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彼女の置き手紙

作者: 椎名正
掲載日:2026/07/24

 この手紙をあなたが読んでいる時、私はもういないことでしょう。


 ごめんなさい。

 黙ってあなたの前から姿を消すなんて。

 でも、私はそうするしかないのです。

 あなたは悲しんでくれますか?

 それとも、怒るのでしょうか?

 私は今、あなたが寝ているベットの脇で、この手紙を書いています。

 あなたの寝顔をこのままいつまでも見ていたい。でも、それはかなわない願いです。

 私はこの手紙で、あなたに罪を告白しなければなりません。

 今夜、あなたと初めての夜を過ごしました。

 紳士なあなたの野性的な一面を知りました。

 私はされるがままでしたね。

 惚れなおしてしまいました。

 あなたはいつだって、かっこよかったですね。

 私が第三王子に婚約破棄されて追放されようとしたときも、あなたがさっそうと現れて私を救ってくれましたね。

 でも、その時に、あなたが第一王子様だとわかって、私はすごくびっくりしました。

 その上、私にプロポーズをしてくれて、私はとても幸せ者でした。

 あなたはいつでも私を助けてくれました。

 望まない第三王子との婚約で、嫉妬された令嬢達からいじめられたときも。

 あなたは、いつだって私の素敵な王子様でした。

 でも、私はあなたの前から消えなくてはいけません。

 あなたに抱かれている時に、思い出したんです。

 昨日、魔法実験で配合した薬の量が間違っていたことに。

 あなたは眠っているので、気がついてないですが、私の工房の方角からとんでもない爆音の爆発音がして、天に届く淀んだ紫の火柱が上がってます。

 さっきから紫の粉が、雪のように空から降り続けてます。

 環境が変わるぐらいのやばいことが起こっているかんじです。

 それで、私、ちょっとした用事があって、ちょっとでかけないといけないんです。

 逃げるわけじゃないですよ。本当に用事があるんです。

 本当ですよ。

 それで、できればでいいんですけど、

 できればでいいですよ、

 この事態を何とかしてもらえたら助かるんです。

 できればでいいですから。

 でも、あなたはいつだって、私の後始末をしてくれて、期待しちゃうんです。

 婚約破棄してきた第三王子の全身に私がペンキをぶっかけた時も、いじめてきた令嬢の顔面に私が豚のエサを叩きつけた時も、あなたが後始末してくれて。

 できればでいいです。

 本当にできればでいいですから。

 でも、やってもらえたら嬉しいです。

 本当にごめんなさい。


   おわり


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