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ディンダシェリア ~The World Of DYNDASHLEAR~  作者:
明らかになって行く過去達
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デルタミクシアの悪魔

「もっと水平に飛ぶ訓練をせねばな。」マーキスが、人型になりながら言った。「主は上に乗っておる人を振り回しておる。それでは、落としてしまって拾いに行ってと、効率が悪いではないか。」

シュレーとラキがふらふらになりながらなんとか地面に降り立つ。玲樹はそれを聞きながら、そういうことではないのに、と思っていた。落とされる人の身になってくれないと。

アレスが、人型を取ってから言った。

「今まで、人など乗せたことがなかったゆえ。まさか落ちるとは思っていなかったからの。初めて乗せたケイゴは、落ちはせなんだぞ。」

圭悟が、肩をすくめた。

「あの時は、とにかく必死に掴まってたからな。アレスの首を絞めてたんじゃないかと後で心配したよ。」

アレスは、自分の首を撫でた。

「まあ、確かに。皆必死に掴まるので、苦しいとは思っておった。」と、考え込むような顔をした。「そうか、水平にの。マーキスもキールも、なぜにあれほどうまく飛べるのか。水平の方が確かにスピードは出るし、人が楽そうであるな。」

「それに、自分もの。」キールが言った。「上下に振れると、人が背の上で跳ねるゆえ、かなり背骨が痛いであろうが。我ら、飛べるようになってから、ずっと人を乗せて飛んでおるから、コツを知っておるのだ。これから、人を助けようと思うなら、少し学んだ方が良いの。」

そこは、女神の石を探して山を越えようとした時、目にしたあの朽ちた神殿だった。朽ちたと言っても、かつての美しさがないだけのことで、その頑強さは健在だった。命の気の圧力を感じる…さすがに、ライアディータに慣れた圭悟達にも、ここの命の気はかなり強く体に直に感じた。

マーキスが言った。

「これはいけないの。何事も過ぎたるは及ばざるが如しと申す。オレの身の細胞の一つ一つに入り込むような不快感を感じるぞ。」

シャルディークの声が、それに答えるように言った。

《命の気が、細胞を活性化させ過ぎると、異質なものに変げしてしまう可能性があるの。ナディアには、主らがここへ入る間、気の流れを止めさせようぞ。》

すると、ずっと感じていた気の圧力がフッと消えた。驚いていると、目の前にナディアがふんわり浮いた。

『さあ、あの我がデクスを封じた場まで案内しましょう。こちらよ。』

皆は、顔を見合わせて、中へと進んで行くナディアを追って、入って行った。


中は、思ったより明るく、とても美しい状態で残っていた。ただ、ひと気が無いのでとても無機質に見えて、それが舞にはとても気味悪く見えた。その入ったところの広間を抜けて行くと、正面に、もう神殿ではお決まりの狭い階段があった。そこは、暗く下が見通せない。ここへ降りて行って大丈夫なのだろうかという不安を、人に与えるにはこの狭い階段は充分な効果を発揮していた。女神ナディアがぼんやりと光っているので少し先は見えるものの、舞は不安から自分の杖を出してその先を光らせ、明るく照らして前が見えるようにと気を使った。自分は段々にこんな神殿独特の造りには慣れて来たが、まだ落下の精神的なショックから立ち直ったばかりのメグにはつらいだろうと思ったからだ。

ナディアは、スーッと飛んで滑る様に先へと進んで行く。途中振り返っては、皆のペースを確かめていた。舞と、皇女のナディアが、神殿での経験上、回りを警戒して降りていると、女神ナディアが振り返って言った。

『…何を警戒しているのですか?誰もここへは入って来れなかったので、誰も居りませぬわ。命の気の源を調べようと、幾人かの人が入って来たことはあったけれど、皆命の気の圧力に負けて変げしてしまったり、引き返したりしました。』

舞は、首を振った。

「違うのです。こういった神殿には、今まで何度か入って来ておりますけど、皆どこかに罠がありました。私達は、その危険を知らせるサインが見えるので、それが無いか見ているのですわ。」

女神ナディアは、驚いた顔をした。

『ここに、罠?』

それには、シャルディークの声が答えた。

《我が消える直前であったものの。デクスが、神殿へ侵入を試みるもの達を排除しようと、そのようなものを地下へ作ったのだ。デクスが去った後、それは神殿を守る手段として、そのあとの巫女達に利用されたらしい。デクスはそのような意図であれを作った訳ではなかったようだがの。ここには、そんなものは無いのか。》

