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ディンダシェリア ~The World Of DYNDASHLEAR~  作者:
明らかになって行く過去達
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空間移動

アーク達が、茶を進めてもらいながらハンツとカリンが忙しなくキーボードを叩くのを、もうかなりの時間見ていた。その間に食事が来て、昼食までご馳走になった。そういえば、外に居るダイアナとアレス、トゥクはどうしただろう。

玲樹が心配になって来た頃、ハンツとカリンが何やらぼそぼそと話し合っていたかと思うと、こちらを向いた。

「…結論が出たか?」

アークが言うと、ハンツが頷いた。

「動力は命の気ですが、それを吸い上げるためのレンズのようなものが、ここに」と、上の方の、発射口の横にぐるりとついている丸いものを指した。「実に20個も付いています。ですがこれは一つでもかなりの気を吸い上げることが出来、仮にデルタミクシアのまん前に置いたとしたら、ものの数分で充填が完了します。しかし普通の気の量であるなら、拡散しているものを集めるので満充填するには何日も掛かるでしょう。特殊な素材で出来ておるので、まだ充填されていないなら、これを壊すだけでも充分に起動させることを阻止することが出来ます。」

玲樹が、横から言った。

「充填されてたら?」

ハンツは、険しい顔をした。

「スイッチを押してから、機動まで約三分。その三分が経ったら、どうやっても止めることは叶いません。命の気はかなりの力を持っている。それを収束し始める訳ですから、破壊するのにも、かなりのリスクを伴います。そのまま爆発する恐れがあるのです。」

玲樹は、深刻な顔をした。

「つまり、スイッチを押す前に壊さなきゃならないんだな。急所はどこだ。」

ハンツは、緑色の線で書かれた画面を指先で叩いた。

「ここです。」ハンツの指は、発射口の下の、レンズの更に下、まるでコケシの首のように狭くなっている箇所を指していた。「ここに、命の気を打ち出すための指令を出すシステムが集中しています。ミクスが作ったのはまさにここ、空間を破るのに適した力、適した幅、そして適した箇所を選んで制御する。ここさえ壊してしまえば、打ち出されても命の気が回りに拡散するだけで、空間はびくともしません。」

アークと玲樹は、そこを睨んだ。

「…よし。ここをしっかり覚えて圭悟達にも知らせなきゃならねぇ。」

玲樹が言った時、一人の若い男が突然にドアを開けて飛び込んで来た。

「教授!」

皆が、びっくりして振り返る。カリンが、すぐに画面を消した。ハンツは、顔をしかめた。

「何を慌てている。王のお客様の前だぞ。」

その男は慌てて頭を下げた。

「あ…申し訳ありません!」

ハンツは不機嫌に言った。

「それで何だ。」

男は、また慌てた様子で言った。

「被験者が!第二実験室の!体の回りに、あの波動が出始めています!」

ハンツは、不機嫌な顔も忘れて慌てて立ち上がった。

「空間を飛ぶか!」

ハンツは飛んで出て行った。カリンもそれに続く。皆も、何事だろうと思ったが、それにつられて一緒に走って付いて行った。


駆け込んだ先は、モニター室のような場所だった。いくつかの部屋に居る被験者達を、そこでモニターしている。そこには五つのモニターがあって、その下にはいくつものグラフや波形が現れた黒い画面があった。そのうちの一つの上にあるランプが、赤く点滅している。モニターに映った男はベッドでうたた寝のような感じで横になっていた。

「おお…まさにそうだ。記録しているか?」

前の椅子に座っている別の若い男が答えた。

「はい。教授が仮説を立てられたことを、証明出来るかもしれませんね。」

ハンツは、喉をごくりと鳴らしながら頷いた。玲樹も、その様子にこれがかなり珍しいものであることが分かった…自分達も、こうしてあっちへ呼び戻されるのだ。思わずメグを見ると、メグも固唾を飲んで見守っていた。

すると、急に目の前の波形が大きく揺れて激しく動き出した。

「…変換されます!」

モニターしている男が叫ぶ。ハンツは言葉を返さずただ頷いて、じっとモニターを凝視していた。

「あ!」

メグが叫んだ。モニターの中で寝ていた男は、スーッと光の粒子のようになって、光に変わって行く。

そして、10秒も経たない間にその男は消えた。

波形が、横一線になった。玲樹は顔をしかめた…何だか、死んだみたいだ。

しばらくシンとなっていたその部屋の中の白衣の男達が、一斉に立ち上がって歓声を上げた。

「やりましたね!」

「やはり、エネルギーに変換されてますよ!」

「命の気に近い感じです。これからデータを分析します。」

口々に、ハンツに声を掛ける。ハンツは、感極まって涙ぐみながら頷いて、玲樹達を振り返った。

「いやー、あなた方は運がいい。我々がここ10数年見られなかった物を、今初めて来てご覧になったんですから。工夫を重ねて、やっとここまで来たんです。」と、目の端を拭った。「私の仮説は、物質のままでは空間を移動するのは困難だろうということで、命の気に似たエネルギーに変換されて送られ、あちらで実体化するのではないかというものでした。というのも、帰る前に皆必ず微かな命の気に似たエネルギー反応を残しているのです。どういった術を使ってああして移動しているのかはまだ不明ですが、本人達の意思とは関係ないところで行なわれていることは確か。いつか、自由に行き来する装置を作れたら…と私は望んでいるのですが。」

玲樹は、頷いた。

「ほんとにな。オレだってあっちに居て、無性にこっちが気になることがあるのに、自分の意思では来れないからいつも歯がゆかったんだ。早く開発出来ることを祈ってるよ。」

ハンツは、笑って頷いた。

「まだまだ、何十年も掛かりそうですがね。」と、何かに気付いて側の研究員を見た。「ああ、あの被験者の腕輪データが、今度来た時に吸い上げられるように報酬を打ち込んでおいてくれ。」

そう言って渡した書類に、百万金と書いてあって驚いた。凄い、一千万円じゃねぇか!

