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ディンダシェリア ~The World Of DYNDASHLEAR~  作者:
明らかになって行く過去達
163/193

旧ラルーグへ

ラピンで目が覚めた玲樹は、手早く朝食を済ませていた。アークが、先に起きていて玲樹の部屋へ入って来た。

「アレスもヘリオスも準備が出来たとのことだ。身代わりの石は、言った大きさで全部で9個取れていた。」

玲樹は、驚いた。

「もっとあるかと思ったのに。」

アークは、首を振った。

「あれは、丸く艶やかに仕上げねばならぬらしい。そうするとあの不揃いな形では、それが限界であろうよ。」

玲樹が頷くと、アークの腕輪が鳴った。アークは、腕輪を見た。

「ケイゴからだ。」と、応答ボタンを押した。「ケイゴ?」

『アーク、おはよう。シュレーから連絡があった。昨夜王城で情報を仕入れて来たらしい。これから四日はデューはナディールに居る予定のようだ。レンというラキの仲間が憑かれて居なかったので、これからも情報を流してもらえるようだ。通信も、傍受されても大丈夫だろうが、念のためとライン信号で知らせて来た。』

玲樹が驚いたように横から言った。

「なんだ、あの黒いのに耐性でもあるヤツなのか?」

圭悟は答えた。

『玲樹?ああ、なんでもミクスとかいう研究者の一人から没収したペンダントが、身代わりの石だったかららしい。あの兵器は、空間を破壊する物として作られていたのがわかった。』

アークが、玲樹と目を合わせて驚いた顔をした。

「身代わりの石は、そんな身代わりにもなるのか。しかし、空間を破壊…。そんなことをして、己は生きておられると思っておるのか、デクスは。」

玲樹が、ふんと笑った。

「どうせあいつはもう死んでるからな。だが、消滅はしたくないはずなのに。しかし、空間…どっかで聞いたな、昨日。」

アークは、ああ、と手を打った。

「昨日、ここの長が言うておったではないか。旧ラルーグの跡地近くに、王立空間研究所とやらが建っておると。気の計測に適した場所だからとの。」

玲樹が手を叩いた。

「そうだ!そもそも、何の空間なんだ?」

圭悟の声が、興奮したように言った。

『ああ!シュレーからデータを送って来たんだよ!専門用語ばかりで分からないと言ってたが、そこで見てもらえば分かるんじゃないか?』

二人は顔を見合わせた。

「よし。」玲樹が言った。「ついでに聞いて来る。破壊のヒントがわかるかも知れねぇ。そいつを送ってくれ。」

圭悟は、嬉しそうな声で答えた。

『すぐに送る。これで、少し破壊がしやすくなりそうだ。』

アークの腕輪が、明るく光った。データが転送されて来たようだ。アークは、言った。

「無事に来た。では、行って参る。主らはもうしばらくそこで待機しててくれ。」

『了解。』

圭悟からの通信は切れた。玲樹は、アークの腕輪を見ながら言った。

「何だか、より大事になって来たみたいだな。ただの墓参りだったのに。」

アークは、腕輪をぱちんと閉じて言った。

「オレはホッとしている。何かしていなければ、落ち着かぬのよ。ただ待つなど、気が急いてならぬからの。」と、踵を返した。「さあ、行くぞ。皆待っておるのだ。」

玲樹は頷いて、剣を腰に挿すと、アークについて出て行った。


旧ラルーグの跡地は、真新しい王立空間研究所らしき建物を覗いては、何も変わっていなかった。玲樹は、ラピンから持って来た花を、ただ石を積んだだけの墓らしき場所に手向けた。付いて来たのは、アークとメグ、それにナディアだった。トゥクは、遺跡の残っている所を、くまなく歩き回っていて、ダイアナとアレス、それにヘリオスは遠慮がちに遠くに立っていた。

玲樹は、言った。

「…すっかり足が遠のいちまって。だがな、オレは忘れてたわけじゃねぇんだよ。ユリナみたいなヤツらの世話が、忙しくってさ。」

メグは、それを聞いて苦笑した。昔の恋人らしきひとの墓前に、他の女の所へ行くのが忙しかったから来れなかったと言うのもどうだろう。

しかし、アークは遠慮なく言った。

「主の昔の女であろう?もっと気の利いたことは言えぬのか。」

玲樹は、アークを振り返った。

「昔の女だって?いいや、こいつは出会った時には既に病で起き上がることも出来なかった。」と、墓石の方を見た。「暇だったんで、この辺りまで足を伸ばして一人で狩りをしてたら、こいつが倒れてたのさ。死んでるのかと思ったが、生きててな。急いで村を探して、連れて行ったのがあのラピンだったんだ。」

