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ディンダシェリア ~The World Of DYNDASHLEAR~  作者:
明らかになって行く過去達
156/193

デシアに向かう道で

「圭悟!」

目を開けると、目の前のメグと舞が同時に叫んだ。圭悟は、それがまだ繭の中で、自分がそこに倒れている事実を知った。

「ああ良かった…!舞が、どうしても中まで入って行けないって必死に浄化の光で圭悟を探ってて…!」

メグが、泣き崩れながら言う。マーキスのホッとしたような声がそれに続いた。

「もう駄目かと思うた。主はピクリとも動かぬし、マイは必死に眉根を寄せておるし…。」

圭悟は、身を起こして言った。

「大丈夫、舞が引き上げてくれたから。」と目の前に開いた大きな穴を見た。「まだでかい穴を開けたもんだな。」

舞が答えた。

「必死だったから、力の加減が出来なくて…でも、あれのせいで、しばらく手から出る浄化の光が弱かったの。だから、圭悟の心の奥まで浄化の光が届かないのかと、必死で…。」

圭悟は、頷いた。確かに、あの時点まで舞の光が届いて来なかった。ということは、もしもあの良心が言った通りデクスがためらっていなかったなら、自分は飲まれてしまっていたのだ。

「きっと、大きな力を使った後はしばらく力が弱まるんだな。オレも、恐らく飲まれてしまっていただろう…デクスに、会ったんだ。」

圭悟が言うのに、皆は驚いた顔をした。圭悟は続けた。

「詳しいことは後で話すが、デクスの良心に会った。そこで、話していたんだ。だから、オレは舞が来るまで飲まれなかった。きっと、これからもオレはデクスに飲まれることはないと思う。デクスは、オレの心が苦手みたいだ。」

キールが驚いた顔をした。

「苦手?ヤツに苦手などあるのか。」

圭悟は、苦笑した。

「そうみたいだな。ここでは長話は出来ないから、終わってから話すよ。とにかく、先に繭を破壊してアディアの心を救い出さないと。」

圭悟は、立ち上がった。マーキスが、開いた穴を見た。

「どちらにしろ、静かになった。恐らくある程度のダメージは受けたようだな。」

圭悟は頷いた。

「今のうちに進もう。きっと、また何か仕掛けて来るとは思うけど。」

六人は、チュマの作った大きな守りの膜の中で歩き出した。目指すのは、中心のアディアだ。


その頃、シュレーとラキはヘリを降りて、気取られないように徒歩でリーマサンデに入っていた。やはりあの、ゾンビのような兵隊達はうろうろと歩き回っていたが、目はうつろで少し隠れるとこちらが分からないようだった。今も、まだうろついている。なので、二人は奥まった洞窟に潜んで、夜になるのを待っていた。やつらは、操られているだけに指示されたようにしか動かない。さすがのデクスも、大勢の兵隊達の、一人一人の意識を乗っ取っていちいちモニターすることは出来ないらしい。

日暮れまで間があるので、シュレーはラキと黙ってそこに座っていたが、我慢しきれずに言った。

「…ラキ。」ラキは、ちらとシュレーを見た。「やはり、話してくれないか。今の状態で、お前のことを調べにバルクまで行く時間がない。だが、共に行動しているのに、知らないのは気になって仕方がないのだ。」

ラキは、じっと黙っていたが、フッと息を付いた。そして、シュレーを見た。

「…本当は、一生自分から話すつもりなどなかった。」ラキは、前にある岩肌を見つめた。「オレが、リーディス王に拾われたのは知っているな。」

シュレーは頷いた。

「ああ、知っている。まだ陛下も子供だったと聞いている。父王のディーン様と共に、戦で乱れた地を見回っておられた時に、山で行き倒れていたお前を、どうしても連れ帰りたいとおっしゃったのだと。それで、訓練してみるとかなり優秀だったからとか。」

ラキは、また息を付いた。

「そうだ。では、オレの父のことについては?」

シュレーは眉を寄せた。

「知らぬ。名を聞いて記憶をたどってみたが、オレは知らない名だった。」

ラキは頷いてシュレーを見た。

「だろうな。父は王だった。ライアディータに全ての国が統一される戦の最中、敵国に組したとして滅ぼされた、小さな国のな。」

シュレーは、息を飲んだ。では、ラキは王子だったのか。

「お前は…王族か。」

ラキは、ふんと笑った。

「そんなもの。本当に小さな国だった。父と母と、妹とオレ。家族はそれだけで、臣下は数十人ほど。兵も数百人しか居なかった。そんな国でも、昔の恩というものがあったらしい。それで、ライアディータと敵対していた大きな国のほうへついたのだ。それで、戦局が悪くなった時に見捨てられ、簡単に皆殺しにされた。母と妹とオレは、父によって逃がされたが、逃げて行く最中に幼かった妹は衰弱して死に、母は男に捕まって連れ去られそうになった時にオレの目の前で自害した。オレは逃げた…森の中を駆けずり回って、数ヶ月あてもないまま、遭遇した魔物をその辺の石や木の枝を使って倒し、飢えをしのぎながらな。幼いと言っても、オレはその時、もう13だったからな。見つけられた時はやせ細っていたから、そうは見えなかったかも知れないが。」

