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正式に

しばらくそうして抱き合っていた二人だったが、マーキスが言った。

「…キールが、マイを呼んで参ると言うて探しに参ったが…キールが主に?」

舞は顔を上げた。

「キール?いいえ、私はあっちで圭悟と話していたの。」と、ルクルクの小屋の方を指した。「マイユさんの手伝いを終えて、休んでいたから。圭悟が、私の勘違いを正してくれた。それで、すぐにマーキスに謝ろうと思って…ここに。」

マーキスは頷いた。

「そうか。あやつは必死にオレの事を考えてくれておったわ。ほんに…良い弟よ。」

舞は頷いた。そして、マーキスを見た。

「マーキス…もしも、デクスを倒しに向かうまで時間があったら、ダッカへ一度帰らない?」

マーキスは、驚いた顔をした。

「ダッカへ?確かにここからなら、ほんの少し飛べば着くがな。何をするつもりよ。」

舞は、言いにくそうに言った。

「あの…後一週間ちょっとはね、子供が出来ない期間なの…。」

マーキスは、目を見開いて舞を見た。舞はあんまりマーキスが見るので、恥ずかしくて下を向いた。やっぱり言わなければ良かったかも…。

しかし、マーキスは舞を抱き締めた。

「おお」マーキスは、腕に力を入れる。「マイ…!良いのか。」

舞は、小さく頷いた。マーキスはそれは嬉しそうに弾んだ声で言った。

「ならば、ダッカへ戻ろう。恐らく時はある…なぜなら、アークが一度、時間があるなら体と心を休めたいと言うておったからだ。心の整理を付けて、準備しなければ飲まれるとシャルディークが申しておったろう。駄目であっても、日帰り出来る距離。ダンキスとシャーラに、オレが結婚することを伝えたい。」

舞は、微笑んで頷いた。マーキスは、舞にもう一度指輪を差した。

「マイ…これからは何なりと、隠さず話し合おう。オレも、絶対に疑わしいことはせぬゆえ。」と、舞の手を取って歩き出した。「さて、キールはどこぞ?あやつも共に連れ帰ろう。リーディス王はまだか。すぐにでも発ちたいのに…。」

途端に元気になったマーキスに、舞は苦笑してついて歩いた。


キールはアークに頼まれて、リーディスを迎えに河を沿って飛んでいた。リーディスは、ハン・バングから高速船に乗って、もうライナン近くまで来ているはず。アークただ一人を乗せて飛ぶなら、そのぐらいの距離はすぐだった。しかし、リーディスは迎えに来いとは一言も言ってはおらず、アークがそうしたいから来たようだった。アークから焦りのような物を感じて、キールは落ち着かなかった。

「あ、あれぞ!」

アークが、こちらへ向かって飛ぶように川面を走って来る船を指した。それには、王家の紋章が掘られてあり、キールは言われるままにそれに平行になるように方向を変えると、飛んだ。船の上はグーラが飛来したと大騒ぎになっていたが、リーディスが出て来てキールを一目見るなり収まった。

「落ち着かぬか!我の客人と弟よ。」と、アークに言った。「これへ!」

キールは、アークを見た。アークが頷き掛け、キールはその高速船の上に難なく降りた。回りの兵士達は、それでもびくびくと遠巻きにキールを見ている。リーディスが近付いて来て言った。

「アーク、我が弟よ。あまりにうるさいので、主の妻は連れて参ったぞ。」と、振り返った場所から、ナディアが飛び出して来た。「ほんになあ、確かに我から離すのは危険だろうと思うて、連れて歩いておるが、うるそうて敵わぬわ。早ようライナンに連れ帰って欲しいもの。」

