表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/26

第7話 リアルデッキシステム

 あの日、声を上げて泣きじゃくった後、アキラは二日間、部屋にこもり続けた。

 食事が運ばれてきても、ほとんど手をつけない。ただ、真っ暗な部屋の中で、ずっと何かを考えていた。タカシやヒトミが心配して声をかけても、短い返事しか返ってこない。城の中には、アキラはもう心が折れてしまったのだ、という空気が重く漂っていた。


 三日目の朝。

 作戦司令室では、レオンをはじめとする生き残った部隊長たちが、今後の対策について重苦しい会議を開いていた。兵士たちの士気は地に落ち、ザルダ軍がいつ次の手を打ってくるか分からない今、打てる手はほとんど残されていない。


「…もはや、籠城して、援軍を待つしか…」


 一人がそう口にした、その時だった。

 司令室の扉が、静かに開いた。

 そこに立っていたのは、アキラだった。隣には、心配そうに寄り添うタカシとヒトミがいる。

 アキラの顔からは、以前のような生意気な自信は消え、目の下には深いクマが刻まれている。だが、その瞳には、暗い沼の底から燃え上がるような、静かで、しかし鋭い光が宿っていた。


 会議の席にいた全員が、息をのんでアキラを見つめる。

 アキラは、ゆっくりと会議のテーブルまで歩いてくると、そこにいた全員に向かって、深く、深く頭を下げた。


「みんな…ごめん。そして、ありがとう」


 それは、心からの謝罪と、感謝だった。


「オレは、間違ってた」


 アキラは顔を上げ、一人ひとりの顔を見ながら、静かに語り始めた。


「オレは、みんなのことを、自分の手札にある『カード』だと思ってた。どう動かせば、どう使えば勝てるか…。それしか考えてなかった。オレ一人だけが『プレイヤー』で、みんなはオレの命令を待つだけの駒だと思っていた。だから、ゼノに負けたんだ」


 アキラの告白に、レオンたちは黙って耳を傾ける。


「ゼノは、オレたちの信頼を攻撃したんじゃない。たった一つの頭脳――オレの頭脳さえ潰せば、この軍は止まるってことを見抜いてたんだ。だから、次は、たった一つの頭脳じゃなくて、ここにいる全員の頭脳で戦う」


 アキラは、テーブルの上に広げられた地図の上に、ぐっと指を置いた。


「これからは、オレ一人を司令塔にするのはやめる。この軍全体を、一つの巨大な『デッキ』にするんだ。その名も――『リアルデッキシステム』!」


 アキラは、今まで以上に真剣な目で、説明を続けた。


「兵士五人を一つの『チーム』とする。それが、デッキから引かれる一枚の『手札』だ。各チームには、リーダーを決めて、自分たちの判断で動く権利を与える!」

「なんだと!? それでは、指揮系統がめちゃくちゃになる!」と、部隊長の一人が反論した。


「ならない!」とアキラは力強く返した。「そのために、『コンボ』を教えるんだ! 例えば、『敵に仲間が捕まった時』は、救出用の陣形『コンボA』を発動する。『敵の騎馬隊が突っ込んできた時』は、防御陣形『コンボB』で迎え撃つ! そういう約束事を、何十種類も作ってみんなで共有するんだ!」


 それは、革命的な発想だった。兵士一人ひとりに、戦術的な判断を委ねる。中央からの命令を待つのではなく、現場の状況に応じて、仲間と連携して、あらかじめ決められた最適解を自律的に実行する。


「そうすれば、軍全体が、まるで一つの生き物みたいに動けるようになる! ゼノがどこか一か所を攻撃してきても、周りのチームが勝手に判断して助けに入る! アイツには、もうオレたちの次の動きは絶対に読めない!」


 司令室は、静まり返っていた。誰もが、アキラのあまりに大胆な発想に、言葉を失っている。

 やがて、腕を組んで黙っていたレオンが、静かに口を開いた。


「…つまり、我々全員が『プレイヤー』になる、ということか。このアキラという司令塔の『手足』ではなく、共に戦う『仲間』として」

「そうだよ!」


 レオンは、アキラの肩に、ゴツリと音を立てて自分の拳を乗せた。


「面白い。気に入った」


 レオンは、そこにいる全部隊長たちに向かって、力強く宣言した。


「貴様ら、聞いたな! 今までの戦い方は、今日この瞬間をもって全て捨てろ! 俺たちは生まれ変わる! 我々はもはや、ただの王国軍ではない! 世界でただ一つの、『リアルデッキ』となるのだ!」


 レオンの言葉は、敗北に沈んでいた男たちの心に、再び火をつけた。

 ざわめきが、熱に変わっていく。


「俺たちが、コンボを考えるのか!?」

「すげえ…面白そうだ!」

「今度こそ、やられた分、やり返してやるぜ!」


 絶望の淵から、新たな希望が生まれた瞬間だった。

 アキラは、目の前で活気づいていく兵士たち――自分の本当の仲間たちの姿を見て、強く拳を握りしめた。タカシが、その肩を力強く叩く。ヒトミが、ほんの少しだけ、誇らしそうに微笑んだ。


(ゼノ…次はお前が、オレたちの総力戦フルデッキに驚く番だ)


 孤独な天才プレイヤーは、もういない。

 仲間を信じ、仲間に信じられる、本当のリーダーが、そこに立っていた。


 ーーーーー

 次回、いよいよ総力戦に。仲間を信じ切れるのか? 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