メクへ向けて
残された圭悟達は、顔を見合わせた。
「…じゃあ、玲樹とアークとナディア殿下は、グーラ達と共にメク山脈へ。オレと舞、メグ、マーキス、キールは繭の破壊へ。ライアディータでは普通に腕輪から会話出来るから、終わったらお互いに知らせて待ち合わせ場所を決めよう。そして、シュレーとラキの居場所を探って、もう一度リーマサンデだ。」
皆は、頷いた。言ってしまえば簡単なことだが、それがどれほどに大変なのかは、前回リーマサンデを旅してわかったことだった。なので、皆何も言わなかった。
ダンキスが言った。
「また長旅になりそうだな。せめて今夜はゆっくりするが良い。」
圭悟は、シャルディークを見上げた。
「シャルディーク、まだ聞いておかなければいけないことがあるんだ…繭は、どうやって破壊すればいい?やはりデクス本体のように、シャルディークの力でなければいけないのだろうか。」
マーキスが驚いた顔をした。明らかに、シャルディークの力を使うしかないと思っていたようだ。しかし、シャルディークはフッと笑うと答えた。
『主は利口よな。我の力を使えば確かに早いであろうが、繭に無理やり穴を開けながら中心部へ向かうようなもの。つまりはかなりの力を要する。マーキスの体への負担も計り知れぬ。しかし、デクスの不浄の力に対抗するのは、我の力のみではない。』
圭悟は、あ、という顔をして舞を見た。舞も同じような表情で圭悟を見た。
「巫女の力!」
シャルディークは頷いた。
『そう、我妻ナディアの力。それがデクスに有効であることは、あれがデクスを封じることが出来たことでも分かるであろう。つまりは核になるアディアの体に行き着くまで、マイの浄化の力で結界を張りながら進み、核に向かう時にどうにもならなんだら我の力を使うが良い。もちろん、マイの力と、ケイゴ、主の力、キールの力とマーキスの通常の力でアディアの体を破壊するだけでも繭は依り代を無くして消滅するがの。ただ、回りの抵抗はかなりのものだと考えた方が良い。繭自体が体と化していて、その中へ入り込んでいる状態で戦うのであるから。条件的にはよくはない。』
自分の居る空間全体が襲い掛かって来る…圭悟は少し身震いしたが、言った。
「では、オレ達は今回は自分達の力だけで戦う。」
マーキスが驚いた顔をした。
「ケイゴ、オレの体は大丈夫だ。四人でもたもたとしておる内に、回復係のメグや、我らより動きの遅いマイが囚われでもしたら何とする。」
圭悟は、首を振った。
「まだ、リーマサンデでの仕事が残っているんだ。アークが石を取って来ても、それでどれぐらい持つのか分からないし、マーキスの体への負担が減らせるなら、その方がいいんだ。デクスと対峙したら、嫌でもシャルディークの力を借りないといけないんだから。使わずに済む所では、なるべく自分達の力で頑張ろう。」
マーキスは、黙った。シャルディークは、微笑んで圭悟を見た。
『良い判断ぞ。我はあくまで、最後の手段だと思うて置くぐらいが良いのかもしれぬの。この世界は我のものにあらず。今生きておる、主らのものぞ。』
そう言われて、舞はマーキスを見上げた。シャルディークは、こうしてここに姿を見せてはいるが、とうの昔に亡くなった人物なのだ。本人もそれを自覚していて、助けてはくれるが、踏み込んでは来ない。それは、今生きている自分達が、自分達の生きて行く場所を守らなければならないから…。
舞は、覚悟した。ここで、マーキスと共にずっとずっと生きて行きたければ、この世界を救わなきゃならない。自分の力で。
ふと、マーキスが、驚いたように舞を見た。キールも、シャルディークもこちらを見ている。なんだろうと思っていると、マーキスが言った。
「…また。主、何かを決意したであろう?気の色が変わったのだ。しかも、眩しいほどにの。」
シャルディークはふふんと笑った。
『どうもこれは、我に覚えがある色ぞ。ナディアが我の求婚に答えた時、このように白いような桃色のような色に変わったのだ。もちろん、その後良いと返事をくれたがの。』
舞は赤くなった。
「え、え、ちょっと待って。もう、どうしてみんな、気が見えるのよ~!」
マーキスが言った。
「良いではないか。何を決意したのだ。我らはもう結婚しておるし、結婚の決意ではないの。」
玲樹が意地悪く言った。
「そうか、マーキスでないとすると、誰だ?シュレー?キール?もしかして圭悟か。おいおい、舞、気が多いぞ。」
マーキスが途端に舞の両肩を掴んだ。