そう言っている間にも、ナディアはアークに抱きついていた。

「ああアーク、会いたかった。よく無事で。我がどれほどに案じておったことか…。」

アークはナディアをソッと抱きしめた。

「すまぬな。しかし、まだ終わっておらぬのだ。」と、リーディスを見た。「陛下、お迎えに上がりました。兵士達は後でも良いでしょう。こちらへ。共に参りましょう。」

リーディスは驚いたような顔をしたが、フッと笑った。

「そうよな。おもしろい。一度グーラに乗ってみたいと思うておったのだ。」横から出て来たメグを見た。「メグ、主も仲間に早よう会いたいであろう?参るか。」

メグは、恥ずかしげにアークを見た。アークは驚いたようにメグを見た。

「おお、メグ。体はもう良いか?旅に戻って大丈夫なのか。」

メグは頷いた。

「ええ。ナディアと、たくさん話していろいろと考えたのよ。もう、大丈夫。私も、旅に戻らせて。」

アークは頷いて、キールを見た。

「キール、四人ぞ。大丈夫か?」

キールは答えた。

『ふん。最近は数が多くても気にならぬようになったわ。乗れば良い。早ようせねば、いくらオレでもシオメルに着くまでに日が暮れるぞ。』

メグがキールに慌てて乗って、ナディアはアークの前に乗っている。リーディスが嬉々としてキールに乗ろうとすると、臣下の誰かが慌てて言った。

「なんと陛下!おやめくださいませ、この高速船なら明日の昼過ぎには着くのでありまするから!そのような、魔物に乗るなど危ないではありませぬか!」

キールがムッとした顔をした。

『なんと失礼なやつぞ。別にオレは人など乗せぬでも良いのだぞ。』

臣下が喋るグーラに驚いて退いている間に、リーディスがさっとキールに跨った。

「よし!キール、頼んだぞ!」

リーディスの声に合わせて、キールは飛び立った。見る見る、船を離れて行く。

「陛下ー!」

臣下の声も、姿も小さくなる。リーディスは、豪快に笑った。

「あーなんとすっきりしたことよ!何でもかんでもかしこまって、鬱陶しくて仕方がなかったのだ。こうやって普通の民のように、しかも大空を飛べるとは思ってもおらなんだ。」

リーディスは、心から嬉しそうに言った。アークは苦笑した。

「陛下、そのように思っておられたのですか?オレは、お話ししたいこともたくさんあって、それに、出現した繭を見せねばならぬと思うて、お迎えに参ったのでありまするが。」

リーディスは、肩で息をついた。

「ああ。それは分かっておるが、いつでも誰かが付いて参る生活をしておったゆえな。空を飛んだのは初めてなのだ。あやつらがグーラに乗らせてくれぬから。ダンキスに何度もグーラを何体か王宮にくれぬかと頼んでおったのだが、世話をすることが出来ぬだろうとくれぬでな。我は大型の魔物が好きなのだ。本当なら、ミガルグラントだって飼い慣らしてみたいと思うておる。さすれば、殺さずに済むであろう?」

メグは、ミガルグラントを思い出して身震いした。あんなのを飼うなんて。こっちの話が通じたら大丈夫だろうけど。

キールが言った。

『飼い慣らそうと思うておるうちは無理であろうな。我らはそう簡単には気は許さぬぞ。主らの気が見えるゆえ…嘘をついておっても、すぐに分かる。ちなみにミガルグラントは無理ぞ。我らでも、意思疎通が難しい種族であるからな。つまりは、あまり頭の良くない種族と思うてくれたらよい。ルクルクのほうがまだ話が分かるほどよ。』

リーディスは感心したようにキールを見た。

「なんと、グーラと話しておるという事実を忘れてしまうの。ほんに頭の良い種族よ。」

アークもそれは思った。グーラは、魔物の中でも特別なのだ。マーキスは、巫女の血まで引く最強のグーラ。マーキスがシャルディークを降ろしてくれたら、自分はサポートに回ろうと思っていた。だが、マーキスも今は複雑な事情を抱え込んでしまっている。自分も、心にわだかまることを、何とかせねば…。

アークは、ミクシアの方角を見た。デクスとの対決の前に、必ずミクシアで自分の心の柵を断ち切ろう。

母、サラマンテに会って。

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