出した。

「だが、我が集落の王の子には変わりない。間違いなく、その瞳と首飾りが示しておる。そうなれば、女王との婚姻は出来ぬが、主が王座に就くことは出来る。そうすれば、女王をこのような不自由な座から解放して差し上げられるのに。」

キールは、アレスを見た。

「オレは王になどなりたくない。そこで生まれ育った訳でもない。なので、メクになど行けぬ。」

アレスは、追いすがった。

「だが、キール…、」

「良い。」ダイアナが、言った。「それは追々に考えれば良いことぞ。今はとにかく、しなければならないことがあろう…悪魔を消すこと。」

それを聞いた、アークが口を挟んだ。

「そうだ。見よ。」と、アークは半分に割れた身代わりの石を見せた。「見事にこれは機能した。オレは間違いなくシャルディークの力を使うことが出来た。シャルディークも、これなら問題ないだろうということだ。」

マーキスが言った。

「だが、それで石を一つ失ったの。これで主に三つ、オレに四つ、ダイアナに一つ。」

「それに、オレに一つ。」と、キールが、首飾りを見た。「シャルディークは降ろすことが出来ぬかもしれぬが、女神ナディアはきっと降ろせるだろう。ダイアナがそうだった。オレも、これで力を貸すことが出来ることがわかった。」

舞は、その事実に気付いて驚いた。そうだった。シャルディークはキールに力は使えるが身がもたないと言っていた。だが、少し力が弱い女神ナディアなら、きっと降ろせる。

「まあ」舞が、口を押さえた。「すごいわ!これで、ずっと戦いやすくなるわね。キールも、手伝ってくれるなんて。」

玲樹が、頷いて言った。

「ほんとだな。そんなことまで思いつかなかったから。でも…キールは雄だろう?女神ナディアは、女でないと憑依出来ないって言ってなかったか?」

舞は、それに思い当たって、ハッとした。だが、キールが首を振った。

「恐らく、大丈夫ぞ。身代わりの石に、雄雌などない。ナディアは、オレに憑くのでなく身代わりの石に憑くからこそ、負担がないのだろう。オレは、そう信じる。」

玲樹は、肩をすくめた。

「ま、今度会った時、聞いてみるか。」

キールは、頷いた。すると、向こうからシャーラの声が呼んだ。

「みんな?もうご飯よ!」

皆は慌てて、声の方へと早足で歩いて行った。


次の日の朝、舞とマーキスが起きて来て食卓につくと、圭悟と玲樹、キールが先に起き出して来ていて言った。

「ああ、舞、マーキス。昨夜遅く、シュレーから連絡があったんだ。デューが移動を開始したらしい。」

舞が、驚いた顔をした。

「二、三日居るだろうと言っていたのに、早かったのね。じゃあ、私達もナディールへ向かわなきゃならないかしら。」

圭悟は、頷いた。

「ああ。アーク達には昨夜言ったが、たくさんの兵を連れて移動しているらしいんだ。途中で戦わせるわけでもなく、いったい何事かと言っていたんだが。」

玲樹が、言った。

「何を考えてるのかわからねぇのが気持ち悪いんだ。とにかく様子を見て、どこから攻めるか決めようって言ってる。シュレー達は、もうデルタミクシアの近くの森に潜んでいて、上からナディールを見てるらしいが、気持ちが悪いほど静かだったってよ。あれだけの兵士を連れて行ったくせに、皆どうしたんだろうな。で、さらに連れて行って、どうしようってのかがわからねぇんだ。」

