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ディンダシェリア ~The World Of DYNDASHLEAR~  作者:
明らかになって行く過去達
158/193

アディアの元へ

暗く、光が少ししか通らないその繭の中を、六人は歩いていた。

舞が開けた穴は、結構な爪跡を繭の中に残していて、それをたどって行くと、自然と中心部へと向かっていた。しかし、それでも少しずつ、舞は力を絞って辺りの蔦のようなものを切り開きながら、足元や頭上から垂れているそれが襲い掛かって来ることがないように細心の周囲を払っていた。切れていても、それがまたいつ命を持って動き始めるか分からなかったからだ。

しばらく進むと、舞の力もそこまでだったのか、穴が途切れている場所までたどり着いた。マーキスが、慎重に回りを見回した。

「…この繭の大きさと形から考えると、もうそろそろ中心部に近い位置にいるはずだ。」と、右の方向を指差した。「おそらく、こちらの方向。」

圭悟は、そちらに網目のように絡まりあっている蔦を見て言った。

「どうする?切り開くか。」

キールが首を振った。

「直接何かが触れるのは避けた方がいいだろう。さっきの圭悟の例がある。穴を開けるなら、魔法で開けたほうが良い。」

舞が進み出た。

「じゃあ、私が浄化の光で攻撃する形の力を放ってみましょうか。」

マーキスが舞を見た。

「あまり力を使い過ぎぬほうが良い。主の力には限界があって、一度に使える力が限られている。ここを破壊するのに使ってしまって、開けた先でその力が必要になったら困るだろう。我らの力で何とかなるなら、そうした方が良い。」

圭悟も、それに賛同して頷いた。

「そうだ。じゃあ、三人の力を合わせて魔法を放とう。」

舞は、チュマを抱いて下がった。メグも、舞に並ぶ。圭悟とキール、マーキスの三人は、アディアが居るだろうと思われる方向に向かって、一斉に炎技を放った。

その炎は、辺りの蔦を焼き切りながら進んで行った。嫌な臭いが漂う…木や草を焼いた時の臭いとは、明らかに違う。動物的な臭い…。

メグが、口を押さえた。舞も、吐き気がこみ上げて来るのを押さえて、顔をしかめて大きな炎がぐいぐいと押しながら辺りの蔦を焼き切って行くのを見守った。

《あああああ…》

空間全体から、苦しむような声が響いて来る。そして、回りの蔦がびりびりと震えた。その声に、思わず圭悟は力を緩めた。

「アディア…?」

舞は、自分の身が切られるような思いをしながら、自分を抱きしめるようなしぐさをした。

「…きっとこれは、アディアの体の一部だから…」

キールが、眉を寄せて言った。

「おぼろげな記憶だが、アディアの体から根のようなものが何本も出て来たのを見たような気がする。」

マーキスが、キールを見た。

「では、これは全てアディアの体から出たものが形作っているということか?」

圭悟が、手を下ろした。

「おそらくそうだ。だから、オレ達に道を開くことも出来たし…きっと、体の中を焼き切られているような感じなんだろうな。」

舞が下を向いた。すると、メグが言った。

「なら、治癒術の一部が使えるかも。」皆が、驚いてメグを見た。「治すのではないわよ。痛みを和らげる術があるの。麻酔の効果があるような、強い術もあるわ。私が、それを放つから、続けて。」

メグは杖を上げて、詠唱した。足元に魔方陣が現れる。そして、杖先から光が放たれて、それは進んでいく先を包んだ。それに合わせて、三人は一斉に術を放った。

舞も、通常の炎の魔法を杖先から放った。少しでも早く、中心部へ行き着かなければ。

回りの震えは止まった。アディアの声は聞こえなくなり、四人分の炎の放流を受けて道はどんどんと切り開かれて行く。6人は、チュマの作った守りの膜の中で、道が開かれるのに合わせて前に進んだ。

「…あのおねえちゃんが居る。」チュマが、不意に言って先を指した。「もう、すぐそこだよ。」

マーキスも頷いた。

「もう、突き抜けるな。」

その言葉と共に、目の前の蔦がなくなって穴が開いた。それを見た四人が炎を止めると、メグの術もそこで消えた。その穴からそこへ出ようとすると、そこから声が漏れた。

《あああ…》

そして、回りがまたびりびりと震える。慌てて走って六人がそこへ飛び出すと、そこはとても広い空間で、その中心には鱗に覆われた女の人型が、まるで宙に浮くように、無数の蔦に支えられた状態で上向きに持ち上げられるような形で居た。舞は、思わず涙を浮かべた。

