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兵器

シュレーは、リーディスと共にシオメルに滞在していた。リーディスはリシマを共に、シオメルには大きなホテルが無いので、宿屋へ宿泊していた。臣下達と兵達が追いついて来て、兵は郊外へ天幕を張って野営し、臣下達はいくつかの宿屋へ分かれていた。それが臣下達には不満のようだったが、シオメルにそれだけの人数を収容する宿泊施設がないので、仕方なくそれに甘んじていた。リーディスは、ホッとしたように機嫌よく言った。

「いつ来ても、シオメルは落ち着くものよ。いつなり見張られておるような状態で、どこへ行っても付いて参る臣下達に面倒だと思うておったのだ。」

シュレーは、苦笑してリーディスの隣に控えていた。臣下達からくれぐれも頼むと言い渡されていて、リーディスから離れることが出来ないでいたのだ。しかし、シュレーはその方が良かった…リーディスについて歩いているので、気が抜けなくて余計なことを考えずに済んだ。夜も警戒してリーディスの隣の部屋で休むので、気が休まる暇も無かったのだ。そう、舞と、マーキスが結婚したなど、深く考えずに済んだ。

シュレーは、フッと息をついた。忘れているつもりでも、ふとした拍子に思い出してしまう。結局、自分は舞の気持ちを取り戻せなかった。マーキスが、とても深く舞だけを愛しているのは知っていた。自分は、何をおいても舞だけを想っているべきだったのだ。何を迷ったのかと、今になって思う。だが、後悔は先に立たない。少し気を緩めた隙に舞は掠め取られてしまった…全ては、自分が悪いのだ。迷って舞を置いて去るなど、普通なら許せることではない…。しかも、舞はあれほどに傷ついてしまっていたのだから。

シュレーは、もしかして永劫に続くかもしれない胸の痛みに、そっと蓋をした。マイ…今思うと、本当に愛している。マーキスと結婚したなど、考えずに置こう。今は、それどころではない。

リーディスが休むと言うので、シュレーも隣の部屋へいつものように入った。そして、辺りを警戒しながら部屋で座っていると、低い声が読んだ。

「シュレー。」

シュレーは、驚いて振り返った。そこには、気配を消した、ラキが立っていた。

「ラキ!良かった…街中に居るはずなのに、一向に見つからないから探していたのだ。話が聞きたいと思ってな。」

ラキは、シュレーを咎めるように言った。

「不注意だぞ、シュレー。オレに気づかずボーっとしているとは。それでボディガードなど出来るのか。」

シュレーは、フッとため息をついた。

「ああ。それは悪かった。だが、お前から来るなんてどうした。隣には陛下が居られるんだぞ?」

ラキは、ふんと鼻を鳴らした。

「どうしても話さねばならぬと思うたからだ。アークと、マーキスはどうなのだ。」

シュレーは、マーキスの名に胸を掴まれるような気がしたが、それを隠して言った。

「知らない。あれから詳しい連絡はないからな。圭悟達はダッカに居るようだが、アークはミクシアに向かったらしいことは聞いた。精神的に不安定だといけないと聞いたから、落ち着くまでしばらく掛かるんじゃないのか。」

ラキはいらだたしげに言った。

「それでは駄目だ。」ラキは、何かを警戒するように回りを見た。「シュレー…お前から皆に話せ。ゆっくりしておる暇はない。あの兵器が、もしも作動したらどうなるのか、オレにも想像が付かぬ。デューはあれをそれは優先して開発させていた…兵器だとは聞いていたが、それがどんなものか、オレは知らなかった。」

シュレーは、息を詰めた。ラキが、あの兵器のことを話している。ラキは続けた。

「命の気を使って、ディンダシェリア全域を操ることが出来る機械だと聞いていた。しかし、どうやって操るのか、オレには想像も付かぬ。何度も探りを入れてみたが、デューはそのうち分かる言うだけで一向に要領を得なかった。命の気が分散されてリーマサンデにも多く流れて来るようになってから、あれの開発は急ピッチに進んでいた。技術者達も、皆デューの支配下にあって全くこちらの質問に答えぬし、いったい何をするのかと、オレでも危機感を持っていたぐらいなのだ。」

シュレーは、眉をひそめた。

「普通の兵器ではないのか。破壊力の大きな…」

ラキは首を振った。

「明らかに違う。確かに破壊する力も持っている。その力だけなら、テスト段階に入っていて、オレも見て知っている。だが、それだけではないのだ。デューは別の機能の方を目的に、あれを作らせている。テストが順調なのは、オレも見て知っているが、まだまだだとデューは険しい顔をしていた。どういうことなのか、全く分からなかったが、背筋が寒くなった…ヤツは、とんでもないものを作ろうとしているのだとな。」

