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ディンダシェリア ~The World Of DYNDASHLEAR~  作者:
明らかになって行く過去達
159/193

苦しみの終わり

気が付くと、舞は地面の上に転がっていた。同じように少し離れた場所に圭悟も転がっているのが見える。マーキスの腕が、自分を支えたのが分かった。

「マイ…終わったようぞ。」

舞は頷いて、回りを見回した。あの繭を構成していた蔦は跡形も無く消え去っていて、それと共にあのデクスの黒い気も感じ取れなくなっていた。メグが、あちらで圭悟に駆け寄っていたが、圭悟は自分で立ち上がった。そして、何かを見ている。舞は、圭悟の視線の先を見て、そこに元の姿のアディアが横たわっているのを見つけた。

「ア、アディア!」

舞は、急いで立ち上がって、マーキスの手をすり抜けてアディアに駆け寄った。あちこち擦り切れて、身動きしなかったが、それは間違いなく、元のアディアの体だった。

そして、生命の兆候は無かった。

「ああ…!」

舞は、泣き崩れた。自分が、殺した。浄化の光を放って…。デクスの命の欠片を、消し去って…。

「マイ…。」

マーキスが、舞の肩を抱く。舞は、それでも涙が止まらなかった。

《悲しまないで。》

アディアの声が、囁くように言った。舞は、びっくりして顔を上げた。そこには、あの時見たぼんやりとした光の中に、アディアが見えた。

《私の記憶で、あの命の欠片はとても苦しんでいたのよ。でも、もう返してもらった。あの命の欠片は、元の姿になったのを見てホッとして、消えて逝ったわ。》そのアディアは、言った。《私はあなたを知らないけれど、あのアディアは確かにアディアだったのよ。僅かな間だったけど。ありがとう…さようなら。》

「アディア!」

その姿は、微笑みながら上昇して、消えて行った。圭悟が、言った。

「あれは、本当のアディアだ。オレ達が共に旅をしていたのは、アディアの記憶を持ったデクスの命の欠片だった。」と、消えて行った夕闇が迫る空を見上げた。「本物のアディアが、記憶を取り返しに来たんだな。」

舞は、頷いた。マーキスが、いたわるように言った。

「これで、二人のアディアは楽になったのだ。そうして、デクスの繭も消えた。アディアを埋葬しようぞ。そして、我らは次の仕事へ向かわねばならぬだろうて。」

圭悟は、頷いてアディアの体を抱き上げた。

「葬ってやろう。やっとゆっくり休めるんだから。」

舞は何度も頷いて、圭悟の後に続いた。そして、そこの小高い丘の上に穴を掘ってアディアを埋葬すると、シオメルへと向かったのだった。


その頃、アークと玲樹は、グーラ達と共に灯が入り始めた村長のマシークの家で座っていた。目の前には、採って来た身代わりの石が並べられている。それは、皆まちまちの形と大きさだった。玲樹から話を聞いたマシークは、自らの胸にも光る、金色の台座に紫の石が着いた首飾りを振って頷いた。

「では、早急に加工させましょう。ですがこれは、とても気が必要なこと。職人一人で一日一個加工出来たら良いところです。なるべく多くの、ということになると、少しお時間を頂くことになりましょう。」

ダイアナが言った。

「それは、どれぐらいか?」

マシークはじっと石を見つめて考え込んだ。

「…おそらく、三日。こちらに居る職人を全て使ってさせまする。」

アークは、焦って、玲樹を見て言った。

「しかし…今にもマーキスがそれを使わずに力を使っておるかと思うと。」

玲樹は、困ったように言った。

「アーク、気持ちは分かるが、焦っても仕方がねぇよ。それに時間があるなら、待ってる間に行っておきたいところがある。」

マシークが、玲樹を見て気遣わしげに身を揺らした。

「…ユリアの、所か。」

玲樹は、頷いた。

「ああ。最近は全く行ってなかったしな。明日にでも、ちょっと行ってくる。船を貸してくれ。」

アークが険しい顔をした。

「レイキ、こんな時に女の所へなぞ。」

それには、マシークが首を振って答えた。

「ユリアは、もう居らぬ。レイキが言うのは、ユリアの墓ぞ。あれが望んだ、ここから少し河を下った所にある丘に眠っておるのだ。」

アークは、ハッとした顔をした。そして、バツが悪そうに下を向いた。

「その…すまぬ。勘違いをしてしもうたようだ。」

玲樹は、苦笑して首を振った。

「いいよ。オレの素行を見てたらそう思うのも無理はねぇ。」と、トゥクを見た。「それに、トゥクの探し物を見つけるにも、時間が必要だしな。三日はいい時間だ。」

「探し物?」

マシークが不思議そうな顔をする。トゥクは頷いて、自分の首飾りを外した。

「この、ここに彫られてある地図の真ん中の町が、どこにあったのか知りたい。もう、今は無いのだが。」

マシークは、それを見て首をかしげた。

「…古い地図だな。しかし、ここの呪術士がこういうものを扱っておって、代々伝わっておるはず。少し待ってくれ。」と、側の女性に何か言った。女性は、出て行った。「すぐに呼んで来させよう。」

その間に、アレスが玲樹に言った。

「船を使わずとも、我が乗せて参ろうぞ。」と、目の前を職人達によって運ばれて行く、身代わりの石を見送った。「あれが加工されるまで、我らも時があるゆえ。」

玲樹は、微笑んで頷いた。

「そうしてくれると、助かるな。お前達なら速いし、すぐに帰って来れるから。」

アレスは、戸惑いがちに頷いた。うれしげに微笑まれて、どう返したらいいのか分からなかったらしい。

そこへ、変わった羽飾りがついている民族衣装を身に着けた、老人が入って来た。同じような衣装を着た若い男に支えられて、なんとか歩いている感じだ。大丈夫かと玲樹が冷や冷やしながら見ている中、その男を見たマシークが言った。

