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ディンダシェリア ~The World Of DYNDASHLEAR~  作者:
リーマサンデの闇へ
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侵入

マーキスは、部屋に戻ってからは盗聴機があるかもしれないとのことで、噴水広場の横の酒場で言った。

「ラキは、どうしてかは分からぬが、ただ我らにあれの存在を知らせたかったのだと思うぞ。」回りを気遣って、声は小さくなる。「あんなものを放置してはならぬことを、奴は知っておるのだ。気からは、デューへの忠誠心など欠片も感じなかった。シュレー、しかし主にはなぜか親しみを持っておるようだったがな。」

シュレーは、窓から見える噴水を眺めていたが、言った。

「…まさかラキは、オレに気付いてはいないと思うが…だが、あいつが裏切る前は、仲のいい戦友だった。似ている、と言っているのは、恐らくオレのことだろう。今でもあいつが裏切るなんて、信じられないぐらいだ。しかし、ミクシアでは確かにオレ達を皆殺しにしようとした。敵なのには変わりない。」

マーキスは、首をかしげた。

「どうも人とは複雑よ。主は本心から最後の数言を言うたのではあるまい?」

シュレーは、驚いた顔をした。マーキスは、キョトンとしている。何を驚いている、といった風情だ。

「お前…ほんとに全部見えるな。」と、ため息を付いた。「そうだ。殺されそうになっても、殺された訳じゃない。だから、心のどこかでまだ仲間のように思ってるよ。」

マーキスは頷いた。

「素直に始めからそう申せばよいものを。」と、キールを見た。「主、どう思う?あれを見ておって。」

キールは、言った。

「殺されそうになっても、殺された訳ではないという事が引っ掛かる。」キールは考え込んだ。「あやつから、我らに殺意は感じない。主は殺されそうになった時、あやつから殺意は感じたか?」

シュレーは首を振った。

「感じるも何も、ラキは見えなかった。あいつの仲間が気弾を投げたからな。しかし、あいつはそれを命じたと思うぞ。止める事もしなかった。」

マーキスが言った。

「何にせよ、あやつの真意がどこにあろうとも、あやつがあれを止められぬのは確かぞ。我らがやるしかない…チュマをプーに戻そう。」と、チュマを見た。「持ち運び便利になる。本部は魔法が使えるのだし。リシマに、会う必要がある。」

シュレーは、重々しく頷いた。

「そうだな。あの装置を壊すのは、真意を確かめてからでも遅くはない。説得出来れば、血を流さずにおさめる事も出来る。」

マーキスは、考え込むように噴水を見た。そして、言った。

「…オレが、あのレンの申しておった脱出口から侵入を試みよう。飛ぶ事は可能だろう…ギリギリの幅だろうがな。」

シュレーは、気遣わしげに言った。

「しかし、リシマに会う前に掴まる可能性の方が高い。あの脱出口が、王の階まで伸びているとは考えられない。王には別の物が準備されていると考えたほうが妥当だろう。到達した階から上まで上がれるのか疑問だ。」

マーキスは、頷いた。

「要は、リシマに会う事が目的なのであろう。」

シュレーは、ハッとした顔をして言った。

「…捕まるつもりか。」

マーキスは、もう一度頷いた。

「あの、アディアが入ったという部屋。あの地下二階にあるだろう。オレに何かしようとする時、必ずリシマは現れる。主らは潜んでいよ。オレが捕まれば、仲間の主らも捕まるだろう。」

キールが、首を振った。

「オレも共に。同じグーラなのだ、どんな術も弾き返せるはず。」

マーキスは、眉を寄せて首を振った。

「ならぬ。何が起こるか分からぬのだ。オレなら、まだ耐えられよう。主はまだ若いわ。」

キールは、下を向いた。マーキスはそれを見て続けた。

「主らには役目があろう。オレがリシマを説得出来ぬか、それともあやつの術に屈した時には、すぐにあの兵器を破壊せよ。主らなら二人居れば出来るはず。」

シュレーは、黙って考えていたが、渋々頷いた。

「それしかない。夜明け前に、オレ達は街を出て待機する。」と、マーキスを見つめた。「マーキス…死ぬなよ。」

マーキスは眉を上げた。

「そんなことは考えてもなかったわ。」と、左手の指輪に触れた。「主に言われずとも、分かっておるわ。オレは約した事は違えぬ…マイは主には渡せぬ。」

シュレーは、肩をすくめた。

「お前を知って、とても敵わないと思い始めていたから、いいチャンスかと思ったのに。」

マーキスは笑って立ち上がった。

「オレはしぶといぞ?」

三人はチュマを連れ、それぞれの準備をするために歩き出した。


夜も明けきれぬ頃、人型からプーに戻したチュマを鞄に入れ、シュレーとキールは街を出て行った。マーキスはそれを見送ってすぐ、王城へと向かった。あの、エレベーターシャフトの隣、広く開いた空洞の場所。

警備兵は、隙だらけだった。それに、気が見えるマーキスにとって、いつ警備兵がどこまで来るかなど手に取るように分かった。ちょうど警備兵がそこを過ぎ去った時を見計らって、脱出口の大きな鉄の扉に歩み寄った。