「暇が出来たら、被験者しようかなあ。」

玲樹が思わずつぶやくと、ハンツは驚いたように振り返って微笑んだ。

「是非!この部屋と、モニター出来る庭しか行き来出来ませんが、早く帰ればそれだけお得ですしね。」

玲樹は、閉じ込められることを考えて、身を震わせた。

「…いや、オレにはじっとしてるのは無理だな。」

しかも四六時中見てやがると来た。玲樹は愛想笑いをして、そこを後にした。


カリンに送ってもらって出口まで来ると、門の前にアレスとダイアナが立っていた。アークが、出て来ながら言った。

「どうしたのだ?なぜに中へ入って来なかった?」

アレスが、顔をしかめて言った。

「あちらで用が済んで、女王が退屈だというのでこちらへ参ったが、我らはどうやって人を呼べばいいのか分からんでの。」

玲樹が、笑った。

「ああ、こんな近代的な建物は初めてだったもんな。ほら、ここだ。」玲樹は、門の横のインターフォンを指した。「これを押したら、中でベルが鳴る。誰か来たと知った中の人が、これを通じて用件を聞くって感じだ。」

ダイアナが、興味深げにそれをじっと見つめた。

「ほう?こんなもので話せるとは、人は面白いものを作ったのだの。」

アレスは、顔をしかめたままだった。

「慣れなくては、人の中で行動するのは難しい。」と、ヘリオスを見た。「で?何かあったか。」

ヘリオスは、首を振った。

「いや、何も。ただただ退屈に、飯を食って茶を飲んで、人の男が消えるのを見て出て参っただけぞ。」

玲樹が苦笑した。

「おいおい、肝心なことを忘れてるぞ。あの兵器の弱点を教わった。これで、効率的に破壊することが出来る。」

アークが、暮れて来る日を見ながら頷いた。

「有意義であったわ。さあ、ラピンへ戻ろうぞ。身代わりの石が、どこまで出来たのか見ておかねばならぬし。」

控えめに近寄って来た、トゥクに気付いた玲樹は話しかけた。

「トゥク。で、何か分かったか?」

ダイアナと、アレスがじっとトゥクを見ている。トゥクは、ためらいがちにしていたが、頷いた。

「ああ、我らの先祖のことが。ほんになあ…我ら数百年も、何をしておったのかといった心地よ。」と、伸びをした。「アレス、すまぬがラピンまで乗せて行ってくれぬか。」

玲樹は、驚いた。トゥクが、グーラに話しかけている。それだけではなく、頼みごとをしている…。

アレスは、頷いた。

「ああ、乗るが良い。」

アレスは、グーラになった。それを見たヘリオスも姿を変える。玲樹がトゥクに続いてアレスに跨ると、人型のままのダイアナがアレスによじ登って来た。アレスが、びっくりして振り返った。

『女王?!』

ダイアナは、ふふっといたずらっぽく笑った。

「一度人型のままでアレスに乗ってみたかったのだ。良いであろう?」

アレスは、しどろもどろに答えた。

『それは…構いませぬが、しかし、飛ぶことが出来まするのに…女王が我の上に乗るなど…』

何を言ってももう、ダイアナは乗っていた。すると、トゥクが言った。

「初めて乗るのに、そんな最後尾に。落ちてしもうたら何とする。我の後ろへ。玲樹、ダイアナを後ろから支えてやってくれ。」

玲樹は、頷いてトゥクと自分の間にダイアナを座らせた。ダイアナは、トゥクに掴まって、玲樹はダイアナが落ちないように支えた。

「さ、準備出来たぞ。アレス、行ってくれ。」

アレスが、慎重に飛び立った。それを見たヘリオスも、アークとナディア、メグを乗せて飛び立つ。ダイアナは、歓声を上げた。

「おお!ほんに風が違うの!アレスはやはり、飛ぶのが速い。幼い頃の記憶の通りよ。」

玲樹が、ダイアナを見た。

「小さな頃から一緒なのか?」

ダイアナは、頷いた。

「そう、アレスが10の時、我が生まれて我の護衛になった。それからアレスが子守役であったし。まだ我が飛ぶことが出来ぬ時、ぐずる我を乗せて、よくこうやって飛んでくれたのだ。」

アレスは、驚いた。

『そんなこともあり申した。よう覚えていらっしゃるな。』

ダイアナは、つまらなそうにふんと鼻を鳴らした。

「主は何でも忘れてしまうからの。」

アレスは、自分はきちんと任務を遂行して来たはずなのに…何を忘れているのだろうと思った。

玲樹は、そんなダイアナを見ながら、何かを考え込んでいた。

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