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ディンダシェリア ~The World Of DYNDASHLEAR~  作者:
リーマサンデの闇へ
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新たなグーラ

舞は、そのまま茫然とキールに運ばれて行った。

シュレー達が呆然と見ていると、そのグーラは辺りの兵士達を蹴散らして炎で一掃すると、倒れて動かないマーキスを足に掴み、こちらを向いた。

『何をボウとしている。早く乗れ!』

ラキとシュレーとアディアは、急いでその背に跨った。そのグーラは、まるで知っているかのように、行きしなに立ち寄った、あのジョジュの山小屋へと飛んで行った。


キールが山小屋に、他の五人を連れて到着して人型に戻って待っていると、すぐにあのグーラが、足にマーキスを掴み、背に三人を乗せて飛んで来た。舞は急いで降ろされたマーキスに走り寄った。

「マーキス…!ああマーキス、危ないことはしないって、約束してくれたのに…。」

そのグーラが言った。

『危険な状態ぞ。』と、見る見る人型に変わった。「人型に変えよ。気の消費量が格段に少ないからの。」

舞は頷きながら、その顔を見て驚いた。ジョシュ…!

「何をしておる!一刻を争うのだぞ!」

舞は慌ててチュマを出した。チュマはマーキスの状態に涙を浮かべながら人型にした。人型になったマーキスは、あちこちを撃たれていて血だらけだった。舞も、泣きながら必死に治癒魔法を唱えた。

「中へ!」

ジョシュが言って、山小屋へと走って行く。アークと圭悟、それにキールはマーキスを抱えて、急いでその後を追った…詳しい事を聞くのは後でもいい。とにかくマーキスを助けなければ!


ジョシュは回復魔法にも長けていた。どこで習ったのか、舞と同じ、サラマンテに教えられた治癒術を使った。すぐに入った所にある暖炉の部屋で、アディアと舞、ラキ、それにジョシュとリシマの力で、マーキスの容態は快方に向かって安定した。舞は、涙を流しながら、皆に礼を言った。

「本当に…本当にありがとうございました。」

舞は、長いソファの上で横になって、安定した寝息を立てているマーキスの手を、床のカーペットの上に座り込んだまま握り締めて言った。リシマが、ホッと息を付いた。

「身を呈して我らを助けてくれたのだ。助かって良かったことよ。」

夜が明けて、明るく日の光が射し込む中、シュレーが窓の外を見た。

「…もう大丈夫だ。国境警備兵が、動き出したのが見える。あちらは退くよりないだろう。」

舞はまだ涙が止まらなかった。黙って目の前に座ったジョシュを、じっと見た。ジョシュの髪は、青いような、くすんだ黒い色。見たことがあったのは、ジョシュの髪の色と、同じ体の色だったからだ。ジョシュは、舞の視線に気付いて、舞を見返した。その目は、マーキスと同じ、青色だった。

「…何か聞きたいようだな、マイ。」

ジョシュは言った。舞は黙って頷くと、首に掛けたペンダントを出した。ジョシュは息を飲んだ。

「どこで、それを。」

舞は答えた。

「ナディールです。巫女の血筋のかたが、なくなられた後に預けられてあったと、同じ巫女の私にと、渡されたのですわ。」

ジョシュは、黙ってそれを手に取った。そして、言った。

「…死ぬまで黙っているつもりだった。知っておるものも少ない。ローガもその一人であったが、死しておらぬしの。これは、我が妻ローラの物。死する時、オレにと遺したが、オレも死にかけておった…そのまま、気が付けばローガに助けられてオレは長らえ、ローラは死んだ。そして、オレ達の子は、もう、オレも死ぬと思い、仲間が不憫に思うて連れて帰ってくれたのだ。」

アークが、ジョシュに言った。

「話してくれぬか。オレにも関わる事であるからの。」

ジョシュは、アークが出した同じペンダントを見て、頷いた。

「話そうぞ。我らのことを。」

ジョシュは、話し始めた。


ジョシュは、青黒いものと呼ばれ、グーラの一族で生きていた。他のグーラに比べて色が暗く、夜に行動するのに便利だということで、よく夜の狩りに出ていた。夜は人も少なく、ジョシュは気に入っていた。何しろ、人は嫌いだった。姿を見れば剣を抜き、何を言っているのか、言葉も分からなかったからだ。必要なもの以外は殺傷を好まなかったジョシュは、あまり人に遭遇したくなかった。殺さねばならなくなるからだった。

