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ディンダシェリア ~The World Of DYNDASHLEAR~  作者:
リーマサンデの闇へ
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食事をさせて寝袋に入れ、温まって来ると、リシマはすぐに眠りに落ちて行った。その表情は穏やかで、やっと解放されたという安堵感が感じ取れた。

シャルディークは何かあったらまた呼ぶようにと言い置いて、またバーク遺跡の神殿へと戻って行った。

皆で寝袋に入って焚火を囲みながら、もう眠っている者も居るので、少し小さ目の声で、舞は気になっていたことを口にした。

「そういえばマーキス、あなたはさっきこちらへ飛んで帰って来る時に、何かに息を飲んだわね?それは、何だったの?」

マーキスは、舞を見た。そして、頷いた。

「あれはの、オレに人の血が混じっているかもと聞いて、オレがデューにあの黒いものを憑かせられようとした時に、記憶の中へ入って来て…その、昔の、もう忘れておった記憶が意識に上ったからよ。それは、まだ卵の中の時の記憶だった。女の声が、顔を見たかったと言って…どこかで聞いたような声が、その女をローラと呼んでいた。」

舞はびっくりした。ローラ?グーラの間でも、名前は呼び合うのかしら…。

「グーラ同士って、名前で呼ぶ?」

マーキスは首を振った。

「いいや。名などない。それぞれ微妙に色が違うから、あの赤の、とか青紫の、とかそんな呼び方だ。我らはダッカに居ったゆえ、ダンキスとシャーラが一体一体に名を付けたがな。最初は覚えるのが大変であったわ…何しろいっぺんに孵ったであろう。シャーラも混乱しておって、足に最初は名を記した輪を付けておったものよ。オレもそれにどれほど助けられたことか。」

舞はそれを想像して噴き出した。確かに大変だったろう。

聞いていた圭悟が、あちら側から言った。

「グーラ同士で名がないのなら、そのローラっていうのは人の女だったんだろうな。」

マーキスは頷いた。

「オレもそう思う。だが、人とグーラであるぞ?確かにオレはマイと結婚するが、それはチュマの力でこの型になれたからであって、あの型のままでは考えられなかった。大きさがまったく違うし、何より言葉が通じぬではないか。どうやってお互いに分かり合うと言うのか。それに、ローラと言ったその声は、人の男のそれだった。」

アークが考え込むような顔をした。

「人同士の子か?しかし、それなら卵というのが違うだろう。それに、マーキスはグーラなのだ。」

そこに、プーの型のチュマが顔を出した。

『だから、ボク言ったでしょ?マーキスはとっても変わってるって。他のグーラと違うって。そう思って一緒に寝たら、マーキス達が人の形になってたんじゃないか。』

マーキスは、思い出すような顔をした。

「…確かにそうだったの。あの日、チビが寝ていたオレ達の所へやって来て、何やら言っておったかと思うと、朝起きたらこの型になっておったわ。もうすっかり慣れたが、あの時は困ったものよな。」

舞は言った。

「じゃあ、チュマは無意識にマーキスの血を感じ取ってこの型にしたのかしら…?キール達は一緒に居たからそうなったのかしら。」

アークが首を傾げた。

「わからぬ。何しろ、チュマの能力の限界を知らぬしな。だが、ローラという女のことを調べたら、マーキスのことがわかるやもしれぬの。」と、アークは自分の胸にあるペンダントを握り締めた。「主はまだ名が分かるだけ良い…オレの母は、このペンダントしかオレに残さなかった。ただ、同じ瞳の色だという手がかりだけぞ。名でも書いておってくれたら良かったのだが…これには、オレの名が刻まれておるだけだ。ARCKとの。」

玲樹が、それをじっと見て言った。

「…なんか見たことがあるような気がするんだよなあ…どこにでもあるデザインか?どこの街の女だったかなあ。」

圭悟が、呆れたように玲樹を見ながらも、いつの間にかアークが持っていたそのペンダントが、気になっていた所だった。なので、アークに聞いた。

「アーク、母上のことが分かったのか?確か、父上は何も言わずに亡くなったんだと言っていたな。」

アークは頷いた。

「ランツの父のラーイ殿は、オレの父ローガの親友でな。なのでオレは、よくあの洞窟を抜けてこちらへ参ったのだ。あの洞窟の道は、ラーイ殿と父が若い頃に探索して作ったもので、よくそれをオレに自慢していたものだった。そのラーイ殿に、父はこのペンダントを託していたのだ…ラーイ殿は、母を知っていた。だが、事情があると言って、教えてはくれなかった…母は、自分が存命の間はオレに知らせるなと言っておったらしい。まだ生きておるから、名は言えぬのだと。」

圭悟は言った。

「そんな…どうして。もうこれだけの年月が経ったのだから、いいのでないのか。アークも、母上に会いたいだろう。」

アークは、下を向いたが、頷いた。

「顔を見るだけでも良いのだ。オレは母を知らぬ。生きておられるうちに、お顔だけでもと思う。」

マーキスは、言った。

「オレは今更に母が恋しいとは思わぬ。独りが当たり前で育ったのだからの。しかし、己の出自は知りたいと思う。どうしてオレはここに生きていて、どんな命であるのか。そうでなくば、オレの子に、その子がどんな血を引いておるのか話してやることが出来まい?」と、舞の頭を撫でた。「子をなそうと思うた時、そう思った。なので、ローラという女は、探したいと思う。」

