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hana,s__失われた少女と選び続ける少年の物語――  作者: ぼぅちゃん
第一章 紫月花の日常

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紫月花の日常――11



結界の端で、空間がビリッと裂けるような感覚が走った。


「……来たか」


俺は霊力の痕跡を追い、結界の外郭に意識を集中させた。

空気が張り詰め、全身の神経が震える。


2人、3人、4人……数えるまでもなく、小隊規模の気配が近づいてくる。

霧の中で揺らめくその影は、俺の守る場所を踏み荒らそうとする侵入者だ。

足音は重く、規則正しく、冷たく響く。

その音だけで、心臓が強く打ち始めるのを感じた。

薄暗い霧が揺れる結界の端で、男たちがゆっくりと足を踏み入れてくる。彼らの目は冷酷で、使命感の裏に容赦のなさが隠れていた。

 

「おい、そこで何をしている!お前は誰だ!」

声が響き、俺の胸を締め付けた。


「この結界を張った者だ。この結界がある限り、俺は誰にも邪魔はさせない!」


声が震えそうになるのを、必死に抑えた。

俺が守るのは、仲間の魂だ。俺の心だ。

隊長らしい男が一歩前に出てきた。


「我々は霊災害対策庁特務対処班だ。ここは公的管轄の区域だ。即刻退去しろ。」

その命令に、俺の心は燃え上がる。


「俺にはここを守る義務がある。お前たちに従う気はないッ!」


声が震え、指先がほんの少しだけ震えた。

でも、決して折れはしない。

処理者たちの冷たい視線が、胸をえぐってくる。


「これは庁の命令だ。強硬手段も辞さない。従わなければ君は国家の反逆者として我々が処理することになる」


札を握る手がかすかに震えた。

けど、負けられない。


「なら尚更、手を引くわけにはいかない」


吐き捨てるように言ったその言葉に、背中が火照った。

静寂が落ち、空気が重く凝り固まる。

やがて鋭い刃の交差を予感させる緊張感が、結界の中に充満した。


こいつらの目的は、魂を守ることじゃない。

“駆除”、つまり魂の破壊だ。


「霊災の発生源を確認。対処を開始するッ」


処理者の無感情な声が、まるで俺の心を凍らせた。

祭が囚われている霊域。

円が命懸けで飛び込んだ心の闇。

俺は歩を止め、震える足を踏ん張った。


「……おい、それ以上行くなっ」


俺の声は掠れ、身体がかすかに震えた。

絶対に、ここは通さない。


数秒の沈黙の後、

次に返ってきたのは、銃口だった。


「排除する。任務の妨害は反逆行為だ」


――バンッッッ!!!

地面が砕け、破片が飛び散る。


「くっ……!」

体が衝撃で揺れたが、倒れはしない。

話なんて通じるわけがない。こいつらは壊すことしか知らないんだ。


だけど、俺は違う。


「壊させねぇよ………たとえ俺一人でも、絶対に……中にッ、届くまで守り抜くっ!」


声が枯れても、心は燃えていた。

手を伸ばし、結界の強度を最大限に上げる。

淡く光る結界が、オペレーターたちを閉じ込めた。

 

