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ディンダシェリア ~The World Of DYNDASHLEAR~  作者:
明らかになって行く過去達
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危険性

村自体が燃えてしまって焼失した場所が多かったので、捕らえられた敵兵達は、木で囲んだだけの枠の中へ、縛られたまま入れられて、グーラ達に回りを囲まれた状態で待っていた。ダンキスが歩いて行くと、それはラルーグのトゥクと、その側近達だった。ダンキスはそれを見て驚いた…よくぞ、生き残ったものよ。あの状態で。

「トゥクか。よう生きておったもの。一瞬のことであったので、我も何が起こったのかわからぬままであったわ。何しろ、斬られて気を失っておったからの。」

トゥクは、ちらりとダンキスを見たが、その目には、もはやあの時の反骨精神は欠片も見られなかった。目の前で、大勢の種族達が残虐に殺されるのを目撃したのだ…こうなってしまっても、おかしくはない。

ダンキスは、ため息をついた。

「…話し合わぬか、トゥク。オレとて、無用な戦は避けたいと思うておったのだ。しかし、攻めて来られては迎え撃つよりなかろう…偶然、メクのグーラ達がこちらを訪ねておったゆえ、我らは助けられたが、そうでなければ、今頃滅んでおったのはこちらのダクルスの民だった。これ以上無駄な血を流しとうない。」

トゥクは、ぼんやりとした目を上げた。

「…何を話し合う。我らは、もう滅んだも同然。村には、女子供しか残っておらぬ。残った男は我らだけ。今グーラ達に攻め込まれては、我らはひとたまりもない。女子供も、根絶やしにされるだろう。」と、そのうちの一人の男を見た。「こやつは、ラーリスの民。長も死に、残った男はこやつだけ。我らにくみして共に戦ったゆえに、このように。グーラ達は、かくも残酷であるのだ。」

ダンキスは、トゥクを睨みつけた。

「あのなトゥク。罪も無い女子供も殺したのは、主らの方ぞ。我らに先にそのような残虐なことを仕掛けて来たのは主らのほう。グーラ達は主らを己から襲ったりせぬ。襲撃することもないであろうが。女子供が残っただけいいではないか。我らは皆殺しにされるところであったわ。」

トゥクは、それを聞いて下を向いた。後ろ手に縛られたまま、膝を付いている。自分の言ったことの矛盾に、気が付いて戸惑っているのだ。

「…ま、長い間、何に恨みを持っておるのか知らぬが、グーラを恨んで来たのであるから、今更に保護して接しよと申しても無理やもの。ならばせめて、干渉するでないわ。それぐらいのことは出来るであろうが。」と、そばのグーラの人型達に言った。「あちらの、小屋へ入れて置いてくれぬか。捕虜として遇するゆえな。それから話し合って、対処はそれからであるの。まずは、腹ごしらえよ。」

マーズが頷き、側のグーラ達に指示を出す。そこに居た数人は、縛られたまま、厳重な監視のある小屋へと連れられて行った。


圭悟達は、マーキス達に乗ったまま、ミクシアではなくダッカへと向かっていた。とりあえず封印はし直したものの、事が急を要しているのは変わらない。山向こうでは、今も兵器を開発しているのだ。確かに命の気の流れは、女神ナディアによって止められている。しかし、あのデクスのとり憑いたデューが、何か他のことを考えつかないとも限らなかったのだ。

なので、本当はシオメルまで行きたかったぐらいだった。シオメルでリーディスとリシマに話をし、送球に対策を考える必要があったからだ。しかし、皆は疲れていた。それに、ダッカは襲撃を受けたばかりでダンキスは傷を負っている。敗残兵も居るかもしれない。なので、ダッカで一晩休んでからシオメルへ向かうことにしたのだ。

圭悟達が降りて行くと、見張りのグーラの人型達が寄って来た。すっかり人の体の扱いを覚えたようで、剣も何も持っていない丸腰だったが、すいすいと歩いてこちらへ来た。

「お戻りをお待ちしておりました、女王。」

その二人は、ダイアナに言った。アレスが言った。

「こちらはするべき事をとりあえずは終えた。こちらは、どうか?」

一人が答えた。

「はい、ダンキス殿の指示により、本日の作業を中止し、皆ただいまは食事をしておりまする。我らは交代で見張りをしております。敗残兵を見回りの者が見つけましたが、ダンキス殿から殺すなと言われておるので、小屋の方へ篭めておりまする。」

