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ディンダシェリア ~The World Of DYNDASHLEAR~  作者:
リーマサンデの闇へ
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ナディール

何かに追われるような気負いもなく、一行はナディールに向けて出発した。ここからナディールまでなら歩いて半日程の距離だ。もちろんグーラならばすぐに着くが、あまりマーキス達の事を他の一般人に知られたくない。万が一見咎められた時の事を考えて、歩いて行く事にした。

リシマは実に動きが軽やかだった。長い間の幽閉期間のため、体は少し痩せていたものの、元のガッチリとした体型がうかがえるような感じで、背も高くそれは洗練された動きをした。伸びていた無精髭を、綺麗に剃ったので、美しい顔立ちも際立った。やはり王とは、こんな感じなのだと、舞は思った。

昼に差し掛かる頃、道が登りになってきた。山岳地帯の山に登っているのだと舞は感じた。

「ナディールは、標高1500メートルの位置にある。」アークが言った。「ライナンと同じぐらいよの。」

皆は頷いた。ここから見える山頂付近には、小さくデルタミクシアの建物が見える。あの位置から、気がバーク遺跡に向けて流れている。女神ナディアが、愛するシャルディークに向かって飛んでいる…。

舞は、繋がれては居ても、そうして会えるようになって本当に良かったと思った。

すると、ミクシアのように、丸いドーム型の建物がいくつか並んだ、小さな集落があった。圭悟、玲樹、舞、アーク、シュレー、マーキス、キール、アディア、そしてリシマの9人は、そのナディールに足を踏み入れた。

入口から、ミクシアで見た巫女の世話をしていた侍女達と同じような形の服を着た女の人が二人、出て来た。

「ようこそ来られました。御用をお聞き致します。」

そのうちの一人が言った。リシマが、進み出て言った。

「急に参ってすまぬ。我は、リーマサンデの王、リシマ。二年ほど前に、こちらに訪ねて参った男のことについて聞きたいと思うて来た。」

その女は、もう一人の女と顔を見合わせた。

「…こちらに来られるかたの情報は、他のかたに言えぬことになっておりまする。ですが、聞いて参りますので、こちらへ。」

リシマは頷いて、それに従った。皆も、それについて歩いた。玲樹が、コソッと圭悟に言った。

「もしかして、こっちでも個人情報がなんとかってあるのか。」

圭悟は顔をしかめた。

「さあな。そこまで言うのか聞いたことはないんだがな。」

女達は、奥のその中では一番大きなドーム型の建物に入って行き、そこの入った所にある大きな応接室のような場所へ通された。そこで並んでソファに座っていると、奥へ入って行った女達が、一人のまた違う服を着ている女を連れて入って来た。

「お待たせ致しました、陛下。」その女は言った。「私はここの責任者をしております、ルーラと申します。二年前の事を、お聞きになりたいと。」

リシマは、頷いた。

「そうだ。そのお蔭でこの国が今、大変に混乱しておる。ライアディータの民にまで迷惑を掛け、こうして混乱の原因を探りにこちらへ参ってくれたほど。それと申すのも、ここに来た一人の男が、戻って参ってからのことぞ。ルーラ、覚えておることを話してはくれぬか。」

ルーラは、長いストレートの金髪を振って、頷いた。

「本来なら、こちらにいらっしゃる患者様のことは、例え陛下であろうともお話しせぬのが決まりでありまする。ですが、我らもここ最近の気の変化は大変に案じておりました。」と、ため息を付いた。「それは、デュー・イーデン殿のことではありませぬか?」

リシマは、驚いた顔をした。

「やはり、何か知っておるのか。」

ルーラは、頷いた。

「はい。あれは、二年前の、冬のことでありました。いつものように、来客があったのを告げるベルの音に、侍女達が迎えに出ました。すると、デュー・イーデン殿が、ただ一人の供も連れず、たった一人で入口に立っておられました。」ルーラは、思い出すように言った。「大変に穏やかな明るいかただった。イーデン殿は、自分の症状を穏やかに話されました。そして、あちらの医者の見立てを申し、余命があとひと月であると、申されました。」

リシマは、黙って頷いた。やはり、手の着けようがなくなっていたか。

ルーラは、続けた。

「こちらの術者が全て集まって、イーデン殿の治療を行いました。しかし、体中に出来た小さな細胞の変種は、とても全て取り除けるものではなかった。我らの力は、自然に逆らうものではありませぬ。本人の免疫を、極限まで一気に高めて治してしまうもの。我らが治しておるのではなく、本人が治しておるのです。結局、イーデン殿の持てる力では、全ての変種を消してしまうことは出来ませんでした。しかし、余命は延びた。恐らく、一年ぐらいはあったでしょう。しかし、それを治してしまうことは出来なかったので、イーデン殿は大変に沈まれました。次に同じような状態になった時には、我らはもう手助け出来ぬからです…あのかたの体は、二度の急激な免疫の活性化に耐えられるものではありませんでした。」