マーキスが顔をしかめた。

「思いもかけないことをしよるのではないかと思うと、気ぜわしいの。早ようあやつを何とかせねば、こうしておっても落ち着かぬ。」

そこへ、ダイアナがアレスを従えて入って来た。それを見た圭悟が、言った。

「ダイアナ。どうする?昨夜話したことだ。危険なのは分かってるし、面倒ならここで居てもいい。」

ダイアナは、アレスを見てから答えた。

「我は、共に行く。そう決めたのだ。世を救うことが出来ねば、一族を救うことも出来ないであろう?なので、行く。我は力になることもあろう。」

ダイアナは、そっと胸の首飾りの身代わりの石を触った。圭悟は、頷いた。

「わかった。心強いことは確かだからな。だがアレス、ダイアナのことは頼んだぞ。オレ達だって、回りを気遣う余裕があるかどうか怪しいからな。」

アレスは、強く頷いた。

「分かっておる。主に言われずとも、それが我の使命よ。」

ダイアナが、アレスを見上げて微笑んだ。アレスは、少し戸惑った顔をして押し黙った。そこへ、アークが入って来て言った。

「オレはもう、準備が出来ておる。今回は、ナディアをここへ置いて行くことにした。」

マーキスが、驚いた顔をした。

「ナディアを?なぜ?巫女の力は必要であろう?」

アークは、首を振った。ナディアが、気遣わしげに何か言おうとしていたが、アークの断固とした様子に口をつぐんだ。すると、マーキスも舞を見た。

「マイ…、」

舞は、首を振った。

「私は行くわ。」

マーキスが何を言うのか分かった舞は、即座に言った。マーキスは、黙った。すると、アークがため息を付いて言った。

「ナディアが、身篭ったのよ。」

皆が、一瞬息を飲んだ。そうだ、そうだった。結婚していたのだった。

「な…なら、連れて行けねぇよな!」玲樹が、沈黙に耐えかねて言った。「めでたいことだが、とにかくアークは子供のためにもデクスをなんとかしねぇと!ナディアは子供のためにもここでじっとしてねぇと!」

ナディアが、ためらいがちに頷いてアークを見た。アークは、黙って頷いた。マーキスが、黙ってそれを聞いている。舞は、自分のお腹もそっと触った…私は、そんなことは無いように思うけども。だって、ちゃんと計算していたし。こっちには検査薬なんかないしなあ。出来ていたとしても、まだ分からないだろうし。

そうして、皆の戸惑いとほんのりと祝いムードの中、皆はダッカをデルタミクシアへ向かって出発したのだった。


シュレーとラキは、シンシアとデューラスと共にデルタミクシア近くの森に潜み、ナディールを伺っていた。気持ち悪いほどにシンと静まり返ったそこは、本当に最終破壊兵器が設置されているのかと疑いたくなるような様だ。だが、間違いなくそこにあるのは、ラキが持っていた小型の波動探知機でわかった。間違いなく、そこにだけ命の気が集中している箇所がある。

しかし、解せないのは、そこに向かって命の気の流れが止められているにも関わらず、命の気が確実に少しずつ増えて行っているということだった。デクスが、どんな方法で命の気を集めているのか分からなかったが、着実に兵器の作動へ向けての準備は進んでいた。

シュレーは言った。

「いったい、何をしてるんだ。このままじゃ、充填されてしまうんじゃないのか。圭悟がアークから聞いたところによると、スイッチを押されたら止めるのは難しいのだろう。満充填されてしまう前に、あれを破壊しなきゃならないのに。」

ラキが、険しい表情で計器を見つめた。

「少しずつだが着実に増えている。オレが見たことのない増え方だ。だから、デシアで行なっていたのとは違う方法で命の気を集めているんだろう。デルタミクシアからの供給は、間違いなくストップされているのは、このグラフを見たら分かる。だが、デクスは他の方法を思いついたのだ。」

シンシアが、横でノートパソコンを叩いていたが、顔を上げた。

「…このままの速度で増え続けると、明日の明け方には満充填されてしまうわね。皆はまだ来ないの?間に合わなくなるわよ。」

シュレーが答えた。

「デルタミクシアまではグーラに乗って来るからすぐだ。そこから歩いてここまで来るから、そうだな、さっき出たとケイゴから連絡あったから、後二時間ぐらいか。」

「じゃあ、ここからナディールまで一時間として、まだ三時間は掛かるな。」デューラスが眉を寄せて言った。「兵器の所まで行くのにどれぐらい掛かるかわからないし、間に合わない可能性もあるぞ。」

ラキが、計器を閉じた。

「先に下へ降りて、ある程度調べておこう。どれぐらいで奥まで到達出来るか先に見ておいた方がいいだろう。」と、立ち上がった。「オレが行って来る。」

デューラスが立ち上がった。

「いや、オレ達が行く。ああいう所に潜入するのは慣れてる。あっちから連絡する。」と、シンシアの方を向いた。「行こう、シンシア。」

シンシアは、パソコンを閉じて縮めて腰のカバンに入れた。

「分かった。じゃあね、二人とも。」

デューラスとシンシアは、すっとそこを出て足音も立てずに去って行った。

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