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偏見

ダッカでは、ダンキスの家に集まって、圭悟と玲樹が話していた。

「それにしても、初めてグーラを見た時は、ここまで賢い生き物だとは思わなかったな。オレ達、シオメルの農場でグーラに襲われた時、普通に倒してしまったけど…あの時も、グーラの言葉が分かっていたら、殺さずに済んだのかもしれないと思うよ。」

圭悟が言うのに、玲樹は答えた。

「だが、あの時にはグーラも正気じゃなかったんだ。命の気が枯渇してしまって、何もかもおかしかった。オレ達だって、自分達の身を守らなきゃならなかったからな。あれはあれで、仕方がなかったんだ。」

ダンキスは頷いた。

「そう、グーラを飼ってるオレですら、旅の途中にグーラに襲われてやむなく殺したことがある。賢いからこそ、気を付けないと、相手が殺しに来ている時は、こちらの命も危ないからな。知恵があるのだから。」

圭悟は、ため息を付いた。

「確かにそうだ。それにしても、グーラを憎んでいる種族って、本当にあるのか?ダンキス。」

ダンキスは、大きくため息を付いた。

「ああ、居る。親の親の代からずっとグーラを目の敵にしておる種族よ。いわば今は孫世代が長になっておるが、小さな頃から刷り込まれた考えというのは、なかなかに変えられぬ。遡れば、グーラと戦った長が負けたことがあったことが、そもそもの始まりだったらしい…それなら、お互い様だろうに。そのグーラが倒されていてもおかしくはない。なのに、人とは変な事を恨み、話を大きくするのものなのだ。今では、なぜにあれほどに恨んでおるのか本人達にもわからぬのではないか。しかし、脈々と受け継がれた訳のわからぬ怨嗟は、人を鬼に変える。我らダッカの種族ダクルスは、これまで魔物を共に、必要最低限しか殺さず生きて来た。なので自ずとその恨む種族とは対立し、何度もグーラ達を庇っていさかいになっておる。困ったものよ…命の尊さは、皆知っておるはずなのに。」

圭悟は、玲樹と顔を見合わせた。恨みほど、面倒なものはない。しかも、当人同士ではなく、古い恨みなのだ。解決する糸口も掴めない…。

そこへ、シャーラが険しい顔をして入って来た。

「我が君…また、ラルーグの、トゥクが。」

ダンキスが、眉を寄せた。

「…ラーズに任せておるがの。それほどにうるさいのか。」

シャーラは頷いた。

「今日は、特に。幸い、リーク達は皆人型になっておるので、誰一人あの子達がグーラだなどと気が付かないのだけれど、それでもあの子達だってあんなことを聞いていい気はしないわ。それでも、黙ってはいるけど。今は人型だから、話せば通じるでしょう。なので、何か言い出さないか、気が気でないわ。」

ダンキスは、ため息をついて立ち上がった。

「仕方のないことよ。では、オレが行って…」

そこまで話した時、外から大きな物音がした。嫌な予感がした圭悟達は、慌てて外へ出た。

「止めぬか!放っておけ、キム!」

ラーズの声がする。長の家からだ。ダンキスとシャーラ、それに圭悟と玲樹は、慌てて長の家へと走った。

「ラーズ、何事ぞ。」

ダンキスが、落ち着いた様で言った。外へと出て来ていたラーズと、その前に見慣れない背の高い、金髪の男が立っていた。そして、人型のキムが、そこでその金髪の男を睨んでいた。

ダンキスに気づいたラーズが、振り返って言った。

「兄上。ただ、つまずいただけでありまする。」

背の高い金髪の男は、こちらを見て言った。

「ダンキス殿か。いつの間にこのようにたくさんの養子を取られたのかの。もう少し礼儀を教えねばならぬわ。」

キムは、何か言おうとしたが、ダンキスが進み出てその前に出た。

「何分最近の事であるからの。しかしオレの息子であることには変わりない。何か失礼があったなら、詫び申す、トゥク殿。」

キムは言った。

「オレを野良犬と申した。ダンキス…父上のことも、野良犬の父なのだから、同じなのだろうとの。それは失礼ではないのか。」

トゥクは、ふんと笑った。

「野良犬を野良犬と申して何が悪い。グーラを保護するような輩なのだから、ま、分からぬでもないわ。」

ダンキスは、トゥクに言った。

「ほほう、主らは崇高な人種と見ゆる。我らはただの人であるから、命の価値など決めることは出来ぬしの。」と、キム、他グーラの人型達を見た。「囲まれておって、まだ分からぬか。」

