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ディンダシェリア ~The World Of DYNDASHLEAR~  作者:
リーマサンデの闇へ
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最期の責任

ケンジは苦しげに息を吐いた。そして続けた。

「オレ達は気を均等にした英雄だと世間には宣伝された。全てはイーデン・コーポレーションの力だ。しかし、そうでないことは、戻って来てイーデン・コーポレーションの社長室で聞いた事実を知ってわかっていた。」ケンジはあえいだ。舞は必死に気を補充した。「…オレ達をずっと影から助けてくれていた、イーデンでも一目置かれている男の計らいだった。潜んで聞いていると、その男に促されるまま、デューは話した…この世界を制御するほどの巨大な装置を開発しつつあること。それを動かすには、途方もない量の命の気が要ること。そして動かし続けるためには、それを供給し続けなければならないことを。そのためには、若い巫女が要る…ミクシアの年老いた巫女ではなく、若い巫女。それは現存するとわかっているのは、ナディア殿下のみなのだと。」

舞は息を飲んだ…自分も、巫女。だが、知られていない。だから、狙われずに居るのだ。つくづく、ここにナディアを連れて来ないで良かったという安堵感と、自分も他人事ではないという焦燥感が同時に込み上げて来た。

「いったいどんな方法で世界を制御するのかは分からない。オレ達は手引きしてくれた男に教えられた通りのルートでそこを抜け出したが、警備隊長のレンに見咎められた。その場はその男のとりなしでうまく誤魔化して建物を出られたが、デューに知られ…しかしオレ達を英雄と宣伝した手前、どうにも出来なかったようだ。この家に事実上軟禁状態だった。訪ねて来る者もなく、ただ毎日生かされているだけだった。オレ達は帰る事も出来ず、後悔の念に押し潰されそうになっていた。そこへ、何を思ったか小数部族のもの達が訪ねて来て、武勇伝を聞かせてくれと言う。オレ達は自責の念から逃れるために、望むだろうことを話したよ。だが、それが使用人からデューに伝わり、オレ達を始末することにしたようだ。知られてはいけないと思ったんだろう…どこの誰が訪ねて来たのかと聞かれたが、知らないと答えた。どうもライアディータから来たようだとは答えた。シアから船で来たと言っておったから…。」

メクルが、下を向いた。確かにあの時はライアディータからの帰りだった。だが、あの訪問のために、こやつらがこんな事になろうとは…。

ケンジは、息を付いた。

「…もう…終わりだ。」と、ケンジは、圭悟の手を握った。「頼む。この世界を救ってくれ。オレ達は騙された。だが、それを正そうとしてくれるもの達が、居るのを知った。頼む…救ってくれ。」

ケンジは、息を乱した。そして、ホッとしたように天井を見た。

「ああ…帰って行く。長かった…やっと、終わる…。」

ケンジは、目を閉じた。舞は、知らない男なのに、涙が出た。しかしその顔は、何かをやり遂げた人の、安らぎに満ちた顔だった。

「死んだのではない。」圭悟が、言った。「こちらで生きた事を忘れて、あちらでの生に戻っただけだ。オレは知ってる…なので、不幸じゃない。」

舞は、頷いた。そして、皆で庭に穴を掘って、四人を葬った。正しいと信じて、命を懸けてやり遂げたのだ。それが間違っていたとしても…。

そして、また六人は、夜が明ける前にとブールへとって返したのだった。


その数時間前、ラキに会ったシュレー、マーキス、キールは、ラキについて訓練場へ来ていた。シュレーは、新しく部下が加わったら必ずする、技量を見ようということなんだろうと分かった。シュレー自身も、傭兵が増えるたびにそうやって相手の技量を計ったものだ。しかし、自分はラキ相手では恐らく軽く誤魔化す訳には行かない…ある程度は出さなければ、恐らくラキは自分を使えないと判断してここを出すだろう。しかし、自分の動きを良く知っているラキ…。例え太刀筋が一緒でも、誤魔化せるか…?

ラキは、振り返った。

「では、お前達の技量を見よう。まずはお前、前へ。」

ラキはマーキスを抜いた剣先で示した。しかし、顔色があまり良くない。本当に疲れているようだった。マーキスは、ラキではなくラキの何かを見るような顔をした。

「オレは一日遊んでおったし、全く平気であるがの。主、かなり消耗しておるのではないのか。別に明日朝でもいいのではないか。」

ラキは、驚いたような顔をしたが、じっとマーキスを見てから首を振った。

「明日からの任務に就かせられるかどうかを今、見ておかねばならん。マーキスといったか…お前は、もしかして何か見えるか?」

マーキスは、何のためらいもなく言った。

「オレには気が見える。弟もそうだ。」と、キールを少し振り返った。「主の気、人が悲しんで居る時の気であるな。それに後悔…そのように心が揺れておる者を相手になど、オレには出来ぬ。」