「これが、呪術士の長、ルー。そしてその孫のオーグ。」マシークは、ルーを見た。「レイキは知っておるな。その仲間のアーク、ナディア、トゥク、そして山神が人に変げしてくださっておる、アレス様、ダイアナ様、ヘリオス様。」

つまりはオレ達はグーラ以下なのか。

玲樹は思って苦笑した。しかし、ここの民にとってグーラは山神。ルーもオーグも、慌てて額づいた。

「ようこそお越しくださいました。その昔、我らが村から妃を迎えていただいたとはいえ、こうしてお出ましになるのは太古の昔より聞き及んでおりませぬゆえ…。」

その言葉には、そこに居るグーラ達は愚か玲樹も、アークも、トゥクもナディアも驚いた。妃?!妃と言ったか?

ダイアナが、皆の気持ちを代弁するかのように言った。

「…それは、我ら初めて聞くこと。妃と?」

ルーは、顔を上げた。

「はい。我ら呪術士の間で、代々語り継がれておることの一つ。まだ、山神と我らが共に行き来しておった頃のことでございます。我が村には、神と話せる力を持った女が住んでおりました。その女は、山神の王と親しくお話をしておるうちに妃にと望まれるようになり、また女もそれを望み、我らの祖先が知恵を与え、女に変げの術を教えたのでございます。そして、大きな力を使う必要が生じ、それに耐えるために、言い伝えで知られておった、この身代わりの石のことを教え、王と共に採って参った。そうして、無事に神と同じ姿に変げすることが出来、娶られたのでありまする。」と、マシークの首飾りを指した。「金の台座に、紫の石。この金色は、山神の王の目の色だったと言われておりまする。これは、村の長へと王妃になったその女から送られたもの。身を守るものだと言い伝えられておりまする。」

ダイアナは、頷いて自分の首からも同じものを取って、見せた。

「王に伝わる、身を守るものだと言われて父から譲り受けた。全く同じものであるが…。」

ルーは目を丸くしながら、それを恭しく受け取った。

「おお…まさしく聞いておった通りぞ。そうか、やはり言い伝えは本当であったか。」

トゥクも、同じ気持ちだった。自分達の昔話と、全く筋が同じような話が、ここでも語り継がれている。やはり祖先は、この辺りの民だったのか。

そう思っていると、マシークがトゥクの首飾りを差し出して言った。

「それで、これなのだが」ルーは、その首飾りを見た。「これは、古い地図よの?」

ルーはそれを見て、明らかに驚いた顔をした。

「何と…これは、ラルーグの?」

トゥクは、必死に頷いた。

「そうだ。我らに伝わるもの。それが、どこなのか分からぬままに、長に伝えられて来たものぞ。主、知っておるのか。」

ルーは、頷いた。

「ラルーグは、山神の王と同じように語り継がれた民の住む村。しかし、遠い地へと移住して行ったのだと言われておるが…。」

トゥクは頷いた。

「クシア湖の近くに居る。」

ルーは何度も頷いた。

「さもありましょう。同じように山神を信仰し、ここで力を合わせて生きておったのに、突然にラルーグの民は移住して去って行ってしまったと聞いております。同じように信仰しておったにも関わらず、我が村からだけ妃が出たせいか、とも言われておったようですが…詳しいことは、伝わっておりませぬ。」

トゥクは、愕然とした。ラルーグも、グーラを信仰していただって?!

「ラルーグの民も、グーラを信仰しておったと?」

ルーは頷いた。

「はい。今は違うのですか。共に守られ、ここで過ごしておったのだと聞いておりますが。」

トゥクは、呆然とした。では、なぜあれほどに恨むまでになったのだ。どうして、移住したのだ。まさか、ラピンの民に対する妬み?いや、そこまでの事ではなかったはず。それならば、次は自分の村からと取り決めればよかったのではないのか。どういうことだ。どういう…。

玲樹が、見かねて口を挟んだ。

「ルー、じゃあそのラルーグがあった場所はどこだ?そこへ行けば、何か残っているか。」

ルーは、首をかしげた。マシークが代わりに答えた。

「ラルーグがその地図の場所だというのなら、主が行こうとしている場所がそうだ。」玲樹は、目を丸くしてマシークを見た。「あそこは元々ラルーグの跡なのだ。」

玲樹は、思い出した。確かに、墓の向こうにいろいろと石が積まれてあった跡や、地下へ伸びるような跡があった。何かの遺跡なのだろうと、気にも留めていなかったが。

「確かに、何かあったな。あれが、ラルーグの跡か。」

マシークが頷いた。

「そう。今は、気を計測したりするのに最適な場所だとかで、王立の空間研究所とやらが横に出来ておるがの。」

玲樹は、トゥクを見た。

「行ってみるか?トゥク。明日オレはアレスに乗せてってもらえるから、お前も一緒にどうだ。」

トゥクは、大きく頷いた。

「行く。我もそこへ連れて行ってくれ。」

アークが、進み出た。

「では、オレも。遺跡とやらに興味がある。どうせ石の加工に時間が掛かるなら、行ってみる。」

アレスが、ヘリオスを見た。

「そう何人も無理であるから、主も来てもらわねばの。」

ヘリオスは頷いた。

「分かり申した。では、本日と同じように致しましょうぞ。」

ヘリオスは、アレスより立場が下であるらしい。玲樹は、ヘリオスに言った。

「じゃあ、明日も頼むぞ、ヘリオス。」

ヘリオスは、ふんと笑った。

「ふん、まあ、主は面白いし良いわ。」

外は、もうすっかり暗くなっていた。

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