この瞬間、俺はもう反逆者だ。

でも、そんなことはどうでもいい。


今はただ、守るべき者たちのために。

光の揺らめきの中、俺の決意は揺るがない。





俺は震える手を、ゆっくりと少年の魂に差し伸べた。


「ごめんな。お前のこと、壊そうとした。でも俺はそうしたくない、もう怖い思いさせたくないんだ。話してくれないか?」


霊の少年は一瞬、怯えと怒りが入り混じった目で俺を見た。


「なんで……誰も助けてくれなかったの?」

その魂は呟いた。


「辛かったよな。寂しくて、苦しかっただろ」


霊の目がゆっくりと揺らぎ、震える声で言葉を零す。

「……寂しかった。置いてかれた。ずっと、ひとりだった」


俺はそっと、その子の肩に手を乗せた。

「俺がいる。俺たちは全部聞くよ。もう君は一人じゃないんだ」


その言葉に、霊の怒りが少しずつ溶けていった。

闇の中で小さく震えていた少年の姿が、

ゆっくりと光に包まれていくようだった。


俺は涙を浮かべながら、もう一度強く誓うように言った。

「今度は壊さないよ。全力で君の気持ち受け止めるから」


その子の魂が光に包まれ、苦しみが少しずつ和らいでいく。

けれど、まだ完全に穏やかな表情にはならず、

どこか迷いが残っていた。


俺は揺らぎを見つめながら、言葉を紡ぐ。

「無理に急がなくていいよ。君の気持ち、全部見せてくれるかな?俺は逃げたりしないから」


その時、後ろで柔らかい声が響いた。

「祭、私が扉を開くよ」


振り返ると、円が静かに微笑んでいた。

「このお姉さんが君を天国まで送ってくれる。もう安心していいよ。頑張ったな」

円は俺の言葉に頷いた。


「頑張ったね。ここまでずっと………。偉いよ」

そう言って円は指を絡めさせ型を作った。


「黎明」

小さな囁きが聞こえ、

後ろから陽に照らされたような暖かさを感じた。

漆黒の闇の中に暖かい光の扉が開く。


「ここを通れば天国に行けるよ。みんな君を待ってるよ」


少年の魂は迷いながらも、ゆっくりと扉の前に歩み寄った。

だがその子は振り返り、強く意志を宿していた。


「僕は、お兄ちゃんに送ってもらいたい」

その言葉が闇を切り裂くように響いた。


円は優しく微笑み、静かに扉を閉じた。

俺は少年の魂の手を取り、優しく抱きしめる。


「わかった。俺が最後まで一緒にいる」

その子の魂が俺の胸の中で、小さく震えていた。


けど、その震えはもう恐怖のせいじゃない。

あたたかさに触れた心が、戸惑っているだけだった。


「……ありがとう、お兄ちゃん」

ぽつりと落ちたその言葉と同時に、

俺の腕の中で、その子の身体がふわりと光へと変わっていく。


重たく沈んでいた気配が、春の風のように軽く、

柔らかく変わっていくのを感じた。

悲しみも苦しみも、全部流されて、


ただひとつ、確かな“ありがとう”だけが残った。

光が空に還るのを、円と一緒に見送った。



そして暗闇が晴れると

「祭っ!円っ!」


そう言ってボロボロだけど俺たちに笑いかける集。

その顔はなんだか殻がむけたような、自信に満ち溢れたような顔をしていた。


「あーもう、マジで心臓止まるかと思った……バカかよ、お前ら!!」


ボロボロの姿で、それでも笑っている集。

俺は駆け寄って、思わず叫んだ。


「おい集!大丈夫か!?なんでそんなにボロボロになってんだよ!」

集は額の汗を拭いながら、苦笑いを浮かべる。


「……実はな。霊対庁が、来やがったんだよ」


「え?」


「結果に閉じ込めたんだけど、破られてこのへん一帯で大暴れしてさ、結局俺が力技で追い返したんだけど………」

集は口ごもる。


「……そのせいで、反逆者認定、くらっちまった」 


「――はあああ!?」


思わず声を張り上げると、円も驚いた顔で集を見る。

「つまり、今この瞬間も追われてるってこと?」


「まあな……正直、俺と一緒にいたら、お前らまで巻き込まれるかも」


「そんなこと、関係ねぇよ!」


「え?」

円を見れば笑ってる。


「集は俺たちを守ってくれたんだろ!?それで十分だよ。なあ、円!」


「もちろん!私たちは、どんなことがあっても仲間だよ!当たり前でしょ?」

円の言葉に、集の目がふるふると揺れる。


「……ありがとな。ほんとに、お前ら……」

一瞬だけ、空気がしんとした。


けれど次の瞬間――


「で、どうする?うちら反逆者じゃん?」

円が笑って問いかける。 


「決まってんだろ?」

俺は笑いながら親指を肩越しに突き立てた。


\ とりあえず、ずらかるぞ!! /


三人で顔を見合わせ、笑って同時に走り出した。

ボロボロの姿で、それでも俺たちは笑っていた。


 

 

 

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