「なんだって?誰だ?!」
舞はぶんぶんと首を振った。
「違うわ!ちょっと玲樹!あなたね、何を言うのよ!そんなはずないじゃないの!」
玲樹は笑って立ち上がると、歩き出した。
「さて、オレは部屋へ戻って明日に備える。アーク、起こしてくれよ。」
アークとナディアも立ち上がった。
「わかった。我らももう休もうほどに。の、ナディア。」
「はい、アーク。皆様、おやすみなさい。」
三人が出て行くと、急に居心地が悪くなった圭悟も立ち上がった。
「えーっと、ありがとう、シャルディーク。オレももう休むから。」
シャルディークは頷いて手を上げた。
『分かった。ならば我も戻る。またの。』
フッとシャルディークの姿は消えた。圭悟は、キールとメグを突付いて言った。
「さ、明日も早いから行こう。」
メグは舞を気にしながら、立ち上がって圭悟とキールの後をついて去って行った。舞は居心地悪いことこの上なかった…とにかく、部屋へ戻ろう。
「マ、マーキス。とにかく私達も部屋へ帰りましょう。明日からまた大変なんだから。」
マーキスはまだ何か聞きたそうだったが、頷いて立ち上がった。そして、ダンキスに言った。
「ダンキス、主は何も案じることはないゆえな。我らは必ず世を救ってみせる。」
ダンキスは、黙って頷いた。そして、出て行くその後姿を見送った。じっとその様子を見守っていたトゥクは、言った。
「ダンキス…世にここまでのことが起こっていたとは、我は知らなかった。それに、自分がそんなものに憑かれるなど、思いもしなかった。」
ダンキスは、トゥクを見た。
「それを知って欲しかったのだ。世は、人だけのものではない。魔物と、人、両方が住んでおるのだ。人さえ良ければいいというのは、ただのエゴよ。今は中で争っている場合ではない…外からの脅威にさらされておるのだからの。力を合わせれば、きっと悪魔を滅することが出来ようぞ。」
トゥクは、下を向いた。
「しかし…古くから染み付いた、このグーラを恨むという気持ちはなかなかに消せるものではない。」
ダンキスは、ため息をついた。
「生まれた時から刷り込まれておるのものの。では、主、こうしたらどうか。なぜに、主らの祖先はそれほどまでにグーラを憎むようになったのか。その理由を、しっかりと突き止めるのだ。そして、それが真実であるか確かめ、その上でそれを越える術を見つけるのだ。」
トゥクは、考え込んだ。自分達の祖先…遠く、もう少しメクの近くに住んでいたと聞いている。
「シンルー…我らは祖先がつながっておったの。」
シンルーは頷いた。
「そう。グーラ達が多く生息するメクから離れようと、こちらへ来た種族が分かれたと聞いている。確か元は、メク山脈の山岳民族なのだ。」
ダンキスは驚いた顔をした。
「そうなのか?…確かに、その主の金髪はこちらでは珍しい。北の方に、髪の明るい民達が集中しておるのにの。」
トゥクは頷いた。
「我が種族は皆、明るい髪の色ぞ。」と、とても古びた丸い円盤状の板のようなものがついた首飾りをさした。「これは、代々長が譲り受けて来たものでな。ここに記されているのが、里の位置だと聞いている。しかし、漠然とした模様にしか見えず、我らにはどこなのか、だいたいでしか分からぬのだ。恐らく口伝えにされておったのだろうが、どこかで失われてしまった。」
ダンキスは、それを覗き込んだ。まるで星座を記しているかのように、幾つかの点がつながって、その中心に他より大きな三角を二つ交互に重ねたような図形が書いてあった。ここが、その位置だと言うのだろうか。
「…ここへ、行ってみれば何か残っておるのではないか。」
トゥクは驚いた顔をした。
「無理ぞ。我も思うたことはあったが、そこはメクのグーラの集落の近くではないかと…」
そこで、トゥクは止まった。そうだ。あのグーラ達…。
「ダイアナに、言うてみる。」ダンキスは言うと、立ち上がった。「アーク達と行くが良い。主の真実を、この機に探って参るのだ。主の側近は、オレが預かっておくゆえ。」
トゥクは、シンルーと顔を見合わせたが、頷いた。そう、自分の真実。ここまでどこか心の片隅で信じられずに居た、親から聞かされたグーラの悪行の数々。本当にそうなのか。偽りだとして、何がそこまでさせたのか。先祖のことを、知らねばならぬ。
トゥクは、そう決心していた。
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