そんなある日、ジョシュが単独で狩りに出掛けた帰り、何も仕留められなかったと少し機嫌悪く飛んでいると、こんな山の上に、しかもこんな時間に、人の女が一人、思い詰めた顔をして、じっと崖下を見ていた。黒髪に緑の目の、グーラであるジョシュから見てもかなり美しい外見の女だった。何をしているのだろうと、興味本位で、若いジョシュはそこへ降り立った。相手の女は、特に驚くこともなく、こちらを見た。

『…あなた、グーラね。私を食べようと思ったの?いいわよ、ちょうどよかったこと。この下へ飛び降りるより、よっぽど役に立つわね。ひと思いにお願い。』

ジョシュは、驚いた。女の言っていることが、分かる。びっくりしてその女を見ていると、女は苛々したように言った。

『何よ、どうしたの?私ってあんまり太ってないし、確かに美味しくないかもしれないけど、腹の足しにはなるでしょう?食べないなら、飛び降りるけど。』

ジョシュは、慌てて言った。

『主はなぜ、オレ達のように話す。人は訳のわからぬ言葉しか話さないと思うておった。』

すると、女はため息を付いた。

『私が、巫女だから。』女は、それが如何にも鬱陶しいことのように言った。『グーラだけじゃないわ。どんな魔物とも話せるのよ。それが、私の能力なのですって。』

ジョシュは、感心したように言った。

『なんとの。そんな人が居たとは驚いた。して、なぜに主はオレに食われたいと思うのだ。』

女は答えた。

『巫女だから。人には、いろいろ柵があるの。巫女ってね、人の中でもすっごく少なくて、大事されるのよ。大事にされ過ぎて、外へ出てはいけないとか、同じ巫女以外と話していけないとか言われるの。でも、お母様だって巫女なのに、抜け出して他の男の人と仲良くなって、お姉様や私を生んだんだから、人に偉そうに言えないと思うのよね。』と、ため息を付いた。『だから、おもしろくないし、いっそここから飛んで死んじゃって、巫女じゃない人に生まれ変わろうかな、って思ってたのよ。』

ジョシュは首を傾げた。

『またおかしなことを。生まれ変わっても、また巫女かもしれぬではないか。効率の悪い。それよりは、オレ達の言葉を理解して、少しは人と諍いが起こらぬように力を尽くそうとは思わぬか。我らとて、めったやたらに人を殺しておるのではないぞ?あやつらがこっちを目の敵にするゆえ、仕方なく滅しておるのだ。人は旨くない…魔物の方が肉も多いし匂いもないしな。我らは、人は食わぬ。』

女は驚いた顔をした。

『まあ。グーラってとても利口なのね。他の魔物で、そんなことを言ったものはいないわ。それどころか、会話にもならない種も居るのに。グーラはまるで、人と話しているようよ。言葉が違うだけで。』

ジョシュは目を丸くした。

『なんとな、人は我らを阿呆扱いしておったのか。気にくわぬことよ。』と、ずいと女に近付いた。『我らは馬鹿ではない。そうよな、主らの言葉をオレに教えよ。覚えようぞ。』

女は、少し考えたが、パアッと明るい顔になった。

『それ、面白いわね!じゃあ、毎日この時間になったら、ここへ来て。待ってるから。私はローラよ。あなたは?』

ジョシュは、困惑した顔をした。

『オレが、なんだって?』

ローラは眉を寄せた。

『何って、名前よ。私はローラというの。あなたは、仲間になんて呼ばれているの?』

ジョシュは答えた。

『名前とはなんだ。オレは、青黒いもの、と呼ばれておるがの。』

ローラはええ?!という顔をした。

『え、グーラには名前がないの?生まれた時に、特別に一人一人に付けるのよ。それを、一生皆がその人の名前として呼ぶのよ。』

ジョシュはまた感心した。人はいろいろ考えるものよな。

『ふーん。では、お前はローラか。ローラと呼べば、お前が自分を呼ばれたと分かる訳だな。』

ローラは頷いた。

『じゃあね、私があなたの名前を付けてあげる。そうね…ジョジュ。ジョシュって、この間読んだ本の主人公の名前なんだけど、金髪で青い目の男の子だったの。あなた、目が青いから。』

ジョシュは顔をしかめた。

『何やら、変な感じよの。そんな風に勢いで付けてしまうものであるのか?』

ローラは膨れた。

『いいじゃないの、ジョジュはとっても勇敢なヒーローだったのよ、お話の中では。』

ジョシュは仕方なく頷いた。

『ま、良いわ。別に何でも。』と、飛び上がった。『では、明日もまたこの時間にここでの、ローラ。』

ローラはジョシュを見送りながら、手を振った。

『ええ、ジョシュ!必ず来てね!』

ジョシュは、その上を丸く飛んでから、自分の棲家へと帰って行ったのだった。


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