シュレーは、聞いていて体に震えが走った。なんだろう、理解の域を越えているかのような…。シュレーが黙っていると、ラキは一歩踏み出して言った。

「シュレー、オレは世界がどうのなんて、まったく興味はない。だが、このままじゃ誰も生き残ることが出来ないような不安を感じる。あれの出力をもっと上げさせて、デューはいったい何をしようとしている?今の状態でも、町ひとつどころか二つ三つと、綺麗に消してしまうに足る力があるんだ。それをまだまだだと。この世界を丸ごと消してしまうつもりでいるのか?そんなことは、可能なのか。そんなことをして、いったいデューに何の得がある。あやつも生きて行くことが出来なくなるんじゃないのか。」

シュレーは、滅多に見ないラキの必死な様子に、事態が本当に深刻なのだと悟った。まったく知らない力…何をするのか分からない、何を考えているのか分からない化け物。そして、その手にあるのは、成長しつつある最悪の破壊兵器。シュレーは、急にじっとしていられないような衝動に駆られた。このままでは、きっと取り返しのつかないことになる…気持ちがどうのと言っている場合ではない。何とかしなければ。

「ラキ、今はシャルディークの言うようにまず、デルタミクシアのデクスの封印のほころびを直して、あのアディアの繭を破壊しよう。それから、あの悪魔の巣へ行くよりないだろう…今は、どう考えてもこっちが不利だ。敵の巣へ乗り込んで、それが抱え込んでいる兵器を壊そうとしてるんだからな。」

ラキは、しばらく歯を食いしばって握った手を震わせていたが、力を抜いた。そして、言った。

「…お前は正しい。焦っても、この敵には勝てない。だが、早くしなければあの兵器が完成してしまう。確かに今は、命の気がまた元に戻ったことで、開発が遅々として進まぬとイライラしていた。だがな、最近では研究所をナディールへ移設しようかという話になっておったのだ。おそらく、デューはそうする。そして、あの兵器の完成を急がせるはずだ。オレ達が反撃して来るのを知っているからこそ、必死にな。」

シュレーは頷きながらも、怪訝な顔をした。

「移設って言っても、それには時間が掛かるだろう。あいつらが精神を安定させるのに、そんなに時間は掛からない。きっと、もうすぐに準備が出来るはずだ。」

ラキは、シュレーを見てため息をついた。

「シュレー…兵達を見ただろう。」シュレーは、ハッとした。そういえば、最後に山を越える時に見た兵士達は、皆無表情で、こちらからの傷を受けても、腕が吹き飛んだ状態でも、こちらへ向かって来た。まるで、ゾンビのようだった。ラキがシュレーがそれを思い出すのを見てから、続けた。「あいつらは、今は痛みも何もない。自分の体が極限まで追い詰められていようと、顔色ひとつ変えずに命じられた通りに動く。そして、なんの前触れもなく突然に死ぬ。つまりは、死ぬその瞬間まで、なんの遜色なく働くのだ。そんな奴らが移設しようとしたら、一週間もあれば十分なんじゃないか。」

シュレーは、今更ながらにぞっとした。使い捨ての兵士達。何の疑問もなく、怪我をしようと死ぬまで忠実に、命令通りに動く。脅しも何も通用しない大量の戦闘員…。

「お前の言いたいことは、わかった。すぐに圭悟達に連絡して状況を聞こう。一刻も早く、奴の息の根を止めないことには、危ないってことだな。急がなければ、その兵器が完成してからでは遅い。」

ラキは頷いた。そして、山の方を見た。

「アディアのこと、知らせなくて悪かった。オレはあっちに居たが、アディアが潜入していたのも知っていた。それでも、助けようとはしなかった。逃がしたところで、アディアなら捕まるのは分かっていたし、社内で見つけた時には末路が分かって、気の毒だな、と思っただけだった。」シュレーは、黙っている。ラキはさらに言った。「しかし、こんな末路は想像していなかった。あれはアディアではないが、確かにアディアの記憶を持った体なんだ。本人は、恐らく自分をアディアだと思っていただろう。デクスという悪魔が核であるとはいえ、あれはそれが生き直したものだと思ってくれたらいい。シャルディークも言っていただろう…可能性がある、と。デクスが何も知らない命として生まれ、アディアとして生きていたら、ああなったんだろう。オレが、記憶を表面化させたために、他のゾンビ達とは違った命になってしまった。オレは…あれも助けてやりたいんだ。恐らく、苦しんでいる。デクスになりたくないのに、自分はデクスで、そしてそれを抑えきれずに、ああなってしまったことを。他ならぬ、アディアの記憶でな。」

シュレーはそれを聞いて、同じように山へと目をやった。だとしたら、一刻も早く、アディアの記憶をデクスから解放してやらねばならない。アディアとして苦しんでいるのなら、尚更。

「ラキ…そうだな。アディアを、きちんと死なせてやらなきゃならない。そういうことだな。」

ラキは、頷いた。

「そう。アディアはとうに死んでいるんだ。なのに、あんなことになっている。きっとあの世でも中途半端なまま苦しんでいると思うぞ。助けてやらねば。我ら、共に戦った仲であるから。」

シュレーは、頷いた。二週間後と定めて、そこからの計画をリーディスも組んでいたが、前倒してもらえるようにしよう。まずは、圭悟達と連絡を。話は、それからだ。

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