女神ナディアは頷いた。

『ありませぬ。あの当時、神殿と呼ばれるものは、バークのものただ一つでした。ここは、それと同じぐらいに命の気を生み出す場を守るものとして建てられておったもの。なので、きっとそんなものは無いのでしょうね。』

それを聞いた皆は、特にメグはホッとした顔をした。そうか、あんな風に突然に床板が開いて、下へ落とされることはないのだ。

すっかり足取りも軽くなり、皆は幾つかの大きな部屋を抜けながら、下へ下へと降りて行った。

『ここです。』

ナディアが、目の前に開けた、大きなドーム状の部屋へと先に出ながら言った。

皆が次々にそこへ入って見ると、正面には台座のようなものがあり、バーク遺跡の女神の間のような感じだった。ただ、バーク遺跡の女神の間には、その台座の上にナディアの像が立っている。ここは、像はなかった。しかし、その代わりに、ナディアの体だと思われる、美しい女が眠っているように目を閉じて、立ったままの姿勢で浮かんでいた。女神ナディアは、その台座へと飛んで行って、その上に浮きながら言った。

『我は、ここに囚われています。』ナディアは、寂しげに言った。『ここで、デクスの罠に掛かりました。ずっと、あの術に捉えられたまま、でも、やはり長きに渡りこうやって来たこともあって、デクスの術も弱まりつつあるのが、最近分かりました。我も、短時間ならバークの神殿へと飛ぶルートから外れても、移動できるようになったからです。』

皆は、その神々しいまでに美しい、女神の姿を見上げた。これが、皆が見たくても命の気が激しくて見れなかった、女神ナディア。光になって飛んでくるナディアも美しかったが、実体を持つその亡骸は、本当に美しかった。シャルディークが、感慨深げに言った。

《懐かしいことぞ…主の体、このような場所に。今ここで、我の力を使えば主を解放できるのだが…》

その声は、気が進まぬように言いよどんだ。ナディアは、薄く微笑んで首を振った。

『良いのです、シャルディーク。今は、我がここに居ることが重要でしょう。デクスを押さえ、命の気を操作しなければなりませぬ。全ては、デクスを滅してからなのですわ。』

シャルディークの声は、ホッとしたように答えた。

《さすがは我が妻よ。ようわきまえておる…共に、遣り残したことをやり遂げようぞ。黄泉へは、それからぞ。》

ナディアは頷き、腕を上げて傍らの何の変哲もない、大きな石の箱のような物を指した。

『それです。我が、あの時咄嗟にそこへデクスを封じました。自分も封じられつつあったので、選んでおる暇はなかった。』

皆は、そちらを見た。本当に、ただの石の箱のようだ。なんの飾りもなく、大きな分厚い石の板が数枚組まれているだけのもので、壁にぴったりくっついた状態であった。一見しただけでは、それに誰か封じられているなど分からないものだった。しかし、マーキスとキールが険しい顔をした。

「…何と禍々しいことよ。漏れてはおらぬが、圧力を感じる。この蓋は、開けとうないの。」

マーキスが言うのに、キールが頷いた。

「アディアを足に掴んでおった時の感覚を思い出した。間違いないの。」

玲樹が、恐る恐るその箱に近寄って、横やら上やらを見た。そして、言った。

「マーキス、シャルディークの目から見て、ここで漏れてるところってあるか?」

マーキスは、その赤い瞳でじっとその箱を見て、そして横へと見て、上もとっくりと見た。

「…ない。封が解けている場所はない。全てぴっちりと封じられておるままぞ。」

シャルディークの声も言った。

《異なことよ。では、デクスの一部はどこから出た?》

玲樹はやっぱり、という顔をした。

「ここまでは、誰も来られなかった。つまり、ここでデューがデクスに憑かれたと考えることはできねぇだろう。何しろ、憑かれるまでは病気のおっさんだった。それが、何だって命の気の圧力に耐えて、こんなところまで来れたんだ。それに、みんなが言ってた悪魔の話…。山へ入っただけで、取り殺されちまったんだからな。もっと、簡単に行ける場所にほころびがあるんだ。ここじゃねぇ。」

ラキが、頷いた。

「レイキの言う通りだ。ここまでは来られるわけはない。」と、玲樹に歩み寄って箱を見た。「この封印…どうなってるんだ?」

マーキスが言った。

「オレの目に見えるのは、その箱を半球を描いて蓋をするように、床と壁に向かって封の結界が張られておる様よな。」

「半球?」玲樹が、言って険しい顔をした。「じゃあ、残りの半分の球はどうなってるんだ?」

マーキスは眉を上げた。

皆が、顔を見合わせた。

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