「アディア…。」

アディアの声は、言った。空間から聞こえて来るのではなく、その人型から直接聞こえて来る声だった。

『早く…早く殺して。体の中をえぐられるようよ。痛くてたまらないの。お願い、早く終わらせて!』

マーキスが、ためらいもなく手を上げた。

「すぐに消し去ってやろうぞ。待っておれ。」

圭悟が、思わずマーキスの腕を掴んだ。

「待ってくれ、アディアの蔦を取り去ってここから連れ出すんじゃ駄目なのか!」

マーキスは圭悟を睨んだ。

「ケイゴ、何を言う。アディア自身が望んでおるのだぞ?あれは、アディアの記憶を持つデクスなのだと言うたであろうが!」

舞は、それでもマーキスを見た。

「でも…でもあれはアディアなのよ!何か方法は…」

ざわざわと回りが揺らいだ。回りの蔦全てが動いている。今までと違う雰囲気を感じて、皆は構えた。アディアの声が叫んだ。

『ああ…抑えられないわ!だから早くと言ったのに!』と、その鱗に覆われた人型は不意に身を起こした。そして、まるで宙に立っているようなしっかりとした格好でこちらを見た。『あの男の、末裔ども。消え去るが良い!』

開いたその目は、金色だった。

「きゃあ!」

舞が、鞭のように襲い掛かって来た蔦の一つに捕らえられて宙へと持ち上げられる。

「舞!」

それを追って足を踏み出した圭悟も、蔦に囚われて宙へ舞った。チュマが叫んだ。

「あの蔦、膜を抜けて来るよ!」

舞は、膜の外へ出た途端に囲んで来る黒い気を感じて、無意識に自分に浄化の膜を張った。そのまま振り回されて、視界が定まらない。自分がどうなっているのかも、判断が付かなかった。

「マイ!」マーキスが叫びながら、襲い掛かって来る蔦を剣で切り捨てつつ脇を見た。「キール!あれを焼く!主は蔦を頼む!チビ!膜を広げよ!」

チュマは頷いて守りの膜を大きくした。マーキスは見る見るグーラへと戻り、絡み付いて来る蔦をキールが斬り捨てている中、アディアに向けて口を開けて炎を放った。

『うおおおお!』姿はアディアの変げした姿だが、声がしゃがれた男声だった。『そんなものに消されてたまるものか!』

黒い霧の集合体のような、球体がマーキス目掛けて発しられた。それは膜を突き破ってチュマの浄化の膜は消された。マーキスはすぐに炎の向きをそちらへ変え、それを散らす。チュマは、慌てて膜を張り直したが、それがすぐにまた壊されてしまうだろうことは、マーキスにもキールにも分かっていた。

舞は、マーキス達に集中してやっと止まった自分を捕らえている蔦に持ち上げられたまま、その光景を見た。マーキスは、舞と圭悟が両脇に浮いているので、その間にあるアディアの体に向かって、力いっぱい炎を吐くことが出来ていないようだった。それに、もし舞達を自分の炎の前に出されたら、すぐに止めなくてはいけないのを見越して、力を加減しているのが分かる。舞は、自由に動く片腕を上げた。

「マーキス!私はいいから!」と、舞は自分から浄化の術の、あの玉を発した。「これを消してしまって!」

舞の玉は、間違いなく効果があった。アディアの体の鱗が逆立って焼けただれたようになり、明らかに防御力はガクッと落ちた。その上、天井に穴を開けた。しかし、これは次を出すまでに時間が掛かる。するとマーキスが、間髪入れずに次の炎をアディアに向かって吐いた。

『あああああ!!』

その声は、今度はアディアの声だった。舞は耳を塞ぎたかった…アディアなのか、デクスなのか、もう判断が付かない。自分の、次の力が貯まりつつある。舞がその玉をまた放つかどうかためらっていると、圭悟が、向こう側から蔦に捕まったまま叫んだ。

「舞!アディアを、救ってやるんだ!このままじゃ、苦しむだけなんだ!」

見ると、圭悟は膜に守られていないのに、黒い気が全く寄り付いていない。舞は頷いて、構えた。

『やめて!』アディアの声が言った。『お願いよ、マイ!』

舞は、戸惑った。アディア…。

《…違うわ。》違う場所から、そう天上から聞こえるような、アディアの落ち着いた声が言った。《違うわ、マイ。もう返して。その記憶を、私に。》

目の前の変げしたアディアが回りを見た。

『誰っ?!』

ふわっと、天井に開いた穴から、何かが降りて来たように見えた。その何かが、アディアの体を包む。

《もう、返して。その記憶を。》

アディアは、驚いたようにそれを見上げている。マーキスが、叫んだ。

「マイ!今ぞ!」

舞は、その声に弾かれたように浄化の玉を発した。それは瞬く間にアディアの体を包み込んだ。

『ぎゃああああ!』

叫んだのは、デクスの声だった。アディアの体から、鱗が剥がれて散り、霧散して行くのが見える。

そして、カッ!と激しい光が発しられて、辺りは真っ白で何も見えなくなった。

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