ラキはショックを受けたような顔をした。シュレーが驚いてラキを見る。

「ラキ…今度の任務とやらは、そんなに重いものだったのか?」

ラキはしばらく黙って居たが、フッと息を付くと、剣を鞘に戻した。

「お前、本当にオレの知っている男に似ている。そんなはずはないが。」と、踵を返した。「今夜はやめておく。」

シュレーは、出て行こうとするラキの背に言った。

「おい、ラキ!本当に大丈夫か?」

ラキは、振り返った。

「ふん、少し長い付き合いの奴を始末しただけだ。任務とはそんなものだろう?」

シュレーは、首を振った。

「納得出来ないことは、オレはしない。」

ラキは、じっとシュレーを見た。そして、言った。

「…それでもせねばならぬこともある。まして、相手が望んだのだから、自分の手を汚そうとも相手を楽にしてやりたいものだろう。」

シュレーは、じっとラキの目を見つめた。相手が望んだこと…?

「いったい、誰を始末したと言うのだ。」

ラキは、剣を抜いた。

「お前はごちゃごちゃとうるさいな。」ラキは、今度はシュレーを剣先で示した。「シンといったか?来い。一人ぐらい相手をしても平気よ。」

シュレーは、ためらいがちに剣を抜いた。この時のために、剣を違うものに変えて来たのだ。しかし、本当にラキは憔悴しているようだった。そのままためらっていると、ラキが剣を振り上げた。

「何をしている!」

ラキはシュレーに鋭く切り込んで来た。シュレーはそれをかわしながら思った…やはり、疲れていてもラキはラキだ。

シュレーは、ラキの剣を巧みにかわしながら斬り込んで行った。ラキは一瞬ためらった顔をしたが、それを受けて押し返す。二人の動きは段々に早くなって来て、見ているマーキスが感心したように言った。

「…良い立ち合いぞ。見ていて飽きぬの。あのテストとは大違いぞ。」

キールが横で頷いた。

「本当に。あれは一瞬で勝敗が喫してしもうて、退屈で仕方がなかったわ。」

そう言っている間に、息を荒くした二人は、真ん中で剣を交わして、そのまま睨み合ってどちらも押し返せず動きが止まった。ラキが、言った。

「お前…。」

シュレーは、ただ黙ってラキを見つめた。ラキは、そのままずっとシュレーを睨んでいたが、すっと剣を退いて、言った。

「使えるの。明日から通常の任務に他の奴らと着けば良いわ。」

シュレーは、息を整えながらラキを見た。

「…わかった。」

ラキは、剣を収めると今度こそ出て行った。

シュレーはその背に、何か重いものを背負っているように見えた。


次の日の昼過ぎ、ブールに帰り着いたアークや圭悟達は、一睡もしていなかったので、とにかく休もうとすぐに横になった。みんな、精神的にも肉体的にもボロボロだった。いろいろなことを知って、舞も圭悟も興奮状態なようで、横になってもなかなか寝付けなかった。それでも、横になるだけでも、かなり体力の回復には役だった。

圭悟が、横になったまま言った。

「オレ達のやっていることが、果たして間違っていないかなんて、本当に分からないものな。それが正しいと思ったら、果たそうとする。ケンジ達も、それが絶対的に世界のためになると思って頑張ったんだ。オレ達も、今絶対に正しいと思ってイーデン・コーポレーションの企みを阻止しようとしている…。結果的に、それが全ての人にとっていいようになるんだと信じて。でも、それが終わった時に、そうじゃなかったと分かったらどうするだろうな?」

舞は、黙った。そう、学校の宿題などとは違って、それが絶対に正しいと教えてくれる者は居ないのだ。こちらの人にとって良くても、別の人にとっては良くないことなのかもしれない。イーデンの企みが表ざたになって、それが悪い事で、皆が非難したらどうなるのだろう。イーデンで働いている人達は、失業してしまうようなことに、ならないのだろうか…。

圭悟の向こう隣に横になっていた、玲樹が答えた。

「それは、オレにもわからねぇよ。だが、何もしなければこのまま世界は悪い方向へ向かうかもしれないだろう。命の気のことにしても、オレ達が元に戻さなければ、両国の一般の民達が大変な目に合ってた。与えられた情報の中で、間違わないように慎重に考えて行動するよりないだろう。今は、とにかくケンジが言っていた装置がどんなものなのかを、調べなきゃな。未来永劫食料を作り出す装置とかだったら、大した発明だし、兵器かなんかだったら、すぐにでも排除しなけりゃならない。慎重に行こう。圭悟、オレ達は大丈夫だ。きっと、間違わずに道を進んで行ける。」

圭悟は、頷いた。情報収集を忘れずに、一歩一歩慎重に、しかし手遅れにならないように進む…。これが、メインストーリーを歩く重みなのだ。

舞は、横で二人の話を聞いているうちにうとうととし始めて、気が付くと眠ってしまっていた。


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