シュレーは、難民のことは知っていた。あれで、山のような難民が出た。前王はそれを救おうと幾つもの村を作り、そこへ住まわせることで救済して行っていた。しかしそれを全て調べ上げて行くには、数が多過ぎた。なので、おそらくラキの妹や母のような境遇の者は、たくさん居たに違いない。

「…そうか。ディーン様の救済は、間に合わなかったのだな。」

ラキはシュレーを睨んだ。

「救済?ではなぜに、あのような戦をしたのだ。」ラキは言った。「我が国は、そもそもそんなことには縁のないものだった。人里離れてバルクからもバークからも、シオメルからも遠く、小さく誰も欲しがるような場所ではなかった。ただ、皆幸福にそこにあるものだけで生活していたのだ。なのに戦が起こり、関係のない戦に狩り出され、その犠牲になった。滅んでも敵対する二つの国の、そのどちらにも気にも留められないほど小さな国であったのに。オレは…ただ、ライアディータを恨んでいたのではない。全てを恨んでいた。必死に術を覚えて技術を磨いたのも、知識を蓄えたのも全ては復讐のため。リーディス王に感謝の気持ちなどこれっぽっちもなかった。元はといえば、あやつらが起こした戦の、犠牲になったのだからな。」

シュレーは、何も言えなかった。確かにそうだ…統一されるまで、ここはどこも戦場だった。今の平和のために犠牲になった者達は数限りない。シュレーが人からヒョウになり、リーディスに拾われた時もまだ統一されては居なかったので、血なまぐさいことは日常茶飯事だった。シュレー自身も、戦で何人も殺めて来た…それが、平和への道だと思っていたからだ。しかし、その相手にも守るべきものがあったのだ。

「しかし…戦に組したのであろう?」

シュレーは、自分のしたことに救いを求めているようだった。ラキの国が理不尽な扱いを受けたことは、シュレーにも分かっている。だが、何か救いが欲しかった。そうでなければ、ラキが不憫でならなかったからだ。

ラキは、それに気付いて言った。

「そうだ。おそらく、手を出さずにおれば良かったのかもしれんな。だが、我らの遠い祖先は、海側の地から追われるようにこの地へとやって来たのだと言い伝えられていた。」ラキは、また目の前の岩肌を見つめた。「一人の身分のあるような身重の女…アーシャと、それに付き従って来た数人の男女だったと聞いている。行く当ての無い彼らを、あの地に住むように世話をしたのが、あの我らが組した国の王の祖先だった。その恩があって、出撃したのだと聞いたな。その女の産んだ子、その子と王になり、オレの父につながり、オレが生まれた。それだけのことだ。そんな遠いことなど、忘れてしまえば良かったのだろうがな。」

ラキは、またフッと息を付いた。だからなのか…。シュレーは、ラキを見つめた。ラキの心の闇とは、それなのか。だが、誰の心の闇よりは濃いとはいえ、デクスが取り憑けぬほど深い闇でもないような気がする。なのに、どうしてラキは、あれほど側に居て心に入り込まれていないのだ。

シュレーは、今も回りに浮遊する黒い霧を見つめながら思った。自分は、舞からもらったペンダントの浄化の力でこんな霧には取り憑かれる様子はない。しかし、これより濃くなって来たら危ないだろう。ラキは、デシアの濃い霧の中を難なく生き延びているのだ。

「…そんなに濃い闇なのか、お前の心の闇ってやつは。」

シュレーが言うのに、ラキは少しためらったが、頷いた。

「そうだ。お前達と出会って、共に戦って、その間は忘れてしまっていたことも…リーマサンデのリシマに、共に恨みを晴らそうと言われた瞬間に蘇ってしまった。心の奥底にある闇を、また思い出したのだ。思えばあれは、リシマではなかった…デクスだったのだ。」

シュレーは、目を合わせないラキに言った。

「そうだ。デクスにたぶらかされたんだ。お前を信じてた、ナディア殿下も驚いていただろう。ずっと、世話係をしていたと聞いている。」

ラキは、表情を緩めた。

「…出会った頃、殿下は妹に似ていた。幼くて何も知らず素直でな。なので、妹のように思っていたのよ…いつもオレの後をついて回っていたからな。だからといって、妻になどという感情ではなかったぞ?本当に何も知らぬ、世間に染まらぬかただったからな。」と、何もない洞窟の天井を見上げた。「今は、何をしていたのかと思う時がある。その殿下をたばかって、捉えようとまでしたことがあった。取り込まれはせずとも、デクスの憑いたデューには、確かに憎しみを増大させる何かがあった。許せぬようなことでも…それでも、オレはただリーディス王に知らせたかっただけだ。そのような無念の上に、今の平和があることを。オレのような思いをする者を、増やしたかったわけではない。戦をしては、結局はオレもディーン王と同じことなのだからな。」

シュレーは、ただ頷いた。これが、ラキだ。オレが共に戦っていたのは、このラキだった。

やっと友が戻って来たような気がして、シュレーはラキの肩を叩いた。ラキはちらとシュレーと見て、目を合わせた。その目は、僅かに微笑していた。

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