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ディンダシェリア ~The World Of DYNDASHLEAR~  作者:
明らかになって行く過去達
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対決の前に

シオメルでの三日間は、ゆるゆると過ぎて行った。

舞は、その間にアディアを失ってしまった心の傷を、マーキスと共に癒した。マーキスは、本当にいい夫だった。半分種族が違うことなど、話している時に少し食い違うことがあるぐらいで感じることはない。むしろ、今まで見て来た人の男性と居るより、舞にとっては安らいだ。

マーキスは、人の考え方や習慣を理解しようと一生懸命だった。旅が終わってダッカで生活が始まる前に、ある程度のことを学んでおかねばと、毎日圭悟にこっそり聞いているようだった。舞に隠して聞いているのだが、舞には丸分かりだった…これほど、嘘がつけないのも珍しいなと舞は苦笑した。まだ出逢ってあまり時間が経っていないのに、舞はとてもマーキスのことを信頼していた。

今日は、アークと玲樹達が、ダイアナ達と共にここへ戻って来る日だった。舞は目を覚まして、傍らに眠るマーキスを見た。とても綺麗なブルーグレイの髪…。舞は思って、その髪を手でそっとすいた。

マーキスが、目を覚ました。

「マイ…朝か?」マーキスは、窓に掛かるカーテンの隙間から漏れて来る朝日を見た。「あやつらが戻って来るの。今度は難しい旅になろう…主を、ここへ置いて行ければ良いのに。」

舞は、驚いた顔をした。

「何を言うの、マーキス。離れていて、何かあったらと思ったら気が気でないわ。私は、一緒に行く。私は戦える巫女だから、浄化の攻撃魔法がかなり役に立つって分かったじゃない。ね、一緒に頑張ろう?」

マーキスは、それでもあまり気が進まないようだった。

「そうよの…分かっておる。必要なことだとな。だが、主を危ない目に合わせたくないと思ってしまう。主を失うのが怖くて…オレは、かなりのエゴイストであるな。自分のために、主を守りたいのだ。」

舞は、マーキスに身を寄せた。

「マーキス…私だってそうよ。マーキスが無事だったら、他はどうでもいいなんて、そんな風に思ってしまう時もあるわ。でも、この旅は私達のためでもあるの。世界を助けないと、ここで幸せに暮らせないから。だから、頑張る。マーキス、一緒に行こう。」

マーキスは、苦笑した。

「分かった。主は頑固であるしな。さあ、チビを起こして、下へ飯へ行こう。アーク達は、恐らくすぐに来るぞ。」

舞は頷いて、チュマをそっと抱き上げる。チュマは、まだ寝ぼけたまま舞を見た。

「マイ…?朝?」

舞は微笑んだ。

「そうよ。さあ、ご飯に行こうね。それから、また出発よ。また助けてね、チュマ。」

チュマは、急に元気になって、両手を上げた。

「うん!ボク、マイとマーキスのために頑張るよ!ボクのパパとママだもん!」

マーキスが、笑ってチュマを舞から抱き取った。

「こんなに大きな子が居るとはの。オレはまだ20年しか生きておらぬのだぞ?だがまあ、良いか。」

そうして、三人は一階へと降りて行った。


一階へ降りて行くと、慌しい中で、圭悟とキールが座って先に食事を摂っていた。マーキス達に気付くと、圭悟は、マスターに向かって手を上げた。どうも、先に注文してくれていたようだ。

「おはよう。すぐに食事を持って来てくれるから。」

相変わらず、キールは難しい顔をしている。マーキスが言った。

「キール…主、まだ悩んでおるのか。」

キールは、マーキスを見た。

「兄者は、生まれた集落を覚えておるか。」

マーキスは、頷いた。

「覚えておる。一度その上を、ダンキスを乗せて飛んだことがあったが…もう、あれはオレの集落ではないからの。戻ろうとも思わなんだが。」

キールは、小さくため息を付いた。

「オレは、卵の頃にダンキスに拾われたゆえ、ダッカしか知らぬ。それは別に、今までどうでも良いことであったが、メクへ結婚して入るとなると、己のルーツが気になっての。兄者は、あのジョシュとローラの子であることが分かった。だが、オレは誰の子であったのか分からぬのだ。」

マーキスは、ため息を付いた。

「主の気持ちは分かる。オレも、親が分かるまでは同じような心持ちであったからの。そうであるな…ダンキスなら、知っておろう。主を拾った集落が、どこにあったのかの。親のことはどうか分からぬが、一度聞いてみてはどうか?」

キールは、頷いた。

「そうであるな。ダンキスなら…。旅が終わったら、ダッカへ戻って聞いてみよう。」

キールの目が、少し明るくなった。運ばれて来た食事を、舞とマーキス、チュマが進めていると、圭悟の腕輪がぴぴと鳴った。

「あ…シュレーだ。」

圭悟は、腕輪を見た。そして、送られて来るぴぴ、ぴぴ、という長さの違う信号を、いちいち側の紙のナプキンに記号で書き取っている。そして、それをしばらく続けた後、言った。