メグが、驚いた顔をした。

「え、あの、何ヶ月も帰って来なかった時でしょう?女と遊んでたって言ってたじゃない。」

玲樹は、少し黙った。そして、言った。

「…だから、ユリナとさ。こいつは、バルクで幼い頃置き去りにされてたのが見つかって、それからあの辺りの歓楽街で働いていたんだ。サラマンダーじゃない、そんな感じの店でな。」

メグは、言葉を詰まらせた。つまりは、身売りして?

「…でも、じゃあどうしてここで倒れていたの?」

玲樹は、まだ墓石を見つめていた。

「あの辺りの店は酷いもんさ。セリーンは、そんな女を少しでも無くそうと高待遇で女達を大事に扱ってるが、他はそうじゃねぇ。今はリーディス王の規制でかなりましになったが、少し前は酷かった。ユリナのように身よりもない、病気の女は店から追い出されるしかなかったのさ。あいつは、死に場所を探してさまよっているうちに、こんな所まで来て、力尽きて倒れていたんだ。オレが見つけた時にはもう手遅れで、ただ死ぬのを待つような状態だった。」玲樹の目は、心なしか潤んでいるようだった。「せめて、最後まで側に居てやろうと思ってな。別に家族でも恋人でもなかったが、それでもオレは、三ヶ月の間こいつと話して側に居たよ。いよいよ逝く時に、約束したんだ。こいつみたいな女が、少しでも楽になるように、心の拠り所になるってさ。オレに出来るのは、それぐらいしかなかった。政治とかにはからっきしだし、なぜだかオレって女にモテるから。だったら、相手が喜ぶんなら、そうしようってね。」

玲樹は、冗談めかして笑った。メグは、涙ぐみながら笑って言った。

「確かにあなたってモテるわよね。でも、玲樹らしいわ。」

玲樹は、ふんと笑って踵を返した。

「アークだったら、もっとたくさん女を救えるぞ?」神妙な顔をしていたアークが、驚いた顔をした。「冗談だ。結婚してる男に、そんなことは言わねぇよ。」

ナディアが、涙目で言った。

「お兄様に、もっと厳しくして頂きまする!我が、お話いたしまするから。」

玲樹は歩き出しながら笑って言った。

「期待してるよ。でもまあ、目が行き届かない場所だってあるからな。」

向こうに、王立空間研究所が見える。四人は、グーラ達に合流した。

「オレ達は、あの研究所へ行くが、お前達はどうする?」

玲樹が聞くと、ダイアナは言った。

「我は、あの」とうろうろと歩き回っているトゥクを見た。「トゥクの探し物が気になるゆえ。ラピンと同じく我らを崇拝していたというこのラルーグの民が、どうしてここを去ったのか知りたい。」

アレスが、進み出た。

「我もお供を。ヘリオス、主が中へ付いて参って、何かの時にはこやつらを守るのだ。」

ヘリオスは、軽く頭を下げた。

「分かり申した。」

玲樹は、苦笑した。

「研究所だから、何もないとは思うがな。」

そうして、ヘリオスを加えて5人で、その研究所の門の前に立ったのだった。


トゥクは、一心不乱に何か残っていないか、壁にでも何か刻んでいないか探した。しかし、何も残っていなかった。何しろ、何百年以上も前のことなのだ。がっくりして遺跡の石に腰掛けると、グーラのアレスという男が、近づいて来た。トゥクは緊張した…玲樹は、どこへ行ったのだ。

トゥクがきょろきょろしているので、アレスは言った。

「あやつらは、研究所の中へ入って行った。」と、脇の方角を指差した。「あちらに、墓所がある。地下へ入って行く場所であるが、比較的綺麗に残っておるようよ。あちらも見てみればどうか?」

トゥクは、言われてそちらを見た。確かに、あれは墓の形だ。入り口が地下へと続いていて、自分達の今の村にもあるものと、形はそっくりだった。トゥクは、アレスと目を合わせずに頷いた。

「行ってみる。」

トゥクが立ち上がったので、アレスもそれに続いて歩いてそちらの方向へ向かった。

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