トゥクは、眉を寄せて警戒した顔をした。

「なに?」

キムを始め、皆の目の色が変わった。目視出来るほどのオーラを立ち上らせ、睨み付けている。トゥクは顔色を変えた。

「まさか…、」

ダンキスは、手を上げた。グーラ達は、一斉に人型からグーラに戻った。その大きな体はガッツリとトゥクとその部下達を囲んで翼を広げた。

『我慢ならぬ。このようなもの、食い殺せば良い!』

キムが、グーラのまま言った。ダンキスは言った。

「落ち着け、キム。こんなものを食らって、腹でも壊したら何とする。劣ったものに対する慈悲も必要ぞ。」

キムは唸り声を上げてトゥクを睨んだ。トゥクは、冷や汗をかいてそれを見た。

「グーラを…グーラを人に見せるなど!」

ダンキスは首を振った。

「見せておるのではない。こやつらはこれだけの知能を持つのだ。侮るでない…人とさして変わらぬのだぞ。主らなどひとたまりもないわ。敵に回すと、これほど恐ろしい種族はないぞ。」と、手を振った。「お帰り願おう。二度と来るでないわ。」

グーラ達は、ダンキスが手を振ったのを見て、渋々道を開けた。トゥクとその部下達は、ダンキスを睨みつけて言った。

「…覚えておれ、ダンキス。」

そして、その場を去って行った。それを見送ったダンキスは、ため息をついた。シャーラが、ダンキスに歩み寄って来て不安げに言った。

「我が君…。」

ダンキスは、シャーラを見て微笑んだ。

「案ずるでないぞ。我らには、こんなにたくさんの息子達が居るではないか。主の腹にもの。」と、促した。「さ、家へ戻るのだ。」

シャーラは頷いて、戻って行った。圭悟が、ダンキスに言った。

「ダンキス…まずいんじゃないかな。」

キールも、人型に戻って言った。

「あやつから、嫌な気が出ておった。殺気ぞ。あの場では、皆に囲まれておったゆえ何もせなんだが、遅かれ早かれ何か仕掛けて来るやもしれぬ。我らを目の敵にして、グーラの集落も襲っておると聞いている。このままでは、逆恨みされるやも…。」

ダンキスは、苦笑した。

「それでも、あれほどに主らを馬鹿にするようなことを言われてはの。今までもこんなことはあったが、今回は特にひどい。おそらく、世間のグーラの価値を認めるような声に苛立っていたからであろうが、こちらもあれらの勝手な恨みの矛先にされてはやってられぬしな。陛下からも、あまりにグーラに対する偏見が酷いと、注意を受けたようなのだ。それもあって、こちらへ参ったのであろう。」

ラーズが、ダンキスに歩み寄って言った。

「しかし兄上、此度は本当に酷かった。こちらのグーラを、全て渡せと言うて来おったのだ。しかし、皆たまたま人型になっておったから、小屋は空であろう。なので、苛立ちをキムに向けおっての。リークにも言っておったが、リークは分かっておったから、黙って流しておった。キムはやはり、気持ちが若いからの。」

ダンキスは、人型に戻って下を向くキムに言った。

「そのように気にするでない。主のせいではないからの。悪いのはあやつらなのだ。怒って当然よ。」

キムはダンキスを見た。

「オレは、自分のことだけなら我慢するつもりでおった。だが、ダンキスのことまで言い出した時には、我慢がならず、つい側の椅子を蹴飛ばしてしもうて。」

ダンキスは笑ってキムの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。

「だから気にするなと申すのに。あれは、まことにあちらが悪い。オレとて殺してやりたいと、今まで何度思ったか分からぬぐらいよ。ゆえにの、もうこのことは言わずでよい。」

圭悟は、それでも気になって玲樹を振り返った。玲樹は、肩をすくめた。人同士の諍いなど、今は構っている暇はない。デクス、あの太古の悪魔を何とかすること。それがまず先なのだ。しかし、それを収めても、まだこのような問題もあちこちにあるのだろうと思うと、なぜか虚しいような、そんな気がした。


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