「…もう、デューがデシアへ入ったそうだ。」圭悟は、顔をしかめながら言った。「一週間ごとに戻ってるんじゃなかったのか。一日早い。」

マーキスが、そちらを見た。

「しょうのないことよ。ナディールに戻るのを、待つしかあるまい。そうそうデシアでじっとしてはおらぬだろうし。せいぜい数日であろう。」

圭悟は、腕輪をカチカチと叩いた。何かのスイッチを入れたり切ったりしているようだ。

「…送ったよ。じゃあ、ミクシアへ行っといた方がいいかな?どうせオレ達はデルタミクシアから徒歩でナディールへ向かうんだろうし。少しでも近い方がいいだろう。」

すると、キールが言った。

「ならば、オレはダッカへ戻る。」皆がキールを見た。「時があるなら、ダンキスに話を聞いてきたい。すっきりしておきたいのだ。」

マーキスが、頷いた。

「そうだな。オレもダッカに戻りたい。ダンキスの様子を確かめておきたいので。」

圭悟は、首をかしげた。

「そうだな。ダッカからでもデルタミクシアまで、マーキス達に乗ったらすぐの距離だし。アーク達なんて、一日でダッカからメクまで飛んだんだろう。グーラは、本当に凄いよな。」

マーキスは圭悟を見た。

「あやつらは、本当に能力が高いグーラだ。人を乗せることにも、すぐに対応しておった。おまけに気流に乗ることにも長けておるから、スピードが出る。オレも学びたいものだ。」

また、圭悟の腕輪がぴぴと鳴った。圭悟は、再びそれを聞きながら書き留めている。舞はいつもそれを見ながら、現実社会の携帯メールを思い出した。メールは、確かにこんなに面倒ではないけれど。

しばらくして、圭悟が皆に言った。

「デシアのレイから、恐らく二日は居るだろうと返答があったらしい。デシアを発ったら連絡をくれると。なんでも、大量の兵士達を、ナディールへ連れて行く準備をしているようだ。もう結構な人数を連れて行ってるのに、あの小さな村をどうするつもりだろうとレイは言っているらしい。で、シュレー達は、安全なライアディータ側へ移って、山岳地帯をデルタミクシア目指して移動すると言っている。それで、二日は掛かるだろうから、ちょうどいいだろうと。レイからデューが移動したら連絡が入るから、そうしたらデルタミクシアで待ち合わせようとのことだ。」

マーキスは言った。

「そうか。ならば時間に余裕があるの。アーク達が来たら、一度ダッカへ帰ろう。そこでダンキスの話を聞きながら、シュレーの連絡を待とうぞ。」

圭悟は、頷いて手が止まっている食事の皿を押した。

「さあ、今にも来るかもしれないのに。シュレーには、また連絡しておくよ。」

舞とマーキスは、手を動かし始めた。圭悟はそれを見てから、またカチカチと腕輪を指で叩いている。そんな圭悟を、キールは少しホッとしたような顔で見ていた。


食事も済んで、荷物をまとめていた頃、もうすぐ着くと連絡があって、圭悟は街道の入り口まで迎えに出ていた。アークと玲樹とトゥクが、ナディアとメグと共にアレスとヘリオスに乗って到着した。なぜか、ダイアナは人型のままだ。圭悟は、それを見て言った。

「あれ、ダイアナ?体でも壊したのか、飛んで来ないなんて。」

ダイアナは微笑んだ。

「我は、アレスに乗っておるのが心地よくて。かなり慣れたのであるぞ?この形で乗るのも。」

アレスが、グーラから人型になりながら言った。

『なぜだが、気に入られたようでの。』と、すっかり慣れたように人型になった。「一人ぐらい増えても、我は一向に構わぬのだがな。」

トゥクが、笑った。

「単に楽がしたいだけではないのか?ダイアナよ。」

ダイアナは、少しふて腐れたように答えた。

「まあ、トゥク!そうではないわ。確かに長旅は疲れるけれど。」

そんな風に、軽口をたたくトゥクに、圭悟はびっくりして見ていた。行く時のあの、緊張感が無くなっている。何かが解決したようだ。

聞きたかったが、あえてそれは言わずに、圭悟は踵を返した。ここで何か言って、この穏やかな雰囲気を壊したくなかったのだ。

「今朝、シュレーから連絡があって、デューがデシアに戻ってしまったらしい。しかし、あちらに兵を連れて行こうとして戻っただけらしくて…移動したら、また連絡をくれる。そうしたら、デルタミクシアで落ち合う予定だ。それまで、ダッカへ戻ろうと言っていたんだ。さ、こっちだ。マーキス達は牧場の方の出口で待ってるんだよ。」

アーク達は頷いて、圭悟に付いて歩いて行った。

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