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まずはミクシアへ

圭悟は、シュレーからの連絡を受けていた。最早腕輪も復活していて、ダイレクトに話が出来るようになったのは、圭悟達にとってもありがたいことだった。腕輪の向こうからの、気を急かせる内容に、圭悟は皆を振り返った。確かに急がなければならない状況のようだ…だが、ここを放って行くことが出来るだろうか。

夜が明けて、村の惨状はより鮮やかに圭悟の目に飛び込んでいる。人型になった、ダイアナの連れて来たグーラ達も合わせた全てのグーラが、人と共に、焼きただれた瓦礫を撤去して、間に合わせの小屋をいくつも作っている。重い物を運ぶ時はグーラに戻り、その足に掴んで村の外れへと運んだ。亡くなった人々は埋葬するべく墓所へと連れ去られ、今ここには居ない。怪我をした者達のうめき声が、メグと舞が必死に治癒の術を使って歩き回っているこの、圭悟がいる小屋の中でも聞こえて来ていた。とても今すぐ、ここを放り出して行けるような状況ではなかった。

「…シュレー。事情は分かったが、今すぐは無理だ。ダッカは、今大変なことになっている…皆が、とにかく住めるようにと復興のために、昨夜から寝ないで動き回っているんだ。オレ達だけが、ここを離れて行く訳には行かないんだ。」

その声に耳を止めた舞とメグが、こちらを振り返って見ている。圭悟の腕輪からは、シュレーの声が漏れて来た。

『わかってる。だが、オレ達がこれをしないと、ダッカどころか人の住む場所全域が恐ろしい事になってしまうんじゃないか。手遅れにならないうちに、何とかしないと全滅してしまうかもしれないんだぞ。あの兵器で、デューが何をするつもりなのか知らないが、それがいいことではないことは明らかだ。オレ達にしか出来ない以上、事は急いだ方がいい。』

圭悟と、舞とメグは顔を見合わせた。そこへ、ダンキスがマーキスと共に入って来た。

「聞いたぞ。ケイゴ、シュレーの言う通りぞ。ここは、グーラ達が何とかしてくれる。あやつらは、最強のグーラ軍団として、メク山脈に君臨する大きなグーラの集団だ。あやつらは、ミガルグラントまで使うほどの知能と力を持っている。トゥクも、他の種族の長も、こやつらだけは恐れて手を出せなんだのだ。昨日のことを思い出してもそうであろう。」

圭悟は、昨夜あっという間にあの三つの民族の兵隊達を滅して追い払った様を思い出していた。みんな、あのグーラ達が現れたのを見て、一目散に逃げ出した。つまりは、あれほどにグーラを憎んでいても、このグーラ達には手出しが出来なかったのだ。

「じゃあ…オレ達がデルタミクシアへ行っても、大丈夫なのか。」

圭悟が言うのに、ダンキスは頷いた。

「そうよ。ここは大丈夫だ。むしろ、オレは早くあの悪魔を何とかして欲しい。オレの足が何とかなれば、共に行って戦いたいぐらいだ。」その言葉に、横のマーキスが気遣わしげに身を動かした。ダンキスはそちらを見てフッと笑った。「わかっておる。オレはここの復興に力を入れておるよ。代わりにマーキス、主が行ってくれるのだろうが。」

マーキスは、頷いた。

「行って参る。デクスの息の根を止めねば、安心して舞と生きて行くことが出来ぬではないか。我らの子も、平和な世界で育てたいものぞ。」

マーキスは大真面目で、確かに真面目な話なのだが、舞はぽっと赤くなった。マーキスはなんでもはっきりストレートだから、少し恥ずかしい時がある…。まだ子供が出来た訳でもないし、子供の話は置いといて、とにかく自分達の生活を順調に進めることを考えたいなあ。

舞はそう思っていたが、黙っていた。チュマが、舞の足元に絡んで来た。

「マイ~お腹空いたの~。」

それには、ダンキスが笑って答えた。

「おおチビよ。そうか、もうそんな時間よな。こちらへ来い。」と、手を差し出した。チュマはダンキスの腕に飛び込んだ。「よしよし、ではあちらで飯にしようぞ。また旅に出ることになるであろうしの。たらふく食って置けばよいわ。」

出て行くダンキスを見送りながら、圭悟は、黙っている腕輪に向かって言った。

「わかったよ、シュレー。こっちでも準備して、ミクシアへ向かう。あそこにアークが居るんだ。あっちで落ち合おうと、ラキにも伝えてくれ。」

シュレーの声は答えた。

『わかった。サラマンテには、舞とナディア殿下が留守の間、気を遮断する膜の維持を頼まねばならないから、ちょうど良かった。リーマサンデからの避難民の村が、準備出来つつあるんだ。陛下がそのようにして欲しいと言っていたからな。』

