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第16話 最初の神器と、灼熱の城塞都市

神器アーティファクト』。

 神々のゲーム盤をひっくり返すための、七つの伝説の武具。

 目の前に広がる光の地図は、アキラのゲーマー魂を、これ以上ないほどに燃え上がらせた。それは、絶望的な難易度のクソゲーだと思っていた世界が、実は、最高のやり込み要素が詰まった神ゲーだったと知った瞬間の興奮に似ていた。


「よし!」


 アキラは、地図上に輝く七つの光点のうち、現在地から最も近いものを、力強く指差した。


「まずは、こいつからだ。一つずつ、確実にクリアしていくぞ!」

「待って」


 ヒトミが、その光点を真剣な目で見つめ、世界の地理と照らし合わせる。

「この場所は…ローデリア大陸の南方に広がる、『サフィラ大砂漠』。そして、光の中心は、砂漠の真ん中にあるオアシス都市、『カラト・アルナフル』よ」

「砂漠の街か! なんか暑そうだな!」タカシが、早くも顔をしかめる。

「暑いだけじゃないわ。カラト・アルナフルは、大陸中から商人やならず者が集まる、巨大な交易都市。領主の力も弱く、金と力が全ての、ローデリアとは全く違うルールの街よ」


 その時、書庫の番人たる『遺志』の声が、再び響き渡った。

『その地に眠る神器の名は、『真実の盾アークライト』。心正しき者が持てば、あらゆる偽りを映し出し、真実の姿だけを照らし出す盾。心悪しき者が持てば、ただの鉄屑にも劣る、と言われている』


 声は、彼らに最後の贈り物を授けた。アキラが持つ魔法のコンパスが、ふわりと宙に浮く。そして、目の前の光の地図が、一筋の光となってコンパスの中へと吸い込まれていった。コンパスの針は、もう方角ではなく、最初の神器『真実の盾』がある場所を、まっすぐに指し示すようになっていた。


『我が役目は、ここまでだ。行け、小さき挑戦者たちよ。神々のゲーム盤に、汝らの意志を刻み込め』


 その言葉を最後に、書庫の巨大な扉は、再びゴゴゴという音を立てて、固く閉ざされた。三人の目の前には、ただの、静かな崖があるだけだった。まるで、先ほどまでの出来事全てが、夢だったかのように。


「…夢じゃ、ないよな」

「ええ。このコンパスが、証拠よ」

「よし! 行こうぜ、砂漠の街へ!」


 彼らの新たな旅は、まず天衝山脈を下ることから始まった。グリフォンのおかげで、帰り道は驚くほど早かった。

 麓の村で旅の支度を整える。ここからは、全く新しい環境への挑戦だ。


「いい、アキラ、タカシ? 砂漠をなめてはダメよ。水は、魔力を込めたこの水筒から、計画的に飲むこと。日差しを避けるために、このフードも必ず被りなさい。それから…」


 母親のように細かく指示を出すヒトミ。彼女は、書庫で得た知識を元に、熱中症を防ぐ魔法の護符や、砂嵐から身を守るための結界術の準備を、入念に行っていた。


「へーい」

「分かってるって!」


 アキラとタカシは、少しうんざりした顔で返事をしながらも、その言葉に素直に従った。ヒトミの知識と準備がなければ、この旅は始まらないことを、二人ともよく分かっていたからだ。


 数日後。

 緑豊かなローデリアの風景は、次第に乾燥した荒れ地へと変わっていった。そして、ついに彼らの目の前に、地平線の彼方まで続く、広大な砂の世界が姿を現した。

 サフィラ大砂漠だ。


 ジリジリと肌を焼く太陽。喉が張り付くような熱風。どこまでも続く金色の砂丘。それは、アキラたちが今まで経験したことのない、過酷で、しかし、どこか美しい光景だった。


「うへえ…本当に砂しかねえ…。オレ、溶けちまうかも…」

「弱音を吐かない! しっかり水分を取りなさい!」


 そんなやり取りをしながら、灼熱の砂漠を歩き続けること、さらに数日。

 蜃気楼の向こうに、陽炎に揺らめく巨大な街が、その姿を現した。


 高い城壁は、砂と同じ色に塗られ、タマネギのような形をしたドーム状の屋根が、いくつも空に突き出している。城門の前では、見たこともない衣装をまとった人々や、巨大なトカゲのような生き物が荷物を運び、活気に満ちあふれていた。スパイスの、香ばしくも不思議な匂いが、風に乗って運ばれてくる。


 そこは、ローデリアとは文化も、言葉も、ルールも違う、完全な異世界。

 オアシス都市、カラト・アルナフル。


 三人は、ゴクリと唾を飲んで、顔を見合わせた。

 アキラは、不敵な笑みを浮かべると、仲間たちに向かって言った。


「さて、と。新しいステージ、新しいルールだ。――行こうぜ、オレたちの最初の『神器』を探しに!」


 三人は、灼熱の太陽の下、喧騒と混沌が渦巻く、その砂漠の城塞都市へと、決意を胸に足を踏み入れた。

 彼らの『神様攻略ゲーム』、その第二のステージが、今、始まった。

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