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第20話 対策されたデッキと、第二の対戦(デュエル)

 初戦の衝撃的な勝利は、一夜にして、チーム『デッキブレイカーズ』の名を、カラト・アルナフル中に知らしめた。

 昨日まで彼らに向けられていた嘲笑は、今や、畏怖と、そして値踏みするような視線へと変わっていた。アキラたちが宿屋から一歩外に出るだけで、傭兵たちが道を開け、商人たちが探るような目を向けてくる。


「…なんか、昨日よりずっとやりにくいな」タカシが、居心地悪そうに呟く。

「当然よ。私たちはもう、『正体不明の面白い新人』じゃない。『警戒すべき、奇策を使う厄介な敵』になったんだから」


 ヒトミが冷静に分析する。

 宿屋の一室に戻ると、アキラはすぐに羊皮紙を広げ、次の戦いのシミュレーションを始めていた。その顔は、初戦を勝利した高揚感ではなく、次なるゲームへの、厳しい集中力に満ちている。


「やっぱり、オレたちの戦い方は、分析されてるな」

 アキラは、窓の外で、自分たちの宿を遠巻きに監視している者が何人かいるのを、とっくに気づいていた。


「次の対戦相手は、十中八九、オレたちの対策を練ってくる。タカシが『タンク』兼『アタッカー』、ヒトミが『奇襲魔法』。この構図は、もうバレてる」

「じゃあ、どうするんだ? あの泥んこ攻撃は、もう使えねえのか?」タカシが尋ねる。

「ああ。同じ手は二度と通用しない。…だから、こっちも『デッキ』を組み替えるんだ」


 アキラは、ニヤリと笑った。

「相手がオレたちの戦略を読んでくるなら、その『読み』そのものを、利用させてもらう」


 そして、二回戦の朝が来た。

 闘技場に、再びチーム『デッキブレイカーズ』の名がコールされる。昨日とはうって変わって、観客席からは、期待と緊張が入り混じった、地鳴りのような歓声が上がる。


 対戦相手として現れたのは、アキラの予想通り、あの『砂漠の毒蛇サンドヴァイパー』だった。

 細身で、しなやかな動きの男女の双子。その目は、獲物を狙う蛇のように冷たく、昨日までの対戦相手とは、明らかに「格」が違った。


 ゴーン! と、試合開始のゴングが鳴る。


「――来るぞ!」アキラが叫ぶ。

 その瞬間、サンドヴァイパーの双子は、昨日までの鉄屑団とは、全く違う動きを見せた。

 彼らは、闘技場の中央に立つタカシを、完全に無視した。まるで、そこに存在しないかのように。

 そして、恐るべき速さで左右に展開し、一直線に、後方にいるヒトミと、その隣にいるアキラを狙ってきたのだ。


(思った通りだ! タンクを無視して、後衛の司令塔と魔法使いを先に叩く! セオリー通り、だが、最速の攻めだ!)


「ちくしょう! オレを無視しやがって!」


 タカシは、慌てて二人を守ろうと振り返るが、双子の動きは、それを上回るほど素早い。あっという間に、二人はヒトミとアキラの懐にまで迫っていた。その手には、紫色の毒が塗られた、不気味な光を放つ短剣が握られている。


「終わりよ、チビちゃんたち!」


 観客席が、どよめく。誰もが、デッキブレイカーズの奇策は破られた、と思った。

 ヒトミは、顔を青くして、防御魔法を唱えようとするが、明らかに間に合わない。

 アキラは、ただ、迫りくる脅威を、冷静に見つめていた。


 そして、双子の刃が、あと数センチでヒトミに届く、というその瞬間。

 アキラが、叫んだ。


「――今だ! 『デッキ・スイッチ』!」


 その言葉が、合図だった。

 今まで、ただ速さに翻弄されて、無様に空を切っていたタカシの動きが、ピタリと止まった。そして、次の瞬間。


「お待たせ、だなッ!」


 ゴウッ!と、タカシの全身から、赤いオーラのような闘気が立ち上った。

 それは、ヒトミが、襲われるフリをしながら、詠唱を完了させていた補助魔法。

 自身の身体能力を、爆発的に向上させる、『加速アクセル』と『剛力ストレングス』の複合魔法だった。


 昨日までの『動かざる山の如し』だったエースモンスターは、今、『疾きこと風の如き』超高速アタッカーへと、その姿を変えたのだ。


「なっ!?」


 サンドヴァイパーの双子が、驚愕に目を見開く。

 だが、もう遅い。

 赤い疾風と化したタカシは、一瞬で二人の間合いに割り込むと、その回避不能の豪腕を、叩き込んだ。


「オラオラオラァ!」


 一撃、二撃、三撃。

 目で追うことすらできない連撃を叩き込まれた双子は、なすすべもなく、砂煙を上げて闘技場の壁まで吹き飛ばされた。


 再び、闘技場は、静寂に包まれた。

 そして、昨日以上の、割れんばかりの大歓声が、爆発した。


 彼らは、ただの奇策チームではなかった。相手の戦略を読み、その場で、自分たちの戦術を自在に組み替える、本物の『戦略家プレイヤー』チームだったのだ。


「…あなたの作戦、いつも心臓に悪いわ」


 アキラの隣で、ヒトミが、悪態をつきながらも、安堵の笑みを浮かべていた。


「ははは! 見たか、オレの超スピード!」


 タカシは、まだ興奮冷めやらぬ様子で、その場でシャドーボクシングを繰り返している。


 アキラは、そんな仲間たちを見ながら、静かに観客席に視線を送った。

 ゴライアス三兄弟の、一番大きい男が、初めて、その巨体を乗り出して、真剣な顔でこちらを睨みつけている。


 ――オレたちのデッキは、まだ、こんなものじゃないぜ。


 アキラは、心の中で、まだ見ぬ最強の対戦相手に、そう挑戦状を叩きつけた。

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