圭悟は、向こうからは見えないと分かっていながら頷いた。

「わかった。じゃあ、ミクシアで。」

通信は切れた。マーキスがそれを待って、舞の手を取った。

「マイ、昼飯だぞ。共に参ろう。」

舞は微笑んでその手を握った。

「ええ、マーキス。でも、ここの人達を見なければならないから…変わりばんこにする?メグ。」

メグは頷いた。

「ええ。いいわよ、先に行って。私は、舞が戻って来たら行くから。」

だが、ここの所王城暮らしだったメグが、昨日からのことで疲れているのは分かっていた。なので、言った。

「いいわ、私はまだ大丈夫だから。圭悟、メグを連れて行ってあげて。私はここで見ているから。終わったら、替わりに来てね。」

圭悟は、メグの様子を見て頷いた。

「よし。メグ、行こう。早い所飯食って、昼からの仕事をこなして、明日に備えなきゃな。明日の朝、ミクシアへ向かおう。あっちで、最終打ち合わせして、デルタミクシアへ登ろう。」

メグは頷いて、圭悟と共にそこを出て行った。それを見送りながら、マーキスが言った。

「メグは、前より少し体力が落ちたか?」

舞は、マーキスを見上げた。

「やっぱりそうかしら。少し休んでいたから…でも、きっとすぐに戻って来るわ。大丈夫よ。それより、先食べて来ていいわよ?お腹空いたでしょう、マーキス。」

マーキスは微笑んで首を振った。

「オレは命の気だけでも生きていけるのだ。なので、確かに腹は減るが、抑えることも可能ぞ。死ぬことはないからの。マイのほうがつらいであろうが…あれだけ食べるのに。」

舞はびっくりしてマーキスを見た。マーキスに、他意はないようだが、物凄く食べると思われているかと思うと、少しつらかった。

「マーキスったら!確かに食べるけど…大丈夫よ、私だって我慢は出来るんだから。」

マーキスはふと眉を上げた。

「…本当に?あの、結婚式の後の食べっぷりには驚いたものなのに。あの食欲を我慢するとは…かなりの自己抑制力ぞ。」

あくまでマーキスは真面目だ。冗談ではなく、本当にそう思っているから言っている。そう思うと、舞は恥ずかしくて下を向いた。確かにあの後の御馳走は、何を食べても美味しかったから、たくさん食べたけど。まさか、マーキスがそんな風に思って見ていたなんて…。

マーキスは、本当に心配して見ているようで、表情がとても気遣わしげだ。つまり、たくさん食べる云々よりも、舞が空腹でつらくないかと心配しているのだ。たくさん食べる舞が、後に回されて…ということらしい。舞は、ため息をついてマーキスを見た。

「マーキス、私だって大人だし。お腹がすいたことぐらい、我慢できるわ。それも、少しの間じゃない。そんなに心配しないで。」

マーキスは、心持ちホッとしたように舞の肩を抱いた。

「ならば良い。もしも我慢しきれなくなったら、遠慮なく申せ。あちらから持って参るゆえな。」

舞は、これ以上マーキスに心配させてはいけないと、黙って頷いて、患者達の治癒術を再開させた。マーキスは、それをじっと座って見ていた。


治癒術を掛け続けた甲斐があって、夜には皆の容態は落ち着いて、家族の居る小屋へと移せるようになっていた。患者達を小屋へと見送った舞はとメグは、ホッと息をついた。こんなにたくさんの患者を一度に診たのは初めてだ。さすがに少し、疲れた気がする。

そこへ、圭悟とマーキスが入って来て言った。

「さ、ご苦労さま。明日は朝食を済ませたらここを発つことにしたよ。ダイアナと、アレスも一緒に来るらしいけど。あの二人は人を乗せたことがないからなあ。乗せてもらえるとは思わないほうがいいかも。」

圭悟は、一度アレスに乗せてもらって村の皆を避難させていた洞窟へ行ったことがある…かなりの大揺れで、それはロデオの比ではなかった。何しろ落ちたら死ぬのだ。圭悟は必死に、マーキス達のありがたさをかみ締めながら、必死に掴まっていた。マーキスが言った。

「確かにの。自分の好き勝手飛ぶゆえ、乗っておる人はたまったもんではないわ。我らとは違うよの。」

舞は、それを想像しながら笑った。

「ふふ、それは大変そう…大揺れのグーラの背に乗ってるなんて。」

マーキスは、そんな舞の肩を抱いた。

「主はオレに乗せるゆえ。そのような心配はいらぬ。」と、歩き出した。「さあ、夕飯ぞ。食糧庫は無事だったゆえ、遠慮なく食えばいいとダンキスも言っておった。明日からまた旅であるしな。たらふく食えば良い。」

マーキスは、舞を喜ばせようと言っているのだが、舞は複雑だった。すっかり、食べるのが大好きな大食いの妻、って感じになって来ている気がする。ああ、なんだかそれはいやだなあ…。もっといい感じの奥さんになりたいんだけど。

しかし、歩くに従って漂って来るスープの良い香りや、ルクルクの焼ける匂いに、舞は嬉々としてそちらを見て、そんな風に思ったことも忘れてしまった…。

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