そこの鍵は、緊急時にも開閉するためにか、手動のものだった。マーキスは手から細い糸のような炎を出して、それを綺麗に焼切った。そして少しその戸を押して開いて中へ入ると、再び戸を閉めた。中からは小さな取っ手のようなものが付いていて、それを縦に動かすことによって中の鉄の棒が横へスライドし、開錠できる造りになっている。これほどセキュリティーが万全な中で、ここだけこうやって緩いのは、恐らくここが、レンの言った通り縦に長い空洞になっているからだろう。誰も、ここを登れるものは居ない。緊急時に足らされる数々のロープを、滑り降りる形になるらしかった。それはそれで、人も大変そうだなと、マーキスは思った。

「さあ…ここからでもチビの力は使えるか?」

マーキスは遠く街の外に離れたチュマを思って念じた。見る見るマーキスの体は大きな翼竜、グーラへと変化する。マーキスはほくそ笑んだ。

『なんだ。簡単なものよな。』

グーラになった途端にかなり狭く感じたその空洞を、マーキスは一つ二つと羽ばたくと、一気に上昇して行った。

一方、街の外へと出て、歩いていたシュレーに、鞄の中のチュマが言った。

『あ…マーキスがグーラに戻ったよ。』

シュレーは、街の方を振り返った。朝焼けが右手から始まっている。

「どこまで離れていたらいいんだ?あまり離れたら、マーキスに何かあった時助けに行けないじゃないか。」

キールも、気遣わしげに街を見て言った。

「確かにそうだ。兄者…オレも共に行ったのに。」

二人と一匹が、どうしたものかと佇んでいると、そこに、伝書マーリが飛んで来るのが見えた。間違いなく、真っ直ぐに街を目指している…もしかして、うちのマーリか?

シュレーは、笛を出して吹いてみた。マーリは、ピクッと反応すると、こちらへ向かって飛んで来た。シュレーは手を出した。

「やっぱりうちのマーリか。段々見分けがつくようになって来たぞ。」

マーリが、片足を上げた。早く取れ、と言っているようでそれは面白かった。シュレーがカプセルから手紙を取って読んでいる間、キールがそのマーリにエサと水をやっていた。シュレーは、顔を上げた。

「…アーク達も、あの兵器のことを知った。」シュレーは、キールに言った。「ラキがあの日始末しに行ったと言っていたのは、前のメインストーリーの攻略者達だったんだ。詳しいことは、こっちへ来てから話すと…。あいつらも、こっちへ向かうつもりだ。」

キールは、シュレーを見た。

「兄者のことを、知らせずとも良いか。」

シュレーは道の向こう側を見た。

「そうだな、一応知らせておこう。こっちに来るなら話せるかと思ったが、オレ達がマーキスを助けに戻ったりしていたら、会うことが出来ない。手紙を書こう。」と、マーリを見た。「こいつ、戻れそうか?」

キールは、マーリを指にとまらせてじっと見た。

「…気は大丈夫ぞ。おそらく、行ける。」

シュレーは頷いて、急いで手紙を書いた。今にも、マーキスが捕まるのではないかと、気が気でなかった。


一方、舞達はもう、メクルとランツと別れ、夜明けと共にブールを出発してこちらへ向かっていた。皆で話し合った結果、やはり首都へ行き、その装置がいったい何の装置なのかを調べて、出来るならリシマと面会したい。それには、その方法を知るためにシュレー達に合流する必要があった。

歩いても歩いても、一向に遠くならないように思うキーク湖に、舞は焦りを感じていた。マーキス…何か嫌な予感がするのは、なぜだろう。シュレーとマーキスの性格では、自分を犠牲にしてでも仲間のために情報を得ようとしたりするだろう。無茶をしていないかと、そればかりが気になって仕方がなかったのだ。

日が高くなって来る中、舞は歩く速度を上げた。すると、アークが何かに気付いて足を止めた。

「待て。」

と、笛を出した。そして吹くと、遠くに見えていた点のような物が、見る見る大きくなって、それがマーリなのだと気が付いた。舞は、あんな小さな物を、よく視れるなと感心した。

アークは、マーリから手紙を受け取ると、小さくなっているその紙を開いた。中には、急いで書いたような文字の、文章が書かれていた。

「…遅かった。」アークが、つぶやいた。そして顔を上げた。「ケイゴ、あの装置は兵器ぞ。一発で全ての民の半数以上を滅してしまえる、命の気を使った兵器なのだと、シュレーが知らせてきおった。」

圭悟は、不安そうな顔をした。

「それが、いったい何が遅かったと?」

アークは、暗い顔をした。

「マーキスが、自らリシマを説得に行っている。おそらく王城の上までは行く前に止められるゆえ、捕まって、アディアが入れられた部屋で対面することになるだろうと、見ているようだ。」

舞が息を飲んだ。マーキス…悪い予感は、これだったのだ。精神的拷問なんて…そんな未知のものに、たった一人で立ち向かえると思ったの?

「そんな…リシマは、話しはしないわ!」アディアが叫んだ。「あれは。もう前までのリシマではないわ!目が金色だったと言ったでしょう…対話は不可能よ!私の術を持ってしても防御出来なかったのに!」

アークは眉を寄せた。

「シュレー達はアークが失敗した時、すぐにでも兵器を破壊してマーキスを救出して脱出するために、街の外で待機していると。急ごう!少しでも手を貸せれば!」

皆は頷くと、物凄い勢いで進み出した。舞も、走った。マーキス…無事で居て!神様、お願いよ!

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