ダイアナは頷いた。

「ご苦労だった。では、交代が来るまでここの守りは任せたぞ。」

二人は、頷いた。

「仰せの通りに、女王。」

玲樹が、誰にとも無く呟いた。

「へえ…あの状況で、生き残ったヤツが居たのか。」

圭悟が、振り返って答えた。

「凄まじかったものな。でも、憎い敵とはいえ、生き残ったのは少し良かったと思ってしまうな。」

圭悟らしい。玲樹も思ったが、他の皆も思ったようだ。舞は、マーキスに運ばれながらうとうととしている。デクスに抗ったのが、よほど疲れたようだった。そのマーキスの足元で、チュマがうろうろと舞を見上げていた。心配で仕方がないようだった。

「チビ、足元にまとわりつくでない。マイを抱いておるゆえ見えぬから、蹴飛ばしてしまうわ。」

マーキスが言う。チュマは、首を振った。

「マイが心配なの。気がとっても弱くなってるの。側に居なきゃ。」

マーキスは苦笑した。

「チビに出来ることがあるのか?オレはマイに気を送り込んで守っておるし、大事無いぞ。そのように案じて居るより、主はまず、元気でおったほうがマイは喜ぶと思う。」

チュマは、真剣な顔でマーキスを見上げた。

「本当に?ボクが元気でいたら、マイも元気になる?」

マーキスは頷いた。

「ああ。なので、飯を食ってしっかり寝ると良い。」

チュマは、頷いた。そして、玲樹を見上げる。玲樹は、はいはい、という顔をしてチュマを抱き上げた。

「わかったよ、オレと飯を食いに行こうな。」

そうして皆で、ダンキスの居る仮の小屋へと歩いて行ったのだった。


ダンキスに、事の次第を話しながら食事を進めた。ダンキスは、頷いた。

「そうか。まずは、一つ終わったということであるな。」ダンキスの顔は、それでも険しかった。「それでも、まだ遣り残したことは山ほどあるの。あの繭の消失、デシアの奪還、兵器の破壊…。そして、最後にデルタミクシアの親玉を完全に消してしまわねばならぬのであろう。途方も無い…果たしてそのようなことが可能であるのか…。主らの身が案じられることよ。」

圭悟が言った。

「それでも、しなければなりません。どうしても。この世界の人々の、未来が掛かっているんです。」

皆が、一様に黙った。それは、同意の沈黙だった。ダンキスはため息をついた。

「そうだの。主らに全て掛かっておるというのが、不公平だと思うのだ。オレも、体が自由になるのなら良かった。」

ダンキスは、自分の体が思うように動かなくなったのが歯がゆいのだ。マーキスが言った。

「ダンキス、主の代わりにオレが行くではないか。主には、オレが帰って来るまでこの村を守ってもらわねば。オレとマイが住めるようにな。」

ダンキスは、マーキスを見た。

「では、せめてシャルディークにしっかりと聞いて、策を細かく立ててから行動すると決めてくれぬか。」そして、アークやシュレー、圭悟達に視線を移した。「オレの初めての息子なのだ。マーキスに危険なことはさせられぬ。キールもぞ。息子達は皆、大切なのだ。これまでは共に行動して守ることが出来た…それが、今のオレには出来ぬ。」

アークが、困ったようにダンキスを見た。

「確かに、そうよ。オレは、シャルディークを降ろせるはずが、出来なんだ。死にはせぬが、まともに歩くことも出来ぬ。結局、マーキス一人に頼るしかなくなったのだ。シャルディークの憑いたマーキスは確かに無敵で危険はないが、これからずっと身に降ろしておって、何か支障がないかはオレにも分からぬ。そこの所を、しっかりシャルディークに聞くよりないな。」

それには、圭悟も頷いた。

「確かに、そうだ。マーキスに何か負担が掛かっていたらいけない。」

マーキスは首を振った。

「特に問題ない。今でも何も変なことはないぞ?」

玲樹が、マーキスを見た。

「自覚がないかもしれねぇ。何しろ、誰もそんなことをしたことはないんだからな。アークですら、ふらふらになったことなのに。それに、忘れちゃいねぇか。シャルディークは、聞かないと言わないんだ。自分は既に死者だからって言ってな。」

皆が、それに思い当たって顔を見合わせた。アークが言った。

「そうだ、マーキス。この際、きちんとシャルディークに聞いておこう。そして、これからのことをきちんと話し合うんだ。それから行動しよう。」

ダンキスが、立ち上がった。

「では、少し待て。捕虜にしたトゥクが、小屋に囚われておる。あやつも長の端くれ、こういうことが世に起こっておるのだと知っておっても良いはずだ。この際、人同士で争っておる場合ではないことが、それで少しでも分かればの。」

キールが、立ち上がった。

「オレが連れて来る。ダンキスはここに居れ。」

キールは、出て行った。ダンキスは、側のマーズに頷き掛けた。

「マーズ、付いて行ってやってくれぬか。」

マーズは頷いて、キールを追ってそこを出て行った。

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