アークも、頷いた。

「もちろん、オレもそうよ。ナディアはそんなものにはこだわらぬと言うておったが、オレも我が子の為に知りたいと思うの。この旅が終わったら、共に探さぬか、マーキス。」

マーキスは、薄く微笑んで頷いた。

「そうよの。主と共なら心強い。」と、大きな寝袋に共に入っている舞を見た。そして、アークに言った。「さ、我らももう休む。明日はまた、どうするか決めねばならぬ。」

アークは頷いた。

「ああ。」

マーキスと舞は、チュマを横に、すっぽりと寝袋に収まった。マーキスが舞を抱き締めて、口付けた。

「やはり主が共でなければ落ち着かぬ。不思議なものよ…以前は一人でなければよく眠れぬと、ダッカの小屋で兄弟達に囲まれてぼやいておったのに。」

舞は微笑んだ。

「私も同じよ。マーキス…本当に心配したの。これからは、あんなことはしないで。何があっても、この体だけは守ってね。マーキスは、自分を粗末にし過ぎる気がする…。」

マーキスは眉を上げて舞を見た。

「そんなことはないぞ?だが、わかった。主の元に戻ることを最優先に考える。それでよいか?」

舞は頷いてマーキスの首に腕を回した。

「ええ。きっとよ。」

マーキスは舞に唇を寄せながら言った。

「ほんに…主には敵わぬ。言いなりになってしまうわ…。」

二人は、深く口づけ合った。

そして、やっとホッとして抱き合って眠りについた。


ハン山脈の朝は、空気は冷たいが澄んでいて、とても清々しかった。命の気が濃く、それを乱すものもないので、そうなのだろうと舞は思った。目が覚めたら焚火の火は消えていたが、皆が起き出すとアークがまた火を起こして朝食の支度にとり掛かっていた。いつも誰か助手に付くのだが、今日はシュレーが付いて、皆の食事を準備した。

暖かいスープにホッとしながら舞が座っていると、リシマが言った。

「本日はどうするのだ。主らは我をさらったことになっておるのだろう…それでは、自由に出来ぬから、不自由であるの。やはり、我だけでもデシアへ戻るべきか。」

アークが答えた。

「確かにあちらへ戻って頂けばオレ達は助かるのですが、陛下の身辺に危険が再び近付かぬとは限りませぬ。なので、考えたのですが、ライアディータの王城へお連れした方がいいのかと。」

リシマは、両眉を上げた。

「リーディスの所か?しかしそれでは、リーディスが我をさらわせたことになるまいか。デューのヤツが気に掛かるのは確かであるが、しばらくは戻って来れまい。真実を話したら、我の様子がおかしいと思うておった臣下も軍も、もうイーデンの言いなりにはならぬ。さすれば主らも、この国内を何の憂いも無くデューを追えるだろう。」

確かに、その通りだった。あのデューが持ち出した兵器を、完成させてはいけない。探し出さねば。

「では…デシアに戻った方が良いと?」

リシマは、頷いた。

「そうだ。我は王よ。他国の王に、命を守ってもらっていてはならぬ。まして今は自国の国民が危機にさらされて居る時。そのような時に、己だけ逃げるなど、出来ぬ。」

あんな目に合っていたのに…。

圭悟は思ったが、アークと目を合わせた。アークは頷いた。

「では、お連れしましょう、陛下。」

しかし、リシマは言った。

「だが、その前に行きたい場所がある。」皆が驚いてリシマを見る。リシマは続けた。「ナディールよ。忘れもせぬ…憑りつかれておった間の時間感覚はあいまいであるが、二年ほど前のこと。デューは、己の身に巣食った病を治すためと言って、リーマサンデでは病の最後の砦と言われておるナディールに、旅に出ると言いに来た。それまでは気のいい男で、社員たちにも好かれ、社内もそれは和やかな雰囲気であったのだ。しかし、体調を崩してからというもの、長く病院に通っておってな。ナディールへ行くと聞いた時、いよいよ危ないのだろうと我は思うた。」

それは、圭悟も聞いたことがあった。リーマサンデでは、魔法が使えない。だが、唯一デルタミクシアに近いナディールでは治癒魔法もまともに使えるのだと。なので、そこには治癒の技に長け、命の気を長時間浴びても平気な者達が代々住んで、守っていた。リーマサンデの近代医学で治せないことは、最終的にナディールへ望みをつないだ…人の世の、神頼みのようなものだった。しかし、こちらは目に見える魔法を使ってくれる。確かにそれで治る病もあったが、治らない病もあった。そんな場所へ行くからには、かなり病状が悪い場合に限られていた。

「では、デューはもう、余命が少なかったと?」

リシマは頷いた。

「そうだ。そして帰って来た時、術の副作用だと言っていたが、目が金色になっていた。しかし、他は至って健康になり、動きも快活になった。そして…我は、あやつのその金色の目に見つめられて、目の前が真っ暗になって、あのように操られることになったのだ。つまりは、全てはナディールへ行った時からぞ。」

アークは真剣な表情で頷いた。

「それを、調べようと言うのですね。」

リシマはまた頷いた。

「そうだ。何か、ヤツのことが分かるやもしれぬ。ここまで来ておるのも何かの縁であろう。ナディールへ参ってからデシアへ参ろう。」

皆は頷いた。デクスがなぜ、憑りついたのか…それが、分かるかもしれない。

何かの時はシャルディークを呼ばなければと、アークは思っていた。

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