圭悟は、玲樹を見た。玲樹は、小さく言った。

「きっと、あっちの世界で言うガンみたいなものかな。」

圭悟は、頷いた。

「でも、いろんなことを成し遂げたうえ、そこまで寿命を延ばすことに成功したのに。やっぱり、そうだよな。治るかもと思って来たんだもんな…。」

二人がそんなことを言っていると、ルーラが先を続けていた。

「そうして、気持ちが落ち着くまではとこちらで一週間ほど滞在なさっておりました。その間に、こちらにあるいろいろな書物を読んでおられた。そのうちに、山の上にあるデルタミクシアに、とても興味を示されました。あれが、女神のおわす場所。オレには、時に神の声が聞こえるような気がすると、おっしゃって。」ルーラは、またため息を付いた。「…死を身近に感じた人には、よくあること。我らは、それを聞き流しておりました。しかし、ある日イーデン殿は、本当に山を登って行かれて…そして、二日後に戻って来られた時には、まるで別人のようでした。」

アークが、聞いた。

「それは、どう変わっていたのですか。」

ルーラは、アークを見た。

「まず、背がとてもしゃんとして、とても病には見えませんでした。そして、目が金色になり、神に会ったと言うのです。神に会って、病気を治してもらった。なので、もう何も案じることなどないのだと。我らはそんな馬鹿なと思いながら、イーデン殿の体を気で探りました。我らの思惑に反して、イーデン殿には全く病の兆候はありませんでした。」

圭悟とアークが、目を合わせた。それは…きっと、そこでデクスと会ったのだ。そして、その身を渡すのと引き換えに、病を治してもらったのだろう。それが、どういうことなのか分からずに…。

「その後、イーデン殿は以前の穏やかさはどこへやら、とても狡猾そうな笑顔を浮かべながら、帰って行きました。我らには、気が見える。あの時のイーデン殿の気は、身の毛がよだつほどのものでした。真っ黒い意思…。我らには、そう見えた。そして、鳥肌が立って数日は眠れませんでした。それから数か月。どうしたことか、命の気の流れが変わり、こちらへの命の気の供給も一気に減った。そのせいで術が思うようにならず、助けられたはずの命も幾人もそれで失いました。ここ数週間で、このように命の気が元に戻り、やっと通常通り術が使えるようになり申したが、それまでは我らもとても難儀しておりました。」

リシマは、頷いた。

「この者達が、気の流れを元に戻してくれたのだ。」リシマは言った。「我は、その何か分からぬ者に囚われて、国は荒れ放題であった。しかしそこから救い出し、我を捕えて操っておった者を滅しようとしておる。ルーラ、礼を申す。だいたいのことは分かった。つまりはデューは、やはり何かに憑かれておるのだな。」

ルーラは、ためらいがちに頷いた。

「恐らくは、そうではないかと。我らも、それが何かは分かりませなんだ。ミクシアの、巫女の君ならばお分かりになるやもしれませぬが、そこへそんな危ない輩を連れて参る訳には行きませぬでしょう。」と、窓から見える、山頂を見上げた。「デルタミクシアには、女神も居るが、悪魔も居る。古来、そのように言われて参りました。それが誠なのか、我らには分からぬ。巫女達に、口伝えで伝わるものであるからです。」

舞は、下を向いた。あの時、サラマンテに教わったのは基本的なものと、緊急時に必要になるようなものばかりだった。そんなことまで、教わっている時間がなかったのだ。今すぐにでも行って、聞いてみたいのに。舞は、はやる気持ちで同じようにデルタミクシアの方角を眺めた。あそこに、デクスが封じられているのは知っている。だが、もしかして言い伝えでは、それを封じ続けるにはどうしたらいいのかなど、述べられていたのではないのか…。

「サラ様に、お聞きしておけば良かった…。」

舞は、ぽつりとつぶやいた。ルーラが、舞を見た。

「あなた様は…もしかして、巫女の君?」

ルーラの目は、舞ではなく舞の回りの何かを見ている。それは、マーキスも良くすることだった。これは、気を見ている…舞は、頷いた。

「はい。ミクシアでサラ様にお聞きし、それを知りました。ですので、知識もまだありません。この旅を続けねばならなかったし、その際に必要な事を、最低限教わっただけだったのです。また、旅が終わったら来るようにと言われております。それが、本当に必要なことだと、今実感していたのです。」

ルーラは、頭を深々と下げた。

「ああ、私が生きておる間に、巫女様にお会いする機会があろうとは。巫女様は滅多に出て来られることはなく、それに同じ巫女以外とは口を開かれないと聞いておりましたのに。」

舞は、頷いた。

「はい。サラ様は、そうです。でも、私は生まれながらそれを自覚した巫女ではなかったので、ずっとこうして話してきました。それで力を失うこともなかったので、こうして来ました。新しいタイプの巫女であろうと、サラ様も申されていた。」

ルーラは、顔を上げた。

「巫女様。ただ今は、こうして世界を救うために旅をなさっておいでなのですね。私では何もお役に立てないでしょうが…」と、ルーラは懐に手を入れた。「私がずっと預かっていた、これを。何でも、20年ほど前、巫女のお血筋のかたが山の向こうで亡くなられた際に遺された物であるらしいのですが、こちらへ届けられたのです。しかし、我らにどうすることも出来ず、こうして今まで持っておりました。巫女の物は、巫女にお返しするのが道理。どうか、お持ちください。」

舞は、恐る恐る手を差し出した。そして、その袋を開いて、目を見開いた。どこかで見たことのある、緑の石。これは…。

「アーク…これ…。」

舞は、それを皆の前に吊るして見せた。

それは、アークの母の形見だと言っていた、あのペンダントと全く同じ物だった。

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