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ディンダシェリア ~The World Of DYNDASHLEAR~  作者:
明らかになって行く過去達
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憑依

シャルディークは、ラキの話を聞いて険しい顔をした。同じように、圭悟や玲樹、アーク、舞、メグ、マーキス、キールもその話に深刻な顔をした。事情を知らなかったダイアナとアレスも、顔を見合わせている。町一つを滅する力があっても、まだ足りぬと。いったい何を目指して、デクスはデューを操ってあの兵器を作らせているんだろう。

暗い空気の中、シャルディークは口を開いた。

『困ったことよ…我にも分からぬ。』シャルディークは言った。『今の話であると、あれは自分がここを統治したいという訳でもなさそうよの。ならば、完成した兵器で攻撃して行けば済む話であるし。しかし、更なる改良を望んで、その兵器をナディールと申す場所へ移し、力をつけようと。これは、ナディアの力も要る。』

皆が、一斉にそこに居るナディアを見た。シャルディークは首を振った。

『そのナディアではないぞ。我が妻のナディアよ。命の気をあちらへ、極力向けぬようにしてもらわねばならぬ。しかし、全ては無理ぞ。生きている命がある限り、大地は命の気を生み出すからの。』

シュレーが言った。

「そんなことが可能なのか?ならば、それで時間が稼げるかもしれない。」

ラキが頷いた。

「あの兵器を充填するには、大量の命の気が要る。町一つを破壊する力であるなら、リーマサンデ全体から集めて一度の発射に充填は一日掛かった。テスト発射をしてから、また次のテストまで一日掛かっていたな。」

玲樹が言った。

「それは、恐らく気が少なかったからだ。用はホースの原理だろうよ。ホースが細ければ流れる命の気も少ないし、太ければ多い。命の気の流れを変えて、ディンダシェリア全域に行き渡るようになっていた頃、それでも拡散されてとても気が薄かった。ライアディータでは魔物が生きていけなかったぐらいだ。つまりはナディールなら、太いホースだからその時間も早いはず。命の気をそっちへ送らないようにするなら、早いとこやらないと充填されちまうってことだ。」

シャルディークは頷いて、窓から山の方を見上げた。

『ナディア。』

それは、普通に呼んだだけだった。山の上まで届くようなものではなく、それどころか外の人にも聞こえるかどうか分からぬほどの大きさの声だったにも関わらず、山頂のデルタミクシアの建物の辺りがキラリと光って、そこから白い光が尾を引いて飛んで来た。皆が呆然と見ていると、その光の中には、美しいナディアが居た。

『お呼びですか、シャルディーク。』

シャルディークは頷いた。

『主には見えるであろう。山の向こうの村、ナディールと言われる場所。そこに不穏な気配はないか。』

ナディアは頷いた。

『はい。デクスの気配が致します。多くの人の、絶命する叫びを聞きました。』

舞が息を飲んだ。それは…あの、ナディールの巫女達?!

舞がショックでふらつくのを、隣のマーキスが支えた。

「マイ、しっかりせよ。」と、マーキスはナディアを見上げた。「それは、元よりそこに居た者達か?」

ナディアは、悲しげな表情で頷いた。

『ええ。黒い闇に飲まれて行くのを感じたわ。身は生きていたとしても、心は死んでおるでしょう。』

その言葉に、皆はまるで鉛でも飲まされたかのような顔をした。あの時対応してくれた巫女達…全てが、飲まれてしまったというのか。

圭悟が、言った。

「これ以上被害を出したくない。急ごう。ナディア、命の気をそのナディールへ行かないように出来ますか?」

ナディアは、シャルディークを見た。シャルディークが頷いたのを見て、ナディアは答えた。

『すぐに。山の向こうへは、一切の気を絶ちましょう。それでも大地は、少しずつでも命の気を生み出すもの。全くの無には出来ませぬ。』

シャルディークは言った。

『良い。急ぐのだ、ナディア。こやつらの手に負えぬようになったら、我らとてどうしようもない。我の気に耐えられるものが、こやつら以外に居らぬゆえ…もしものことがあったら、世界はデクスの意のままになってしまう。民達が暮らせぬようになる。』

ナディアは頷いて、シャルディークに頭を下げると、スーッと山の方へと戻って行った。シャルディークがそれを見てから皆を振り返った。

『さあ、一刻も早く山頂へ。デクスを封じなおさねばならぬ。我は憑依した方が良いの。』と、アークとマーキスを代わる代わる見た。『どちらへ憑く。』

デシアでは、マーキスに憑いた。アークは、一歩踏み出した。

「では、オレに。オレにはまだ憑いたことが無いだろう。」

シャルディークは頷いた。

『では、主に。さあ、参ろうぞ。』

皆が見守る中、シャルディークは白い緑の光になってアークへと吸い込まれるように消えた。アークは、衝撃を感じてよろけた…視界が二重になる。足が、まるで自分のものではないようだ。それでも、踏ん張って前に進もうとすると、地面が斜めになったように思って、うまく足を踏み出せなかった。

「アーク!」

慌てて、シュレーと横に居たキールが手を出す。アークは、気が付くと膝を付いていた。

「…最初だからか。物が二重に見えるのだ。平衡感覚が無いような…体が己の物でない感覚ぞ。慣れて来るものなのか。」

アークは、赤い瞳でマーキスの姿があるらしい場所を見て言った。ダブって見えて、はっきり分からないのだ。

「おかしいの。オレは始めからどうということはなかった。」

《…アークは、やはり無理かもしれぬな。》シャルディークの声が、空間から聞こえて来た。《確かに我の血を引いておるので、こうして身に取り込んでもこの程度で済んでおるが、これで力を使うとなるとどうなることか…何代にも渡って薄まった血であるからな。強く出ておるとはいえ、つらいのかもしれぬ。》

マーキスは思い出すように言った。

「オレの時は、確かグーラに戻った後に憑依したのではなかったか。」マーキスは、あのときのことを思い出していた。「あの体であれば、力に耐えうるのやもの。」

スーッと、再びアークの体からシャルディークの姿が出て来た。アークは、ふらつきながらもそれを見上げた。

「シャルディーク…。」

シャルディークはアークを見た。

『無理をするでない。通常の人が我を取り込んだりしたら、それだけで一瞬にして死ぬ。力の規模が違うのだ。マーキスは、グーラの血が混ざっておるゆえ、恐らくなんとも無かったのだ。我は、これからマーキスに憑くことにする。主に何かあってはならぬ。』

シャルディークは言うが早いかまた光になってマーキスの方へと流れた。マーキスは、自分の体にもうひとつ別の意思が入り込んだのを感じた。

「…入った。」

マーキスが言って目を上げると、青かった瞳が、赤に変わっていた。あの時と同じ…。舞は思って、マーキスの手を握った。

「具合はどう?人型のままで、シャルディークが入ったから…。」

マーキスは、微笑んで首を振った。

「大丈夫よ。普段と全く変わらぬ。オレは、なんだかんだ言っても半分グーラであるから。」

シャルディークの声が言った。

《こちらの方が余裕を感じる。やはり力の許容量が違うのだ。さあ、急げ。デルタミクシアへ。》

皆は、急いで外へと出た。そして、日がてっぺんに昇っているその時、皆でデルタミクシアへ向けて飛び立った。

今度はキールとマーキスだけでなく、アレスにも乗って飛び立ったのだが、アレスに乗ったシュレーとラキが、ふらふらになったのは言うまでもなかった。

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